2010年02月26日

「f植物園の巣穴」梨木香歩

f植物園の巣穴
f植物園の巣穴
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梨木さんの「家守綺譚」の世界が好きなので、これは絶対に好きな世界なはずと思って読み始めました。「家守綺譚」は主人公とともに狼狽しながらも、知らないうちにその世界を違和感なく受け入れてしまってたのですが、こちらは狼狽しながら受け入れつつもさらにどんどんと混沌とした深みにはまっていくという感じ。こちらの方が少し入り込みづらいかもしれません。
萩原朔太郎さんの「猫町」を思い出したのですが、歯痛から三半規管に発想が飛んだのかも。不思議な世界を描きながらも端正で、端正でありながらもどこかとぼけてユーモラスなのもよかったです。
ラストは思わぬ着地点に、こういう話だったんだ!と驚きました。そしてよかった・・と、心からほっとしました。梨木さんのこういう世界はやっぱり好きです。

歯痛に悩む植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。怪しくものびやかな21世紀の異界譚。
朝日新聞出版HPより


異界とはいってもどこか懐かしく、郷愁を誘う風景にはすごく惹かれました。だからか歯科医の家内が犬でも、大家の頭が雌鶏でも、最初は主人公と一緒に驚いたりするのですが、主人公と同じようになぜか知らないうちにそれをすんなり受け入れていました。
今まで出会ってきた千代たちの記憶がよみがえり、夢と現実が混じりあうような混沌の中、主人公は坊と出会ってから時すら混沌とした、記憶の大きなうねりの中に身を投じていきます。そこからは展開もスピーディーで、前半よりも読みやすくなって読んでいてドキドキしてしまいました。

坊が何者だったのかがわかり、主人公の記憶の旅の意味がわかった時、大変だったでしょうが主人公はウロに落ちてよかったんだと思いました。そしてそれは彼だけでなく彼の大切な人たちにとってもよいことだったなぁと思って、ほっとしてあたたかな気持になりました。

ラストまで読んで、植物を愛する主人公も、実は梨木さんの小説にしばしば登場する男の人と共通するものがあるのに気づきました。梨木さんはこういう男性に対して、こんなふうに自分の中を覗かせて気づかせたいって思ってるんでしょうか。
soleil1 at 23:26│Comments(6)TrackBack(3) 梨木香歩 

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1. 『f植物園の巣穴』/梨木香歩 ◎  [ 蒼のほとりで書に溺れ。 ]   2010年02月27日 23:40
この心地よいまでの、心もとなさ。 何かがおかしいと思いつつ、どこからどうズレてしまったか分からない、現実と幻想の合間を漂いゆくかのような、浮遊感。 やっぱりイイですねぇ??、梨木香歩さん。 f郷にある植物園に勤める男が、ある日ふと、違和感に気付く。 そこか...
2. f植物園の巣穴 梨木香歩  [ 苗坊の徒然日記 ]   2010年02月28日 14:15
f植物園の巣穴 植物園の園丁は、椋の木の巣穴に落ちた。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、幼きころ漢籍を習った儒者、アイルランドの治水神…。動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす会心の異界譚。 何だかもの凄く久しぶりな...
3. 『f植物園の巣穴』 梨木果歩  [ Roko's Favorite Things ]   2010年05月09日 09:48
f植物園の巣穴posted with amazlet at 09.09.10 梨

この記事へのコメント

1. Posted by 水無月・R   2010年02月28日 00:00
juneさん、こんばんは(^^)。
ふわふわと、非現実的な世界を歩いていく様子が、とても素敵でしたね。
後半の、〈坊〉との旅は、いろいろな暗喩を含んでいて頭をフル回転させながら読みました。
美しくて、ちょっと切なくて、でもラストにはちゃんとホッとできる、素晴らしい物語でした。
2. Posted by 苗坊   2010年02月28日 14:12
こんにちは^^
非現実的な世界を、最初は上手く入っていくことが出来ず、読むのに苦労しました。
だんだん慣れていき、ラストは私も驚き、そして良かったと思いました。
梨木さんの作品は、美しいと言う言葉が似合います。
3. Posted by Roko   2010年03月01日 22:58
juneさん☆こんばんは
どうしていいのか分からない世界に足を踏みこんでしまって、ドキドキする感じや、少しずつ馴染んでいく感じが、いいなぁって思いました。
見慣れた風景の中にある不思議な世界に、わたしも行ってみたいような気持になってしまいました。
4. Posted by june   2010年03月02日 20:09
>水無月・Rさん
こんばんわ。
非現実的な世界をふわふわと歩いていく様子、素敵でしたよね。自分がこんな世界にはまりこんでしまったら大変そうだけど(笑)。
坊との旅といい、こんなふうにこの話が展開していくとは思っていなかったのですが、ラストは思いがけず温かい気持ちになって、私もほっとしました。
5. Posted by june   2010年03月02日 20:12
>苗坊さん
私も最初はちょっと入り込めずにいたんですが、知らないうちに引き込まれていて、坊との旅のあたりはすっかり不思議な世界にのめりこんでました。
梨木さんのお話はちょっと厳しいところとか怖いところもあるけれど、美しいですよね。
6. Posted by june   2010年03月02日 20:14
>ROKOさん
こんばんわ。
こういう不思議な世界、ひかれますよね。私も行ってみたいような気がします。でもそれって怖いものみたさかも。こんなに長いことこんな世界にいなければならないとしたら・・・。主人公みたいに受け入れられるかなぁ・・。

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本を読むことが大好きです。家事や仕事の合間にちょこちょこと読んでいます。
このごろは中学生になった子供たちと同じ本を読んで、感想をあーでもないこーでもないと話すことができるようになりました。

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