原田マハ

2009年06月19日

「キネマの神様」原田マハ

キネマの神様
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この頃とても気になっている原田マハさん。3冊目だけれど、これもすごくよかったです。この前に読んだ「さいはての彼女」の中の1編と似ている設定だったので、はじめは同じような話かな・・と思ったんですが、あちらがさわやかなヴァカンスストーリーならば、こちらは心にじわっとしみる家族の話。読み終えていいお話を読んだなぁと久々にしみじみと思いました。現実はこんなにうまいこといくわけないんでしょうけど、それでもいいんです。こんなふうに切なさにじわっとしたり、あたたかさにじわっとしたり、そんな気持ちを味わうために本を読んでいるという面もあるんですから。この頃あまり見なくなってしまったし、見るとしてもDVDがもっぱらなのですが、映画っていいなぁ、映画館っていいなぁ、そしてこういうことを伝えてくれた本ってやっぱりいいな!って思いました。


■内容紹介■
この世に映画がある限り、人々は映画館へ出かけていくだろう。家族と、友人と、恋人と…。壊れかけた家族を映画が救う、感動の物語
39歳独身の歩(あゆみ)は、社内抗争に巻き込まれて会社を辞める。歩の父は趣味は映画とギャンブルという人で、借金を繰り返していた。ある日、歩が書いた映画に対する熱い思いを、父が映画専門誌「映友」のサイトに投稿したことから、歩は編集部にスカウトされる。だが実は、サイトの管理人が面白がっていたのは父自身の文章だったことが判明。「映友」は部数低迷を打開するために、また歩は父のギャンブル依存を断つために、父の映画ブログ「キネマの神様」をスタートさせた――。
著者は、大手商社や都市開発企業、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、フリーのキュレーターとして活躍したという異色の経歴の持ち主。映画を媒介として壊れかけた家族が再生していく様を描く、切なくも心温まる長篇です。(YB)
文藝春秋書誌ファイルより


映画とギャンブルが好きで借金を繰り返す父親なんて、現実だったら最悪です。でも、歩の父のゴウちゃんはなんだか憎めません。そしてゴウちゃんの書く映画の感想は、素直であたたかくて映画への愛に満ちてます。知らない映画だったら見てみようかなと思わせるし、自分も好きな映画だったら「そうそう!」と思わずにっこりしてしまうものなのです。そこで自分としてはちょっと反省しました。本を読んでこうして感想文をブログに書いたりしてるんですが、良かった本、大好きな本だけを取り上げてるわけではなくて、読んだ本の感想を備忘録のように書いてるんで、否定的なことも書いてしまうわけです。特にここのところそういう傾向があって気にしていたところに、このゴウちゃんのブログの文章です。鋭い批評ならいざしらず、愛がない感想なんて書かない方がいいのかななんてことも考えてしまいました・・。
そしてゴウちゃんに挑むかのような書き込みをしてきた謎のブロガーローズ・バッド。ローズ・バッドの映画評は、挑発的なのだけれど、的確で背景まで考察していて読んでいてすごいなぁと思わずにはいられなかったし、わくわくもしました。そしてそこから2人の友情がはじまったというのがまた素敵なんです。アプローチは違っても同じものを愛するっていうのはこういうものなんでしょうね。こういうのいいなぁ。
かつて映画の黄金時代を気づいた「映友社」の女社長、口の悪い年下の同僚、サイトを管理するひきこもり、「テアトル銀座」の支配人にかつての同僚と、歩のまわりもにぎやかで、お仕事小説としても楽しかったです。みんなが集まるラストは最高でした。

映画のネタバレがあるようで、それがちょっと気になったのですが、最後の映画は、あれですよね。あの映画は私も大好きです!うちの母に勧めたら母も気に入って、それから若いころ以降再び映画を見るようになったというきっかけとなった作品でもあります。あれだったら納得です。
そして大学時代、銀座の裏通りや、桜上水なんかの小さな映画館に映画を見に行ったことを思い出しました。当時、映画好きの友達が何人かいて、彼女たちのお勧めをよく一緒に見に行っていたのです。ローズ・バッドももちろん、すぐにピンときました。あのシーンとともに。本の余韻とともに、あの頃見た映画も記憶の底から蘇ってきました。思いがけず素敵な本に出会えました。

2009年05月10日

「さいはての彼女」原田マハ

さいはての彼女
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「おいしい水」を読んで俄然気になっていた原田マハさん。原田さんというと恋愛小説というイメージだったのですが、これは帯にヴァカンスストーリーとあります。短編で読みやすそうだし、ヴァカンスストーリーってなんだろうと思いながら読んでみたらまさにそのとおり!描いているのはヴァカンスでした。そして、さわやかで読み終えたら心がほんのりと暖かく明るくなる読み心地もまさにヴァカンス。素敵な短編集でした。

[ 内容 ]
25歳で起業した敏腕若手女性社長、涼香。何もかも順調に見えた人生だが、失恋と社内の内紛で心も体もくたくた。失意のまま出かけたバカンスは、行き先違い!? 仕事も恋も120%の女性が緩やかに快復していく姿を描く


1話目から3話目に出てくる語り手の女の人たちは、脇目もふらず仕事に生きてきて、それなりの肩書をもっていたり、もっていたことがあったりというパワフルな30代。一見生意気そうで鼻もちならない女の人たちなのです。でも読んでいると彼女たちはそれぞれ必死だったりかわいかったり滑稽だったりで、気づいたら彼女たちの物語にすっかり引き込まれていました。
4話目は1話目のお話とのつながりから、書き下ろし?と思ったらやっぱりそうでした。1話目にでてくるナギという女の子がすごく好きだったので、彼女のお話が最後にまた読めたのがうれしかったです。

4つの短編、どれもそれぞれよかったです。でもやっぱり1話と4話に出てきたナギというハーレー乗りの女の子の存在がすごく大きかったです。ナギは語り手ではないのですが、彼女のまっすぐさは本当にさわやかですてきでした。読み終えてさわやかな気持ちとともに、大切なものに気付かせてもらったような気がします。さらりと読めるのに、こんな読後感を残してもらって、すごく幸せな気分です。そういえば私はハーレーはもちろん、バイクのこともほとんど何も知らないのに、何の違和感もなくすんなり読んでました。これもすごいかも。

「さいはての彼女」Ride to Land's end
涼香は有能な秘書の手配で、沖縄へのバカンスのはずが「女満別」の空港に降り立っていた。そこで出会ったハーレー乗りのナギ。涼香は彼女とタンデムすることになる。

「旅をあきらめた友と、その母への手紙」A Letter from arcana
順調だったはずの人生が思うようにいかなくなった5年前から大学時代の親友のナガラとの年に何回かの旅がはじまった。でも今回はハグ一人で修善寺に来ている。

「冬空のクレーン」Cranes in the Winter sky
志保は東京セントラルシティという大きなプロジェクトに携わっていたが、部下とのいざこざから会社を飛び出したうえに長い休暇を取り、年末の北海道に飛んだ。そして訪れた「タンチョウサンクチュアリ」でタンチョウレンジャーの天羽さんと会う。

「風を止めないで」Blowin' in the Wind
甲府に暮らすナギの母のところにある日訪ねてきた男はハーレー乗りで、事故で亡くなった夫に似ていた。

2009年02月07日

「おいしい水」原田マハ


おいしい水 (Coffee Books)
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美しい表紙とCoffee Booksというのにひかれました。Coffee Booksというのは岩波書店のシリーズで
ブレイクしながらコーヒーブック,わたしの愉しみマイブック,だれかに贈ってギフトブック,あたらしい本,生まれました.色んな味のコーヒーブックス,ほろにが・きもカワ・トキメキ・うめき・(笑)・(怒)・リアル・マジカル! 実力派小説家と気鋭の画家による花の競演シリーズ.おとなたちへ,とっておきのプレゼント.

というものだそうです。薄くておしゃれな装丁なので確かにぴったり。内容はというと、これはほろにがでしょうか。さらりと読みやすいけれど、もどかしさと切なさが心に残りました。

大好きな街が,通りが,喫茶店があった.大好きな人がいた.携帯電話もメールもないあの頃,会いたければ,待つほかなかった.知りたければ,傷つくほかなかった.私は何ひとつ,あなたのことを知らなかった.あの街で,大切なものを失った──.80年代の神戸を舞台に,若い恋の”決定的瞬間”をたどったラブストーリー.


今、安西の手元にあるのは、泣き顔と走り去る後姿の写真。それは震災の10年ほど前、大好きな神戸の街で学生時代を過ごしていた時に、大好きだった人が撮ってくれたものだった。

彼から言われた「こんなにかわいいひとやのに」というフレーズを何度も何度も胸の内によみがえらせたり、思わず手が震えてしまったり、「きらい」と答えて気持ちを全てみすかされてしまったり・・。はじめて夢中になる恋のはじめの初々しさが、自分にも覚えがあって妙に照れくさく思えました。そういえば恋のはじめって、世界のすべてがキラキラして見えたような気がします。
でも、安西が初めて夢中になった恋は、汚い大人の世界を容赦なく見せつける苦いものでもありました。正直言うと、ここまで汚い世界じゃないといけなかったのかなぁ・・って読みながら思いました。年上の人妻のパトロンがいたとかそれくらいじゃだめだったのかな、と。なんか違和感感じるくらい容赦なかったんで・・。

主人公の女の子が写真好きで、主人公が恋をするベベはカメラマンを目指してます。だからか、写真にしたらすてきだろうなと思うようなシーンもたくさんありました。舞台が神戸というのもあると思います。
そしてドアノーの「市庁舎前のキス」という作品が出てくるのですが、そういえばあの頃流行ってました。初めて見た時はドキドキとしたものです。で、そのあと友達と一緒に友達の誕生プレゼントに「市庁舎前のキス」のパズルを贈って、自宅にどうやって飾るんだ・・といわれたことも。おっしゃるとおりです。それも今はひたすら懐かしいです。

80年代というと、まさに私の若いころ。待ち合わせには携帯電話がある今では考えられないようなすれ違いがありました。待ち合わせの場所や駅を間違えたり、遅れそうなのに連絡できなかったり・・。渋谷駅の東横線の改札で何本も電車を待ったのを思い出して、ちょっと懐かしくて切ない気持になりました。そんな懐かしさというおまけもついた1冊でした。
伊庭靖子さんの絵は、最初は写真かと思いましたが、とろりと光るような質感が素敵でした。
本を読むことが大好きです。家事や仕事の合間にちょこちょこと読んでいます。
このごろは中学生になった子供たちと同じ本を読んで、感想をあーでもないこーでもないと話すことができるようになりました。

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