まだ、接戦という報道もあるが、ほぼ決まりだろう。
この勢いは止まらない。ヒラリーの敗因は、序盤戦で、オバマの息の根を止めておかなかったことと、エリートの脆さ、厭らしさということになるだろう。
オバマは勢いだけだ、と序盤戦、あるいはその前は思っていただろう。しかし、勢いが怖いのだ。緒戦で圧勝しなかったことから歯車が狂い始め、全ての対応が後手後手に回り、悪循環に陥った。
米国有権者と日本有権者との感覚の違いも大きいので確信は持てない部分もあるが、一番のヒラリーの失敗は、オバマの信頼性、経験不足を攻撃したことだろう。これが一番のマイナス。緒戦で劣勢に立たされなければ、そんなはしたないことはしなかっただろう。しかし、日本ならははしたない、という攻撃を受けるだけだろうが、この非難には、もっと実質的な理由がある。
今回の選挙は、女性初の大統領、黒人の大統領、といずれにせよ画期的な出来事になる可能性がある。しかし、それよりも大きいのは、共和党ブッシュによりめちゃくちゃにされた米国をどう取り戻すか、ということだ。それはイラクだけでなく、経済もいまやめちゃくちゃで、ブッシュにより失われた8年、および破壊された8年を取り戻すという戦いなのだ。
したがって、民主党支持者としては、何としても、共和党に勝たせるわけにはいかない。寝ていても、ブッシュがそんなにめちゃくちゃなら共和党は負けそうだが、そうでもないところが、民主党の苦しいところだ。
つまり、普通にやっていれば勝てる民主党としては、ごく普通の実力者でよかった。その条件にヒラリーは当てはまった。女性であることを除いては。日本だけが世界で男尊女卑社会のようなことをいわれているが、米国保守層の一部においても、そのような問題は存在し、また、女性が皆ヒラリーを押す、ということになると、反発する男性もおり、波乱要因の一つだ。
オバマに関しては、実績もなく、論戦でヘマをやるおそれも大きく(米国の大統領選挙はディベートで流れが一瞬で変わる怖い選挙だ)、ヒラリーは、その心配が全くないので、安心だ。そして何より、黒人ということで、根深い問題を抱え、また、ヒスパニックの人口が急増している現状では、彼らの投票率は低いとはいえ、あえて黒人で票を失うことはない、という判断だっただろう。だから、民主党の支持者としては、共和党候補に勝てる候補を選ぶために、相対的に無難なヒラリーで行く、というのが普通の判断だっただろう。
ところが、共和党がマケインというかなり中道派の(共和党らしくない)候補が勝つことが明らかになってくると、中間層に人気のある、オバマにしないと共和党に負けるかもしれない、ということになってくる。あるいは、ヒラリー大統領、オバマ副大統領で圧勝しよう、という意見も出てくる。
そのような背景にもかかわらず、ヒラリーは、オバマの実力のなさ、経験不足からくる不安をクローズアップし、ここを徹底的に攻撃し、自分の実力、経験をアピールした。
オバマに勝つにはここしかないが、しかし、この攻撃(ネガティブキャンペーン)によって、オバマが民主党の候補になったときに、共和党候補との論戦で、格好の材料を与える。そして、その非難は、ヒラリーという実力者により、全米にテレビで放映されているから、共和党にとっては、ヒラリーは神様のような存在で、オバマはマケインに勝てる見込みがなくなってしまう。一方、ヒラリーがオバマの欠点をあげつらって勝ったとしても、ヒラリーの評価は下がるだけなので、ヒラリーが民主党の候補になっても、マケインに勝てる確率が低下する。したがって、ヒラリーは一番やってはいけないことをやったのだ。
もちろん、オバマは、若く、勢いがあり、反ワシントン(日本で言えば反霞ヶ関だ)、既得権益を壊す、古い政治体質を消し去る、というメッセージは一番米国が一番望んでいることでもあり、もともと若い方がえらい、という価値観の米国では、ケネディの再来というイメージもあり、勢いはとまらない、という面も大きい。
そして、何と資金においても、ヒラリーを今や大きく上回り、若者、大衆受け、というところから、インテリ、ビジネスサークル、政界実力者、全ての支持を集めつつある。
もちろん、テキサスという大票田があり、ここでは、アンチブラックのヒスパニックの人口が多いという要因もあり、そこにヒラリーは望みをかけており、理論的には、まだ五分五分だろう。
ただ、私は、ヒラリーの勝ちはないと見る。一番は人格問題だ。選挙参謀のここに来ての更迭はメリットゼロだ。そして、気難しい顔をしたインテリよりも、にこやかにエキサイティングに選挙活動で全米を精力的に駆け回る若い大統領候補。差は歴然だ。変化、および、分断でいがみ合った米国を一つにすることを求めている米国民に、オバマ以上の候補はいない。
唯一のリスクは、スキャンダルか。
ヒラリーは、前回の大統領選に出るべきだ、と私はずっと主張してきた。結果論としてはそうだったが、米国の友人に聞くと、上院議員として実績を作り、責任を全うして、満を持して登場する、というシナリオだ、と5年前に言われた。
ただし、選挙は満を持すると目標にされ、むしろ勝ちにくい。ど本命よりも勢いのあるほうが強いのだ。それは、競馬も市場も同じだ。