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 2017年に読んだ中で心を動かされた本の一冊はこれだ。

『フリーダム・ライターズ』とは「自由のための書き手」という意味で、60年代にアメリカ南部黒人差別に抗議するために、白人用バスに乗り込んだ「フリーダム・ライダーズ」にかけて命名している。この本はカリフォルニア州ロングビーチにあるウィルソン高校の生徒たち150人がつづった日記を編集したものである。書くという行為が、お互いに心を開き、たくさんの奇跡をおこしたのである。

そもそものきっかけはこうだ。私は昨年の8月にトーストマスターズインターナショナルのバンクーバーで開かれた国際大会に参加者した。その時に、エリン・グルーウェルさんの講演を聞いた。彼女は、2017年のトーストマスターズインターナショナルが毎年表彰するゴールデン・ギャベル賞(※)を受賞した記念として話をした。
エリンさんと
2018年8月バンクーバーの国際会議センターにて
 

 エリンさんは国語(英語)の先生だ。カリフォルニアのロングビーチの高校に、教育に希望を持って赴任した若き教育者だった。彼女が選んだ学校は、人種が入り混じっている地域にあった。エリンさん自身もそのようなさまざまな国の人があつまっている背景を望んで赴任をした。

 ところが、教育の現場は理想とは似ても似つかぬところだった。人種間のいざこざは絶えず、その地域社会の人種間の対立がそのまま教室や学校に持ち込まれていた。授業はまともには成立しない。いつも当たり前のように収集がつかない荒れた状態だった。学校内に学生が銃を持ってくることさえある状況から、学校の先生たちはやる気もなくし、教育に投げやりになり、まともに生徒たちに向き合おうともしていなかった。

 しかし、エリンさんはそんな現場でも、理想をかかげ諦めず、妥協もしないで、生徒たちに向き合っていく。その思いがだんだんと伝わり、人種の違いを飛び越えてお互いに信頼するようになっていく。この本から教室の中でかずかずの奇跡がどう起こったのかを、生徒たちの日記を通じて知ることができる。各章の冒頭にこそエリンさんが文章を寄せているが、それ以外は全て生徒たちの思いの記録である。

 最初、生徒たちはエリンさんへは冷めた感想なり敵対するような言葉が並んでいる。それが好意的に変わっていく。人種間がいがみ合う環境に育ち子供たちは、当然のようにそんな環境に同化し、自分たちもいがみあう。しかし、子供たちはまだ純真な心を忘れていなかった。子供らしさや素直さが日記に現れてくる。自分の思いを文字に書くことが、自分を見直すことにつながり、自分の考えが偏っていることに気づく。クラスメートの間につながりが芽生えはじめる。エリンさんが生徒たちと向き合った結果が出てきていた。

 エリンさんと生徒たちの関係が変わるきっかけは、黒人の転校生を笑う落書きの事件からだ。他の学校で手がつけられないと評判だった札付き学生も、このクラスでは全員からのいじめの対象となっていた。ある時、クラス中でクスクスと生徒たちが笑っていた。こっそりと教室に回されている落書きを見て、みんなが笑っていた。エリンさんは異変に気づいてその落書きを取り上げた。そこには、黒人の特徴を笑う絵だ。唇が極端に出たその漫画はその生徒をバカにしていた。

 エリンさんは怒りをあらわにした。相手の身体的特徴を馬鹿にすることが人種に対する憎悪を育て、世の中の諍いを呼び、戦争までも引導すると言った。第2次世界大戦でのナチスが起こした「ホロコースト」のような人種の虐殺につながったのだと、人を笑う行為を批判した。生徒たちは、その怒りの凄まじさに黙り込んでしまう。生徒の一人がこうたずねた。

「ホロコーストって何ですか?」

 エリンさんはその言葉を聞いて、生徒たちを見る。すると誰一人としてわかったような顔に見えない。「みんなの中で、ホロコーストって意味がわかる人は?」と訊ねても、誰の手も上がらない。そう生徒たちは知らなかったのだ。
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きっかけになった黒人の生徒を馬鹿にした落書き
 

 エリンさんは子供たちに歴史を伝える必要を感じた。彼女が選んだ課題図書はこんなものだった。

・アンネ・フランク著『アンネの日記』

・ズラータ・フィリポヴィッチ著『ズラータの日記—サラエボからのメッセージ』

・エリ・ウィーゼル著『夜』

・トッド・ストラッサー著『ザ・ウェーブ』

エリンさんはこれらの本を生徒たちに読ませたいとその方針を学校側に伝えた時に、担当の教師は「どうせ読まないから無駄だ!」、「意味がない!」とか「予算がない!」と予想をしていなかった拒絶に会う。そこで、「自費を使うなら文句はないだろう」と確認した上で、自らホテルのアルバイトをしてそのお金で生徒たちに本を買って読ませていった。『フリーダム・ライターズ』の映画の中でも生徒たちが、「この本は新品だぜ!」と驚く様子が描かれている。きっと生徒たちは「なぜこんなに向き合ってくれるか」と最初は疑いでも最後には信用するのである。エリンさんは、最初に知ることが必要だと考えた。それも、本を読むと言う自発的な行為でいろんなことを学ぶ方法を教えたのだ。

 また、エリンさんはよく質問をする。「なんでこの先生はこんなに質問をするだろう?」と何人もが書いている。質問ほど相手に「あなたに関心があります」と伝える行為はないだろう。それを徹底するとは、相手のことを徹底的に知る行為である。

 そんなエリンさんの想いが伝播して、クラスが変わりはじめる。生徒たちは知ることでどんどんと目を開いていく。勉強することに前向きになりいろんなアイデアが出て、不可能だと思えたことがどんどんと実現していく。

 例えば、映画監督のスティーブン・スピルバーグと対面することが叶う。アンネ・フランクの日記を読んだことから、アンネをかくまったミープ・ヒース女史をドイツから自分たちの学校まで招く。本を読み、それまで知らなかった歴史に触れ、もっと知りたい、それを実現したいと思ったら、現実にできることは少なくない。そんなことに気づかせてくれる。エリンさん自身さえ「まさか実際に現実になるなんてと思っていないこと!」が現実になる。みんなが日記を書き、それを編集することから、お互いの体験を共有することになり、強い共感が生徒たちの間に生まれた。

 私はこの本が学ぶことの本質を教えてくれていると思う。読む、そして書くことがすべての基本であり、そこから発展していくのだということ。今なら「読み・書き・スマホ」かもしれないが、「読み・書き」は必須である。そこに特化してとことん向き合った熱き志をもったエリンさんから生じた物語であった。

 

 最後に、フリーダム・ライターズが当時のアメリカ合衆国教育長官であるリチャード・ライリーと食事会をした時に読み上げるために一人の学生が書いた詩を紹介したい。

 

立ち上がれ

 

黒い肌に誇りを持て

白い肌に誇りを持て

褐色の肌に誇りを持て

黄色い肌に誇りを持て

 

ありのままの自分を恐れるな

自分は自分なのだから!

自分以外にはなれない

だから精一杯自分になれ

現実を受け入れろ、なんとしても、どんなときも

 

弁護士、医者、アメフト選手

トイレ掃除人、ごみ収集人、物乞い

現実を受け入れろ、そして、精一杯の自分になれ

 

誇りを持て、威厳を持て、立ち上がれ!

誇らしく立て、誇らしく話せ、誇らしく動け、誇らしくあれ!

 

あきらめるな

引き下がるな

屈服するな

逃げ出すな

信念を曲げるな

非難に負けるな

 

非難する人はよく知っている

おまえはおまえだということを

どうするかは自分次第

 

「そうだ!」

もうわかっただろう

何がって?

いろいろなことが−

誇り、毅然とした態度、あふれる自信

自分は自分という認識、心の平安

そして安心

 

わたしはおまえにはなれない、わたしはわたしー

これが真実

P240)

 

 私は、バンクーバーでエリンさんとほんの少しだけど話をする機会があった。その時に尋ねてみた。

「どうしてあなたはそんなに強くがんばり続けられたのか?」と。

彼女は満面の笑みを浮かべて、「だって子供たちは天使みたいだから!」なんて返答をくれた。しかし、その後本を読んで私は発見した。彼女は怒ったのだ。希望があるはずなのに、それを諦めた大人に、教育者に、教育制度に、怒りを持ってそんな壁を打ち破っていた。エリン・グルーウェルさんは、2017年にお会いした正義感あふれる一人の教師であり戦士だったと思う。

 

 

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