320 (6)
アマゾン・プライムビデオにて鑑賞。
監督・脚本 ケネス・ロナーガン
製作 マット・ディモン、キンバリー・スチュワード、クリス・ムーア、ローレン・ベック、ケヴィン・J・ウォルシュ
製作総指揮 ジョシュ・ゴッドフリー、ジョン・クラシンスキー、デクラン・ボールドウィン、ビル・ミリオーレ
音楽 レスリー・バーバー
撮影 ジョディ・リー・ライプス
美術 ルース・デ・ヨンク
衣装 メリッサ・トス
出演 ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、グレッチェン・モル、C・J・ウィルソン
137分
製作国 アメリカ合衆国
配給 ロードサイド・アトラクションズ=アマゾン・スタジオ=ビターズ・エンド
米国公開 2016年11月18日
日本公開 2017年5月13日
第89回アカデミー賞主演男優賞・脚本賞受賞他各映画祭多数受賞、2017年度キネマ旬報ベストテン第3位

イギリスには「マンチェスター」という大きな都市があり、この映画はその都市を舞台にしたイギリス映画かと思っていた。ところが、アメリカにも同じ「マンチェスター」という人口約5000人の小さな町があり、イギリスの都市との混同を避けるため、1989年に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」と町名を変えたそうだ。この映画は、そのアメリカの小さな町を舞台にした話だったのである。

ヨーロッパ映画を思わせるオープニングからエンディングまで静かな静かなアメリカ映画だ。

たいがいの映画は、映画の始まりと終わりで、主人公やその他登場人物の心境に良くも悪くも変化が起きる。ハッピーエンドになるかバッドエンドになるかは別として、その変化こそドラマの神髄ともいえる。
ところが、本作の主人公にはその変化がほぼみられない。つまり、ドラマとしては異例の展開ともいえる作品なのだ。

<あらすじ>
アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。ある日、一本の電話で、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョー(カイル・チャンドラー)が倒れたことを知る。リーは車を飛ばして病院に到着するが、ジョーは1時間前に息を引き取っていた。冷たくなった兄の遺体を抱き締めお別れをしたリーは、医師や友人ジョージと共に今後の相談をする。ジョーの16歳の息子で、リーの甥にあたるパトリック(ルーカス・ヘッジズ)にも父親の死を知らせるため、ホッケーの練習をしている彼を迎えに行く。見知った街並みを横目に車を走らせながら、リーの脳裏に仲間や家族と笑い合って過ごした日々や、美しい思い出の数々が浮かび上がる。リーは兄の遺言を聞くため、パトリックを連れて弁護士の元を訪れる。ジョーがパトリックの後見人にリーを指名していたことを知ったリーは絶句する。弁護士は遺言の内容をリーが知らなかったことに驚きつつ、この町に移り住んでほしいと告げる。弁護士の言葉でこの町で過ごした記憶が鮮明によみがえり、リーは過去の悲劇と向き合わなくてはならなくなる。なぜリーはこの町を出ていったのか? なぜ誰にも心を開かずに孤独に生きるのか? リーはこの町で、パトリックと共に新たな一歩を踏み出すことができるのだろうか?

心に傷を負って生
まれ故郷の町を離れ、孤独に生きるリー、その弟の再生のために自らの死をかけた兄ジョー。ジョーは、弟リーが故郷に戻り、家族をもつことが、町の人との関係を修復するただい一つのチャンスが自分の死であることを理解し、そのために息子パトリックの後見人としてリーを指名したのだった。
町から離れてパトリックと暮らそうとするリー、たくさんの友だちや父の思い出とともに町に残って暮らしたいパトリック、二人は最後まで交わることはできない、ように表面上はみえる。

ふつうの映画であれば、最後には二人の心が打ち解け、リーの再生の物語となる。ところが、この映画はそうはならない、ようにみえる。

パトリックの後見を兄の友人に頼むリーだが、ボストンの新しいアパートはパトリックが泊まっていけるようにと二部屋あるものを探しているということをちらっと語るリー。この言葉に、リーとパトリックの心の繋がりが垣間見える。
それは、パトリックが幼い頃、兄の船で釣りをしていたとき、リーがはじめて笑顔を見せたという回想ンを思い出させる。リーの心の傷を癒せるのはパトリックだけだということだ。

雪降る冬のボストンで何かを押し殺すように黙々と働くリーの姿で始まったこの映画は、リーとパトリックが二人肩を並べて静かに釣りをするマンチェスター・バイ・ザ・シーの早春のシーンでエンドとなる。この微妙な変化の中に、未来へのわずかな明るい兆しがほのめかされている。

2時間10分という時間が静かに淡々と流れていく映画ではあるが、いつ爆発するかわからないケイシー・アフレックの緊張感漲る演技により、決して退屈しない。何度でも観たくなる映画とはこういう映画のことを言うのだろう。

《マンチェスター・バイ・ザ・シー  予告編》