VOGUEエディターの「あの人に会いたい!」宮本賢二 編。
2015.06.27
『VOGUE JAPAN』本誌で不定期に連載していた「あの人に会いたい!」企画がウェブサイトで再登場! エディターの中村真由美は、昨年ヴォーグ ジャパンとコラボしたアイスショウ「フレンズ・オン・アイス」の振り付けを手がけた宮本賢二のもとへ。「あの人に会いたい」ならぬ「あの人に "もう一度" 会いたい」スペシャル対談が実現した。
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髙橋大輔さんと迎えた、バンクーバーオリンピック。

中村
 これまでにたくさんの振り付けをしてきたなかで、特に思い入れがあるものとなると……やはりそれはあの……

宮本
 はい。髙橋大輔選手の、バンクーバー五輪のシーズンのショートプログラムの「eye」ですね。最高のプログラムができた、と思います。

中村
 あの曲も先生からの提案ですか?

宮本
 彼から、割と急なタイミングで「振り付けをお願いしたいんですけど」っていうオファーがあったんですよ。「俺で いいの?」って、内心、「どうしよう」ってドキドキしてたんですけど(笑)。「曲、どうする?」って聞いたら、「cobaさんって知ってますか?」と。「知ってる知ってる」「cobaさんの曲で、昔に聴いてすっごく好きな曲があるんですけど、曲名わからないんですよね」「じゃあ、俺もcobaさん好きやし、いい曲いっぱいあるから、いろいろ持って行くわ」という話になって。後日、CDとパソコンとでcobaさんの曲を含め全部で30曲くらい持って行ったんですよ。で、「俺が好きなん、これなんやけど」って曲をかけたその一曲目で「僕が言ってたのはこの曲です!」ってなって。一曲目ですよ。偶然一緒だったんですよ、好きな曲が!

中村
 すごい! cobaさん、あんなにたくさん曲があるのに一致するなんて!(笑)

宮本
 そうそう。驚いて、「うわあー、これはすごい」ってなったんですけど、でもそれだけで決めちゃいけない、と冷静になって。他の曲も全部聴いて。その上で、やっぱり「eye」がいいなという話になったんですよね。

中村 あの曲も……あの年に髙橋さんにはいろいろなことがあって、(右膝前十字靱帯断裂の怪我を負い、シーズン全試合を休場)翌シーズンに持ち越して、それで奇しくも「eye」がオリンピックシーズンのプログラムになって……

宮本 正直、なくなるのかなと思ってたんですよ。彼が「eye」を振り付けたシーズンに怪我をしてしまったので、このプログラムはこれっきりになってしまうかな、と。でも怪我から復帰した翌シーズンのオリンピックシーズンに、「これで行きます」って言ってくれて。嬉しかったですね。

中村 オリンピックメダリストのショートプログラムが、日本人アーティストの曲で、日本人の振り付け作品だ、なんて。初めてのことですし。

宮本 そうですね。本当にあのときは、いろんな人の助けがあって、本当に良い形で彼をサポートできて。今思い出しても泣きそうなくらい嬉しかったですね。それでバンクーバーの会場で泣いてるときに、テレビの方に「宮本さんよかったですね」「はい、よかったです」なんてイ ンタビューを受けたんですが……その2、3日後、大ちゃんとバンクーバーの日本食屋さんで会ったときの、彼の第一声が「ああ、そんなんでもなかった!」って。……なんのことか分からないじゃないですか。聞けば、僕がインタビューを受けてる映像を見たらしいんですよ。それで僕の顔が丸々と太って見えたらしいんですが、実際会ったら「そうでもなかった」っていうことだったらしくて(笑)

中村 泣きすぎて顔が浮腫んでたんですか!?

宮本 いや、どうなんでしょう、単に僕が太っていただけかもしれないんですが(笑)。それでもう、(コーチの)歌子先生と大ちゃんとで爆笑してね。それで、オリンピックが終わったあと、今度は世界選手権に向けてまた練習したいからということで、リンクに練習を見に行ったんですよ。そのときにね、大ちゃんが「あ、賢二先生これ」って言って、彼から手渡されたものがあって。「なにこれ?」「まあまあ開けて」と。開けたら銅メダルが入ってたんですよ

中村 おお!

宮本 開けた瞬間、手が震えましたよ。重みが……銅メダルという、その偉業の重みが伝わってきて。すごい、嬉しかったです。大ちゃんはそういう気配りも素晴らしくてね。あえて僕が気を遣わないでいいようにと、そんなふうにさりげなく銅メダルを渡してくれて。もう、嬉しくてメダル首にかけちゃいましたよ。なんか……写真撮っておけばよかった。

中村 撮らなかったんですか!(笑)

宮本 だって練習見に行ってたんですもん(笑)

中村 もったいない!

宮本 もったいない(笑)

選手ひとりひとりの個性を見極めて。

中村 振り付けの面から見た髙橋さんって、どんな感じなんでしょうか。

宮本 
こだわりにこだわる、美意識の高すぎる、ややこしいヤツです!(笑)

中村 
なんですかそれは(笑)。もっとこうしたい、もっとこうしてください、と言うような……?

宮本 
口に出しては言わないんですよ。ただ、態度に出る(笑)。彼と向き合うときは僕も相当な緊張感を持たないといけないんですよね。なにか簡単なことをしてしまうと、ダメなんですよ。彼にはいつも刺激を与えないといけないんです。彼には、常に「お?」「どう来るんだ?」と思わせないといけない。

中村 
なるほど。

宮本 
で、振り付けが出来上がったときにも「先生、ここちょっと音が余ってるんですけど、ここで手を動かしていいですか?」って。

中村 
音が余る?

宮本 
(トントン、とテーブルを叩きながら)こう、音があるけどそこに振りがないときに、この「トン」っていうところも、音に合わせて何か動きたい、と。

中村 
すごい

宮本 
そこの音に関して言うとね、そこはジャンプの直前の音だったんですよ。だから僕はあえて、ジャンプに集中してもらうためにその音には動きを与えていなかったんですけどね。大ちゃんはそこにも振りを入れたい、と。

中村 
さすがですね。

宮本 
さすがですよ。

中村 
「eye」以外だと、彼のどのプログラムが好きですか?

宮本 
「バチェラレット」ですね。(2007-08年シーズンエキシビションプログラム

中村 
あのセクシーな。あれは、終わりかたがすごく印象的な……

宮本 
あのときはとっても自由だったので、いろんなことができました。(抜粋)
中村 浅田真央ちゃんはどうですか?

宮本
 ほかのメディアでも話しちゃったことなんですけど、僕がちょっと動きながら振り付けを考えているときに、真央ちゃんがその動きを後ろで完コピしてるっていう……(笑)「いや、まだできてないから!」って(笑)。彼女は本当に覚えるのが早いんですよ。だから 「ちょっとまだできてないから、向こうに行ってて」って。でもこの間の「クリスマス・オン・アイス」での振り付けのときに、同じように「ちょっと向こうで待っててね」って言って、その間に僕が動きながら振り付けを考えていたんですが……チラッと見たら……向こうでこっそり完コピしてるんですよ!(笑)

中村
 さすが!(笑)それは、「早く覚えたい」「早く次の振りを知りたい」っていうわくわくした感じなのかな。いかにも彼女らしい素敵なエピソードですね。

宮本
 そうですね、いつも真央ちゃんの目はキラキラしてますね。こちらは、かなり焦りますが(笑)。