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世の中には「架空地図」という趣味があることは前々から知っていた。以前NHKの「熱中時間」のレギュラーを務めていたときにお会いして感動したのが「北部急行電鉄」の方で、この架空鉄道趣味(これも歴史ある趣味だ)を通じて知ったのだ。

そして「空想都市へ行こう!」の"地理人"こと今和泉隆行さんにお会いしたのが、ニフティのカルチャーカルチャーで定期的に行っているイベント「マッピングナイト」の第3回目だった。石川初( @hajimebs )さん、渡邉英徳( @hwtnv )さんと3人でやっている文字通り「マッピング」をテーマにしたこのイベントを見に来てくれたのだった。イベント終了後、彼が作っている架空の都市「中村市」の地図をプリントアウトしたものを見せてもらったのだが、これがほんとうにすごかった。舞台に広げ、ほかのお客さん交えみんなでしばし見入ったものだ。

で、第4回目の「マッピングナイト」で今和泉さんをゲストにお呼びし「架空地図とは何か」ということについてじっくりお話をうかがったのだった。2012年8月11日のことである。


↑そのときの様子

その後「タモリ倶楽部」をはじめメディアにちょくちょく登場して話題になっているのでご存じの方も多いと思う。その今和泉さんがさきごろ出版されたのが『みんなの空想地図』だ。

彼が作っている「中村市」がどんなものかはサイト「空想都市へ行こう!」を見てもらえばすぐわかる。ぜひ見て欲しい。というか、見なさい。見ろ。いいから。びっくりだから。

中村市中心部558

↑これが「架空」だなんて信じられますか!(「空想都市へ行こう!」より一部をキャプチャ)

中村市全域558

↑この広大な範囲をこのクオリティで描いてるんですよ!(「空想都市へ行こう!」より)

ご覧の通り、いわゆる道路地図の書式で実在しない都市を描いている。

まずぼくはこれ見て「ちょっとまって!地図ってなんだ!?」ってショックを受けた。だって、フォーマットに則ったら実在しなくても「地図」として成立しちゃうのって、地図の存在そのものを揺るがす出来事じゃないか。

もちろん、書式を守っているだけではこうはならない。この中村市の構造が「いかにも日本の地方都市」だからそう見えるのだ。その鍵は「都市計画的にはうまくいっていない」というところにある。今和泉さんは「中村市は理想都市じゃない」とおっしゃる。理想的にはしたくない、と。そのために腐心しているという。おもしろい!

つまりぼくらが地図を見て「リアルだ」と感じるには2つのレベルがあって、ひとつは前述したように地図のルールに則っていることで、もうひとつは描かれる都市がいわば「破綻している」ことだ。ついでに言えば、この道路地図というやつは、そのいかにも日本的な都市部の破綻具合に最適化している描き方だ。だから海外の都市地図見るとびみょうな違和感があるんだな。あれは都市の構造が違うというだけでなく、それに従って地図表記の思想が異なるからだ。

で、その「理想ではない」都市をどうやって作っているのかというと、なんと「フィールドワークしている」というではないか。中村市のまだ描いていないエリアに「測量中」と描いてあるのが象徴的だ。今和泉さんはいう「中村市を歩き回って、そこにあったものを地図に起こしている」と。これは都市計画じゃなくてフィールドワークなのだ。「よくシムシティみたい、って言われるんだけど、シミュレーションとか計画じゃなくて、測量なんですよ」。

実空間がなくても、今和泉さんは街を散歩することが出来る。なんでそんなことができるのか。その秘密が書かれているのが『みんなの空想地図』だ。

これを読むと、今和泉さんが驚くほど全国の都市を巡っているのがよくわかる。しかも「郊外にいったんバスで行って、そこから通勤時間に電車に乗って都心部へ行く」というような独自の街の経験を繰り返している。日本中の街の「破綻具合」が身に染みついているのだと思う。その成果が中村市なのだ。だから中村市は「ザ・日本の都市」に見える。

中村市の地図自体の面白さは、サイト「空想都市へ行こう!」を見れば一目瞭然なので、この本ではそれがどのように作られたかというかこれを作る前段階のフィールドワークの仕方が書かれているというわけだ。なんてことはない街を歩くのが好きな人にとって驚きと納得の一冊だと思う。

あと、タイトルが気になって今和泉さんに聞いてみた。なんでこの孤独な作業についての本が『"みんなの"空想地図』なのか、と。そうしたら「中村市は"ぼくの"ものではない、という意味です。ぼくにとっても分からない場所がたくさんあるし、たまたま実在しないというだけで、これはふつうの街なんですよ」と答えた。本エントリで「架空地図」と「空想地図」というふたつの表記の違いが気になった人もいると思う。趣味のジャンルとしては「架空」なのだが、今和泉さんはあくまで「空想」と呼んでいる。「多くの人に参加して欲しいんですよ。それぞれの想像力で。だから『空想』としています」。

実際、中村市の鉄道ダイヤや鳥瞰図、公文書などを今和泉さん以外の方々が作っている。この巻き込みぐあいが中村市のすごいところだよなあ、と思った。ぼくも何か作りたいぞ。