2004年5月に文學会より発表された、絲山秋子の作品「勤労感謝の日」を紹介します。

無職の36歳 鳥飼恭子の日常を綴った物語ですが、これも「沖で待つ」と同様に作者自身の経験の一部がバックボーンとして存在しています。つまり、住宅設備機器メーカーの営業として働く中で、躁鬱病を患い休職・入院・退職したのちの期間での一コマを描写している様に思えます。

恭子は近所のおばさんのおせっかいな計らいで、一流企業だが容貌・性格が最悪の野辺山とお見合いをすることになりますが、彼の態度に我慢できずに途中で退席してしまいます。その足で渋谷へ向かい旧職場の後輩を呼び出して愚痴を垂れ、最後に地元の飲み屋で一人酒をするという何でもない一日が、勤労感謝の日であるというギャップが微笑ましい設定です。

作品中では恭子の皮肉めいた心の声が随所に散りばめられ、誰もが普段言葉にできないけれども心に浮かんでしまう罵詈雑言が心地よいです。但し、すべてが正しいクレームではなくて、恭子の不機嫌からくる八つ当たりという面も往々にしてあります。このあたりは人間の不完全さというか、矛盾を上手く表現できている様に感じます。

集英社の文庫本には、「沖で待つ」と「みなみのしまのぶんたろう」が併録されていますが、どれも異なる作風でありながら、根底には絲山秋子の(作品を作る上では良い意味での)負の要素が底辺に隠れていて非常に興味深いです。


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