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東映チャンネル録画の視聴。
監督 伊藤俊也
脚本 神波史男、松田寛夫
原作 篠原とおる「さそり」
製作 吉峰甲子夫
音楽 菊池俊輔  主題歌 梶芽衣子「恨み節」
撮影 仲沢半次郎
編集 田中修
美術 桑名忠之
出演 梶芽衣子、夏八木勲、伊達三郎、渡辺文雄、室田日出男、沼田曜一、渡辺やよい、扇ひろ子、根岸明美、横山リエ、三原葉子
87分
配給 東映
公開日 1972年8月25日
1972年度キネマ旬報ベストテン第12位

これぞプログラムピクチャーが生み出した傑作であり、クエンティン・タランティーノ監督が『修羅雪姫』とともにオマージュした作品である。

主演の梶芽衣子は太田雅子という芸名で1965年に日活でデビュー、その後1969年の『日本女侠伝』で梶芽衣子と改名、非行少女役として『野良猫ロック』シリーズでブレークした。日活がロマンポルノ路線に変更したため東映に入社、東映では引退した藤純子の後継として活躍を期待されていた女優である。

監督の伊藤俊也はこの映画が単独監督作としてのデビュー作(『やくざ刑事 マリファナ密売組織』で野田幸男と共同監督)だった。東映労組の委員長も務めた伊藤俊也の反権力・反体制的な映像芸術が一気に爆発した作品となった。

<あらすじ>
Y県女子刑務所。けたたましく鳴り響くサイレン、女囚二人が脱走を企だてた。松島ナミ(梶芽衣子)、木田由紀子(渡辺やよい)である。しかし、刑務所々長郷田(渡辺文雄)らの必死の追跡で、脱走は失敗に終る。捕われた二人はイモ虫のように手足を縛られ、懲罰房へ入れられた。身動きのできない状態でナミは過去に思いを巡らせる。ナミには麻薬取締りの刑事、杉見(夏八木勲)という恋人かいた。ある時、杉見はナミを麻薬捜査の囮として使い、強姦させたあげく、自分はその現場に乗り込み麻薬を押収する。その上、その麻薬をネタに麻薬組織、海津(伊達三郎)興行に寝返ったのである。杉見の愛を信じていたナミにとってこの裏切りは許せなかった。翌日、杉見を襲うが致命傷には到らず、その場で逮捕された。“復讐”に燃えるナミは刑務所内でも異質な存在で、皆から反感を買っていた。ただ、口の不自由な木田由起子だけがナミを慕っていた。ナミと由起子が懲罰房から解放された頃、新入りとして進藤梨恵(扇ひろ子)が入所して来た。梨恵もナミ同様、他の女囚たちと肌が合わずに対立した。ある日、梨恵は片桐らの企みで無実の罪を着せられそうになるが、ナミの機転で救われ、以来ナミに好意を持つようになる。しかし、この事件で梨恵の替りに罪を着せられた政木(三原葉子)が逆上し、郷田の眼をガラスの破片で刺してしまった。怒った郷田は全員に穴掘り作業を命じた。ナミは“閻魔おとし”を課せられた。“閻魔おとし”とは囚人たちが最も恐れている穴掘り作業で、一つの穴を掘っては埋め、埋めては掘るという刑罰である。疲労の極に達したナミに同情した由起子が看守を襲い、それをきっかけに、日頃看守たちに虐待を受けていた女囚たちの憎悪が爆発、暴動を起こして倉庫に立てこもる。しかし、この暴動の際に由起子が射殺された。そして、ナミは由起子から片桐(横山リエ)が自分の命を狙っていることを知らされる。杉見の手がここまで延びていることを知り、愕然とするナミ。片桐はナミを裏切り者扱いにし、他の女囚らを煽動してナミに凄絶なリンチを加える。しかし、ナミは逆に片桐の企みを暴き、片桐こそ裏切り者だということを明らかにする。一方、郷田らは食事の差し入れと偽り、一挙に倉庫になだれ込み、全員を逮捕するが、この間、倉庫に火をつけ混乱を起したナミは脱走に成功する。そして、厳重な警戒網をかいくぐったナミは、杉見、海津への復讐を果すのだった。

「女囚さそり」といえば梶芽衣子の代名詞となったように、ほとんどセリフを喋らず顔の表情だけの演技がすごい。このセリフをしゃべらないキャラクターという設定は梶自身のアイデアだそうである。
また、梶初め登場するほとんどの女優が脱いでいるというのもこの映画のエネルギーを高めた。さすがに歌手だった扇ひろ子だけは脱がなかった。

女優たちとともに、ブログでも取り上げた悪役俳優たちの怪演も楽しかった。とくに、笑ってばかりの沼田曜一の異常さは悪役としての凄みを見せてくれた。

伊藤俊也監督の前衛的な演出もすばらしかった。夏八木勲と梶芽衣子のベッドシーンを真上から撮ったり、梶芽衣子がやくざに強姦されるシーンを透明ガラスの真下から撮ったりなど斬新な映像が目を惹いた。
青や赤、緑など原色を使ったイメージ映像、歌舞伎の隈取りを使った感情表現など、鈴木清順の映画をオマージュしているようにもみえた。

菅原文太作品の併映として、あまり期待されずに公開された本作は、当時の反体制的な世相にとも相俟って、予想外のヒットをとばすこととなり、以後3本のシリーズ作品がつくられることとなった。しかし、そのため、当時婚約中であった梶は婚約を解消することとなり、以後、現在まで梶は独身を通し続けている。

《女囚701号さそり  恨み節》