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 2016年、トーストマスターズインターナショナル日本支部(ディストリク76)が、第5回コミュニケーション&リーダーシップ賞の受賞者を、JAXA(宇宙航空研究開発機構)所属の宇宙飛行士の若田光一さんに決定した。光栄なことに、私はその賞を選定する実行委員長に選ばれていたので、半年前から候補者の選定から決定、そしてセレモニー(2016年11月12日広島にて開催)まで関わりを持たせてもらった。この本は、その若田光一さんの最新刊(2016年11月16日現在)である。私は広島へ向かう新幹線の中でこの本を読んだ。

 宇宙飛行士は、宇宙船や宇宙ステーションという閉ざされた空間で限られたリソースしかない状況で、一瞬たりとも間違うことができない判断が求められる。そんな中から出てきた7つのスキルを紹介するのがこの本である。そのスキルとは、「想像する」「学ぶ」「決める」「進む」「立ち向かう」「つながる」「率いる」だという。パッと見ると読みやすいビジネス書に見えるが、内容は意外に深い人生の中で役立つスキルを学べる本である。やさしく書かれた言葉にも深く考えさせられる知恵がつまっている。その知恵の一部を紹介しよう。

学ぶことの基本~仕事の10か条

 読んでいた感じたのは、宇宙飛行士たちの間に存在するお互いへの思いやりである。若田さんが紹介してくれる先輩たちの言葉から、そんな熱い思いを受け取った。例えば、元NASAのアポロ計画でフライトディレクターとして活躍したジーン・クランツさんが残した「仕事の10か条」がある。

 1.Be Proactive (積極的に行動せよ)

 2.Take Responsibility (自分の仕事に責任を持て)

 3.Play Flat-out (全力を尽くせ)

 4.Ask Questions (不確実なものはその場で質問をして把握せよ)

 5.Test and Validate All Assumption (考えられることはすべて試し、確認せよ)

 6.Write it Down(連絡も記録もすべて書き出せ)

 7.Don’t Hide Mistakes(ミスを隠すな、仲間の教訓にもなる)

 8.Know Your System Thoroughly(担当するシステムを徹底的に掌握せよ)

 9.Think Ahead(常に、先を意識せよ)

 10.Respect Your Teammates(仲間に敬意を払え)

 (p47~48、第2章学ぶ)

 これは何もNASAや宇宙飛行士に限られる内容ではなく、広く一般にも十分に参考になる掟と言えるだろう。重要な仕事をするチームなら同じようなルールなり信条を持っている必要があるだろう。何も宇宙に関わる仕事だから特別ではなく、当たり前のことだが人間が関わっていること、そしてその人間が力を出すための基本の心構えには共通するものであることを教えてくれる。

決めること、決めたことを継続すること

 宇宙飛行士になる人たちは半端なく優秀な人たちである。それでも、失敗しないわけではない。その中でも優秀と呼ばれる宇宙飛行士の特徴がこうだという。「・・・私の周囲を見る限り、やはり優秀だと思う宇宙飛行士の特長は、失敗しないことではなく、改善のための軌道修正を常に怠らない姿勢を持つ点だ。それがあるからこそ、周囲から信頼されているように感じる」(p98、第3章決める)

 ここはすごく重要だ。失敗してはいけないと考えると守りに入るが、失敗としても軌道修正できると考えると攻めの姿勢で挑める。挑戦ができるし成長につながるのである。失敗がいいとは思わないが、失敗を恐れるのは時として状態を悪くすることになる。起きてしまえば仕方がないが、そこから学べば、二度と同じ過ちを繰り返さないことはできる。それを確実に遂行するのが優秀の条件だというのは、これまたあらゆる場合に言えることだ。

つながりのメンテナンス

 人と人のつながり、チームワークが大切なのは宇宙計画に限らない。しかし、そのつながりが即座に命取りになるリスクを孕むのはこのケースだ。宇宙飛行士が連携しながら仕事に当たらなければ、仕事の遂行が阻害されるだけでなく、宇宙飛行士の命を危険にさらし、莫大な予算をかけて作られたものが無駄になる。そうは言っても、その宇宙飛行士は人間なのである。どれだけ優秀であったとしても、人気SFシリーズの『スタートレック』のスポックのようにロジックだけで判断できるわけはない。だからこそ、人とのつながりが希薄になったりする場合があるだろう。ましてや、宇宙飛行士として集まるのは、アメリカ、ロシア、日本など国籍や文化が違う中でのつながりだから余計に神経質になるのではないだろうか。

 だから感情的になりそうな時の処方としてこんな言葉がある。「・・・ここで注意したいのは、感情にまかせて怒りをぶつけるのではなく、こちらが不快に感じているのを、ときと場合に応じて、声のトーンや言葉の上で丁寧に、建設的に伝えることだ。そうすることで、相手にとっての重要度も高くなり、問題の改善につながるケースも少なくない」(p197~198、第6章つながる)

 怒りや不快を建設的に伝える。これは重要であると同時に、よほどの訓練がないとやれないだろう。しかしスキルだけではなく、宇宙飛行士が置かれた環境の影響も強いだろう。つながりの欠如がすぐにも、ミッションに被害が出たり、最悪は自らの生命の危機となる。そのような状況であることが客観的な明らかだからだろう。

 私たちはそんな極限状態にいるわけではない。しかし、ここから学べるのは、怒りや不快感を持った時に、一拍置いて、できるだけ冷静に丁寧な言葉で自分の感情を相手に伝えてみることである。怒りや不快感は、異常を知らせる信号である。それを冷静にとらえ、建設的に伝えていくことで、異常を回避できるに違いない。

ロールモデルーダフィー船長

 若田さんが憧れ続けたリーダー・ダフィー船長。この人物は、元宇宙飛行士で、若田さんが1回目と2回目のスペースシャトルでの宇宙飛行の時の船長を務めた先輩にあたる。若田さんはその人の”Trust but Verify (信ぜよ、ただし確認せよ)”という言葉を紹介して、リーダーの在り方を考えさせられる事例を語る。「・・・部下の任務遂行能力をきちんと把握、確認したうえで、その部下を信頼して仕事を任せる、ということだ。しかしその一方で、任務を確実に成功させるために、主担当者が作業できないような状態になった時に備え、いつでもバックアップの人員配置ができるように、チームとしての作業遂行能力の維持を確保しておくことも欠かせない。地上での訓練時や宇宙飛行中のダフィー船長の言動を振り返ってみると、その原則を徹底していたことに気づく」(p213~214、第7章率いる)

 ここのくだりを読んで、やはり、船長になる人間の底の深さを感じた。部下や人に信頼して任すだけでも簡単ではない。しかし、その上でいざという時の対策や人の布陣まで考えている。これは仕事を任される側からすれば、信頼してもらって仕事をして、なおかつバックアップが万全なのだから、自分の力を遺憾なく発揮できるだろう。リーダーの理想的な姿と言える。若田さんが日本人としてはじめてキャプテンになったのも、すぐ近くに理想的なリーダー像があったからに違いない。まさに良いメンターに出会うことで、その人の人生が大きな影響を受ける好例といえる。


 若田さんは「あとがき」で、サウジアラビアの王子が宇宙飛行した時の言葉を紹介してくれている。

「窓から地球を眺めていると、誰しもまず初めは自分の生まれた故郷の町を探そうとする。次は、自分の生まれた国全体。2、3日もすると、自分の国がある大陸を見つける。1週間もすると、地球全体を見る。そして、この地球が自分の故郷だと思うようになる」(p235、愛するーあとがきに代えて)

 宇宙から地球をながめたら、誰だって今起こっている諍いや争いについて、馬鹿らしく見えるのではないだろうか。世界の首脳、いや大国と言われる国の首脳だけでも、宇宙へ行って2週間ほど滞在したらどうだろうか。これまでのこだわりがなくなり、これまで見つけることができなかった突破口が生まれないだろうか。私はそんなことをこの言葉から連想していた。地球船宇宙号といわれてから随分の時がすぎた。しかし、私たちの考え方は大きくは変わっていないのかもしれない。若田光一さんの本を読んで、改めて日本人としてのグローバルなレベルでの活躍を誇りに思うと同時に、自分ができることをしっかりとやるべきだと考えた。そして、自分に問いかけたい。若田光一さんがキャプテンになったように、私自身は何のリーダーになれるのか、と。強く生きていく上での知恵と勇気と質問をいただいた良書であると推したい。
 

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