少し前にデイリーポータルZに「コンテナスペースがかっこいい」という記事を書いた。ご存じの方も多いと思うが、ぼくは工場に並々ならぬ興味を持っている。湾岸の工場のすぐそばには必ずキリンがいて、コンテナを積み降ろししている。だからコンテナスペースとして再利用される前の現役コンテナもよく見る。かっこいいいよね、コンテナ。

で、コンテナのことをよく知らないな、と思って読んだのがこの『コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった』。とても面白い。ちょうお勧め。コンテナに関する情報って実務的なもの以外あまりない。この本はそういう意味で非常に貴重だ。専門家でない、コンテナに興味を持った人間が楽しんで読める唯一の本と言ってもよいかもしれない。

1956年4月26日に最初のコンテナがニューアーク港から出航。まず「そんなに最近のことだったのか」と驚く。そしてその後の怒濤の「箱の革命」がいかにして進行していったか。その物語がとてもエキサイティングに書かれている。マルコム・マクリーンという「コンテナの父」の奮闘の物語は映画化されてもおかしくないぐらい波瀾万丈で冒険に満ちたものだ。

コンテナは言ってみれば「ただの箱」だ。それが威力を発揮するためには「システム」が必要になる。正確な言い方をすれば、コンテナ自身はそのシステムの一部に過ぎない。コンテナ以前とは全く異なった規模と設備(キリンももちろんそのひとつ)を持つ港と、その後背には対応した鉄道やトラックがあって初めて機能する。マクリーンが作った会社があのシーランドで、その名前の意味はまさに、海と陸とが一体となったロジスティクスを意味している。

そして「規格化」だ。

コンテナに興味を持ったきっかけのひとつに、つぎのような話がある。曰く、建材のいくつか、たとえば窓枠などの大きさはじつはコンテナの大きさによって決まっている。そしてコンテナの大きさは、パナマ運河の大きさによって決まっている。そこを通れる大きさにコンテナ船は造られているからだ。と。つまり、ぼくらが働いているオフィスの窓の大きさは、パナマ運河によって決まっている。

なんてエキサイティングな話だろう、と思った。生産のグローバリゼーションの前では、コルビジェのモデュロールなんてどこ吹く風だ。

しかし、この話はちょいと眉唾のようだ。コンテナの大きさといえば20フィートとか40フィートと聞くが、この大きさは本書によれば「数字として美しいから」というなんとも肩すかしを食う理由で決められたのだそうだ。この規格化の物語も興味深い。国際的な政治的駆け引きや、組織間の足の引っ張り合いなどがあり、しかも決定した後ですらそれが定着するまでには時間を要した。

その他にも伝統的な荷揚げ荷下ろしの作業とそれに従事する沖仲士たちの激しい抵抗の物語も、いろいろ考えさせられる。コンテナ出現以前までは、港はロールプレイングゲームに登場するような「海の男たち」の世界だった。しかし、いまや港にはほとんど人影はなく、キリンがせっせと働いている。技術革新によって大量の職が奪われる。これはコンテナリゼーションに限った話ではない。近代化以降世界各地で頻繁に起こった、いや今も起こっている話だ。

世界各地の港の盛衰の物語も面白い。コンテナリゼーション以前栄華を誇ったニューヨーク、ロンドン、リバプールはいまや物流港としては三流で、それまで無名だったロッテルダムや香港、そしてシンガポールが世界のハブになる。コンテナリゼーションにおいては地理的な意味はほとんどなく(もちろん水深などの要素はあるが)、どれだけの設備投資ができるかに大きくよっている。コンテナがもたらす物流の革命がどんなものかを読み、英断を下した港は生き残り、そうでない港はおいて行かれた。そして一度置いておかれた港は二度と浮かび上がることができない。とはいえニューヨークの失敗を笑うのはぼくらの後知恵というものだ。当時は誰も、マクリーンですらコンテナリゼーションが世界をどう変えるかを正確に見通した人はいないのだから。

そして世界はフラット化した。かつて製造業は港に面して立地した。しかしいまやコンテナのおかげで物流コストは劇的に下がり、労働集約型の産業は人件費が安い国へと移せる。製造プロセスは物流以外の製造コスト的にもっとも有利な場所へアウトソースする。それは内陸でもかまわないし、中国でもいい。ぼくらがいまや当たり前だと思っている「世界の工場中国」はコンテナがあって初めて機能するのだ。「ロジスティクス」という言葉は少し前までは軍隊の用語だったが、いまやどんな産業でもふつうに交わされるものになっている。それもコンテナ革命以後のことだ。

「頭の先からつま先までアメリカそのもののような女の子、バービーちゃん。だがこの人形はアメリカ製ではない。(略)ナイロンの毛は日本製、ボディに使う樹脂は台湾製、染料はアメリカ製、木綿の服は中国製…という具合である。バービーちゃんは、自分専用のサプライチェーンをグローバルに展開しているのだ。バービー人形を支えるサプライチェーンは、コンテナがもたらした輸送革命の産物である」

コンテナすげえ。