私は殺されたらしい。
胸を刺されたか撃たれたかしたようだ。

上下動なく幽霊のようにスーっと移動している。
っていうか私は幽霊だ。
確かめてはないが足もないようだし。

移動するには気をコントロールすればいい。
壁をすり抜けることもできる。
高く飛ぶこともできる。
でもまだ気のコントロールがヘタなので、高く飛ぶのは怖い。

近くには人が何人かいる。
私からは普通に見えているが、向こうからは私が見えない。

私は一人に近づいて何か尋ねた。
するとその人はちゃんと答えてくれた。
でもその人は突然独り言を喋ったことになる。
なぜ喋ったのかわからないでいる。
それで私は無闇に人に話し掛けてはいけないと学習した。

気付いたら近くに指南役がいた。
私の身内、爺ちゃんのようだ。
いちいち全てを教えてくれる事はないが、側で見守ってくれている。

二人でスーっと移動していると、爺ちゃんが
「今日はご先祖様が皆来る日や。おお、あれは婆さんやないか」
と言った。
年に数回、ご先祖様がこの世に戻って来る日があり、今日がその日らしい。

遠くをよく見ると、空から地上に斜めの列ができていた。
最初は斜めなので銀河鉄道のように見えたが、行列は人だけでできていた。
何千何万という人の列だ。
よくあの距離から婆さんが見えたなと思った。

私達もその列が地上に降り立つ地点まで移動した。
とんでもない数の人なのに、誰も何も言わないので静かだ。
所定の座る位置があるらしく、私もなぜか自然と
そこに座った。

大勢の中から爺ちゃんが婆ちゃんとちゃんと会えた。
それを見てハッとした。
妻に会える!
と思った瞬間、目の前の人が妻になった。

妻は今まで寝ていたのか、ゆっくり目を開けてボーっとしていた。
私は妻の名前を叫んで肩を揺すって起こした。

妻に触っている。
懐かしいぬくもりだ。
これを待っていたんだ。

両手を広げて妻の名前を何度も叫んで抱擁しようとした。
妻も両手を広げて抱擁しようとした。

が、止まって私の体を指さした。
私はその指の方向、自分の上半身を見た。
上半身裸で素肌に何かを羽織っている。
何か問題でも?と思ったら目が覚めた。


いつも私は寝入ってから3~4時間は深い眠りなのか、夢は見ない。
夢を見るのは朝方と決まっている。
でも昨夜は寝入って2時間ほどで見た。

なんか死後の世界を体験できて嬉しかった。
もちろん妻に再会できたのも嬉しかった。
ただ抱擁できなかったのが悔やまれた。