デジタル・ストーリーテリングを活用した本の紹介映像が「ブック・デジタル・ストーリーテリング(Digital Storytelling on Books)」である。当初は、ブックトークのデジタル版をイメージしていたが、実際に学生たちに制作させてみると、デジタル・ストーリーテリングの性格を色濃く持っていた。それゆえに新たな教育的可能性を感じさせるものであった。

1 デジタル・ストーリーテリングとは何か

「デジタル・ストーリーテリ ングとは一言で言えば自分で語るデジタル生活綴方である。形式的にはナレ ー ションに静止画像を組み合わせ、 一分程度の動画にしたものである。190年代初期にアメリカではじまり、サンフランシスコにある「デジタル・ストーリーテリン グ・センター」を中心に普及活動が進められている。須曽野仁志らによると、アメリカでは「あらゆる教育レベル、教科の学習に導入されて」おり、移民の国多民族国家のアメ リカでは、作品の多くに『自分探し』の要素が含まれていると感じられる。家族のル ー ツを調べることにより、自分のアイデンティティーを見直す、という狙いが感じられる」 という 。 デジタル・ストーリーテリングは、学習方法として多様な目的に多様な教科で活用可能であるが、本来は自分を見つめ直すことを目的に使われることが多い 。」(坂本『メディア情報教育学』p.154)
2 ブック・デジタル・ストーリーテリング

 本を紹介することを目的としたデジタル・ストーリーテリング。デジタル化したブックトークのように感じられるかもしれないが,実際に学生が作った作品を見ると,自分史としてのデジタル・ストーリーテリングの特徴を持つため、ブックトークとは異なる。自分の人生に影響を与えた本の紹介が目的であるため、ブック・デジタル・ストーリーテリングと呼ぶのが良さそうである。言いやすいようにするため、「ブックデジスト」と略称する。
 また、ブックトークやリブリオバトルがプレゼンテーションを基本とするのに対して、ブック・デジタル・ストーリーテリングはリプリゼンテーションである。すなわち、意図的な編集というプロセスを経て,公衆に発信される。この性格により、いつでもどこでも誰でも見ることができるというメリットがある。制作に際しても、一回限りのプレゼンテーションとは異なり、何度でも繰り返しながら制作することができる。
 しばしば読書は人生に大きな影響を与える。ブック・デジタル・ストーリーテリングは人生における本との出会いに焦点を当てる。単なる本の紹介とは異なり、ブック・デジタル・ストーリーテリングが他者に共鳴をもたらすのは、読書が人生に与える影響を自分史として表現しているからである。


3 大学における実践

 筆者がブック・デジタル・ストーリーテリングを思いつくきっかけになったのは、2012年に行った首都大学での集中講義であった。受講生に宿題として制作させたデジタル・ストーリーテリングの中に、自分を本との出会いを中心に描いた作品があった。その独創性に驚くとともに、デジタル・ストーリーテリングの新たな可能性を感じさせた。つまり、本との出会いをテーマにしたデジタル・ストーリーテリングを、一つの学習方法として作り出せないかというものである。
 2014年春期「情報メディアの活用」(受講生6名)でブック・デジタル・ストーリーテリング制作を行うことにした。本授業での位置づけは、情報メディアを活用した読書指導方法の開発である。最初に、タブレット端末(iPad)を用いて、デジタル・ストーリーテリングそのものを制作させ、そのその制作を理解させる。次のステップとしてブック・デジタル・ストーリーテリング制作に取り組ませた。スキルアップを目的に、タブレット端末ではなく、パソコン(MacBookPro)を用いている。
当初は、デジタル化されたブックトークをイメージし、本を紹介することを目的としたデジタル・ストーリーテリングを作ることを課題としたが、すでにデジタル・ストーリーテリング制作を体験しているためか、実際に作られた作品を見ると、自分の人生と本との出会いを描いたものが多かった。また、出来上がった作品は、いずれも一般的なデジタル・ストーリーテリングよりも長く、いずれも5分を越えている。学生の感想に「デジタル・ブックトーク」と書かれているのは、当初の目的がデジタル化されたブックトークの制作だったからである。
 学生の感想には、作品の制作過程で自分が読んだ本を思い出し、振り返ることの意味に触れられているものがあり、本の紹介を目的にしながら、制作者自身の人生の振り返りという教育的価値を感じさせられる。つまり、本を紹介することに、教育的価値があるのではなく、そのことを通して、内省する過程により大きな教育的価値があるといえるのではないだろうか。

学生の感想

(1)
 こういった、iPadやMacを使ったデジタル・ストーリー・テリングを作成するのは初めての取り組みで、最初は正直大変なイメージがあった。それは、学部の関係もあって、自分はどちらかというと既存のものを研究するというプロセスを繰り返していたため、自分から作品を作り出すといった取り組みを経験する機会が多くなかったからだ。しかし実際取り組んでみると、意外にもやればできるのだなと思わせられた。特にiPadでDSTを作るのは思いの外簡単で、確かに使い方さえ学べば誰でも作品が作れるような気がする。
 今回は、この機能を利用してデジタル・ブックトークの作成に挑戦したわけだが、一番苦労したのはやはり構成だった。作品の構成には、その人の個性が出るため、構成が他の人の価値観と違い、つまらないと思われたらどうしようという考えが頭をよぎる。実際、今日の上映会の作品を見ても、全員がその構成が違った。自分の人生を切り口にして本を紹介する人。単純に、読んでみたくなるような本をストレートに紹介する人。作者を切り口にして、その作者の本だけを紹介する人。各々の構成がその作品の個性となって如実に表れていた。作品の構成はそれほど重要なのである。
 他にも、多様な対象者に向けてわかりやすく本を紹介しなければならないという点にも苦労を感じた。自分のお勧めしたい本を、どうしたらわかりやすく伝えることができるか。その工夫もまた、非常に難しかった。その点において、私は淡々と本を紹介していく構成は非常に上手だなと感じた。ストーリー性には欠けるかもしれないが、やはりなんといってもシンプルな構成は見ている人にとって気持ちがよく、伝わりやすい。こういうストレートな表現は、見ている人の心をつかむのである。また、作者という切り口から入るのも、非常に一貫性があって伝わりやすいと感じた。
 自分の作品は人生をなぞらえて作ったため、自分より年下の人には伝わりにくいかもしれないという難点がある。、もし今後作品を作るとしたら、あらゆる対象者に向けて心に響く作品を作れるようにしたい。
 今回のデジタル・ブックトークは、楽しみながら、また、いつでもどこでも見れるという利点がある。こういう便利なブックトークは今までなかったので、たとえばこれを図書館内で流すなど、使い道はいくらでもあるはずだ。今後こういった取り組みは、ぜひ広まっていくべきである。

(2)
 デジタルストーリーテリングを初めて見たとき、とても衝撃を受けました。今までこのようなものを見たことがなかったし、素直に「面白い」と思えました。この授業を通じて私が学んだことは、全部で三つあります。
 一つ目は、全く新しいiPad、MacBookの使い方です。普段使うことのない機能にたくさん触れることができ、そしてその技術を習得することができました。この経験はとても貴重だと思っています。ほかの授業でMacBookの使い方を学ぶことはできないと思っていますし、これからの人生で絶対役に立ちます。非常に有意義でした。また、これらの機械を使うことで、これからの未来のデジタル機器の可能性を感じました。いずれ今以上にいろんなことがパソコンひとつでできる未来がきてもおかしくないと思います。そうなったときに、自分もしっかりついていけるようになろう、と改めて思えました。
 二つ目は、相手に自分の考えを伝えることの難しさと、楽しさです。自分の言葉を自分の声を使って伝えていくことができる分、その影響力は非常に大きなものになると思います。本の紹介をするとき、一体自分は何を、どのように伝えたいのか、それをとてもよく考えました。それが非常に難しく、私は思うようにいかなくて一度ナレーションをすべて作り直しました。しかし時間を費やして考えた分、最終的な作品は自分の伝えたいことを思う存分込めることができたと思っていますし、なにより作っているときが楽しかったです。作品をつくる過程で一番難しかったのがナレーション録音ですが、一番楽しかったのもナレーション録音でした。
 三つ目は、図書館教育のこれからのあり方についてです。先ほども述べましたが、情報技術には無限の可能性があります。これからは新しい情報技術を学校図書館活用教育にどのように活かしていくかが鍵になると思っています。今回私たちが挑戦したデジタルストーリーテリングを利用した本の紹介は、その良き先駆けとなるものではないでしょうか。これなら、図書館に足を運ばなくても、どんな場所でも本の紹介を見ることができます。そして、それが本に対する興味へとつながり、図書館の利用者や読書人口が増えていきます。なにより、自分の声を使う訳ですから、作る人によって全く違う作品に仕上がります。レパートリーが豊富であるということも、こういう形の本の紹介の大きな魅力です。見る人は、とても楽しめるのではないでしょうか。今回が世界初の試みだったそうですが、これから広まっていけばいいなと思いますし、自分がもし学校図書館司書になる機会があったとしたら、挑戦してみたいです。
 何気ない気持ちでとった授業でしたが、先生は毎回とても親切で優しく、課題も大変だったけれど楽しく、非常に充実した時間を過ごすことができました。半期なのが寂しいくらいです。今まで自分の中になかった、新しい発想をたくさん得ることができて、本当にこの授業を履修してよかったと思っています。ありがとうございました。

(3)
 春学期を通して、デジタルブックトークという新しい本の紹介を実践した。この本を相手に伝える方法として、話し手の言葉だけではなく画像や形に残ることで、聞き手にとってイメージや作品についての魅力が伝わりやすいと感じた。また制作者側としても今までの人生で読んできた本を紹介でき、形として残ることで当時の自分を振り返れるという点もいいと思った。
 作ってみた感想としては、まずiMovieの基本的な使い方だけ知れば作れ簡単だなと感じたが、凝った作品にするためには使い方をもっと知りたかった。自分のデジタルブックトークでは、本の紹介と作者の人生がテーマであったが両方を一遍に紹介するにはトークの時間が多くなってしまい、まとめるのが大変だった。またナレーションは普段聞かない自分の声を入れるので、恥ずかしい気持ちはあったが当時読んでいた本だけでなく、当時の自分も残せるのでそれもデジタルブックトークのいい点だと感じた。時間に余裕があったらよりいい作品を作りたい。
 他の人の作品を見た感想として、制作者の個性や本の薦め方が様々で見ていて飽きなかった。