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 早いもので、ついこないだ2013年の忘年会だったと思ったら、もう2014年の忘年会シーズンが到来してしまいました。一発目は例年通り、ノンフィクション出版翻訳忘年会へ。今年は僭越ながら、乾杯の音頭を取らせていただきました。

 その場でお話させて頂いたことなのですが、「翻訳書籍が売れない」ということについて、個人的にけっこうあれこれと思い悩んだり、考えたりすることの多いこの1年でした。10年前、まだ僕が駆け出しだったころは、フィクションは5千部、ノンフィクションは7千部くらいが、初版部数の相場でした。ノンフィクションに限っては、初版1万部のタイトルも割と多かったと思います。それが10年後の現在はというと、フィクションは4千部以下、ノンフィクションは6千部程度まで減って来ています。

 先日からフェイスブックにて「翻訳書籍が売れないのは価格が高いからだ」という主旨の投稿が、何度か回って来ました。ですが、本当にそうでしょうか? かつて、1990年代終盤から、アーティストハウスと角川が『ブックプラス』というレーベルを立ち上げ、海外の新作を一律1000円で意欲的に出版していたことがあったのですが、その当時も、それほど読まれていた印象はありません。むしろ、価格云々とは無関係に、翻訳書籍を読むという文化そのものが衰退しているというのが実情であるような気が、僕はしています。実際、1800円とかの本を見れば人は高いと感じるかもしれませんが、逆に「高いな」と思うくらいに、翻訳モノへの興味そのものが薄らいでいるのだということも、事実だと思います。映画1本1800円。CD1枚3000円。フィギュア1体6000円です。本は、確かに安くはないものの、決して高くはありません。

 今年は1年間翻訳作業をひたすら進めながら、そんなことをあれこれ考えました。2014年は、折しも村岡花子氏を主人公とした『花子とアン』がNHKの朝ドラで放送され、翻訳家という職業が例年よりも注目を浴びた年となりました。それにともない、翻訳家が憧れの職業にランクインすることも増えたと聞きます。それを知って、翻訳家には出来ることがあるんじゃないかな、ということを感じたのです。いくら翻訳家に憧れを抱く人が多いとはいえ、その中の何割が、憧れの翻訳家を挙げられるでしょうか? そう考えると、翻訳というジャンルは非常に独特です。裏を返せば、翻訳家にはまだまだ認知されるチャンスがごろごろ転がっているのだということもいえます。

 僕は、中川五郎さんという翻訳家に興味を持ち、五郎さんの訳書(というよりお仕事)を追って行く中で、他のいい作品と出会ったり、「この出版社のこのシリーズはすごいな」という作品群と出会ったりしているうちに、翻訳書籍を読むようになりました。五郎さんを道しるべにして海外文芸の森の中を歩いているうちに、森の景色が気に入ったようなところがあるのです。実は翻訳書の面白いところのひとつは、そうやって「訳者の刊行歴から本を追える」というところにもあります。そうして本を探してみると段々と「訳者の色」が見えて来たりすることもあり、「こういう本が読みたいから、誰々さんの訳書をちょっと掘ってみよう」というような本の探し方もでき、そこがまた新たな森の入り口になっていたりするものです。この「訳者の色」が、見ず知らずの読者の方々にも見えるようになってくると、ちょっと面白いんじゃないかと思っています。

 実は、震災の時期をきっかけに朗読にチャレンジしていることには、そういう理由もあるのです。イベントにはだいたい何冊か自分の訳書を持って行くのですが、「その場で訳者から直接買った」という体験が、特別なものとして人の中に残ることもあるようなのです。「こうしたことは、1冊でも2冊でも多く売ることであると同時に、その後の訳書を手にとってもらうことでもあるのだな」というのが、僕が得た実感としてありました。今年はとにかく忙しくてあまりそういう活動もできなかったのですが、来年は、もう少しこれを精力的に続けて行きたいと思っています。自分にとっての五郎さんのような道しるべになれる、と思っているわけではないのですが、少なくとも「0より1かな」というくらいのつもりで。

 と、長々回りくどく書いて来ましたが、「少しでも多くの人に手にとってもらい、面白さを知ってもらうような工夫を、翻訳家という職業の立場からやっていけたらいいな」という感じですね。意外と、できることはあるのではないかと思っています。今年は「世界が歩きにくいと嘆くより、君が靴を履きなさい」という言葉を何度も思い出した1年でした(まだ1ヶ月あるけど)。 とにかく次の世代に「翻訳は素晴らしい仕事だし、やり甲斐もあるから、君も安心して目指してください」と言えるような環境を、少しでも残していきたいですね。

 なので、2015年の翻訳家としての目標は、「まず痩せる」ですね。