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 今日の本は、いつも立ち寄る書店で「今売れていますよ!」と、入り口近くに積み上げられるのを見つけて買った。まず、著者が最相葉月であることで関心を持った。あの『絶対音感』でデューしたノンフィクション作家だ。『星新一~1001話をつくった人』はしっかりとした取材に基づく作品だった。文章が洗練されていて無駄な贅肉がないと感じた。この本の内容は、日本における精神科医と療法に関するものだ。私た特に気になったのは、箱庭療法である。この療法については、漠然としたイメージしか持っていなかったのでもっと知りたくなった。この療法について河合隼雄が大きな存在であるのも知った。私は、これまで河合隼雄の本は『カウンセリングを語る』やナラティブと関わるのある心の話なども読んでいたので、さらに好奇心が膨らみさっそく読んでみた。

● 言葉の限界、絵画の展開

 まず、絵画療法を使うセラピストが紹介された。精神の状態を測定するのに、クライエントに絵を描いてもらって医者がその読み解き、精神状態を観察する方法だ。精神科医の中井久夫は、1960年代の半ば頃から、退官する1997年(神戸大学医学部精神神経科教授)まで、絵画を治療の一部で活用し続けたという。中井の言葉を拾ってみる。

▶︎「言葉はどうしても建前に傾きやすいですよね。善悪とか、正誤とか、因果関係の是非を問おうとする。絵は、因果から解放してくれます。メタファー、比喩が使える。それは面接のとき、クライエントの中で自然に生まれるものです。絵はクライエントのメッセージなのです」(p13)

▶︎「言葉によって因果関係をつなぎ、物語を作ることで人は安住する。しかし、振り回され、身動きさせるのもまた言葉であり、物語であるー。」(p451)

 素人考えでは、絵の方が曖昧としていて解釈にズレが起こりそうだが、中井に言わせると、そうでもないのである。むしろ、言葉の方が建前で作ってしまい、クライエントの状態の理解が難しいという。クライエント自身も自分が話す言葉そのものに引っ張られてしまい、勝手な話を作ってしまう場合もあるのだろう。

● 箱庭療法

 箱庭療法の第一人者が河合隼雄とは、私は知らないでいた。その箱庭だが、私はクライエントがひとりで作るものだと思っていた。作られた箱庭から、精神科医がその人精神の状態を読んでいくと考えていた。しかし、事実は全く違っており、精神科医とクライエントの共同作業となるというのだ。

「箱庭とは、クライエントが一人で作るものではなく、見守るカウンセラーがいて初めて、その相互作用によって作られるもの。ドラ・カルフが、ローエンフェルトの世界技法を箱庭療法へと発展させるにあたって明確に打ち出したのは、治療者と患者の関係の大切さだった。どんな表現が行われても受容しようとする、治療者の安定した姿勢が箱庭の表現に与える。カルフはこれを『母と子の一体性』と表現し、『自由にして保護された空間』を治療者と患者の関係性の中で作り出すことが治療者としての任務であると述べている」(p60)

 1987年日本箱庭法学会が発足した。しかし、河合隼雄が2008年に亡くなって、箱庭療法は縮小していく。その創立メンバーの一人である村山實は、河合隼雄亡き後の、箱庭療法がどうなっていくのかを以下のように答えている。 

「箱庭の良さは、言葉でカウンセリングできない人と物語を共有できることです。不登校の子どもに多いのですが、なかなか言葉が出ない子がいる。薬を飲まない子もいる。大人でも、たとえば、課長に昇進した途端、会社に行けなくなって何も話せなくなった人もいます。でも、箱庭の中なら自殺ができる。生き返ることもできる。再生を果たすことができるんです。年月はかかりますし、カウンセラーは相手とそれだけ付き合わなければ行けないので大変ではありますが・・・。河合先生を失って、今は皆ががっくりきていますが、それは一時的な現象でしょう。昔と今では心の病も違います。昔は、貧しくて生きていくので必死だった。それで病気になっていた。今は贅沢になて、病気に逃げ込んでいる。でも、条件さえ整えば、自分を再生できるはずなのです」(p380)

● カウンセラーに求められること

 私はカウンセラーではない。だから、カウンセラーのように求められることはない。しかし、河合隼雄の書籍を通じて、カウンセラーについて知ると、そこで求められることは、必ずしもカウンセラーだけが習得すべき技術ではなく、トレーナーやファシリテーターとして仕事に関わる私のような立場のものでも、多いに参考になる内容を含んでいる。カウンセラーがクライアントと向き合っていくのが、基本はコミュニケーションが軸になることを考えると、参考にできる点が多いのもうなづける。

「われわれ臨床心理士が社会の要請に応えてやることの根本にこのことがあるというふうに思います。『真っ直ぐにきちんと逃げずに話を聞く』ということ、これがなかなか社会の中で行われていない、これは家庭の中でも行われていない、会社の中でも行われていない、友人同士でも行われていない、それをわれわれはきちんとするということだと思います」(p90、河合隼雄の基調講演 臨床心理士への社会的要請をめぐって、2008年)

 この河合隼雄の言葉から言えるのは、私たちは毎日の生活の中で人との何らかのコミュニケーションをとりながら過ごしているけれど、相手のことを「真っ直ぐにきちんと逃げずに話を聞く」のはできていない。そこまでの覚悟がなくとも、「しっかりと人の話を聞いてくれる人」でさえ探すのに苦労する。コミュニケーションは双方向なのだが、自分のことばかりを話している傾向が強い。そこから生じる澱のようなものが、人の心に堆積していき、ある境界を越えた時、心の病気になってしまうのだろう。

 カール・ロジャーズの考えによると、カウンセラーの守る三原則として、共感的理解(empathic understanding)、無条件に肯定的に配慮(unconditional positive regard)、カウンセラーの自己一致(congruence)と誠実さ(genuineness)が重要だという。(p146~147を編集)

 その内容を、最相はこのように簡単に書き換えてくれた。「カウンセラーの三原則をやさしく書き直すと、カウンセラーは自らを偽ることなく、誠実さを保ちながら、クライエントに深い共感をもって、ありのままを受け入れるーとなるだろうか。決してむずかしい内容ではなく、カウンセリングや医療の現場の基本的な姿勢のようにも思えるが、具体的なことはよくわからなかった」(p147)

 特に、この三番目にあげている「自己一致と誠実さ」というのが難しいようだ。河合隼雄の説明を引いてみると、「カウンセラーが一致しているということは、そのときに言っていることとか、感じていることと思っていることとかが、ぴったり一致している」ことで、その逆の場合では「たとえば、友だちがやってきたときに、うるさいなと内心思うけれど、口ではよう来たなというのは、これは一致していない」と説明し、「そういうふうに口で言うこととか、腹の中にあることとかいうのが、ぴったり一致することが自己一致」とまとめてくれる。そして、ロジャーズの考えを「カウンセラーはクライエントが来られたときに、この三つがぴったりとできておると、クライエントは自分でだんだんよくなっていく」と教えてくれる。(p149~150『カウンセリングを語る(上)』河合隼雄著、講談社α文庫)

 だから、クライエントが黙った場合は、その沈黙に向き合い、そこに心に一致させるのが必要になる。「カウンセラーや精神科医には、沈黙と向き合うことが必要な場面がある。沈黙に耐えることができなければ失格といわれる職業である。私は彼らがどんなふうに働いているのかよく知らなかった。知らなかったからこそ、誤解し、偏見をもっていた。だが、彼らの仕事を取材するうちに、言葉にしない世界の深遠さ、言葉によって意味を固定しないことのもつ意味について考えるようになった」(p451)

 このときに、他のことを考えているとダメなわけである。私の知り合いでカウンセラーの人がいるが、相手が1時間黙ったら、カウンセラーもただ1時間、気持ちをそこに合わせて、ぼんやりとしていないといけないと聞いたことがある。これはカウンセラーが求められることであるが、日常の生活レベルで考えても、相手の話を生返事してちゃんと耳を傾けていないことは多いだろう。そこに気持ちのこもるコミュニケーションが生まれるはずはないである。


 今の世の中、いろんなことが便利になった。コミュニケーションのテクノロジーも発展して、一昔前とは環境が全く違う。スマホを持ち、FACEBOOKやLINEなどのSNSで、文字ベースのコミュニケーションや、Instagramなど写真、YOUTUBEなどの映像など、媒体は多岐になっている。しかし、私たちがコミュニケーションの質は希薄になっているように思える。人との繋がりが薄くなり、そこに実感を持てないとするならば、人は心の中にだんだんと澱をためていくのではないだろうか。そんな状態がいろんなところで壊れているのではないかと想像してしまう。今の日本にも、喜ばしいかどうかはわからないが、セラピストがもっともっと必要になるに違いない。この本で描かれた内容は、決して人ごとではなく、身近なところでいつ起こっても不思議ではない現代の状況を教えてくれた。まさに「うつ病100万人時代」の「必読の書」なのである。

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