乙夜の覧、戊夜のうp

坂本旬非公式日記

教育情報

教育用PCはタブレットに

 地方入試の仕事のため、新潟に出張していました。試験会場は駅前の予備校。30年前に僕が通っていた予備校とほとんど変わっていませんでした。横長の黒板に長机とイス。壁には「私語禁止」と書いてある。もちろん大学にはこんな貼り紙はありません。予備校の授業風景が目に浮かびます。

 どんなに教育を変えようとしても、入試はほとんど変わらないため、結局学校も変わらない。その現実を改めて感じました。本当に教育を変えようと思ったら、試験は紙と鉛筆でするものだという発想そのものを変えないといけないでしょう。

 ではそれに変えて一般的に使われているパソコンにすればいいのか? それも何か違うという気がします。教育の観点から考えれば、手書きをキーボード入力に置き換えることはできないと思うからです。薄くて軽くて丈夫な教育用タブレットPCこそ求められるものではないでしょうか。

 ディスプレイはカラーに越したことはありませんが、とりあえずモノクロでもいい。子どもたちが普段使っているノートはもともとモノクロなのだから。さらに動画や音声が使えること。そうでないとPCにする意味がありません。夜中に充電しておけば一日中持つこと。電源ケーブルはじゃまです。外に持ち出して使うことを考えると、太陽の光のものでも文字がくっきり見えること。

 OSはウィンドウズである必要は少しもありません。最低限のツールとワイヤレスネット接続機能、カメラ、マイクが付属していること。MIDI機能によって、音楽も使えて、これで作曲したり、演奏できると面白い。動画編集やアニメ作成機能もついているといい。キーボードはオプションで用意し、4年生になればキーボードも使えるようにすればよいでしょう。

 子どもが毎日持ち運びできるほど薄くて軽くて丈夫な教育用PCを普及させて、宿題も試験もそれでできるようにすればいい。紙と鉛筆はもうサヨナラです。でも手書きがなくなるわけじゃない。やはり学校教育の基本は手書きなのです。携帯ゲームだって手書きが大ヒットする時代。もうそろそろ教育用パソコンもタブレットにすべきではないでしょうか。

つながーる

 先日、新宿副都心にある国際文化フォーラムに行ってきました。日中間の学校間文化交流を進める上で、国際文化フォーラムと僕たちの「カルチャー・クエスト」がどのように協働できるのか、その可能性を検討するためです。いろいろとお互いのプロジェクトの紹介をした結果、プロジェクトの理念や目的が大変近いことがわかりました。

 国際文化フォーラムが国際交流のツールとして作ったのが「つながーる」というSNSです。とても良くできていて、さすがにお金をかけているという感じです。こちらが進めているのは国立情報学研究所が開発している「NetCommons」をベースにした「CQ Commons」。SNSではないので、個人のページがなく、プロフィールを載せたりすることができません。その点では「つながーる」の方がよいのです。

 一方、「つながーる」はあくまでもSNSなのでe-Learningの機能はありません。そのため、授業で使う場合は少し工夫が必要になるでしょう。また、「CQ commons」には自動翻訳機能や「NOTA」も取り込んでおり、授業で使いやすいような工夫をしています。デザインも近いうちに大きく変える予定です。

 今後、私たちは国際文化フォーラムが進めようとしている日中の中学校間交流に協力していくことになりそうです。国際文化フォーラムが「つながーる」を開発した理由として、少人数の子どもたちだけの交流ではなく、誰もが国際交流に参加できる仕組みが必要だ考えた結果、インターネットにたどり着いたという話でしたが、まさに私たちの考え方と同じでした。そうであれば、同じ考えを持つ人々や組織が協力し合える仕組みを作っていくこともこれからは必要になるでしょう。

インタビュー調査と個人情報

 今日は教育市民会議の分科会で調査の打ち合せがありました。調査したいのは学校での教育相談や外国籍児童生徒への支援教育、そして特別支援学級の実態。これらを関係者に直接インタビューをして現状を把握しようというものです。

 教育市民会議では毎年テーマを決めて市当局への政策提言を行うのですが、今年の学校教育部会は特別な支援を必要とする子どもへの教育に焦点を当てることにしました。とりわけ市内にはたくさんの外国籍児童生徒が存在するのにもかかわらず、教育実態や問題点がほとんど明らかにされていないことがとても気になっていました。今回はこの問題も大きなテーマの一つになっています。

 せっかくインタビュー調査の計画を立てようとしていた矢先に、市の関連部署からストップがかかりました。児童生徒の個人情報に関わることだからインタビュー調査はできない、校長か指導主事を通じて回答すればよいではないかというのです。これでは実態調査にはなりません。

 そもそも調査にあたって、個人情報を保護するのはあたりまえのことであって、それが調査をしないことを正当化することにはなり得ないでしょう。調査したいのは個人情報ではなく、教育現場の実態だからです。この点をめぐって何度かやりとりがありましたが、市の関係部署も改めて検討するとのことでした。別の部署は私たちの意図をくんで、支援していただいており、できないと決まったわけではないようです。今後の展開に期待したいと思います。続きを読む

批判的と主体的

 AMLAに先だって開かれた研究集会で、メディアリテラシー教育の概念について議論がされたのですが、やはり議論の中心は「critical」という概念の重要性です。「critical」はしばしば「skeptical」であっても、決して「cynical」であってはならないという意見も聞かれました。

 「critical」という言葉は「批判的」とか「批評的」と訳すしかないのですが、なんと日本ではいつのまにやら「主体的」と言い換えられることがほとんどです。しかし、「主体的」は「independent」であって、絶対に「critical」ではありません。こんないい加減な言い換えがまかり通っているのです。

 「critical」という概念を無視して、欧米のメディアリテラシー教育の本質を理解することはできないでしょう。僕の友人でさえ「メディアを主体的に読み解き活用する能力としてのメディアリテラシー」などと書いているのを読むと本当にがっかりします。(やっぱりこんな言い換えはよくないと思うんだよね〜。)

 次回はAMLAで配布されていたメディアリテラシーの6つのキーコンセプトを紹介したいと思います。

ウェブ汚染

 明日、国際子ども図書館で職員向けにメディアと子どもについての講演をするので、同僚の尾木先生からいただいた『ウェブ汚染社会』を読みました。

 ネット社会と子どもとの関係をテーマにした本なのだけど、ほぼ同じテーマの本を僕も書いており、すでに昨年に脱稿しているのにまだ出版されていない。編集が滞っているようで、なんだか情けないなぁと思いつつ尾木先生の本を読んだわけです。

 昨年度の尾木ゼミでは子どもとネットについてのかなり大規模な調査を行っており、その報告書は僕もいただいています。この本にはその報告書のデータがたくさん使われています。僕の本でも利用させていただきました。

 それにもかかわらず、尾木先生の本と僕の本ではいくぶん主張が違います。尾木先生の本を読んでいろいろな疑問がわきました。この本の主張を要約すると、インターネットは子どもの攻撃性を増し、思春期の「発達不全」を引き起こすおそれが強いから、早急な対策を立てるべきだということになります。

 インターネットやケータイが「発達不全」を引き起こすとされる調査結果がたくさん載せられているのですが、理論上の根拠としてあげられているのが、メールや掲示板への発言をたくさんする子どもほど攻撃性が強いという心理学調査を行った論文です。

 テレビについても同じような研究が数多く行われてきましたが、テレビが子どもの人格形成に影響を与えるという因果関係を証明するためには、10年、20年と時間をかけねばならず、しかもそれによって本当に証明されたと言えるのか、いまだにはっきりしていません。(子どもがテレビのマネをしたがるという点での影響は証明されていますが、それは人格形成への影響を示しているとはいえません。)人格形成については、テレビ以上に他の要因の影響が強いからです。

 インターネットも同じことが言えます。インターネットが子どもの人格発達に影響をもたらすことを証明するためには、他の要因の影響力が理論上0になるように操作しなければなりません。しかし現実には、子どもたちにとって、家庭環境や学校生活などの影響が無視できないほど大きく、そもそもメディア環境それじたいが家庭環境と深く結びついています。その結果、仮説に対する反証をさがせばいくらでも見つけることができるのです。

 そのような疑問がどうしてもぬぐえないのですが、今日のインターネットの現状が座視できないものであることは確かです。この点についてはまったく同感です。しかし、フィルタリングソフトを過信するのは問題があります。しかも、子どもが高校生になればそれもほとんど無意味だといってもよいでしょう。

 僕は子どもが小学生のうちは、インターネットよりも本に触れさせる機会をたくさん与え、読書の楽しさを十分に教えるべきだと思います。読書こそがインターネットへの抵抗力を育てるのです。そして、子どもたちが読書を楽しめるような家庭環境や学校環境、地域環境を作ることが何よりも必要なことだと思います。

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