月日が経つのは早いもので、2011年3月11日(金)に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)から9年を迎えました。
行方不明者や関連死も含めると24,585名の尊い生命が奪われ、また地震の被害により引き起こされた福島第一原子力発電所事故により福島県相双地方の一部区域が警戒区域に指定されるなど、未曾有の被害が出たのは記憶に新しいところかと存じます。
あれから時は過ぎ、コロナウイルス感染症による影響こそ心配されるものの、復興のシンボルとして招致した東京オリンピック・パラリンピックの開催が今夏に迫っているほか、被害を受けた鉄道路線のなかで最後まで(注)不通だった常磐線富岡~浪江間が昨日2020年3月14日(土)のダイヤ改正とともに運転を再開するなど、復興への歩みは着実に進んでいるといえます。
(注)BRT化されたうえ、鉄道路線としては廃止が決定した気仙沼線柳津~気仙沼間、大船渡線気仙沼~盛間を除く。
しかし、富岡~浪江間の沿線には今なお放射線量の高い帰還困難区域が残っており、慣れ親しんだ故郷に帰りたくても帰れない人が数多くいる状況です。また、原発事故の影響のなかった宮城県や岩手県の沿岸部でも、今なおあちこちに津波の爪痕が残っています。
完全な復興はまだまだ遠い道というわけですが、今日はそんな被災地の鉄道を支援するべく、関西のとある私鉄が始めた取り組みをご紹介します。
叡山電鉄は、京都市左京区内に叡山本線(出町柳~八瀬比叡山口間)と鞍馬線(宝ヶ池~鞍馬間)の2路線を運行する京阪電鉄グループの地方私鉄です。
沿線に比叡山や鞍馬寺など、風光明媚な観光地を多く有するため、国内外の観光客に親しまれている同社ですが、去る2019年3月31日(日)よりデオ710形電車のうちデオ712号を三陸鉄道の気動車と同じ塗装に塗り替えて運用しています。
もともと叡山電鉄と三陸鉄道は、2009年の叡山電鉄のイベントに三陸鉄道が協力したという縁をきっかけに連携関係を築いており、以来10年近くにわたり共同でのフォトコンテスト実施や災害時の義援金などさまざまな形でのやり取りがありました。
そして2019年3月23日(土)、三陸鉄道が東日本大震災で不通になっていた旧JR東日本山田線の宮古~釜石間の経営を承継、従来の北リアス線・南リアス線と合わせた久慈~盛間を「リアス線」として一体運営するようになったことをお祝いすべく、東日本大震災の復興支援や三陸鉄道のPRといった意味合いを込めて、三陸鉄道塗装のデオ712号の営業運転が開始されることになった次第です。
2月某日、宝ヶ池駅に到着したデオ712号の出町柳行き。
叡山電鉄の全路線で運用されるデオ710形ですが、この日昼間のデオ712号は叡山本線・鞍馬線の出町柳~二軒茶屋間の折り返し運用に就いていました。
【参考】三陸鉄道の36-200形気動車36-205号(2010年撮影)
この36-205号は東日本大震災の際、盛駅構内で浸水の被害を受け廃車となりました。
三陸鉄道塗装のデオ712号ですが、当初は2019年3月31日~2020年3月までの1年間の期間限定だったところ、運行期間が2020年9月まで延長されることになりました。
叡山電鉄では毎年6~9月、沿線の鞍馬山が源義経ゆかりの地であることから、鞍馬駅や電車内に同じく源義経に縁のある岩手県特産の南部風鈴を飾り付けるイベント「悠久の風」を実施していますが、2019年の「悠久の風」では岩手県のローカル線である三陸鉄道の塗装を纏ったデオ712号の車内に風鈴が飾られたといいます。
ところで、映画界では東日本大震災から9年を前に、諏訪敦彦さん監督・モトーラ世理奈さん主演の最新作「風の電話」がにわかに話題になりました。
この映画の舞台は、三陸鉄道リアス線沿線の浪板海岸(岩手県上閉伊郡大槌町)にある、震災の遺族が犠牲になった大切な人へのメッセージを伝えるための電話ボックス型モニュメント「風の電話」です。
奇しくも時を同じくして三陸鉄道の塗装を纏うことになったデオ712号には、被災地から離れた洛北の地で「風の電話」になり、乗り合わせた人たちにもう会うことのできない大切な人へのメッセージを届けてくれる存在であって欲しいと思うところです。
長くなりましたが、東日本大震災でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、大槌町をはじめとする被災地に一日も早く真の復興が訪れることを願います。
そして、源義経や両社の関係者が取り持った叡山電鉄と三陸鉄道の連携が今後さらに深いものとなり、京都と岩手県双方を強く結びつけることを期待しつつ結びとさせていただきます。