2009年08月13日

「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ
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評判がいいのは知ってたのですが、ルールもわからない馴染みのないチェスのお話なんて大丈夫だろうか・・と心配だったのです。それが、読み進めば読み進むほどのめりこみ、物語の海の中深く潜っていくように夢中になってしまったのです。狂気をはらんでなお、危うく静かで美しいバランスを保つ小川さんらしい世界は一見シュール、なのに涙が出るほどに温かくてすばらしいものでした。

2009年は小川洋子さんの最高傑作で始まります。天才チェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡の物語。廃バスに住む巨漢のマスターに手ほどきを受け、マスターの愛猫ポーンを掻き抱き、デパートの屋上に閉じ込められた象インディラを心の友に、チェスの大海原に乗り出した孤独な少年。彼の棋譜は詩のように美しいが、その姿を見た者はいない。なぜなら……。海底チェス倶楽部、からくり人形、人間チェス、白い鳩を肩にとまらせた美少女、老婆令嬢……やがて最も切なく愛(いと)おしいラストへ。めくるめく小川ワールドをご堪能ください。(OM)  文藝春秋書誌ファイルより


チェスのルールは将棋に似ているようです。キングが王、ビショップが角、ナイトは桂馬、ルークは飛車、ポーンは歩、クイーンが金銀合わせた感じ?のようなので、そんなイメージで読みました。将棋に詳しいわけではないんですけど、どちらも海のように広がる世界というイメージが一致します。

少年は生まれたとき唇がくっついていたため、手術をして脛の皮を唇にもっていったために、唇から産毛が生えていて、そのことで友達からからかわれていました。だから大きくなりすぎたために、デパートの屋上から降りることができなくなった象のインディラ、家と家の隙間から出ることができなくなった少女ミイラが少年の友達。そんな少年がある日回送バスに住む巨漢のマスターと出会い、チェスの手ほどきを受けるようになり、チェスに魅せられていきます。

バスから出ることができなくなるくらい太ってしまったマスターが亡くなると、少年は大きくなることを拒否するようになります。そしてチェスの腕を頼りに海底チェスクラブ、老人マンションエチュードと流れてゆきます。回送バスの中での、お菓子の甘い匂いに包まれたマスターとポーンと過ごす時間、リトル・アリョーヒンとして人形の中に入り、ミイラとともにすごした海底チェスクラブ、そして老人たちと夜毎チェスをした老人マンションエチュード。どれもがどこか別世界の出来事のようなのに、それぞれのエピソードは少し悲しくてあたたかくてじんわりと心にしみてきました。
特に好きなのは、祖父の家具修理の作業場での老婆令嬢とのチェスの場面。どれだけ説明されてもコマの動きはよくわからないのですが、それでもそれがどんなに素晴らしいのかわかるような、胸の震えるような場面なのです。ゲームを見守る祖父母と弟、そしてリトル・アリョーヒンと老婆令嬢、それぞれの思いがあふれるように感じられて、涙が出ました。

ところでこの小説を読みながら、小川さんの短編集「夜明けの縁をさ迷う人々」の中の「イービーのかなわぬ望み」というエレベーターに住む男の子の話を思い出しました。体の成長を止めてしまうというだけでなく、どちらも現実感の薄い不思議な世界なのに、悲しくて美しくて、そしてあたたかいというのも一緒でした。そういえば、その短編集の中にはチェスのお話もありました。小川さんはチェスがお好きなのでしょうか。
soleil1 at 21:42│Comments(12)TrackBack(8) 小川洋子 

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1. 猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子  [ 苗坊の徒然日記 ]   2009年08月13日 23:53
猫を抱いて象と泳ぐ 伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。 触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。 心温まる、少し物悲しい作品でした。 インディアという、デパートの屋上に閉じ込めら....
2. 猫を抱いて象と泳ぐ◆小川 洋子  [ T-SAITO 読書日記 ]   2009年08月14日 07:53
『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川 洋子 (著) 価格: ¥ 1,780 単行本: 3
3. 『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子  [ Roko's Favorite Things ]   2009年08月14日 10:02
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この記事へのコメント

1. Posted by 苗坊   2009年08月13日 23:52
こちらにも失礼致します。
素敵な話でしたね〜
私も噂を聞いて、手に取りましたが裏切られなかったです。
チェスのルールは全く分からなかったですが、それでも十分楽しめました。
アリョーヒンとマスターの会話がとても好きだったので、突然の別れは本当に悲しかったです。
そして、ミイラとも、あとちょっとだったのにと思わずにはいられなかったです。
2. Posted by t-saito   2009年08月14日 07:47
とても好きな本です。
水底に光るガラス細工のような美しさ。
冷たく、儚く、キラキラ光っています。

トラックバック送らせてもらいました。
ありがとうございました。
3. Posted by Roko   2009年08月14日 10:05
juneさん☆おはようございます
駒の動かし方でどんな人か分かってしまうという話が出てきましたが、最近いろんな場所でそういう事って出てしまうのだなぁと感じることが増えました。
美しい心を持ち続けることの大切さと難しさを、ヒシヒシと感じる今日この頃です。
4. Posted by かなかな   2009年08月15日 15:15
私もこれは感動でした。美しい文章に哀しくて切ないながらも優しいお話。小川さんの美学って素敵だなと思います。読み終わってその静かで深いチェスの世界を味わってみたくて、子供達とやりました。3人の個性が出て面白かったです。私もじっくりと次の手を考えたり、2つ先のことを考えたりとゆったりとした時間が過ごせました。
でも、これが本当に勝負の世界だともっと緊張を強いられるんでしょう、そんな精神力はもっていないかも(笑)
イービーの話、似てますよね。でも、すごく印象的です。小川さんの描くこうした世界はとても好きです。
5. Posted by june   2009年08月18日 20:13
>苗坊さん
チェスのルールを知らなくても、こんなに楽しめるとは思いませんでした。そういえば数学が苦手でも「博士の愛した数式」はよかったし、こんな風に魅力を伝えてしまう小川さんは、本当にすごいと思います。
アリョーヒンとマスターの場面はよかったですよね。だから別れは本当に悲しくて・・・。ポーンだけでも戻ってきてくれないかな・・ってずっと思いながら読みました。
6. Posted by june   2009年08月18日 20:15
>t-saitoさん
こんばんわ。本当に美しい物語でした。t-saitoさんの
>水底に光るガラス細工のような美しさ。
という表現、まさにこの小説の美しさだと思います。いつまでも胸の中にしまっておきたい物語でした。
7. Posted by june   2009年08月18日 20:18
>Rokoさん
こんばんわ。
そういえば、ゴルフなんかでも人柄が出てしまうというし、勝負がかかった時など特にその人の内面が出てしまうかもしれないですね。怖いなぁ・・。常に清く正しく美しくありたいものです。
8. Posted by june   2009年08月18日 20:29
>かなかなさん
すごい!かなかなさんはチェスができるんですね!しかもお子さんまで。チェスの道具も持ってるんですよね?かっこいいなぁ〜。
それにしても、やっぱり個性が出てしまうんですね。確かに将棋でも、攻めまくる人とか、守り重視の人とか、いろいろあります。それだけならいいけれど、汚い手を使ったらやっぱりそういう人だということになりますよね。怖いなぁ・・。

イービーの話とか、こういう小川さんの世界、いいですよね。あらためて実感しました。
9. Posted by 水無月・R   2009年08月18日 23:08
juneさん、こんばんは(^^)。
「静謐」という言葉がぴったりな、美しい物語でしたね。
静かな夜、チラチラと瞬く、小さな美しい光達。そんな印象がありました。
相手の戦い方に共鳴する、美しい駒運び。
静かで、優しく、暖かい、本当に素敵な物語でした。
10. Posted by june   2009年08月24日 14:44
>水無月・Rさん
こんにちわ。本当に本当に素敵な物語でした!

>静かな夜、チラチラと瞬く、小さな美しい光達。そんな印象がありました。

私もどんな言葉でこの物語を言い表すことができるだろうと一生懸命考えたのですが、表わしきれななくて・・。水無月・Rさんの言葉を反芻して、物語の余韻に浸ってます(*^_^*)
11. Posted by ディック   2009年09月06日 21:10
へぇ、なんだかすごい話ですね。
小川洋子さん、いままでほとんど気に入った作品ばかりだから、そけならこちらも…。
チェスは駒の種類と動かし方くらいならわかります。
12. Posted by june   2009年09月11日 21:38
>ディックさん
小川さんの作品がお好きなら、これは絶対おすすめです!自信をもっておすすめできます。チェスをご存知ならば、私よりきっともっと楽しめることと思います。うらやましいです。

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