一歌談欒vol.3

この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい(笹井宏之)
(山田航編著『桜前線開架宣言』より)


 森において軍手は基本的な必需品である。それを売って暮らしたいというのである。一見地に足がついているようである。
 だが明らかに軍手は安すぎる。生活の収入源とするにはあまりに単価が低い。

 まちがえて図書館を建てたい。図書館はまちがって建てるものとして美しい。無料で本を貸し出す施設は、人々の精神を優しく支える。
 だが、それは二重におかしい。森にあるのは図書館が人を呼ぶには不便だ。そして、図書館は本を無料で貸し出す場所なので、普通は共同体のカネで運営される。「まちがえて」建てた場合まったく継続の見込みがない。

 この短歌の上の句と下の句は、片方が森の軍手という必需品、片方が図書館という文化施設で、対照的にも見えるけれども、実はどちらも非現実的な生活運営を目指している点で共通している。
 そして、使用者の必需品、上の句では肉体的な、下の句では精神的な守り手となることを望んでいる。軍手は安く、図書貸出は無料。使用者に負担を与えない守り手だ。
 だが、いずれにせよそれは採算の取れない夢想である。語り手の生活基盤をなし得ない空想である。

 したがって、「そんな馬鹿な考えはよして現実にある仕事で働け」というのが、この言葉に対する正しい指摘である。

 笹井宏之は病身であった。その「正しい指摘」を受けること自体が不可能な人の、短歌である。