引き続き奇想コレクションからジョン・スラデック『蒸気駆動の少年』です。実は最寄りの図書館で所蔵していた奇想コレクションはあらかた読んでしまって、どうしたもんかと悩んだあげく、広域利用で取り寄せてもらうことにしたのですが、ならばと以前新宿紀伊國屋で見たPOPが印象的だったこの本にしてみました。
そして届いてみたらビックリ。分厚い。これまでの1.3倍は厚いよ(当社比)。そして開いてみたらもっとビックリ。こんだけ厚いとなると少し長めの中編がいくつか入ってるのかと思いきや、なんと短編が23本も並んでいるじゃーあーりませんか。なんつーボリュームじゃ、こりゃあ。
そしてそして読んでみたらもっともっとビックリ。何と言おうかなあ、言葉は悪いけどイカれてる。天才と変人のギリギリの境目を、本人はその気もなく悠然と歩いている感じ。その発想から小説の展開、そしてジャンルなんぞお構いなしと多岐に渡っとラインナップといい、ともかくぶっ飛んでます。
解説にはSF界指折りの奇才とあって、その中でも親しみやすい作品を中心にセレクトしたとあるんだけど、それでも開いた口が塞がらなかったり、ちんぷんかんぷんな話がいくつかあって、でもそれでも目が離せない。凄かった。

さて23個もあると個々の話に触れるのが流石に大変になってくるので、とっとと続きにまいりましょう。ではまた続きで。



蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)

『古カスタードの秘密』
とにかくはちゃめちゃ。ある日オーブンの中に赤ん坊がいるのを発見した夫婦の話なんだけど、しばらくは赤ちゃんほったらかしで何がどうなってんのか理解不能な日常会話が展開します。ガソリン戦争、食品泥棒、云々。のっけから鳩が豆鉄砲な感じになって、ある意味この本行く末を暗示するような話。


『超越のサンドイッチ』
「あなたに知識をさしあげます」そう切り出したセールスマン風の男。ガズと名乗るその存在は人類よりも進んだ文明を持つ種族で、人類の知性を引き上げると言う。ガズの提案を飲み、送られてくるサンドイッチを食べ、レッスンをこなす度、頭が良くなる主人公。やがて彼はその頭脳で驚きの真実に辿り着くのだった。

オチはありがち。でも途中はまったくそれが予想できず。似たような題材は異色作家短篇集とかでもあったけど、この人がやるとこうなるのね。


『ベストセラー』
嵐でとある島のホテルに閉じ込められた4組のカップル。それぞれがその島での出来事について順番に語っていくんだけど、それぞれの話を聞けば聞くほど何が本当かわからなくなっていく、そんな話。個々の感情が入り交じりすぎて少々混乱してもうた。自分で相関図作りながら読めば良かったんだろうけど、面倒で読み流しちゃった。


『アイオワ州ミルグローブの詩人たち』
故郷のお祭りにゲストとして呼ばれた宇宙飛行士の話。細切れの場面場面に漂う田舎の街の閉塞感が印象的。


『最後のクジラバーガー』
ディストピア的世界と言うか、物事がすべてコーディネートされてるような世界における夫婦の話。帰ったら妻が男の腕に抱かれている。夫は尋ねる、男はどこだ?と。妻の傍らには腕はあれど持ち主の姿がなく……。

ね、ぶっ飛んでるでしょ?


『ピストン式』
マッドサイエンティストものの途方もない馬鹿話。特殊な改造を施された自動車が暴走して、辺り構わず他の車を強姦してしまう。って、なんじゃそりゃ。


『高速道路』
ハイウェイバスに乗って長期休暇のバカンスに出掛ける男の話。際限なく繰り返される風景に、無限のループへとはまり込んでしまう。日本もね、徐々に同じような景色が広がってますよね。特にバイパス沿い。


『悪への鉄槌、またはパスカル・ビジネススクール求職情報』
宇宙人に捕えられ投獄された元教授と教え子の話。囚人のジレンマとか色んな理論や命題を端から検証してるんだけど、正直半分くらいは???でした。


『月の消失に関する説明』
妄想に取り付かれた男が己の発見した超理論をひたすら唱える一編。この人のトンデモ科学は一発でトンデモって分かるんだけど、妙な説得力があります。


『神々の宇宙靴―考古学はくつがえされた
これもトンデモ理論の話で、神々と地球の関係に対する新説が展開されてます。段落分けされたいかにもって作りと、わざわざ付けられた注釈がまた可笑しい。


『見えざる手によって』
サッカレイ・フィンというミステリーマニアの哲学教授が活躍する本格ミステリー。不可能犯罪を説き明かすパズル色の強い作品。トリックはともかく、探偵のキャラが良くて面白かったです。


『密室』
世に名高い名探偵が、密室トリックを扱ったミステリー小説を読みながら謎に挑む話。今なら珍しくないオチだけど、1972年に書かれたとなると驚きです。


『息を切らして』
再びサッカレイ・フィン登場。この人の書くミステリーはパズル嗜好が強いけど、読み物としても楽しいですね。そういや古本で海外ミステリーを買いあさった中に1冊入ってたはずだし、早速読んでみようかな。


『ゾイドたちの愛』
私はゾイドと言われると某ロボット恐竜を思い出してしまう世代なんですが、まったく関係はありません。見えない子供達、人の目を盗んで生きるストリートチルドレンをテーマにした話なんだけど、よく読むと最初の印象を覆すような驚きが潜んでいます。いわゆる葉桜的トリック。そういや少し前にこんなニュースがありましたよね。天袋にお婆さんって。


『おつぎのこびと』
地球に来た宇宙人(親善大使のような感じ)が故郷へと送った書簡という形をとった短編。人間社会を他人から見た滑稽さと、未知の文化に惹かれていく宇宙人という2面性を持った、不思議な話。


『血とショウガパン』
ヘンゼルとグレーテルをモチーフにしたホラーサスペンス。本当は怖いグリム童話よりもっと怖い。


『不在の友に』
宇宙の酒場でロボットが語り出した昔話。危険なのでこの話についてこれ以上は語れないのであります。


『小熊座』
息子のクリスマスプレゼントにと熊のぬいぐるみを持って帰って来た父親。しかしその日から家族の中で少しずつ変化が。


『ホワイトハット』
突如飛来した謎の未確認生物に乗っとられ、馬の様に走らさせる人類。恐いんだけど、なぜか笑える。


『蒸気駆動の少年』
表題作。暴走する大統領を止める為、タイムパトロール隊は少年時代の大統領そっくりのロボットを過去へと送り込み、入れ換えようとするのですが……。タイムパラドックスをテーマにした作品なんだけど、ここまでぐるぐるだとややこしいったらありゃしない。


『教育用書籍の渡りに関する報告書』
渡り鳥ならぬ渡り本。ありとあらゆる本が空を飛ぶ光景を想像するとかなり可笑しい。


『おとんまたち全員集合!』
幼児化する大人達と、早熟化する子供達。いつしか互いの立場が入れ代わってしまい……。あくまでも洒落なんだけど、今の日本を見てるとなんて思ったり、思わなかったり。


『不安検出書』
これはもう小説ではありません。77にも渡る質問が用意されているのですが、正直途中で答える気は無くなってしまいました。不安になる前に気味悪くなっちゃった。