業界のカタスミで細々と~涙のサンダーロード

大事なものは家庭とゴルフ。出身地福岡LOVEが強い団塊世代の日記です。世田谷区在。”誰も相談に来ない”音楽コンサルタント。個人事業主屋号はTHUNDER ROAD。音楽業界50年。特にレコード会社若き現場時代は洋楽黄金の80年代。洋楽以外も、音楽出版。名古屋営業所長。国内新人発掘育成。国内アーティストマネージメントなど経験。業界の片隅で今だ細々と粘っているオッサンのボケ防止を兼ねた音楽業界人生の整理と復習ブログ。想い出は美しく記憶は嘘つき。基本テーマは仕事で関わった洋楽昔話ネタとたまにゴルフ話と日常案件。好きなものはブルース・スプリングスティーン。幕末と明治維新。ジョン万次郎と坂本龍馬。忠臣蔵。秀吉信長の時代。スターウォーズとマーヴェルコミック。キャプテンアメリカ&アヴェンジャーズ大好き。特にブラック・ウィドウがお気に入り。    

海外レーベルとのコミュニケイションは、日本の洋楽チームにとってはある種のライフラインです。何がいつ発売されるのか、その製造パーツはいつ出荷されるのか、などの基本形からプロモーションに関わる、ライブ情報から取材の依頼など、日本で何かするする時は全てが、このレーベルを通じて行われるのです。

ダウンロード我々CBSソニー洋楽のほとんどはアメリカCBSからサプライされるプロダクツでした。つまり全通信はCBSインターナショナルという、CBSレコーズ内に”アメリカ産の音楽をアメリカ以外の国で売る為”の組織が相手でした。直接アーティスト側とのやり取りは、当然ご法度でしたし、来日を通じてマネージャーと親しくなっても、取材のリクエストは、この組織を経て彼等に伝わり、同じルートで戻ってくるので時間がかかるのです。

彼等は本国での大メジャー・レコード会社の国際部という感じの部門ですが、ま、簡単に言うと、直接ヒットをつくるという事を生業にしておらず、ある種の情報サービス機関です。
ヒットをつくる事に汗かいているこちらからしてみれば、例えば音楽誌の取材で”何日までにインタビューを終えないと発売のタイミングに間に合わないから絶対なんとかしてくれ”と頼んだら、”マネージメントがつかまらないから連絡とれない”とか、”やりたくないと言ってる”とか、右から左への子供の使いみたいな返事を寄こしやがったりするのです。

ダウンロード連絡つかない、と言ったって、生きて地球のどこかにいるだろう、って事ですし、”もうちょっと粘ってくれよ”、とか、”説得してくれよ”的なストレスも多く、”おめーらはそれでも当事者なの?”と憮然とする場面が多々あったのです。
どれだけ緊急の案件で連絡入れてても、夕方17時には仕事辞めて帰っちゃって、また明日ね、という感じのスタッフも多かったです。ホント、仕事しないよ。自分の評価が上がる事のみ一生懸命やってるやつの顔思い出しました。思い出して怒りがでてきました。

で、メタリカはアメリカでの発売はエレクトラ・レコーズですが、日本のCBSソニーはマネージメント事務所であり音楽制作会社であるQプライムとの直接の契約です。よって、全ての交渉事は彼等と直接にできます。先方は自分たちのアーティストが日本で売れるように当然の事ですが、一生懸命ですし、我々のリクエストや質問に対するレスポンスも素早いものありました。

こちらのプランニングに対してもこまかいところまでつっこんでくるような面倒な事もありますが、トップのピーター・メンチ以下現場スタッフまで非常に優秀で一生懸命やってくれました。身内のCBSとのコミュニケイションより100億倍スムーズでした。

ダウンロード (2)また日本のプラン二ング・アイデアやマーケティング力を信頼してくれている事もあり、彼等とは日常的にかなり頻度高く連絡とりあっていました。そして、新譜”メタル・ジャスティス”のアメリカでの発売日が発表されると、その数か月前から、色々と準備のために、彼等とのやりとりも頻繁になってきます。
メタリカに限る事ではありませんが、担当者Mすみのアイデアを国際渉外のTまみさんがQプライムにぶつけ、ああでもないこうでもないとか、だったらこれはどお?となどの密にコミュニケイションをとってやりたい事(目的)に近づけていくのです。

前回の内憂外患の続き。円高の背景をうけ安い!早い!の輸入盤は、いずれ地方の中都市にも多数出店しましたが、まだこの時点では大都市限定のもの。とは言え、例えば当時のスーパーセールス系のビリー・ジョエル・クラスの場合、輸入盤で国内盤売り上げ枚数の20%前後にあたる15万枚くらいは売れていました。仮に全員がビリーの国内盤を買ってくれていたとすると、売上ベースで3億円ほど上乗せになるのです。

downloadダウンロード (1)これはついでのオマケ話ですが、ちなみに80年代末になると、本国との交渉(出荷制限や印税分配率etc)を経て輸入盤もそれぞれの発売元のレコード会社が取り扱う事になり、洋楽メジャー各社営業部に国内盤と輸入盤の二種類を取り扱う部門ができました。

それまで”輸入盤専門店”として超宿敵の位置づけにあったタワー・レコードは後に全国に出店攻勢をかけ、我々の輸入盤を仕入れてくれるし、しかも国内盤の取り扱いも始めたので、取引額もトップクラスとなり一気に大事なお得意様になりました。
タワーだけでなくHMVや丸井と組んだヴァ―ジン・メガストアなど大型外資も上陸し、正規輸入盤を取り扱う日本のレコード産業の重要な一員になったのです。蛇足ながら、国内盤の方がはるかに利益率は高いので、こちらが主力であることは変わりません。

さてそういうわけで、前作の来日とEPのヒットで上昇気流に乗っている事がクリアになりました。この新譜で一気に数段上の位置づけに持ち上げたいと思ったメタリカですので、特に輸入盤に食われて売り逃し、なんて悲惨な事絶対したくありません。

imagesMすみ、TまみさんからQプライムに対しては、日本のマーケット事情を十分に理解させ、日本盤の発売日をアメリカ発売に一日でも近づけれるように最大の努力をします。日本側のプレスや印刷工場のタイムラインを伝え、彼等からは本国で動いているレコーディンの進捗やアルバム印刷物の進行状況を日々情報共有していました。最終的にはマスターテープは、何日何時発の貨物便に乗せる、というところまで追い込み、この情報を元に工場でのプレス・ラインを確保しておくのです。

ダウンロードこれはこれで輸入盤対策として緊急発売体制の中で動いているのですが、担当者Mすみの仕事としては、輸入盤に対する国内盤の魅力をアピールし、そしてレンタル対策としては借りずに買いたくなるような商品企画を考えなければいけません。

メタリカのセールスは欧米に比して売り上げ的に後れをとっていた日本国です。担当ディレクターとしては、ここが踏ん張りどころです。なんとか追いつく為に、より話題を大きくしてロック・ファン全体にアピールしていくことを模索してました。
それが従来のファンに喜んでもらえ、新しいファンの獲得につながるものならば上出来ですし、しかも話題としてこのことがメディアに取り上げてもらえるような企画ならば最上級の仕事です。Mすみは知恵絞りあげてました。




ちなみに、”メタル・ガレージ”は本国でも、発売年1987年の年末にはゴールド・アルバムを獲得し、同じようなタイミングでエレクトラから再発されていた二枚目のRIDE THE LIGHTNINGもゴールド獲得しています。

ダウンロード日本でも初来日公演でのパフォーマンスのインパクトで一気にメタラーの度肝抜き、音専誌の強い応援もあり、(WIKI情報ですが)バンド初めてオリコンのLPチャート46位にランクインしたとの事。国内制作ものが幅を利かしているオリコンは洋楽ものはなかなかチャートインも大変なんですが、検定試験と下敷きが後押しして、よぉく売れたということです。しかも当時はまだサブカル系に位置するスラッシュメタルものでオリコンのチャートインは驚きです。

ダウンロード (2)1988年1月からLAにて新作のレコーディングがスタート。やっとメタリ缶話に到達です。これを書く前提として事務所の事や彼らの動きを前説のつもりで書いてましたが、ここまで長くひっぱってしまいました。失礼しやした。
この新譜は8月末に発売予定。このクラスのロックバンドの場合は、新譜発表に伴うツアー・スケジュールの予定は会場の確保が最大のポイントですから、随分事前の調整が必要です。

先にツアースタート前半日程だけは確定させてから、アルバムの発売日を決め、そこにあわせてレコーディングを仕上げていく、というタイムラインになります。レコード会社はアルバムの発売日を見たうえでラジオ・プロモーションの動きをつくります。そういうわけで、ツアーをともなうバンドものの新譜発売日は、さほど大きくずれる事は少ないです。

新譜タイトルは、And Justice For  All。邦題の決定はもっと後かも知れませんが、この原タイトルが分かった時に、すぐ決めていたかもしれません。従来通りに、オリジナル・アルバムが何であるか分かるように、英タイトルの一部を必ずつけて”メタル・ジャスティス”。こういう付け方、個人的に好きです。

ダウンロード (2)ダウンロードimagesde5gn原タイトルから想像できない邦題つけすぎて、あのアルバムは何だっけ?と担当者も分からなくなってしまったという笑い話もありました。地獄のなんとか、蠍団がどうしたとか、あそこまでいくと次はどうするのか楽しみでもありました。すみません。ディスっているのではありませんよ。飲み会の時に、ご本人から自分でも分からなくなったと聞きましたから。

前作EPに関しては、なにせMスミもメタリカ担当に任命されたばかり。この時は、日本盤発売まで時間的余裕がない中でしたが検定試験と下敷き応募の商品企画で、日本のファンに対してバンドのイメージをもうちょっと身近なものにしようと、なんとか頑張りました。

71sK5UnvqEL._AC_SX679_担当ディレクターとしては、今回のオリジナル4枚目にあたる作品では、バンドのファン層を更に拡大して、日本での彼らのポジションを一段高いところに上げたいと思っていました。平たく言うと、スラッシュ・メタルがどうしたこうしたではなく、普通のハードロック・バンドとして理解してほしいと思っていたはずです。

元からメタリカは本国より先にイギリスで話題になったバンドですが、この頃はアメリカでも大ブレイクし、ヒット作”メタル・マスター”もこの年の7月にはプラチナディスクを獲得しています。スラッシュ系出身としては異例のミリオン・アーティストになってます。

欧米との遅れをどう挽回していくか、制作担当者の知恵のつかいどころですね。私、このあたりの事を書きたくてブログ始めた様なものです。”洋楽は楽でいいな、海外から来た奴を出すだけでいいから”と言ってた国内制作しか知らないマルデ・ドメスティックな先輩の顔が浮かびます。

ダウンロード (4)当時の洋楽マーケットは内憂外患ありましたが、そろそろ”日本は世界第二位のレコード産業国”といわれていたかもです。つまり、なにかと言うと、”世界二位なのになんで売れないの”という海外からのプレッシャーが洋楽関係者にはついて回ってました。

実は世界二位と言われても日本は国内制作(邦楽)が圧倒的にでかくて、当時洋楽も頑張っていたといっても、洋邦比70・30。時代はまさにJ-POP隆盛が始まった80年代中期、邦楽もシングル盤からアルバムマーケットに移行し始め売上増大。しかも円高に向かっているころなので、為替の問題で数字的にはそういうことになっていくのです。

ダウンロードダウンロード (3)あらためて。この洋楽の売り上げは我々がつくっている日本盤のもの。当時の洋楽国内マーケットは、特に大中都市に関しては安い早いの輸入盤に席捲されつつありました。またレンタルレコード店の隆盛もありました。

この二つの憂いへの対策は最優先事項でもありました。特にこのメタリカは日本盤売り上げ予測で契約金を払った単独ディールです。メタリカの輸入盤が売れるという事は明らかに逸失利益が増えるという事を意味します。

Mすみの仕事は、一枚でも多くの国内盤を売って欧米に近づけることですが、基本は対輸入盤対策のスピード勝負で、レンタルではなく所有したいと思える商品を作るという事になります。そして、そこにメタルファンだけでなく洋楽ファンの中でも話題になるsomething newな付加価値がついた商品であれば、パブリシティ的にもより効果的だという事です。

Qプライムとは本国でのレコーディングから印刷物の動きを日々、情報共有の必要がありました。この仕事は、こちらは国際渉外のTまみさんの出番です。MすみとTまみ、なんだか似てますわ。





担当者としての最初の仕事です。5曲EPの”メタル・ガレージ”の発売にあたって、どうすればメタリカの事を深く理解してもらい、もうちょっとファン達に近づいてもらえるか、つまりグループの人気をどうやってつくっていくか、という自分で見つけたテーマですが、海外は既に発売日が決定しているし日本発売も速攻やるしかない状態です。

images (3)カバー集と言えどもこのEPを求めるファンはメタリカの事を好きだから買ってくれるのですが、さらに彼等の事を身近に感じて末永くファンでいてもらえるように、そして初めてメタリカを買ってくれる人が一人でも増えるように、の、二つの期待をこめて、こんな企画を考えたのです。

じゃ~ん、メタリカ検定試験!20項目の問題用紙を商品に封入し正解80%超えた中から抽選で1000名にBIO付きメタリカ下敷が当たると言うもの。設問はBURRN!の編集部に頼もしい戦友と呼べるスタッフもいてくれて一緒に知恵を出し合って絞り出したのです。それにしても1000名って、ほんとか?Mすみ?

880問題はこんな感じです。ラーズの出身国は?日本公演のオープニング曲は?カークがメタリカの前にいたバンドは?とかね。いまでこそ、ネットがあるのでなんでも分かりますが、これ当時の難易度的にはどうだったでしょうか?

カリスマ的なグループですし、濃いファンばかり。”ラジオで聴いて好きな曲があったからアルバム買いました”的なふぁっとした気楽なファンはいるはずないし、EP購入者はそもそもBURRN!の読者だろうし、記事やライナーノーツの隅々まで読んでいるはず。と言う事はみんな知ってるって事ですかね。

”試験問題と下敷き”という日常的な出来事や文房具を使う事で、平たく言うと”教祖様の事を崇めるのはいいけど、崇めすぎないでね。実はみんなが考えるより、フレンドリィな人なのよ、仲良くできるから怖がらないでね”って狙いですかね、ね?

u282902629.1左はそのCDですが、表に貼られたブルーの丸いシールは、下敷きもらえる応募の告知ですが、検定試験は購入者しか応募できません。で、その購入前に大事なのが、この商品につけられた帯のコピーです。ユーザーがどう思ったかは全く分かりませんが、実は制作担当者のマーケティングの考えが凝縮されているのです。

帯のコピーは、商品に興味をもったお客さんが手に取って、買おうか買わないか悩んでいる大事な瞬間に、レジに向かって背中を押しをしてくれる役目をもっています。いわゆる店頭のコメントカードと同じPOPってやつです。私も現役の時は、この帯のコピーを書くことに一番気合をいれ時間をかけてました。

u282902629.1なにしろ、こちらはソフト産業と言っても、製造して販売してナンボの業界でしたから、どれだけラジオでかかろうがメディアに取りあげられようが、お客さんがレジに持って行ってくれない事にはビジネスが成立しないのです。お客様は神様です、ってか。お店でお金払ってくれるまでが勝負でした。上の帯部分だけを拡大するとこれ。

”ENJOY!マジになンなヨ!これは俺達(メタリカ)のジョーク。カバー5曲収録のロック・ファン必携MINI LP”。 
担当者の考えが滲み出ています。バンドを、とっつきやすく身近に感じてもらいたかったのですね。

これは今頃気付いた私感ですが、本国でも同じような事を危惧したのではないかと思います。インディーズ・デビューの”血染めのハンマー”から”雷光”ときて、メジャーになってもメタル・マスターで”墓地の十字架”ですからね。大成功しているとはいえ、13日の金曜日じゃありませんが、あまりにものホラー的イメージは、ちょっとナンだよな、ですね。

ダウンロード (1)というところで、ちょうど新メンバーも入ったという事もあり、初めてアルバム・カバーにメンバーの顔姿を全面に出し、しかも、それぞれに楽器持たせて一番手前に新メンバー。そして敢えてサウンドイメージとはかけ離れた笑顔まじりの明るい表情させてます。特にラーズのちょっとひょうきんな表情になんだかホッとするもの感じました。

r568n左写真が検定試験でもらえるメタリカ下敷き、です。いまでもレアなアイテムとしてファンの間では結構な金額でやりとりされているのではないかと思います。

このEP盤はカバー集であり、オリジナル作品のアルバムではないという事もあり、早目に廃盤になってますが、その後メタリカが世界的スーパーバンドに成長したと同時に、ジェイソン加入後の最初のレコーディングと言う事も含め、若き時代のレア盤として希少価値がつき、マニアックなファンの間で高額で取引され始めました。

ダウンロードちなみに、自分たちのルーツを確認するという意味合いで、またカバー集として1998年に”ガレージ・インク”が発売されています。
2枚組で全曲カバーという事で、このEPを作った時とはまた違う事情ですが、ファン達の高額な取引をやめさせるという狙いもあり、取引対象になっていたEP音源もそのまま収録しています。

ちなみに、このタイトル、メタル・マスターの時の収録曲、ダメージ・インクからとってますね。この時のツアー名もダメージ・インク・ツアーでした。このINCが好きなんですね。

相変わらずレアものを求めるファンは世界中にいるもので、ネットで見て驚きましたが当時のCBSソニー盤が2万円近くで売られていたりするのです。もちろんこの検定試験問題用紙もついてます。

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