伊坂さんの集大成、最高傑作、そんな言葉を至る所で目にしていたんだけど、本当にその通りでした。やったね伊坂さんって感じです。新潮社のこのカバーに、視点が変わる毎に現れる登場人物のシルエット。それだけで初期の『オーデュボンの祈り』や『ラッシュライフ』を思い出させるんだけど、それ以上に過去の作品のエッセンスが凝縮された内容がいいですね。読んでるとニンマリが止まりません。

ケネディ大統領の暗殺事件をモデルに、近未来の日本で起きた首相暗殺事件を書いた作品です。訳の分からない内にそれに巻き込まれ、犯人に仕立て上げられてしまった男が主人公。
親友の最後の言葉を頼りに、何とかして生き延びようと、ただひたすらに逃げる。事件の背後に見え隠れするのは、あまりに強大なものの影。大きすぎるが故に、その全貌すら掴めない。まさに蟻と象。
しかし、時に無力感に苛まれ、絶望に陥りそうになった男を助けたのは習慣と信頼、そして友の助けでした。

読んでいて、天の配剤なんて言葉も浮かんだんだけど、作中で主人公が幾度となく唱えた、この「習慣と信頼」って文句がやはりこの本にはもっとも相応しいでしょう。本当にどうしようもなくなった時に頼れるもの。数は多くなくてもいいから、確かなそれを持てるかってのは、人生において重要な事なんですよね。

冒頭の首相暗殺に始まり、街中に設置されたカメラと無線傍受機器による緩やかな監視社会や、首相暗殺犯として突如テレビに現れた知人の顔など、今現在それなりに穏やかな日常を送っている者からすれば、それこそ滑稽な話かもしれない。
でもそのどれもが、今の暮らしと背中合わせに存在するものだし、形は違えどいつ自分の身に訪れてもおかしくない事で、底知れない恐怖感に思わずぶるっとしてしまいました。


ゴールデンスランバー