2011年06月27日

ココロ紀行ミナツキ篇~幕間Ⅲ

私は生体端末。

名は栞(しおり)。

主に恋するキカイ。

篠宮朝斗様に付き従って数年。

何時までも、という訳にはいかないだろうが、出来る限り一緒にいたいものだ。

この身、朽ち果つるまで。




水無月。

古の時代にはミナツキ、と読んだらしい。

そんな暑さと涼しさの入り交じった季節。

私は愛する御主人様と共にとある人物に会うべく、街中のファミリー・レストランに向かっていた。

悪魔の術中に嵌まるのは本意(ほい)ではないし、魔王の演出する舞台で踊るのも合点がいかない。

たぶんそれは私が御主人様を愛し過ぎている所為かもしれない。

私は生体端末失格だ。




店内は空調が効いていて、御主人様にも不快感を与えないような温度だった。

さっそくツァイスの瞳で店内を検索する。

取り敢えず危険人物は存在しないようだ。

何枚もの御幣がさりげなく張られている。

「ねえ。」

はい。

やっぱし諏訪部順一さんの聲(こえ)はいいわね、と呟きながら御主人様は言った。

「二層式石垣島マンゴープリンと、特選純粋吉野葛餅とどっちが美味しいと思う?」

……。

機械にそれを問われるか。

いっそ両方頼まれたら如何でしょう?

「それじゃあ太っちゃうじゃない。」

私は別に構いませんが。

「私が構うの、私が。」

ところで店内に強い結界が張られています。

「そのようね。あら、お久しぶり、ナナ。」

「お久しぶりなの、です。」

私と同じ生体端末のナナがメイド姿で現れた。

見た目は華奢だが、すこぶる強力な戦闘人形。

悪魔の側近で最強級の戦闘力を持つ八魔将だ。

「ご案内するの、です。」

「ありがとう。歴戦の美少女がいるってことは魔王も来ているの?」

「主はいないの、です。」

「……わかったわ、案内して。」

にゃあ。

いつの間にか足下に仔猫のにゃあ助がやってきて、御主人様にすりすりしていた。気配を感じさせないとは、さすが八魔将。“悪来の再来”。

「おかしいわね。ナナもにゃあ助も魔王の傍を離れているだなんて。」

御主人様が一人つぶやく。

「にゃあ。」

可愛らしい三毛猫のにゃあ助が可愛い聲で鳴いた。

「やっぱし魔王って可愛いものに目がないのね。」

……其処に目をつけるとは流石ですね、御主人様。

「お久しぶりです。」

レストランの最奥部の席に魔王の懐刀がいた。

彼の名前は、カール・フォン・ミルヒアイス。

赤い髪した無敗の提督。

混沌一の色男で伊達男。

思いやりと気配り名人。

八魔将筆頭で、我が御主人様の生み出した登場人物である“鴇田(ときた)朝斗”の婚約者。

「会いたかったわ、ミルヒアイス。」

彼の会釈に倣(なら)うように、手を上げて挨拶する我が御主人様。

赤毛の若者の近くの席には鰌髭(どじょうひげ)と簡素な武術服が特長の男性。いや、青年。

「不躾(ぶしつけ)だけど貴方が一O代でしかも帝國・共和国・連盟、そして公国や百年戰争領域まで軍学のために流浪の旅に出て、しかも現在はトルメキア要塞の武術師範だなんてなかなか信じがたいわね。雷炎。」

実際、雰囲気や行動に於いては印象的に二O代の方が近いだろう。

雷炎は気分を害した風もなく言った。

「よく言われ申すので、いちいち氣にはしておらぬでござるよ。」

「ミルヒアイス。八魔将を四名も揃えてなにがあるって言うの? 肝心の魔王は何処?」

席に座った御主人様が問いかける。其処に置かれるはマンゴープリンと葛餅とほうじ茶。

「八魔将は此処には五名います。それと、我が主は胡蝶ほか五名の魔将と共に戰闘中です。もうじき此処に現れることでしょう。」

「えっ? 人数が合わないわよ! “アサト”もハムニ・ココロちゃんも魔王と一緒なの? どういうこと?」

「貴女を始め、殆どの方は魔将が八名だと思われているようです。“八魔将”、と言っていますしね。実は、魔将は八名どころか倍もしくはそれ以上います。我が主は適当ですから、あまり氣にされませんようにお願いします。」

「此処に魔将が五名ってことは……わ、私は魔将じゃないわよ!」

雷炎がミルヒアイスに代わって話を続ける。

「さすが空想物書き。そちらに想像の翼を広げられもうしたか。愉快、愉快。いやいや、これは失敬。八魔将の一名は不肖、この雷炎にござる。まあ、基本的には“元”でござるが。もう一名は朝斗殿の傍を片時も離れず、異世界でもことごとくひっそりと敵対する相手を討ち果たすことに尽力された御仁にござるよ。さすが、弓兵のアーチャー殿。八魔将に相応しい働きぶりでござる。『人であるとかないとかは些細なことです。』と我が師匠は常々言っておられるが、それは誠にござるな。あいや、失敬。また脱線してしもうた。それでは本題に入りましょうぞ。現在、我が師匠が戰闘中ということにも関連する話でござる。トルメキア要塞の丸太先生もそうでござるが、最近朝斗殿もなんだかセカイがおかしく感じられることはありもうさぬか? これは我が師匠と友好関係にないものたちが暗躍していることが原因なのでござる。そもそも……。」




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