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朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/DA3S13193428.html

(天声人語)首相演説の去った秋の田
2017.10.23

天声人語20171023




ef3426b4e1a65c2b8d06431a87d564ad92dd3095 福島市佐原(さばら)地区は山形との県境、吾妻(あづま)連峰のふもとにある。見渡す限り、田んぼが広がる。阿武隈川に注ぐ支流のせせらぎが聞こえる。安倍晋三首相が衆院選公示日に第一声を発した農村を歩いた▼首相側から地元への連絡は急だった。ニュースに寂しく映らないよう稲刈りをわざわざ延ばしたと聞く。その黄金の田もいまや残らず刈り取られている。3年後、五輪会場になる野球場にこの日、人の姿はなかった▼公示日と開票日の首相の胸の内を想像してみた。昨夜、首相には久々の安堵の表情が浮かんだ。「謙虚に向き合う」と語ったが自信を取り戻したように見える▼公示日は別人のようだった。映像を見ると、演説中の目に不安の影がうかがえた。地元産米のおにぎりをほおばる表情もこわばっていた。吉凶どちらに転ぶか、解散前後の情勢は混沌としていた。夏の都議選で浴びた「辞めろ」のヤジを避けるには、静穏な農村を選ぶほかなかったのだろう▼近年これほど敵失が勝負を決めた選挙があっただろうか。野球で言えば、安倍投手の防御率は悪化していた。相手は準備不足とみて勝手に試合を始める。思わぬ強打者が出てきて素振りをするが、打席には入らずじまい。そのうち敵陣で内輪もめが起きる。そんな試合を見せられた気がする。▼思い違いをされないよう首相には念を押したい。勝因は首相ではない。浮足立った野党に助けられただけである。選挙が終わると急に権高になる首相の癖を有権者は忘れていない。



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(天声人語)さらさら越え
2017.10.24

 織豊(しょくほう)時代の越中(富山県)に佐々成政(さっさなりまさ)という武将がいた。筋金入りの秀吉嫌い。何とか遠江(静岡県)を訪ねて家康と談判し、決起を説こうと思い立つ。だが秀吉方の領地を通れば討たれるのは必至。立山連峰から信州へ抜ける雪山越えを選んだ▼腸(はらわた)も凍る寒さ、厳しい飢え、打ち続く雪崩。決死の踏破には迎えた家康も驚く。決起には応じなかったものの、成政の雪中行進は江戸時代に武勇伝として語り継がれた。どこまでが史実か異説も多いが、通ったと伝えられる難所「ザラ峠」にちなみ、「さらさら越え」と呼ばれる▼今回の衆院選の潮目を変えたのは、「さらさらない」という小池百合子・希望の党代表の一言だった。民進党の立候補予定者全員は受け入れない、政策の一致しない人は「排除します」と言い切った。「きつい言葉だった」と反省したが、後の祭りだろう▼選挙が済んで考え込むのは、あるべき野党の姿である。この先も「多弱」のままで進むのか。「1強」政治に幕をと願う民意の受け皿はできないのか▼「野党は選挙権、議会制と並ぶ民主主義の三大発明の一つだ」。3年前に亡くなった米政治学界の重鎮ロバート・ダールの名言である。与党が拾わぬ民の声をすくい上げる「野党」という機能は民主主義に欠かせないと説いた▼成政の「さらさら越え」は命を賭した連携の訴えだった。「さらさら」発言で四分五裂した民進出身者の前にはいま、はるけくも険しい「さらさら越え」の試練が待ちかまえる。

↓ザラ峠
ザラ峠