今年、中華人民共和国への返還から20周年を迎えた香港のフラッグキャリアといえば、キャセイパシフィック航空。
同社は既存のレガシーキャリア各社やLCC各社との激しい競合にさらされているわけですが、そのなかで生き残りを図るべく、ここ数年積極的に長距離路線の新規開設を続けています。

そして先月、同社は2018年夏ダイヤで、ヨーロッパへの新路線を開設する旨発表しました。
新路線は以下の3路線で、アジア・ヨーロッパの旅客機ファンや業界関係者からは一様に驚きの声が上がりました。

・香港~ブリュッセル線 (3月27日~、週4往復)
・香港~コペンハーゲン線(5月2日~10月12日の季節便、週3往復)
・香港~ダブリン線(6月2日~、週4往復)
いずれの路線も、使用機材は写真のエアバスA350-900XWBとのこと。
同機は2016年から順次導入されている新しい中長距離路線用機材で、先輩のボーイングB777-300ERとともに同社の長距離路線ネットワーク拡大の尖兵となっています。
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気になるダイヤは以下の通りです。

・香港~ブリュッセル線(火・木・土・日曜運航)
香港035→(CX339便)→655ブリュッセル
ブリュッセル1310→(CX338便)→655(翌日)香港

・香港~コペンハーゲン線(月・水・金曜運航)
香港110→(CX227便)→630コペンハーゲン
コペンハーゲン1355→(CX226便)→635(翌日)香港

・香港~ダブリン線(月・水・木・土曜運航)
香港050→(CX307便)→645ダブリン
ダブリン1115→(CX306便)→705(翌日)香港

いずれの路線も、香港国際空港でキャセイパシフィック航空の東京(羽田・成田)、名古屋(中部)、大阪(関西)線とも接続しているわけで、日本人乗客にとっても利用しやすいダイヤになっています。

このうち、香港~ダブリン線は、ダブリン国際空港にとっては史上初めてのアジア直行便ということで、長年の悲願達成に現地の関係者は大いに沸いているようです。
真偽のほどは確かではありませんが、以前にもナショナルフラッグキャリアであるエアリンガスが、ダブリン~東京(成田)線の開設を構想したものの、諸般の事情でお流れになった経緯があるそうで、今回のキャセイパシフィック航空の香港線開設は二度目の正直ということになります。

今回の路線開設の決め手としては、まず香港国際空港の拠点性の高さが挙げられます。それと合わせて、アイルランドは1949年の完全独立まではイギリス連邦の構成国であり、同時期に極東アジアのイギリス植民地だった香港とは歴史的に関係があること、また、各国からアイルランドに移り住む華人(華僑)が少なくないことなど歴史的・民族的な背景も無視できないと思います。

さらに、アイルランドはかつて激しい独立戦争を戦うなど、隣国イギリスに抵抗してきた歴史を持つ国ですが、第二次世界大戦の際もイギリスが中心の連合国には加勢せず中立を保ちました。それどころか、日本軍のマレー・シンガポール占領を喜んだ国民も多かったと言われています。今回開設される香港~ダブリン線についても、日本とアイルランドの間を行き来する多くの日本人・アイルランド人の利用が見込まれ期待できるところです。

香港~コペンハーゲン線は、キャセイパシフィック航空にとっては史上初の北欧直行便となります。意外な話ですが、この両都市間の直行便は長らく存在していない状態が続いていました。今回開設されるキャセイパシフィック航空のフライトが、うまいこと需要を伸ばし、1日も早く通年運航に格上げされることを期待したいものです。
なお、香港と北欧を結ぶ路線としては、この他にフィンランド航空の香港~ヘルシンキ線、スカンジナビア航空の香港~ストックホルム線が存在します。

最後に紹介するのは香港~ブリュッセル線ですが、ヨーロッパの国際機関が集まり、華人(華僑)の移民も多いブリュッセルと香港を結ぶ直行便の開設は、香港とベルギーの人々にとって長年の悲願だったと思われます。
既にタイ国際航空、海南航空、ANAといったアジア系各社が、ブリュッセルへの直行便を運航しているわけですが、今回のキャセイパシフィック航空の香港~ブリュッセル線開設により、香港・中国・日本ほかアジア諸国とブリュッセルの間を移動する利用者にとっての利便性が増すことを期待したいです。
当面は週4往復のダイヤですが、1日も早く毎日運航に増便されること、そしてブリュッセルに渡航するアジア人のビジネスマンや観光客の増加に寄与することを願ってやまないものです。
そして、2016年3月のテロ事件で傷ついたブリュッセルの街が、キャセイパシフィック航空の就航により勇気づけられますように。
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なお、香港~ブリュッセル線の開設とともに、2015年9月1日に開設されたばかりの香港~デュッセルドルフ線は廃止されることが決定しました。
高度経済成長期以降多くの日系企業が立地し、日本人や華僑(華人)が多いという背景もあり、近年、中国国際航空、ANA、シンガポール航空といったアジア系航空会社がこぞって直行便を乗り入れていたデュッセルドルフ国際空港。その気になれば、キャセイパシフィック航空の香港~デュッセルドルフ線も採算に乗るかと思われましたが、デュッセルドルフには香港出身者が少なかったからなのか、既存の香港~フランクフルト線との棲み分けが上手くいかなかったからなのか、僅か2年半で撤退という形になりました。
【写真】香港~デュッセルドルフ線開設当初に使用されていたボーイングB777-300ER(旧塗装)。
現在、同路線はエアバスA350-900XWBに置き換えられています。
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ちなみにデュッセルドルフ国際空港には、1980年代にJALもボーイングB747‐200使用の北回り便で乗り入れていましたが、1990年代前半にドイツ側の発着空港をフランクフルト国際空港に一本化することになり撤退した経緯がありました。昔から、どうも航空連合「ワンワールド」加盟各社のデュッセルドルフ路線は短命に終わってしまう傾向があるようで、同じく「ワンワールド」加盟のエア・ベルリンの経営破綻問題と合わせて心配なところです。

今回発表された3路線の他、キャセイパシフィック航空は2017年に次の各路線を開設(予定含む)しています。

・香港~テルアビブ線(3月26日~、週4往復)
・香港~バルセロナ線(7月2日~10月27日、週4往復の季節便)
【参考】オセアニア線ですが
・香港~クライストチャーチ線(12月1日~2018年2月28日、週3往復)

いずれの路線も、日本から直行便のない都市への直行便とあり、日本の旅客機ファンとしてはまことに羨ましい限りなのですが、これも香港という都市、香港国際空港の持つ拠点性がなす賜物なのかもしれません。イスラエル、スペイン(カタルーニャ)、ニュージーランド、いずれの地域にも華僑(華人)が多く居住していることも、路線開設の決め手になったように思います。
今回のキャセイパシフィック航空の英断により、香港と上記3都市の間を移動する利用者の利便性が増したことはもちろんですが、日本や台湾といった近隣諸国の利用者にとっても選択肢が増えることになりました。
さらに、香港~バルセロナ線については、先ごろ2018年夏ダイヤからの通年運航が決定しました、バルセロナといえば、所属するカタルーニャ州の独立問題が連日報道されていますが、独立の成否にかかわらずキャセイパシフィック航空、大韓航空、中国国際航空、シンガポール航空といったアジア系航空会社には、引き続きアジア~バルセロナ間の直行便を維持して欲しいものです。

なお、上記の3路線は、いずれもA350-900XWBによる運航となっています。
このほか、エアバスA350-900XWBの増備が進んだことに伴い、ヨーロッパ線やオセアニア線でも同機を用いた増便が適宜実施されている状況です。

先にも述べたように、キャセイパシフィック航空が近年、積極的に長距離路線ネットワークを拡大しているのは、ひとえに最新鋭機エアバスA350-900XWBのおかげかと思います。同機は従来のボーイングB777-300ERと比べて手頃なサイズで燃費も良く、需要が読めない中長距離路線を新規開設するにはうって付けの機材と位置づけられています。エアバスA350-900XWBはこれまでに、香港~ロンドン(ガトウィック)線の再開に当たって投入されたほか、既存のパリ(ドゴール)線やマンチェスター線、ニューヨーク(ニューアーク)線、サンフランシスコ線、ブリスベン線、メルボルン線といった路線にも投入され、最新仕様の座席とともに多くの利用者から好評を得ています。

間合い運用で、香港発着の大阪(関西)線や台北(桃園)線、バンコク(スワンナプーム)線、シンガポール線といったアジア路線でも使用されており、日本人の利用者にとってもお馴染みとなったキャセイパシフィック航空のエアバスA350-900XWB。この最新鋭機が、同社の路線ネットワークを更に充実させ、明るい未来を築き上げる事を願って締めくくらせていただきます。