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 具体と抽象を区別するのは簡単でない。私は話し方の研修講師として、PREP法という論理的に話す方法を指導している。PREP法とは、4つの要素をこの順番で話をするフレームである。最初のP(Point:要点)から始まり、R(Reason:理由)を述べて、E(Example:事例)を紹介して、最後、P(Point:要点)で終わる。この方法の解説の後、実際に演習を行い受講生に話してもらうと、ほとんどの人が、具体(Example:事例)と抽象(Reason:理由)を混同してしまう。この本は、その二つの概念をわかりやすく解説してくれる。私はこれからPREP法を指導してゆく時に、いく通りにも解説する視点を学び、理由と事例の差をはっきりと説明できると嬉しくなった本である。だから、この点を押さえるとPREP法を効果的に使えるだけでなく、ものの考え方がひとランクか、ふたランクはアップするのは間違いない。さっそくいくつかのポイントを紹介しよう。

 ● 往復運動~たとえ話の成否は何で決まるのか

 私は営業職の経験が長い。これまでどれだけ「たとえ話」のおかげで、新しいものやサービスを相手に伝えることができたかわかりしれない。まず相手が理解をしなければ、判断できない。だから、顧客の理解が、営業パーソンがすべき最初の目標になる。ところが、新しいものやサービスである。相手は知らないか、全く理解していないところから始めなくてはならない。人は知らないことや理解できないことに抵抗を示す。そこでたとえ話の出番になる。

「『たとえ話』は、説明しようとしている対象を具体的につかんでもらうために、抽象レベルで同じ構造を持つ別の、かつ相手にとって卑近な世界のものに『翻訳』する作業といえます。説明したい新しい概念や事例を、身近な事例で似ているものを使って説明するのです」(p41、第6章往復運動)

 そのポイントは「①たとえの対象がだれにでもわかりやすい身近な具体的なテーマ(スポーツやTV番組など)になっている。②説明しようとしている対象と右記テーマとの共通点が抽象化され、『過不足なく』表現されている」(p41、同上)。

 以前、私が建築材料メーカーの営業マンとして、新しい製品を設計の先生に説明をする機会があった。その時に、オレンジジュースとオレンジドリンクのたとえ話使って、新製品の化学構造が他社とは違う点を説明したことがある。化学結合の説明ではわかってもらえなかった。しかし、このたとえ話で一気に「わかった!」となり、大型物件の受注につながった経験がある。「理解する」ということが説得する重要な条件であると実感した瞬間であり、抽象と具体の関係が交錯する時間だった。

● 二者択一と二項対立

「抽象レベルで二項対立をとらえている人は、そこに『考える視点』が出てきます。たとえば何人もの人の意見がどこに位置づけられるのか、いわば地図でいえば『西と東』あるいは『南と北』という視点で全体を見わたそうとします。『ものごとを考えるための方向性や視点』ともいえます。これに対して具体レベルでのみ見ていると、二項対立も『二者択一』に見えてしまいます。その結果、『世の中そんなに簡単に二つに分けられない」となるのですが、抽象レベルでとらえている人はそういうことを言いたいのではなく、『考え方』を言っているのですが、それがなかなか通じません」(p78~79、第12章二者択一と二項対立)

 この部分を読んで、なるほどと思いました。すごく似ているのに、本質的に天と地ほどの差がある。二者択一は、具体しか見えないから選択肢を限定する思考あり、巧みな営業トークや営業戦略で、このパターンに誘導されることがある。どちらかを選ぶしかない、と逃げ場をなくすのが狙いだ。しかし、それを二項対立として捉えることができると、その二点の間にある無数の選択肢や可能性があるのが見えてくる。具体の限界と、抽象の可能性を見た気がした。これは、個人にしろ、集団にしろ、考えをどんどんと出していく(発散のステージ)ならば、抽象が活かされ、実際的な行動に落とし込む時には、具体にしていく(収束のステージ)になると効果的だろう。いずれにしろ、両方の視点が必要には違いない。二者択一になっているときに、二項対立で捉えるとどうなるか、あるいは二項対立で考えている時に、二者択一ならどうなるかと考えると良いだろう。

● 階層~かいつまんで話せるのはなぜか

「抽象化して話せる人は、『要するに何なのか?』をまとめて話すことができます。膨大な情報を目にしても、つねにそれらの個別事象の間から『構造』を抽出し、なんらかの『メッセージ』を読み取ろうとすることを考えるからです」(p91、第15章階層)

「要するに」を語るとは、本質をつくことである。具体を見るだけでなく、その奥にある構造、関係性を見つける思考なくして抽象化して語れない。

「『幹』と『枝葉』を見分けることで、要点をつかんで効率的に情報処理をしているだけなのです。そして、必要に応じて必要な領域についてだけ、徹底的に具体レベルにまで下りていくことができるのです。複雑に絡み合って混沌として見える具体を、『薄目で見る』ことで抽象化し、まずは大雑把に全体像を理解した上で、どこを詳細に考える必要があるかを判断するのです」(p94、同上)

 情報がたくさん溢れる中、その中の重要な点に見つけることは必須のスキルであり、死活問題と言えるかもしれない。その力は、階層を意識できるか、かいつまんで話すことができるか、という点で測ることができる。

● 本質~議論がかみ合わないのはなぜか

 世の中、人が集まるところに会議あり。そして、毎日、あらゆるところで会議が行われているだろう。そして、その会議ではそうとう議論がかみ合っていないのではないだろうか。意地悪かもしれないけど、これは私の想像である。もちろん議論がかみ合って創造的に進む会議だってあるし、かなりの数だと願いたい。でも、大雑把に会議の数を総数としたら、かみ合わない会議の方が多いのではと思う。その鍵は「具体と抽象にある!」と言える、そんな大きな問いかけを感じたのがここだ。

「・・・『話がコロコロ変わる』と思われている人がいたとします。これを『具体と抽象』という観点から考えてみましょう。じつは、その人の話がコロコロ変わっているのではなくて、話を聞いている側に問題がある場合が多いのです。具体レベルでしか相手の言うことをとらえていないと、少しでも言うことが変わっただけで、『心変わり』ととらえてしまいます」(p56、第8章本質)

 上長やトップの考えが変わる、という不平不満はよく聞く。私自身も、会社員をしていた時に、そんな風に考えて、帰りの赤提灯で仲間とぐちぐち言いながら盛り上がった経験を持っている。しかし、それを、具体の視点と抽象の視点だと考えればスッキリとしてしまう。そこに話し合う機会や頻度がなかったから、その具体と抽象の溝は残ったままになった。決定されたことを実践しながら、具体のみに囚われた人たちは、その意味を後で知ることもあるだろう。それは立場が変わった時とか、昇進した時とか、視点が変わりやすくなった時に、具体から抽象になるやすくなる。


 今の世の中は、少しの経済的な余裕があれば、誰もがスマホやタブレットを持ち、いろんな情報にアクセスできる。そんな中で毎日を幸せに生きていくこととは?そのために考える行為は必要だろう。論理的な思考の演繹法にしろ、帰納法にしろ、具体と抽象を交差する。世の中が、具体だけで成り立たないのと同じように、抽象だけでは成り立たない。この二つのバランスが求められる。自分の生活も仕事も、そしてあらゆる活動において、自分で考えるには具体と抽象が必要になる。私たちを取り巻く環境が凄まじく変化し、私たちを渦の中に巻き込んでくる。そんな嵐の中で、具体と抽象という磁石が、自分で考える力を与えてくれると希望を持てた。そんな気がしたのだ。この本はビジネス書として読んでおきたい良書だと強調したい。

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