蒼穹舎スタッフのお勧め

2020年07月28日

蒼穹舎スタッフのお勧め 12 斎藤純彦写真集『MILESTONES』

蒼穹舎スタッフのお勧め 12 斎藤純彦写真集『MILESTONES』

政府による自粛宣言期間での暇な時期から始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログももう第12弾で一区切りといったところです。今回は2019年刊行の斎藤純彦写真集『MILESTONES』。ここ数回同様ギャラリーに久しぶりに来てくださった作家さんの本の紹介です。

斎藤純彦さんは1973年北海道滝川市生まれで、日本写真芸術専門学校に通った後活動を始めますが、しばらくして写真から離れていました。そして約10年ぶりの2013年に金村修さんのワークショップに参加し、再び写真を撮り始める様になります。この写真集『MILESTONES』はその2013年以降から最近まで撮影した写真から纏めた物です。

『MILESTONES』は、斎藤さんが2010年から約10年暮らしている多摩丘陵のまちを撮った写真です。高度成長期に造成され、かつて郊外とよばれたまちも、都市化の移動に伴い今はありふれた郊外風景になっているはずなのですが、住んでいる場所を撮っているせいか、その日常な感じが、自然に入ってくるのでとても気になる写真が連なります。ここは坂の多いまちの風景で、坂があると構成しやすいせいか坂のある風景を撮る人は多いのですが、この写真集の写真たちはなぜかそうした坂を意識させないのが不思議です。そこに住む人が見ている風景ならではの、自然さと細かなところまで行き届く視線のありようが、坂を持つ風景の特異さを消して日常の風景として成り立っているせいかもしれません。それが妙に落ち着いた視線が持つ特有の気になる感じになっていて、いつのまにか何とも言えない気になる写真たちになっています。以前、蒼穹舎ギャラリーで昔3年ほど住んでいたという中野の町を撮った斎藤さんの写真展を見た時にも坂の多い中野のまちを坂を強調せずに撮れていて、中野に住んでいる私には非常に日常の光景が目の前にあってとても好ましい写真展でしたが、多摩には住んでいない私にも毎日見ている光景の様に感じる好ましさがこの写真集にはあって気になります。なぜか気にかかるこの写真集をぜひお手に取ってください。



蒼穹舎スタッフのお勧め本:
斎藤純彦写真集『MILESTONES』
蒼穹舎/2019年9月23日発行
モノクロ/上製/A4変型
104ページ/作品点数:99点
装幀:加藤勝也
定価:4,000円+TAX
今私が暮らすのは、50年以上前に首都圏から西に伸びる丘陵地帯を切り拓いて造成された街。
暮らし始めた理由すらも記憶の向こうに去ったこの街で、私が今あるという事実だけを手掛かりとして、自らが曖昧に引いた線の内を繰り返し記録する。そこに立ち現れる里程標が指し示す、自分が何処にいるのかということを確認する作業として』(あとがきより抜粋)
斎藤純彦写真集『MILESTONES』

斎藤純彦写真集『MILESTONES』1

斎藤純彦写真集『MILESTONES』2


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2020年06月19日

蒼穹舎スタッフのお勧め 11 吉江淳写真集『地方都市』

蒼穹舎スタッフのお勧め 11 吉江淳写真集『地方都市』

ギャラリーに観に来る人が少なく、時間ができたことから始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログの第11弾は、2014年刊行の吉江淳写真集『地方都市』。今回もギャラリーに久しぶりに来てくださった作家さんの本の紹介です。好きな写真家さんなので少し前の作品ですが紹介したいなと思いました。

吉江淳さんは1973年群馬県太田市生まれで、中央大学卒業後に建築事務所に1年ほど在籍した後、牧場で働き、そこで撮った「乳牛」が最初の個展だそうです。その後フリーの写真家になり、2010年代に入り、コンパクトカメラから67に変えて、地方都市を撮り始めます。この写真集はそれらの地方都市をまとめたものです。

「地方都市」を撮り始めるとき、吉江さんは水平に撮ることやスナップにしないなど、いくつかの制約を課しつつカテゴライズされない作品化を目指したそうです。実際出来上がった写真集を手にすると、よくある風景写真とはどこか違った印象を醸し出していて、意図は実現されているなあと思います。この写真集は吉江さんが生まれ、今も暮らす大田の街の写真が多いのですが、私には、伯母がかつて太田に住んでいたこともあって、馴染みのある風景だったはずなのに、記憶にある、どこにでもあるようなありふれた風景が、こんなに見に行きたくなるような街だったかなと思えるようになっているのが不思議でした。ありふれた道具立てが妙に活き活きした世界に様変わりしていくその写真の謎に妙に惹かれました。その後の自費出版の「川世界」もそうですが、単純でありふれた世界がそうではない何かを身に纏い始める風景に見えてくるのを見るのが毎回、吉江さんの写真を見る愉しみになっています。そうした不思議な世界を体感してください。オススメの一冊です。




蒼穹舎スタッフのお勧め本:
吉江淳写真集『地方都市』
蒼穹舍/2014年6月6日発行
A4変型/カラー/上製
128ページ/作品点数:122点
定価:4000円+TAX
* 著者署名本

地方都市をテーマにした個展を重ねてきた吉江淳の初の本格的写真集。

『地方都市という町は存在しない。それは首都圏以外のあらゆる都市のことを指すのだという。にもかかわらず日本全土に無数にあるこの相対的な都市に僕はいつしか惹き付けられるようになっていた。ここであると同時に、ここではないどこかの都市を内包している、そんな架空の都市への憧憬がどこかにあったのだろう。だが実際には、各地域で時間を積み重ねて出来た独自の集合体が均一化されたまちづくりシステムに侵食されていると言えるような光景がどこまでも続くなかで、カメラ片手に彷徨うほかはなかった。(中略) それでも日々の中で歩いていると、目の中に飛び込んで来る光景が妙に生々しい存在感を放っていることもある。それは光のせいかもしれないし、またその地域に張りつめる空気感かもしれないし、前景と背景のバランスのようなものかもしれないし、あるいは長い時間を帯びた建物がそれでも目の前にあるという驚きからくるものかも知れない。いづれにしてもそのとき僕にとって大事なことは、その光景をいかに自分の思考を加えずに受け入れられるのかということだ。そうすることによって写真が、見慣れた空間の中にあって、その土地の隠れた凄みを持つ世界へと連れて行ってくれる。そしてそのときにこそ地方都市という実体のない町が、少しだけその顔をのぞかせているような気がしてならない。(吉江淳によるあとがきより抜粋)』

吉江淳写真集『地方都市』
吉江淳写真集『地方都市』1
吉江淳写真集『地方都市』2
吉江淳写真集『地方都市』3
吉江淳写真集『地方都市』4
吉江淳写真集『地方都市』5
吉江淳写真集『地方都市』6
吉江淳写真集『地方都市』7

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2020年06月12日

蒼穹舎スタッフのお勧め 10 橋本勝彦写真集『凪』

蒼穹舎スタッフのお勧め 10 橋本勝彦写真集『凪』
コロナによる自粛で時間ができたことから始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログも第10弾。緊急事態宣言が解かれたせいか、今月に入りギャラリーの方に作家さんが来てくださることが増えてきました。なるべく近刊を紹介しようと始めたこのブログですが、先日来た橋本勝彦さんの写真集『凪』は去年の刊行だなと思い、好きな写真家さんなのでもあり紹介しようと思いました。

橋本勝彦さんは1942年東京生まれで、30代の頃からアマチュア写真家として撮り続けていたそうですが、本業は別にあってということでした。2012年に70歳の記念にと、大西みつぐさんの紹介から大田さんに制作を依頼した「もう一つの風景」からじわじわと知られるようになり、ロングセラーを続けています。そして写真家としての活動が本格化してこの「凪」は3冊目の写真集になります。

橋本さんの写真集は「もう一つの風景」「遠い日」「凪」といずれも日本全国を旅して撮り歩いた風景の写真です。この「凪」では2015年から2018年にかけて、北は岩手から南は福岡までを旅して撮った写真が収録されています。これだけ様々な地域が撮られているのもかかわらず、まるで一つの場所で撮ったかのような錯覚に陥るような風景が並びます。そこにあるのは寂れた、時代の流れから取り残されたような街並み。ところがページを捲って1枚1枚を見ているとそれぞれが別の顔を持ち、それぞれの時間の堆積が滲んでくる。煤けた壁を持ち、それでいてまだ人が暮らしているらしい、生き続けている建物。いつの間にか同じように思えた写真たちがそれぞれの声を発し始める。ゆっくりと写真集を手に取る時間が増えた今こそオススメの1冊です。

蒼穹舎スタッフのお勧め本:
橋本勝彦写真集『凪』
蒼穹舍/2019年4月1日発行
A4変型/上製/装幀:原耕一
モノクロ/78ページ/写真点数:71点
定価:3800円+TAX
橋本勝彦4年ぶり3冊目の写真集。
『寂れた好きな場所があって、いつかまた出会えたらいいと思いながら年月が経った。ふとある日、立ち寄る機会があり風景を眺めた。整備された美しい道路と公園がそこにあった。思い出のイメージは過去への忘却となり、一枚の写真だけが記憶を残してくれる。
昔が懐かしくて旅に出ても寂れた風景を探してしまう。知らない街の裏道を歩く好奇心や、道に迷って出会った街並みのそんな思い出が追憶となっている。風が止むと凪になる、穏やかに時を止めて寂れた街角に又静かに時間が過ぎて行く。』(あとがきより抜粋)
橋本勝彦写真集『凪』

橋本勝彦写真集『凪』1

橋本勝彦写真集『凪』2

橋本勝彦写真集『凪』3

橋本勝彦写真集『凪』4

橋本勝彦写真集『凪』5

橋本勝彦写真集『凪』6

橋本勝彦写真集『凪』7



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2020年06月05日

蒼穹舎スタッフのお勧め 9 大塚浩二写真集『Snap out of it』

蒼穹舎スタッフのお勧め 9 大塚浩二写真集『Snap out of it』
コロナによる自粛で時間ができたことから始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第9弾は、4〜5月のギャラリーで展示していただいた大塚浩二さんが、2016年に刊行した初写真集『Snap out of it』です。緊急事態宣言期間中の展示であったことから見ていただく人がとても少なかった事が残念でしたので、久しぶりに見返した写真集について紹介しようと思いました。

大塚浩二さんは福岡県生まれで、22歳の時にニューヨークへ渡り20年近くアメリカでフリーランスのフォトグラファーとしてエディトリアルや広告の仕事をしてた人です。9.11の事件後は全くそういった写真が撮れなくなって、ただひたすらニューヨークでの日々の生活のスナップ写真を撮っていたそうです。このあいだの展示はその時期にニューヨークのロッカウェイビーチの海によく行っていた時の写真で構成したものでした。波の写真など海の様々な表情や街の風景の中に内省的な感じが印象的でした。初写真集『Snap out of it』は同時期の写真で、人や街を中心に日常の風景の写真で構成されたものです。展示の写真とは対称的なニューヨークの雑多な雰囲気が印象的です。特に多くの写真がブルックリンという街で撮られていて、個人的にも父親の育った街だったので、この街を撮った写真集はいつも気になります。99年に私がブルックリンに行った時の記憶と同じ風景が、違う街に見えました。大塚さんが撮った街が9.11以後の人々の内面の変化を感じ取っていたからかもしれません。見たことのある風景や街を撮っているのに、同じ形なのに別の姿に見えるというのは、それはその写真の力なのかなとこの写真集を見た当時思ったことを思い出しました。是非一度印象的なこの本を手にとってみて下さい。



蒼穹舎スタッフのお勧め本:
大塚浩二写真集『Snap out of it』
蒼穹舍/2016年8月25日発行
A4変型/カラー/装幀:加藤勝也
上製/104ページ/写真点数:98点
定価:4000円 + TAX

『今回、この本にまとめた写真は、ポスト9・11期の2001ー2008年にニューヨークで撮った写真である。 あの事件以降、僕はいろいろな事に懐疑的になっていた。特にコマーシャリズムの偽善的な性質には、本当に嫌気がさしていて、写真の方ではそれと完全に決別したところだった。でも生活していく中で、常に自分の周りにはコマーシャリズムが溢れていて、不必要に人間の欲望を煽っていた。 それを恨めしく思いながらも何処にも行けない。そんな八方塞がりのストレスの中で、いつしか自分を、 あの日の舞い散った焼灰だと思うことで、活路を見だしていったような気がする。』(あとがきより)

大塚浩二写真集『Snap out of it』

大塚浩二写真集『Snap out of it』1

大塚浩二写真集『Snap out of it』2

大塚浩二写真集『Snap out of it』3

大塚浩二写真集『Snap out of it』4

大塚浩二写真集『Snap out of it』5


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2020年05月29日

蒼穹舎スタッフのお勧め 8 元田敬三写真集『轟』

蒼穹舎スタッフのお勧め 8 元田敬三写真集『轟』
コロナによる自粛で時間ができたことから始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第8弾は、昨年刊行した元田敬三写真集『轟』です。

元田敬三さんは大坂府生まれで、大学卒業の後、大阪ビジュアルアーツを卒業し、上京。東京のストリートを撮り始め、2001年に最初の写真集『青い水』(ワイズ出版 大田通貴編集)を刊行。この本はワイズ叢書の1冊として出されたもので、この叢書が森山大道さんや北井一夫さんなど実績のある年配の作家が多いラインナップの中で、異色の若手作家の処女作が加わったのは当時、すごく興味深かったのを覚えています。『青い水』から以降多数の写真集刊行や展覧会参加をしてきた元田さんが、大田さんに続編を作りたいと言い続けて18年、ついに実現したのがこの『轟』です。

『轟』の撮影は1999年辺りが数枚と2011年〜2014年が大半を占め、日本全国のストリートです。様々な年代の人々の姿が印象的です。元田さんの処女作『青い水』では、1996年から2000年の東京新宿と大阪ミナミを撮影したもので、中でも上京して一人暮らしを始めるも、東京に馴染めない若者の孤独な姿が印象的で、当時すごくいい写真集が出たなと思ったものでした。元田さんも上京してきたばかりの人だったので、そうした孤独感にリンクし、すっと写真に封じ込むことができたのかなと想像したりしました。今作『轟』でも、そうしたどこか引き摺る孤独な心情を抱えた人の肖像が、見事に撮りこまれていてすごく印象的です。この2冊と他の元田さんの写真集はどこか違うような気がしていて、この本が刊行された当時、お店に来た元田さんに「いつもご自身で全部作っていることが多いのに、なんで久しぶりに大田さんとやることにしたんですか?」と聞いたら、「自分で作ると、かっこいいと自分が思う写真ばかり選んじゃうけど、大田さんにやってもらうと、自分では選ばない写真を選んでて、それでいて成立しているから面白い」ということをおっしゃってました。それを聞いた時、おそらくこの本や『青い水』で感じた孤独感へのリンクは元田さんが持つ普段と違う魅力なのかなと思いました。まあ僕の個人的な印象が合っているのかわかりませんが、この本が色々と思いを広げてくれることは間違い無いと思います。ぜひご覧ください。


蒼穹舎スタッフのお勧め本:
元田敬三写真集『轟』
蒼穹舎/2019年6月16日発行
モノクロ/上製/A4変型
72ページ/作品点数:67点
装幀:原耕一
定価:4,000円+TAX ※ 著者署名本
『写真を撮ることは行為である。ハッとして心が動くのは恋である。
行為であり恋である写真行為。街路を歩いていると次第に聴覚は閉じていき、視覚は無意識に覗いている監視カメラの様な状態、腕や脚といった身体は自動運転となり、脳内では欲望と記憶という2つのテレビジョンが連続して垂れ流される。鈍感になる身体感覚と反比例するように、僕の内的感覚=心は益々敏感になり、擦過する光景や人が放つメッセージの断片を受け取る事となる。擦れ違う人の悲しみや歓喜、街の繁栄や衰退などが生声の様となって心に届くのだ。
その様な状態で街をトボトボとさすらっていると突然心にゴーという轟音が響くのである。』(あとがきより)
元田敬三写真集『轟』

元田敬三写真集『轟』1

元田敬三写真集『轟』2

元田敬三写真集『轟』3




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2020年05月19日

蒼穹舎スタッフのお勧め 7 原芳市写真集『神息の音』

コロナによる自粛で始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第7弾は、昨年末12月16日に惜しくも亡くなられた原芳市さんの遺作写真集『神息の音』です。

原芳市さんは1970~90年代にストリッパーを撮った一連の写真集(「ストリッパー図鑑」「淑女録」「曼荼羅図鑑」)が有名ですが、蒼穹舎から2008年から13年に刊行した「現の闇」「光あるうちに」「常世の虫」でその原さんの写真世界がより広くファンを掴み、その活動の広がりがこの10年顕著でした。それだけに惜しい事でした。

『神息の音』は原さんが昨年前半に繰り返し行われた撮影小旅行で撮られた、「神の息の音」を求めての写真の数々から纏めたもの。原さんは2014年に上記3作に続く次のシリーズとして撮り始めた作品で「神々の系譜・序章」という展覧会も行いますが、その後1〜2年撮影するも、断念しました。しかし、2018年秋に聖書の言葉から汲み取った「神の息の音」という言葉に出会い、シリーズの撮影が再開したのがこれらの旅でした。撮影旅行から戻ると入院し余命1ヶ月を宣告されたことから、作ることになった最後の本づくりである3冊{『東北残像』『時を呼ぶこえ』}のうちの1冊で最後の作品になりました。「神の息の音」という言葉に反映する何かを追い求めての写真ですが、原さんの死を知って見たせいかそこには死の想念が覆い尽くすように感じつつも写真としてただただ惹きつけられる1冊です。特に正真正銘の生涯最後の写真である、漆黒の闇へと溶けていく船の写真が写真集の最後に来る写真の並びにも、なんとなく黄泉へ旅立つ原さんの意思があるかなと思ったりします。そんな風に色々思いつつ何度も繰り返し見てしまいます。是非原さんの写真世界を堪能してください。

蒼穹舎スタッフのお勧め本:
原芳市写真集『神息の音』
蒼穹舎/2019年11月22日発行
A3変型/上製/モノクロ
ブックデザイン:加藤勝也
68ページ/写真点数:27点
定価 : 5000円+TAX
2019年12月16日に逝去した著者が完成まで見届けた文字通りの遺作。
『ときどき聖書を読む。その7節。「主なる神は土の塵から人を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった」。神が自分と同じ姿を人に与え、命を与えたのだ。その吹き入れる音を聞いた思いでその一節を読んだ。いつもとは違った感覚を味わった気がした。「神の息の音」。』(あとがきから抜粋)
原芳市写真集『神息の音』

原芳市写真集『神息の音』1

原芳市写真集『神息の音』2

原芳市写真集『神息の音』3

原芳市写真集『神息の音』4

原芳市写真集『神息の音』5


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2020年05月15日

蒼穹舎スタッフのお勧め 6 白石ちえこ写真集『島影』[2刷改訂版]

コロナによる自粛で始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第6弾は、先日、署名を入れるために店に来ていただいた白石ちえこさんの写真集『島影』[2刷改訂版]です。

白石ちえこさんは神奈川県横須賀市出身で、1998年の初個展以来、数多くの展覧会に参加。2015年初版のこの本は2冊目の作品集です。作品は1920〜1930年代に日本のアマチュアカメラマンの間で流行した「雑巾がけ」とよばれる写真修正技法で制作した銀塩写真です。
白石さんになぜこの技法で作ることになったのか聞きましたら、以前から興味があったこの技法を、東京都写真美術館での『芸術写真の精華 日本のピクトリアリズム 珠玉の名品展』という展覧会での「雑巾がけ」のワークショップに参加したことがきっかけだそうです。そして、1920年代当時はもっぱら光の表現としてこの技法が使われたので、どうせやってみるなら現代ならではの違うことをやってみたいと思ったそうです。

『島影』の撮影当時はよく夜の山を歩いていて、暗がりの中で、しばらくして目が慣れてくると、"いつか見た風景"が浮かび上がってくるその感覚が好きだったそうです。そんな写真を撮り歩いていた時、この「雑巾がけ」技法で、光ではなく暗闇を表現したら面白いと思い始めたそうです。始めてみると、作るときの工程が、同じように暗闇の中に"いつかの見た風景"が浮かび上がるという夜の山の時の体感とリンクするものがあり、そこに雑多な思いが積み重なっていき、より愛着のある世界が生まれていったそうです。

そういう話を伺った後、見返すとこの本を以前見たときに抱いた不思議な感覚の魅力は、白石さん自身の感覚からくるものなのかと思いました。家に引き籠りの日々に新たな暗闇の楽しみをいかがでしょう。



蒼穹舎スタッフのお勧め本:
白石ちえこ写真集『島影』[2刷改訂版]
蒼穹舍/2019年3月3日 2刷発行
A4変型/上製/装幀:加藤勝也
モノクロ/72ページ/写真点数:43点
定価:4000円+TAX ※ 著者署名本
白石ちえこ2冊目で蒼穹舍では初になる写真集。作品は1920〜1930年代に日本のアマチュアカメラマンの間で流行した「雑巾がけ」とよばれる写真修正技法で制作した銀塩写真。
『物心がついた頃、ペンギン島に行ったという曖昧な記憶があるのだが、 島へ行く道すがら見かけた風景はぼんやりとしかよみがえらず、 現実離れした絵の中の風景のようでもある。(中略) 記憶の中で小さなシグナルを出すペンギン島は、まぼろしの島である。 その島影は、仄暗い記憶の底にゆらゆらと漂っている。』(あとがきより抜粋)

白石ちえこ写真集『島影』

白石ちえこ写真集『島影』1

白石ちえこ写真集『島影』2

白石ちえこ写真集『島影』3

白石ちえこ写真集『島影』4



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2020年05月12日

蒼穹舎スタッフのお勧め 5 松谷友美写真集『山の光』

コロナによる自粛で始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第5弾は、前回同様自粛延長のこの時期に刊行となった新作松谷友美写真集『山の光』です。

松谷友美さんは埼玉県出身で、2005年以来、数多くの展覧会に参加。この本は蒼穹舎からは2冊目の作品集です。2014年に刊行した前作「六花」は東北を主体に東日本を旅して綴った写真でしたが、今回の『山の光』は西日本を旅して撮影した作品で纏められています。日本国内からフランスまで様々な旅を通して撮影を続けてきた松谷友美さんが旅を一旦休止しようと思い、そこで、旅を辞める前に纏めようということで作られた今作は、静かに深く印象的な珠玉の一冊になっています。

松谷友美さんの撮る風景が好きな私は、楽しみにしていた本が出来上がり、お店に届き、手に取って見たとき、前作「六花」では雪国の空気の澄んだ感じの印象が強かったのですが、この『山の光』では西日本の曇りがちな空気のもたらす微妙な空気感が静かに染み込むように伝わってきました。そして、またしても松谷さんの撮る風景の世界に静かに浸る心地よさを感じるのでした。家でこもるこの頃の日々におすすめです。



蒼穹舎スタッフのお勧め本:
松谷友美写真集『山の光』
蒼穹舎/2020年5月18日発行
上製/B5変型/カラー
56ページ/写真点数:50点
装幀:中村健
定価3600円+TAX ※ 著者署名本
『晴れた日を好ましく思うことと、季節感のない強い日差しを憂うこと。
すれ違う町の人の顔が都会の人と変わらなく見えること、(中略)
いくつかの矛盾のなかで立ち止まり、
長い読書にしおりをするようにこの本を作りました。
まだ見ぬ知らない景色を思っています。』(あとがきから抜粋)
松谷友美写真集『山の光』

松谷友美写真集『山の光』1

松谷友美写真集『山の光』2

松谷友美写真集『山の光』3

松谷友美写真集『山の光』4

松谷友美写真集『山の光』5

松谷友美写真集『山の光』6


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2020年05月08日

蒼穹舎スタッフのお勧め 4 原隆志写真集『ヤギと棘』

コロナによる自粛で始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第4弾は、自粛延長のこの時期に刊行となった新作原隆志写真集『ヤギと棘』です。

原隆志さんは島根県安来市生まれで、九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、九州で写真家としてしばらく活動をしたのち故郷に帰り、1993年に植田正治さんが主催のCircle"U"に誘われ、最年少にして参加、最後のメンバーとなり植田正治さんに師事します。以来長い活動の中、今作が初めての写真集になります。

「眠る山羊」が印象的な表紙のこの本を手に取って捲っていくと、島根をはじめとした中国地方を中心に、大阪や東京も含めた日本の風景が印象的なモノクロの写真で綴られていきます。植田正治さんの最後の弟子ということが頭に過ぎるからか、植田さんの写真にありそうな世界に思えてくるのですが、ここにあるのは植田さんとは別の印象を残す独特の写真世界が展開しています。特に作家自身のプリントによるモノクロ世界が素晴らしい。6×6フォーマットの安価でお遊びカメラとも言われるホルガを使って撮影しているものと、普通のカメラを使った写真と区別がつかない美しい世界が連なります。以前展示していただいた時もそうでしたが、そのプリントのうまさはこの写真世界により深い味わいを加え、作者があとがきで書いている「『ヤギと棘』と題する写真群が 五感を通じて深く染み渡ることを切に願う。』という言葉通りの体感をしている自分がいることに気付きます。

この自粛でお店になかなか来れないとは思いますが、是非手に取っていただきたい一冊です。




蒼穹舎スタッフのお勧め本:
原隆志写真集『ヤギと棘』
蒼穹舎/2020年5月22日発行
上製/A4変型/モノクロ
104ページ/写真点数:94点/350部
ブックデザイン:加藤勝也
定価:3800円+TAX ※ 著者署名本
『現像液の中で印画紙が揺らぐ。 しばらくすると「眠る山羊」がゆっくりと浮かび上がってきた (中略) 暗室は特別な世界。この領域では神通力を使い果たすが如くパワーを消費する。 ネガに閉じ込められた現実は、私の記憶を幻覚させ刺刺すもののみを選別して解放させていく。そして写真への再生が始まる。 私にとって写真を再生させる場面は、地域や場所がどこであろうと私の波動に些細な揺さぶりをかけてくる世界を最も大切にしている。 こうしたなかで生まれた「ヤギと棘」と題する写真群が 五感を通じて深く染み渡ることを切に願う。』(原隆志「再生する写真」より抜粋)
原隆志写真集『ヤギと棘』

原隆志写真集『ヤギと棘』1

原隆志写真集『ヤギと棘』2

原隆志写真集『ヤギと棘』3

原隆志写真集『ヤギと棘』4

原隆志写真集『ヤギと棘』5

原隆志写真集『ヤギと棘』6


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2020年05月01日

蒼穹舎スタッフのお勧め 3 小川康博写真集『The Dreaming』

コロナによる自粛で始めた蒼穹舎スタッフのお勧め本ブログ第3弾は、近刊の中でも異色の一冊である小川康博写真集『The Dreaming』。

小川康博さんがカメラを手に旅に出てからの27年間に撮り続けてきた世界各地、中国、インド、ミャンマー、ベトナム、カンボジア、チベット、グアテマラ。日本国内では北海道、秋田、福島、山形、栃木、福井、新潟、長野、島根。27年という長い時間と雰囲気も大きく異なる多くの場所で撮られた写真を纏めた写真集です。

この本を手に取って見てみると、時間と場所が異なる様々な写真が入り乱れているはずなのに、ページを捲ると時間と場所が何の違和感もなく一つの世界に見えてくる。まさにタイトル通り夢のような世界が展開します。

スタッフ、オススメの一冊です。


蒼穹舎スタッフのお勧め本:
小川康博写真集『The Dreaming』
蒼穹舍/2020年2月14日発行
A4変型/モノクロ/ブックデザイン:加藤勝也
並製/104ページ/写真点数:86点
定価:3600円 + TAX ※ 著者署名本 

『ぶ厚い遮光のカーテンと二重扉によって外部から遮断された暗室の内部はまるで海の底のように静かだ。そんな深い静寂の中で私の黙想は続いている。カメラ片手に旅へ出るようになってから27年。27年?神戸港から上海行きのフェリーに乗りこんだあの日からまだそんなに経っていない筈なのに。まるで夢のようだな、と思う。夢ーあるいは本当にそうなのかもしれない。フェリーに乗り込んだあの春の昼下がりから未だ覚めることのない、遠い汽笛の余韻のような淡いまどろみ。』(あとがきより抜粋)
小川康博写真集『The Dreaming』

小川康博写真集『The Dreaming』1

小川康博写真集『The Dreaming』2

小川康博写真集『The Dreaming』3

小川康博写真集『The Dreaming』4

小川康博写真集『The Dreaming』5


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