2006年04月

2006年04月01日

Turkish Cafe 「旅の終り」 


イスタンブールのG・P・Oで仁美からの手紙を受け取った。
僕の安否を気遣い、続いてどうやったら会えるのか教えて欲しい、と書いてあった。
僕は一週間ごとに宿を引き払うような転々とした生活を送っていたし、
トルコで彼女と会うのは宇宙遊泳するようなものだ、そういうイメージしかなかった。
しかもどうやらパスポートの取り方すら彼女は知らないらしかった。
なのに、彼女は本気で僕に会いにくるつもりだった。

パスポートの取り方も知らないのに、よくこんな所まで手紙を寄こしてきたものだ、と、
僕は変に感心をしながら、5回手紙を読み返した。
読み返してみたものの、その手紙は僕に何の感銘も与えなかった。
僕の心はひどく渇いていて、そして疲れ切っていた。

これからエジプト方面を目指すのか、西アジアを回るのか、ヨーロッパに入っていくのか。
何も決めていなかった。
街には日本人観光客とヨーロッパ人バカンス客があふれていた。
照りつける日射しの中で、坂ばかりの街を人々は忙しそうに動き回り観光に励んでいた。
誰もが楽しそうに見えた。
夜になれば、街は煌々としたライトアップに包まれるのだろう。
人々は涼を取りながら、異国情緒の夜を酒と料理と共に楽しむのだ。

そうだ、もう夏なのだ。
僕が日本を出てすでに一年近く経っていた。
いつまでもこんなこと続けていられるはずがないのはわかっていた。
いったい僕はこの先どうなっていくのだろう。
何かを得たのか、何も得ていないのか。
きっと、そういう尺度の問題ではないのだろう。

どこまでもぐるぐると螺旋階段状に思考が続くだけだった。
僕は僕自身から立ち去ることができず、いつまでも取り残された。
多くの人が僕に親しげに話しかけ、僕の肩を叩き、共に笑い、共に泣き、
そして最後には去っていったにもかかわらず、僕だけがいつまで経っても僕だった。

仁美は僕のことを待ち続けているのだろうか。
この数ヶ月、彼女のことを考えることを僕は極力避けてきた。
彼女を呪い、彼女から解き放たれることを望み、
僕は違う女性を愛し、彼女を忘れた。
それなのに、どこかで仁美に愛してもらいたい自分がいる。

あまりにも身勝手な自分を感じて、くらりと目眩を感じた。
体中から嫌なにおいのする汗が出てじっとりとシャツが濡れた。
僕はすでに希望に満ちた旅人ではなく、好奇心旺盛な観光客でもなかった。
もたれかかった石壁を手で押して立ち上がり、そのまま拳で数回壁を叩いた。

僕の中の情熱はすでに失われ、希望は絶望になり、心と体はボロボロだった。
僕の旅はそろそろ終わろうとしていたのだった。
そして僕を日本へと導いたのは、
後から考えてみるとやはり仁美からの手紙だったのだと思う。



sisi4400 at 22:07|PermalinkComments(0)