西暦 2xxx年……。日本国の少子化問題は深刻さを増していた。


晩婚化が進み過ぎ、物理的に子供を持てない家庭が増えた為である。
初婚の平均年齢は50代に到達しようとしていた。


事態を重くみた時の総理、宇賀神。
野党の反対を押し切る形でひとつの法案を強行決議したのであった。

『人体のクローン技術、遺伝子操作の公式な容認』

翌年、国が持つクローン技術と遺伝子操作によって作られた"一生十代の肉体で居られる少女"
(閉経が来ないことを意味する)、NドールプロトタイプNo.1の完成。

国家予算で行われたこのプロジェクトには、社会的に強くなりすぎた大人の女性に
疲れきってしまっているロリータ・コンプレックス層に絶大なる人気を博した。

ついには、クローン人形と結婚するものまで現れたという。


……。




私はNドールの大ファンである。
少女もいずれ大人になってしまう。その悲しみを味遭わずに住む、この
肉体的に歳を食わないNドールの虜になっていたのだった。
前作のプロトNドールI型も購入し、うちの家事全般をやってもらっている。

NドールI型の瑞祈(ミズキ)を自分の横にちょこんと座らせ、肩を抱きながら
一緒にTVを観る。


白衣の男たちが舞台上に姿を現した。


「えー、この新型Nドール"舞佳"型には新たなる機能が備えられております。
それは」

「男性の言うことを何でも素直に聞くというものです。まさに、愛らしい
女性を自分の思うがままにしたいという要望を満たすことが出来るでしょう」

「ほら、テレビの前の皆様に挨拶しなさい。No.2、No.11」

白衣姿の青白い研究者たちに囲まれて、一人の小さな女の子たちが姿を現す。
顔は瓜二つ、というより双子以上にそっくりで、どちらがどちらかまったく見分けが
つかないものであった。
白いワンピースに黒いニーソックス、黒く若干茶掛かった髪色。
やや薄い瞳の色……。

私は目を疑った。そう、確か……私が十年前に大ハマりしていた
UTN32という大人数アイドルグループの、ロリではこの子を超えるものはないと
言われた五月女 瑠乃愛(ソウトメ ルノア)ちゃんに瓜二つであったから。

「舞佳型のNo.2です」

No.2と呼ばれる女の子は、満面の笑顔でお辞儀をした。

「舞佳型のNo.11です」

No.11と呼ばれる女の子は、不機嫌そうに横を向きながら言った。
どうやら、個体別に性格のブレがあるようだ。Nドールとて生身の体
であるからして、個体差があるのは当然。


私の横に座って眠そうにしているNドールプロトI型も、発売当初は
言うことを聞かない、反抗的、すぐ泣いたりわめいたりで面倒という
苦情が相次いだ。

今回の舞佳型ではそういった不満点を改善するために個体年齢を引き上げ、
更に男性の命令に従うという機構を設けたようだ。


番組は変わり、ニュース番組になった。
モヒカンにカラスマスクの男性が、流暢に原稿を読み上げる。

「続いてのニュースです……T県U市の山中で昨晩、頭部がない
Nドールの遺体が六体発見されました……地元警察は特定を急いでおり、
Nドール保護法違反の疑いで男の行方を追っています……」

モザイクこそ掛かっているが、現場のショッキングな画像がTV画面上へ
映し出された。血の赤で染まり、小さい人間型の何かが転がっている。

私の横に座っていたプロトI型の瑞祈は、残酷ショーとも言える光景を
直視してしまい、嘔吐しそうになっていた。急に前屈みになり、口元をおさえる。

「世の中には酷い輩もいるもんだ。大丈夫、大丈夫だからね……」

台所からポリ袋を持ってきて、優しい言葉をかけながら彼女の背中をさする。

女の子は少し吐いて元気を取り戻すと、やや前傾ながらも私のほうを
向きながら、綺麗な目をこちらへ向けて喋りだした。

「上野さん……。お隣の同じプロトI型のさつきちゃんがね、最近みないなと
思ってたの。……自殺して死んじゃったんだって」

「ご主人に毎日エッチな、酷いことを強要されてたらしいの。
それが嫌で、M街道脇の林で首を吊って……」

基本的に温厚になるよう作られているプロトI型だが、瑞祈は私の肩を
強い力で掴みながら言った。彼女の髪からは私が好きなコンディショナー
アルヲス2001の香りが漂う。使わせているからだ。

「上野さんは、あたしを見捨てたり酷いことしたり、しないよね!?
しないって言って!」

女の子は、周波数が高く、若々しい耳に響く大声で怒鳴った。
口からは薔薇の匂いがする。普段食べさせている薔薇のサプリメントが
効果を発揮しているのだ。

「なにいってるんだ……私にはキミしかいないのだ。ずっと
一緒に居てほしい」

私は優しい笑顔で、瑞祈にそう伝えたはずだった。しかし、その笑顔には
感情があまり篭っていなかった。彼女がそれを感じ取ったか否か、私には
知るよしもないが。

私は彼女を強く抱きしめた後、二人で風呂場へと向かった。
Nドールプロトの年齢からすると、本来なら主人と一緒に入浴するのは
嫌がるはずなのだが(肉体関係のある無しに関わらず)、うちの瑞祈は
嫌がるそぶりを見せなかった。


夜が明ける……。


女の子は買出しに行くといって、ジャージにエプロンという奇妙な格好の
ままで外出していった。

瑞祈が、私のPCブラウザの閲覧履歴を確認していることは知っていた。
やや束縛的な性質を持つ彼女であるが、PC関係には疎く、履歴を消去して
別のサイトなどを少し観ればいいだけの話だった。

今日発売になったとされる、舞佳型のサイトへと接続してみる。
カチッカチッというクリック音。Wandows30以降には見られないもので、
音声認識全盛の時代に、マウス、タッチパネルというレガシーデバイスへの
回帰を狙ったWanNT20シリーズの特徴である。

PC画面の明かりが輝く手前、私は酷く興奮していた。
なんせ、憧れていて握手会にも参加していた瑠乃愛たんそっくりの
Nドールが発売されたというのだから。

プロトI型もよいが、もう少しふくよかなほうがよかった。
細めを好む男性が多いため、あえて太りにくいような遺伝子操作が
してあるとのことだった。


"いらなくなったNドールを下取りに出せます。
対応製品はプロトシリーズA、S、I。プリマシリーズ全種、
キアラ型、弥生型、エリカ型のみとなります。価格は十万円"


下取りに出されたNドールはどうなるか……。
ドールたちに知らされることのない事実だが、実際彼女たちは
ネットなどを観て知っているだろう。特にうちの瑞祈には誘拐などの
対策でネオ・スマホを持たせているので……。


下取り十万というのは大きい。Nドールは高いのだ。最先端技術を
詰め込んで作られたクローン。ドール保険料もかかる。



私は、女の子がエプロン姿でおでんの材料を買って帰ってくる前に
ひとつの決断をした……。



続く