寝る前にエンパイアを読むのはまずいかもB級ホラーな結末

2003年10月06日

コーエン兄弟の新作に2人は出ているんですよ

【魔女の夢の続き】

 ゼタ=ジョーンズ姐御とクルーニー兄貴を含む大人たちが、わたしに「こっちだ」と合図を送って寄越(よこ)した。震える手足に行き先が定まり、わたしは大人たちのいる所へと移動を始めた。一ケ所に留まっているよりは、頭にも身体にも活気が戻るような感じがした。

 大人たちは、『悪い魔女』が到着するまでの時間を無為に過ごしていたわけではなかった。わたし1人の合流を残して、そこには全員が集まっており、兄貴と他の男たちが力を合わせて、奇妙な建造物の最後の扉を閉めようとしている…中に飛び込んで、わたしは『思い出した』。そうだ、これは罠だった。
魔女を捕まえる罠なのだ。

わたしたちを追いかけて魔女はここへやってくる。
そうすると、魔女に見えるのは長いトンネルを通り抜けた先にいるわたしたちの姿だ。
魔女はそのトンネルを猛然とくぐり抜けてわたしたちの所へ飛び込もうとする。
そして失敗する。
なぜならそのトンネルの出口と見えたものは、縦30センチ、横20センチほどの長方形の穴でしかないから。
この場所へ来ると、視覚のトリックによって遠近感覚が狂うようになる。
わたしたちは、みずからを餌にして魔女をおびき寄せ、長方形の穴に魔女が激突したらすぐ、入り口にあたる部分を封じる。魔女が事の次第を察する頃にはもはや手おくれ。どんなに口惜しがろうと、出られない…

 そうなるはずだ。
わたしは、既視感という名で呼ばれる「記憶」の中で、小さな長方形の穴に激突して苦痛と怒りと憤懣の唸り声をあげる魔女を、その場の全員で見、緊張と安心が溶け混じった気分のまま、指差して嘲り笑ったことを…思い出したのだ。

だが駄目だ。ダメなんだ。この罠は、ダメになる。『今度は』成功しない。

 既視感の裏切りをわたしが感じ取った時には、現実がわたしの思考と同速度、もしくはずっと速く展開し、追い抜こうとしていた。

 罠は半分までは成功し、わたしたちの目の前にある長方形の穴へ魔女は激突した。数人が、その魔女のみっともない様子に、ふふ、と嘲笑をかすかにもらすのも聞こえた。わたしは笑う気持ちなど微塵もなかった。既視感の記憶の中では大笑いしていたというのに。わたしの顔はこわばり、この後がどうなるのかということばかり考えていた。考えようとしながら、何も思いつかないまま立ちすくみ、ここで既視感にない展開が始まったなら、拠り所がまったくなくなってしまう…どうしよう?どうしよう?…と、埒(らち)もない思いをこねくり回すばかりだった。

 怒れる魔女は長方形の穴のある壁に激突を繰り返している。「餌」役全員が同じ予感を抱き、一斉に行動を起こそうと…するのと、鬼のような魔女が壁を破壊して飛び出したのは、どちらが先とは判別しかねるほどの時間的近似値にあった。

 恐慌に囚われたまま蜘蛛の子を散らすように逃げまどうわたしの仲間たち。
 微かにでも嘲笑されたことによって怒りの炎に油を注がれたような猛々しさの魔女。
 わたしはそんな光景の真只中に巻き込まれ、愚かにも、魔女の顔をまじまじと見てやろうなどと思いついた。どうせわたしたちには魔力がない。あたふたみっともなく逃げたところで、遅かれ早かれ殺されてしまうんだろう。だったら逃げるなんて無意味さ…このような小賢(こざか)しい考えまで浮かんだ。

 魔女とまっすぐに対峙することで、尊厳ある死を迎えようとでも思ったのだろうか。我ながら無謀と言おうか生意気と言おうか、勇ましいと言おうか。

 居直ったわたしは落ち着きを取り戻したらしく、周囲の物事が目に入るようになった。あてもなく逃げる人々。その中に兄貴もいる。兄貴は少しこちらを振り返って、困ったような戸惑ったような、幾分余裕さえ感じられる表情を見せていた。逃げてしまうからといって、兄貴を恨む気持ちはわたしにはさらさらなかった。兄貴といえど、対抗手段のない戦いは放棄すべきだし、それは賢明な判断以外の何でもない。兄貴のクールさは、わたしへの同情心で失われるような性質のものではなく、そんな兄貴をわたしは尊敬しているのだから。

 まぁ、ちょっとカッコ悪いよな、兄貴…とも思ってしまったのだが。
それは考え全部の割合の中では微々たるもの。

 逃げないわたしは目立ったようで、凶悪な形相の魔女はわたしを最初の犠牲者にするべく迫って来た。今や、ゆっくりと。
 わたしを見つめて、滑稽千万という面持ちになった…ようにわたしには見えた。
 魔女が軽く指先ひとつ動かすと、わたしの身体はすぐ近くの壁にはりついてしまった。金縛りのまま、魔女の指が動くままにわたしの身体は壁の表面を滑り、上下逆さまの宙吊りとなった。わたしの脈拍は上がっていたが、くそ度胸が取りついたかのように、恐怖はなく、視線を魔女から逸らすこともなかった。

 わたしのふてぶてしさに感心したのかどうか、魔女は再びわたしを上下正しく床に戻した。わたしが少年だったのも影響したような気がしてならないのだが、魔女はわたしを徐々になぶり殺しにして遊ぶ気になったように思われた。

 そう思ったのには理由がある。魔女はどこかから、針を手に出し、それを金縛りで立ちすくむわたしの右頬にぷすりと刺したのだ。針の刺さった部分から鈍痛と、痺れがゆるゆると広がってゆくのを感じた。その部分が少し熱っぽい。これは毒針なのだろう。こんな面倒臭い、速効性のない殺し方を選ぶなんて…と思った時、魔女がわたしで『遊んでいる』ことを察したのだ。

 わたしの右頬に針を一本刺したまま、魔女はもう一本別の針を取り出した。針の毒のせいか感覚が鈍くなっていくわたしには、次の針がどこに刺されたのかはっきり分かりようがなかった。たぶん、左手の甲だろう。甲からの痺れは感じられなかった。既に右頬からの痺れと熱で、頭が一杯…
 魔女の顔もだんだんと見えなくなってゆく。
 わたしという少年のちっぽけな死を楽しめ、憎らしい魔女め。
 ちくしょう。

 腹を引き裂かれるとか、体中の穴から血を流して死ぬとか、残酷な方法はいくらでもあるだろうに、針などというつまらない方法をとられたことが、ちょうど子供扱いを疎ましく感じ始める年頃に入っていたわたしの癪にさわっていた…この期に及んで!ハ、ハ、ハ!
 
 わたしの顔は麻痺してもう笑うことなど不可能だったが、そんな証拠がなくともわたしの胸の内ごとき魔女は簡単に読み取って、興を深めているはずだった。無駄なあがきであればあるほど、魔女の復讐心が生むフルコース料理の気の利いたオードブルとして相応しい。

 その時、わたしの霞んだ目に動くものが映された。
 魔女も気づき、振り向いたが遅かった。
 ゼタ姐御!
 姐御が魔女自身の針をわたしの手の甲から抜いて魔女に突き刺していたのだ!わたしに気をとられていた魔女の隙をついて…

 姐御は身体にぴったりしたスラックスとスエットシャツを着、すぐ次の行動に移ることができそうな油断のなさを閃かせて立ち、苦しむ魔女を見つめていた。
 この時ほど姐御が輝かしく見えた事はない。
 
 ぼやけきった視界が暗闇に転ずる中でわたしは確信した。
 魔女は自家中毒を起こして死ぬんだ…
 ざまあみろ…!
 
【つづく】


sith_ko2 at 23:34│Comments(0)TrackBack(0) 夢ネタ 

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