今回はユーロ開幕前の重要な試合であるスコットランド戦の試合感想。まずはスタメンから。


イタリア対スコットランド、スタメン



 イタリアは3-5-2への回帰。コンテ監督が好むシステムだ。ただし今回は一味違うかもしれない。一方のスコットランドは4-4-2。スコットランドはユーロ本大会には出場できないため、チーム内での競争力を高めることが試合のモチベーションになりそうだ。

前半

変化するスコットランド
 立ち上がりからイタリアは3バックとアンカーの選手での保持、前進を中心に主導権をとる。これに対してスコットランドは、前からボールを奪うことよりも、後退して守備ブロックを形成することを重視していた。

 前半の立ち上がりに、イタリアはサイドにいるダルミアン、カンドレーバへ大きくボールを動かして、サイドからクロスを入れてフィニッシュを狙う形が多かった。MF-DFライン間へインサイドハーフをポジショニングさせて、相手の守備ブロックに中を意識させる。それによって外がオープンになりやすくなり、そこをデロッシ、ボヌッチが利用して大きくボールを動かしていた。

 さらに従来に比べて本職がサイドアタッカーであるカンドレーバがWBとしてポジショニングしている。これが立ち上がりには効果的だった。

イタリア対スコットランド、インサイドハーフ


 一方、スコットランドは立ち上がりこそ4-4-2で入ったが、序盤にイタリアにクロスを簡単に入れられるため、SHが下がって6-2-2のような形へ変化した。前からプレスはほとんどなく、ハーフから守備という姿勢。そしてイタリアのウイングバックを自由にさせないために、スコットランドのサイドハーフがDFラインへ下がって対応する戦術を見せる。また、2トップの選手たちもデロッシへのマークを行いながら、自チームのセンターハーフを守備で援護していた。

イタリア対スコットランド、変化して6バック


イタリア対スコットランド、FWの援護


イタリアの仕込み
 これに対してイタリアはインサイドのフリーランで、相手を動かしてオープンな状況を作りにかかる。とくに多かったのはウイングバックやフォワードをオープンにするため、ジャッケリーニが裏へ抜けていく場面が多く見られた。

イタリア対スコットランド、イタリアの仕込み



 イタリアは狙い通りにサイドにオープンな状況を作ってクロスという状況までは持ち込めていた。また、フリーランに合わせて、裏へボールを通してチャンスを作ることもあった。しかし、最後のクロスが合わなかったり、シュートが枠へ飛ばなかったりで得点にはいたらない。

ドリブルによる運び
 一方のスコットランドもボールを奪取したり、保持できる局面になると4バックが幅をとってボールを保持し、オーソドックスにボールを進めていく。それに対するイタリアは少し形を変化させて4-4-2気味にプレスし、ディフェンスしていった。

イタリア対スコットランド、右で442へ


イタリア対スコットランド、左で442へ


 そうすると、スコットランドは外のサイドバックからサイドハーフへのパスラインを利用。そこからサイドハーフのアニャ、フィリップスなどのドリブルでサイドからボールをドリブルで運んでいった。しかし、回数は少ない。

イタリア対スコットランド、スコットランドの外外


 そのため、基本的に前半はイタリアが優位な形で進んだが、イタリアのフィニッシュが精度を欠いたため、スコアレスで折り返すことになった。

後半
 試合展開は前半と同じような入りだった後半。前半と違うのはイタリアは裏を狙うことへの意識が高くなっているように見えたこと。とくにデロッシから裏へ抜けたカンドレーバへのパスが増えていた。

 すると後半55分にイタリアは前からのプレスでボールを奪取すると、そこからデロッシがクサビをいれて、それをエデルが落として、ペッレがライン間からシュートを決めた。ここまでイタリアはサイドからの攻撃が多かったが、この局面では攻守の切り替え直後ということもあり、スコットランドのスペースの空いたDF-MF間をエデル、ペッレのコンビネーションで攻略した。今まで中央での攻撃は上手く機能していなかっただけにいいゴールに見えた。

 この得点がきっかけで、スコットランドも前からボールを奪う姿勢を見せ始める。それに対してイタリアは3バック、アンカー、引いてくるインサイドがボールを動かしながら、ボールを保持する姿勢を崩さない。ただ、肝心のクサビのボールが前線の選手に収まらず、ボール前進というところまではスムーズにいっていなかった。

 ただ、イタリアが押し込んだ場面、プレスを突破した場面では、サイドからのクロスまで持ち込む展開が多い。

選手のテスト
 その後60分から選手交代が多くなる。FWの2枚がザザ、インシーニェになり、アンカーにジョルジーニョ、ウイングバックには左にベルナルデスキ、右にダルミアンなどの交代が見られた。フロレンツィのウイングバックやパローロのインサイドハーフなども再確認。

 イタリアはメンバーが変わると細かくショートパスでボールが動くようになる。とくにインシーニェは相手を背負ってボールを受けることは苦手だが、ショートパスを反転しつつ受けて、相手のMF-DFライン間へ入り込む動きを得意としている。そのためインシーニェが受けては叩きを繰り返しながらライン間のスペースを狙っていた。そして、インシーニェへボールを供給するのが、ナポリでチームメイトのジョルジーニョという流れだ。しかし、イタリアはボールを保持して、ボールを細かく動かしてもシュートまでは至らない。ここは細かいところでの息が合っていなかった、というところだろうか。

 少し余談になるが、コンテ監督になって以降も細かいコンビネーションの改善は見られていない。ここは新しい監督になっても改善されないだろうし、イタリアサッカー全体で取り組むべき課題かもしれない。ワンタッチでのボール回しの精度、スピード、スムーズさ、などは他の強豪国と比べて劣っている印象だ。

 その後の試合展開はイタリアが自陣でのミスなどから、スコットランドに決定機を与えてしまう場面が見られた。ただ、スコットランドも決めきれずに、そのまま試合終了。1-0でイタリア勝利

感想
 ここまでイタリア代表が442を意識したのは初めてだろう。カンドレーバのウイングバック起用はクロアチア戦で少しだけ見られたのでまったくの新手ではない。この戦術を説明すると2015-2016シーズンにユベントスのアッレグリ監督が仕込んだような左右非対称、攻守可変型のシステムに、コンテ監督率いるイタリア代表も挑戦中という感じだろうか。

 ここからは再び余談になるが、アッレグリ監督とコンテ監督では、どうやってFWに起点になってもらうかの方法が異なる。

 アッレグリ監督はFWが相手のサイドバックの裏を狙って動き、サイドへ流してボールを進めるのが狙いだ。そのためアッレグリ監督はモラタ、マンジュキッチのような、FWで起点になってもらう選手には力強さと走力の両方を求める。
 
 一方のコンテ監督はMF-DFライン間の中央でFW2枚がクサビのパスを収めて突破していく形を仕込んでいる。 そのためコンテは力強さ担当とドリブルなどの細かい動き担当に2トップの役割を分けてを組む傾向にある。わかりやすい例が、ザザとインシーニェの2トップだろう。ザザはターゲットマンとして、インシーニェはセカンドストライカーのように動く。このような役割分担がコンテ監督の特徴の1つだ。

 さて、今回の試合ではカンドレーバが少し調子が悪いのか、クロスの精度などが不安定だった。それでもカンドレーバがドリブル突破などでチャンスを演出していたのも事実だ。ピッチの横幅にドリブルとクロスが得意なカンドレーバを配置するのは、理にかなっているので本大会でも見てみたい。

 失点が続いていた守備陣も、前半はあまりスコットランドに決定的なチャンスを与えていなかった。ただ、ベルナルデスキが入って以降は、自陣でミスから相手へチャンスを与えてしまいバタバタしていた。ここは改善が必要になるだろう。

 インシーニェ、ジョルジーニョの2人は、コンテ戦術にある程度の適応を見せていた。とくにインシーニェはジョーカーとして有効かもしれない。エデルがあまり機能していないので、インシーニェにも出場のチャンスはあるだろう。

 一方のスコットランドはアニャ、マッカーサー、フィリップス、マルグリュー、の4人が印象に残った。とくにアニャは機敏さ、走力を兼ね備えているドリブラーで、マッカーサーは気が利くポジショニングでボールを保持して進めるための準備を任せられる選手といった印象だった。また試合中に6バックへ変化してイタリアの攻撃をある程度は停滞させていた。守るという視点では正しい戦術だったが、あまりに攻め手が少なくなってしまう側面も見られた。

 最後にイタリア代表の戦術について語っていこう。ここにきてコンテ監督は3-1-4-2システムを改めて採用した。実はイタリア代表での3-1-4-2採用は、2015年3月31日親善試合イングランド戦以来となる。そして、この戦術的な回帰の背景には、ユーロ本大会での対戦チームの戦術への対策があると考えている。

 イタリア代表がユーロ本大会のグループリーグで対戦するチームであるベルギー代表、アイルランド代表、フィンランド代表は、すべて基本的には4-4-2系の戦術を軸としている。そのためコンテ監督は4-4-2の前線相手に、3バックとアンカーのポジショニングによってボールを安定して保持できて、ボールを前進させられる3-1-4-2システムでの戦術に磨きをかけているのだろう。

 また、現在のイタリア代表チームにはMFの軸になるべきマルキージオ、ヴェラッティがいない。そこを考えていざとなればDFラインを手厚くして守れる3バックシステムへ回帰したのかもしれない。

 さらにスコットランド戦で見られた本職がサイドアタッカーの選手をウイングバックに起用するのは、どうにか攻撃力を維持させながら3バックを機能させたい、というコンテ監督の思考の表れではないだろうか。