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Name: Morocops spinifer
Age: Lower Devonian
Formation: Khebchia fm
Location: Assa, Morocco
Size: 43mm (軸葉に沿って測定)
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過去に、モロッコ産のファコプス類を立て続けに紹介しました (詳細は以下の記事リンク参照) 。
Morocops ovatus(モロコプス・オバトゥス)
Morocops torkozensis (モロコプス・トルコゼンシス)
Boeckops stelcki (ボエコプス・ステルキ)
Adrisiops weugi (アドリシオプス・ウェウギ)
Phacops araw (ファコプス・アラウ)
Pedinopariops sp. (ペディノパリオプスの一種)
Austerops kermiti (アウステロプス・ケルミティ)
Reedops cephalotes hamlagdadianus (リードプス・セファロテス・ハムラグダディアヌス)
その際は当然ですが、全てのファコプス類は集めきれず、また新規のファコプス類を入手できたら、近々再度紹介するかな〜などと軽く考えていました。
しかし、一向に入手の機会に恵まれる事はなく、徒らに年月だけが過ぎ去り。。気づけばかれこれ2年も経過。いやはや、最近の月日の過ぎる早さは恐ろしいです。
前振りはこんなところにして、今回、久しぶりにファコプス類を入手したので紹介していきます。
モロコプス・スピニファー (Morocops spinifer) 。モロッコのファコプスの中でも、『ぶつぶつファコプス』 (Bumpy phacops) と称されるファコプスの一種です。巣穴氏より入手。
特徴は見ての通り、頭部を中心に目立つ顆粒、ぶつぶつ。これでもかという程に頭鞍、複眼の周囲、頬部を中心に顆粒が覆い尽くしております。
『ぶつぶつファコプス』の仲間である、モロコプス・トルコゼンシス (Morocops torkozensis) やモロコプス・フォルティ (Morocops forteyi) なども、顆粒が目立つものの、本種は特に顆粒密度が高く、もはや病的な印象すら受けます。
イギリス産の種で、イチゴ頭の三葉虫として有名な、バリゾマ・ヴァリオラリス (Balizoma variolaris) という種がいますが、この種も頭部が顆粒だらけで、いかにも病的です。
バリゾマ・ヴァリオラリス (Barizoma variolaris) のぶつぶつの頭部
それに近い印象を受けるかもしれません。いっそ、Morocops variolaris (variolaris - 痘瘡の意) などと呼んでしまいたくなります。
モロコプス・スピニファー、本標本の複眼。
同種複眼 (The phacopine trilobite genera Morocops Basse, 2006 and Adrisiops gen. nov. from the Devonian of Morocco, 2017。以下、白黒写真の全ては本論文から引用)
本種、スピニファーとその他の『ぶつぶつファコプス』の違いは、ぱっと見の印象で区別がつきます。一言でいうならば、スピニファーのぶつぶつは他と比べても物凄いという事です。
しかしせっかくなので、他のファコプス類との違いを、もう少し細かくみていきましょう。まず複眼の”縦列”中の複眼の数ですが、3ないしは4つと、モロッコのファコプス類では最小限の数となっております。
モロコプス・トルコゼンシス複眼 (一部改変)
"縦列"中の複眼数とは、上図 (上図はモロコプス・トルコゼンシス) の複眼の図中の、赤数字もしくは青数字で記した並びの事を言っております。この縦列の複眼数はスピニファーのみならず、トルコゼンシスやフォルティでも3ないしは4つであり、この複眼の少なさは『ぶつぶつファコプス』共通と言えます。
一方、スピニファーと、その他のぶつぶつファコプス (トルコゼンシス、フォルティ) を比較すると、複眼の上下の辺縁に並ぶ顆粒がスピニファーでは特に目立つ事に気がつきます。
これは次に言及するように、スピニファーではドーム型の顆粒でなく、突起状・円錐状の尖った顆粒を持つからであります。
本種を他のファコプス類から分ける最大の特徴が、この円錐状の尖った顆粒です。特に頭鞍の顆粒は先端が鋭く尖っている顆粒の割合が多いのです(上写真1番下で、いくつかの円錐状顆粒を赤矢印でマークしてみました)。
先に紹介したアドリシオプス、ファコプス・アラウやモロコプス・オバトゥスは勿論、モロコプス・トルコゼンシスやフォルティなど他の『ぶつぶつファコプス』でも、顆粒の形状は基本的にはドーム状〜平坦であり、このように尖った顆粒を持っていません。本種のユニークな特徴であります。
なぜ本種はこのような、円錐状の顆粒を持つのか?
その理由に関して、記載論文 (The phacopine trilobite genera Morocops Basse, 2006 and Adrisiops gen. nov. from the Devonian of Morocco, 2017) の著者は、次のような推測しております。
大半の他のモロコプスは純粋な細かい泥質の層から産出します。対して、本種はモロッコのアッサ (Assa) という地域で産出し、そのアッサでも特に、Biodetritic marl (生物由来の破片を含む泥灰土。ここの破片のメインはテンタキュリテス(現在も正体不明の、細長い円錐形の殻を持つ生物)とのこと) の層から産出するようです。ちなみに泥灰土とは、純度100%の泥岩でなく、泥質の物質に炭酸カルシウム/石灰成分が混じった堆積物のこと。
筆者らによると、このような荒い生物の破片/瓦礫混じりの環境の場合、三葉虫が潜ろうとする際に、顆粒が尖っていた方が瓦礫をかきわけ易くなり、都合が良いのではないかと。
尖っているとはいえ、こんな小さな顆粒があるだけで、そんなに潜りやすさが変わるものだろうか?と若干の疑問はあるのですが、とにかく筆者らはそのように推測しております。
あとは本標本もそうなのですが、いわゆる防御姿勢をとっております。これも本種の特徴で、本標本に限らず、殆ど全ての標本が防御姿勢です。
どこが情報源だったか忘れてしましたが、よく言われるのが、アッサ周辺では崖崩れなどの大規模な変動があり、本種はとっさに防御姿勢をとったまま、生き埋めになったしまったのだと。推測に過ぎませんが、さもありなんと言ったところです。
他、ちょうど本種の頭部と胸部の間あたりには、別の三葉虫の裏堀りの尾部がちょこんと載っかっています。見た感じ、ホラルドプス (Hollardops) か何かでしょうか。面白いです。
久しぶりにモロッコのファコプス類について紹介しました。それにしても、やっぱりファコプスは良いですね。シンプルでそれでいて完成されていて可愛らしい。見ているだけで癒されます。
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これまで、大まかなモロッコファコプス類は紹介できたと思うのですが、あとはやはり、アウステロプス (Austerops) が紹介できていないなぁと。
やや特殊なアウステロプスのアウステロプス・ケルミティだけは一応紹介しているのですが、他の一般的なアウステロプス (アウステロプス・サラマンダー (Austerops salamander) 、アウステロプス・スペキュラトル・プンクタトゥス (Austerops speculator punctatus)) は、どうにも未だ掴みどころがないんですよね。
一般的と言ってみたものの、ケルミティより一般的、すなわち産出量が多いのかどうかさえ、確信が持てません。。いつかまた、紹介できればと思います。
コメント
コメント一覧 (10)
一目でスピニファーとわかる、綺麗な個体ですね。ファコプスの中ではだいぶ異質ですが、ブツブツが役立ったのかは謎ですね。
私事ですが、三日坊主でブログ投稿が完全に滞ってしまったので、Muuseoに移ろうかと思います()その間もファコプス類や面白い標本を入手したので、公開していきます。
ご無沙汰しております。
Hammiプレップだけあって、細部が観察できて面白い標本ですね。これが粗い標本だと、顆粒の円錐などが観察しづらくなり、トルコゼンシスなどの似た種との区別が難しくなるかもしれません。ぶつぶつに関して、従来の説では、頭足類の補足から逃れる為というのもありますが、実際どうだったのかは大変気になるところです。
Muuseo、魅惑の三葉虫さんを皮切りに、三葉虫コレクターの方々が次々と参入しておりますので、けーごさんもいらっしゃれば更に盛り上がりますね。(一方私はMuuseoの方は最近更新が滞っております…。また近いうちに再開します。)ファコプス類の標本を入手されたとのこと、またMuuseoでの公開を楽しみにしております!
サイズの記載を忘れてました、失礼しました。ちょっと外に出ているのですが、また帰宅したら測定して記載します。確かだいたい全長30-35mm程度だったと思いますね。他の方の標本もだいたいその程度のサイズなので、モロッコファコプス類の中では小型の種ですよね。Hammi氏の作品ですが、この小さな標本を微に入り細に入り、プレパレーションするのですから、凄まじいです。ファコプス本体もそうですが、更に小さい尾部だけのHollardopsらしき裏掘り標本は、細部まで丁寧にプレップされており、これまた素晴らしいです。
普段、母岩の質まで気にすることはあまりないのですが、論文を読んだ後に確かによく見てみれば、本標本の母岩の質は黄土色でひと味違う印象ですね(テンタキュリテスはいませんが)。他の大半のモロコプスの黒質主体の母岩とは違う感じ。このあたり、魅惑の三葉虫さんもMuuseoの本種の図鑑で指摘しておられますね。
Muuseoも私以外誰も三葉虫コレクターは来ないと当初思っていましたので、何時までも仮称でtrilobitesなんて、おこごましいので、そろそろ改名改称しないとダメですね。
まさに狙っておりました。ほぼ同時に出品されていた、別出品者様のOlenoides pugioも魅力的で相当迷ったのですが、最終的にこちら一本に絞りました。やはりモロッコのファコプス類は、ともするとトゲトゲ種以上にHammi氏の標本がものを言いますね。巣穴さんに感謝です。
私もいくつか標本をアップしておりますが、muuseoは中々に使い勝手がよく(あとは階層的に分類できるシステムがあると最高なのですが)、皆良い感じに集まりましたね。私も近々標本のアップを再開しようと思っています。
魅惑の三葉虫さん所有の特に2体乗っかった標本は凄いですね、最高レベルのプレパレーションが施されていて、本種の魅力が最大限引き出されてますね。市場を見る限りでは、たぶん産出量的には、同じくAssaで産出するトルコゼンシスよりも、更に数は少ない印象ではありますね。ただ本当はもっと産出していて、プレパレーションが良くない標本の中に、実は本種が混じってるのかもしれませんが…。
TETHYSさん
コメント&お越しいただき有難うございます。
御返信が遅れてしまいまして大変申し訳ありません。