2008年07月08日

「三面記事小説」角田光代

三面記事小説


「この小説は実際の事件を発想の発端にしているが、フィクションであり事実とは異なる。」と冒頭にあるように、新聞の三面記事の6つの事件の顛末を、角田さんの想像で小説にしたものです。
もととなる記事はどれも新聞やワイドショーで目にした覚えのあるものばかりです。でも事件のあまりの多さに、既に「そういえばそんな事件もあった・・」という状態になってます。
人が犯罪を犯す時、犯罪に足を踏み入れてしまうまでには、いろいろな状況の積み重ねや心の動きがあります。そして犯罪を犯してしまうその一瞬で、新聞の片隅で目にする小さな記事の事件でも、当事者にとっては日常だけじゃなく人生がが一変しちゃうんですよね。そこに至る心の動きがリアルに描かれていて、これが現実の顛末なのでは・・と錯覚してしまいそうになりました。みんなどこにでもいる普通の人たちなのに、気がついたらそうなっていたというのがリアルで怖かったです。
新聞の片隅の小さな記事からこれだけの物語を発想してしまう角田さん、すごいです。新聞記事が冒頭にあるんで、結末は分かっているのにぐいぐい読まされました。

内容説明
バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡…。誰もが滑り落ちるかもしれない記事の向こうの世界。現実がうみおとした6つの日常のまぼろしを、鮮やかに描いた小説集。


「愛の巣」26年前に殺害 男自首 区画整理で発覚恐れ 元自宅床下から遺体
仲の良い姉妹だったのに、姉は要塞のようにトタンを積み上げた異様な家に夫とともにこもってしまった。

これは不思議な事件だって思った記憶があります。何で家の人が気付かなかったんだろう何で口をつぐんでいたんだろうって。でもこの小説を読むと何となく納得してしまいます。って、これが事実じゃないんですけど、そう思わせてしまうものがあります。


「ゆうべの花火」警察に相談 闇サイトで不倫相手の妻の殺害を依頼した32歳女逮捕 
初めは男の方が私のことを好きだったのに、いつの間にか立場が逆転した不倫関係。もとの関係に戻りたい女がしたことは・・。

記事を読んだ時、現実にこんなことあるんだろうか?何考えてたんだろう?って思ったんですが、現実にあったんですよね。現実は小説より奇なりと言うけれど、まさにそんな感じの事件です。でもずぶずぶ深みにはまっていく様子がリアルで、ちゃんと事件に着地してるのがすごいです。


「彼方の城」16歳男子高生にみだらな行為 38歳女逮捕
離婚してから荒れ放題の家庭。高校生と中学生の子供がいる38歳の愛子は息子と同じ年の少年に声をかける。

これはせめて愛情があったら・・って思いたいところですが、実際はこんなとこなんだろうなとも思います。愛情があったらなおさら青少年にそんなこと絶対しないです。


「永遠の花園」担任給食に薬物混ぜる
中学生の時、亜美と菜摘はとても仲がよかった。今は別々の学校に通っているけれど、私たちの間には色あせることのない記憶がある。

この事件「なめこ汁」に混入っていうのが妙に印象に残ってます。私は単純に、むかつく担任に薬物混ぜちゃったんだろうなって思ったんですが、こうして角田さんの小説になって読んでみると思春期の女の子の気持ちが痛いくらい詰まっていて、こういうのもあるかも・・って思いました。


「赤い筆箱」中一女子殺される 自室で勉強中 男が押し入り
私の色は赤やオレンジ、妹は青や緑。小さいころからそう決まっていた私たち姉妹。でも、妹が私の受かった中学の受験に失敗したことから二人の関係は変わってしまった。

痛々しい話でした。こんな親いるわけない!って思ったのだけれど、これももしかして彼女の心の目を通してしまってたからなのかも・・。そうでなかったらひどすぎます。


「光の川」介護疲れで母親殺害容疑
認知症が進み意思の通じなくなった母と暮らし始めた40代の輝男。介護のため夜も眠れず体がもたなくなり会社を辞め介護に専念するものの、働くことのできる年齢ということで、役所で生活保護を断られてしまう。

これはなんだか人ごとと思えず、読んでいていたたまれない気持になりました。まだ現実には直面してないんですが、介護する側もされる側もいつかは通る道かもしれませんから・・。主人公が追い詰められていくのがすごくよくわかって、辛かったです。そしてもしこれをたったひとりで背負わなければならなかったら、私だってこうなるかも・・と思うと怖くなりました。
soleil1 at 13:07│Comments(9)TrackBack(5) 角田光代 

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1. 「三面記事小説」「マザコン」感想 角田光代  [ ポコアポコヤ ]   2008年07月12日 09:41
本当は「予定日はジミーペイジ」が読みたかったのだけれど、図書館にまだ入っておらず、その変わりに他の角田光代さんの新刊2冊を借りて来ました。
4  横浜美術館がまた新しい試みに挑戦だ。  4人が創る「わたしの美術館」展 〜 茂木健一郎 はな 角田光代 荒木経惟 何をやっているかと思ったら、横浜美術館で所蔵している作品の中から、それぞれの人たちの感性や、あるいは考え方にしたがって、作品を選び出してもら...
3. 角田光代『三面記事小説』  [ 時折書房 ]   2008年07月17日 17:51
4 三面記事小説 三面記事から垣間見る世の中と角田光代ワールドとの抜群の親和性について考えてみる 内容(「MARC」データベースより) バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡…。誰もが滑り落ちるかもしれない記事の向こうの世界。現....
4. 角田光代 『三面記事小説』  [ 映画な日々。読書な日々。 ]   2008年08月03日 15:09
三面記事小説/角田 光代 ¥1,300 Amazon.co.jp バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡…。誰もが滑り落ちるかもしれない記事の向こうの世界。現実がうみおとした6つの日常のまぼろしを、鮮やかに描いた小説集。 実際の...
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小説「三面記事小説」を読みました。 著者は 角田 光代 新聞の社会面に小さな記事として実際に掲載された事件を元に 書かれた6つの短編集 実際にあったといっても、その裏側、その向かう側は想像で 大かたはフィクションといっても良いかも 6つの事件、どれもが記事...

この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2008年07月12日 09:47
juneさん、こんにちは!
赤い筆箱、こういう話を読むと、(同性の兄弟(姉妹)の・・・ってお話、結構ありがちですよね・・・)
 
私個人としては、子供の頃から、そして現在も、お姉ちゃんが欲しくて凄く憧れたんだけれど、もしも、もしもだけれど、こんな風に比較されたり、劣等感を感じたりするなら、いない方が良いかな・・・とか、思ったりしてしまいます・・。
2. Posted by june   2008年07月13日 19:53
>latifaさん
こんばんわ!
私は一人っ子なんで、兄弟が欲しくて、特に姉妹っていいなあって思ってたんですけど、逆に比べられやすかったりしてライバル心の方が勝ってしまうこともあるのかもしれませんね。人の心ってホント難しいものですね・・。
3. Posted by ディック   2008年07月13日 22:14
角田光代さんて、一、二作しか読んだことがなかったのです。
それが、横浜美術館で短編を四つ読みました。同美術館の収蔵作品から角田さんの感性で選んだものを展示するという企画がありまして、その中から四枚、絵から触発されて書いた短編を四作、発表しているのです。
展示しているのを読むのですから、ほんとうに短いのですが、いやあ、上手いんですよね。感心してしまいました。
4. Posted by june   2008年07月14日 22:36
>ディックさん
横浜美術館はおもしろい企画展をするんですね!そういう企画を、大きい美術館でするなんてすごいなぁ。近くだったら絶対見に行ったのに・・。
絵に触発されて書かれた作品、絵を見ながら読んだらおもしろそうです。角田さんはそういうのを書いても本当にうまそうです。これは三面記事をもとに作り出した物語ですが、角田さんが好きな絵から発想した作品、どんなものかすごく気になります。いつか本に収録されるといいのですが。
5. Posted by 時折   2008年07月17日 17:55
どうも。
TBさせていただきました。
角田さん、本当に背筋凍るようなうまさ、
ですよね。
またお邪魔します。
6. Posted by june   2008年07月22日 22:04
>時折さん
こんばんわ。
角田さんは本当にうまいですよね。
事件の裏には本当にこんなドラマがあったのでは・・ついそう思ってしまうくらいでした。
7. Posted by masako   2008年08月03日 15:11
実際の事件の概要は違うんでしょうけれども、もしかしたらこういう背景があったのかもしれないな、と思わせる上手さがありましたよね。

全くの他人事ではなく、何か一つ間違えたら自分にもふりかかりそうな感じでちょっと怖かったです。特に最後の「光の川」はいろいろ考えてしまいました。
8. Posted by かなかな   2009年04月05日 20:14
角田さんの想像力にただただ驚き、感服した一冊でした。
誰もが見過ごしてしまうような事件から、よくぞここまでの物語を作りだしたなあと。
巧いですよね。
人が人を殺してしまうまでの過程がどんなものなのか、普通は考えないですよね。「えー!」とか「そんなことで」とかその時は驚くけど、それまでで、自分の中に取り込んでまで考えないです。それをしてしまう角田さんはスゴい。

9. Posted by june   2009年04月06日 21:27
>かなかなさん
そうなんですよね。ニュースを見て、「変な事件だなぁ」とか、「どうしてこんなことになったんだろう?」と思っても、その背景にあるかもしれないものにまではなかなか思い至りません。
かなかなさんが書いているように、角田さんは自分の中にとりこんでつきつめていくんでしょうね。本当にすごいと思います。

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本を読むことが大好きです。家事や仕事の合間にちょこちょこと読んでいます。
このごろは中学生になった子供たちと同じ本を読んで、感想をあーでもないこーでもないと話すことができるようになりました。

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