2005年07月29日

オサマ・ビン・ラディン独占インタビューの全米放送は可能か?

それに対して私は、誰かのインタビューを放送するということは、その人物やその行動に対し承認を与えることを示すものではないと答えました。
私がインタビューした人の中には、泥棒や詐欺師、児童虐待者、多くの人々の命を奪った独裁者までいました。
私が負っている責任は、このようなインタビューを適切な形で放送するということであり、それを皆さんに全く公開しないということではありません。

報道の自由は、評判の良い人物が、適切なことを言う場合には問題にはなりません。
問題になるのは、評判の良くない人物が、適切でないことを言う場合です。
放送するかどうかを決めるのは私たちです。政府であれ、他のどこかであれ、私たちに代わってそれを決める権限はないのです。

アメリカABCニュース「ナイトライン」キャスター  テッド・コッペル(Ted Koppel)氏

NHK・BS1で見たアメリカのABCニュース「ナイトライン」は、チェチェン独立派のシャミル・バサーエフ(Shamil Basayev:1965-)司令官に対する独占インタビューを放送するというABCの決定について、冒頭、ロシア政府から抗議を受けたことを伝えていました。


そして、在米ロシア大使館が書面で発表した抗議声明は、番組の最後に読み上げられていました。
要するに、この放送は自他ともに認めるテロリストに発表の場を与えるものであり、言語道断であるだけでなく、先のG8(先進国首脳会議)でも合意されたテロリズムの世界的な脅威に対する継ぎ目のない戦いの精神に背き、ロシア・アメリカの協力関係を損なうというのです。


なるほど、放送後に抗議を受けるのではなく、事前に放送内容をロシア側に知らせたほうが得策だと判断したということでしょうか。
ロシア側の反応は予想したとおりで、放送中止を申し入れてくる。

それを利用して「言論の自由のない国:ロシア」対「自由の国:アメリカ」という構図にして、放送すべきでない理由はいろいろあるけれども放送すべきだ判断した、それが「報道の自由」だと視聴者に訴えかけたわけですね。


インタビューを行ったロシア人ジャーナリストのアンドレイ・バビツキー(Andrei Babitsky)氏は、ロシアに攻撃された後も首都グロズヌイにチェチェン人以外で唯一人残ったジャーナリストであり、何度かロシア当局に逮捕拘束された経験を持ち、当局からはチェチェンに同情的な報道をすると見なされているそうです。

バビツキー氏は、チェチェン独立派のドク・ウマロフ(Doku Umarov)副大統領(Ichkeria Vice President)にインタビューしようとして、自分で車を運転してチェコのプラハからウクライナのケルチ(Kerch)に到着し、国境を越えてタクシーでイングシチア(Ingushetia)まで行き、そこで抵抗運動の関係者の出迎えを受け、夜遅くにネストブロスク(Nesterovsk)村まで行ってから別の車に乗り換えたところ、車内に前にも何度か会ったことのあるバサーエフ氏がいた。

予想外の事態にバビツキー氏は驚いただけでなく、テロリストとの共謀罪でロシア当局から告発されるのは間違いないと思ったそうです。
そして、バビツキー氏は、連れて行かれた、どこかわからない場所にある森の中のキャンプで、2日間、バサーエフ氏とその仲間数人と共に過ごし、インタビューを行いました。

【インタビューの内容はこちら】


インタビューの後、バビツキー氏は、テープをロシア当局に持ち込めば逮捕され尋問され、自分の言うことは信じてもらえないと思った、自分は当局を信用していないと述べて、テープをアメリカのABCに持ち込んだ理由を明らかにしています。

さらに、バビツキー氏は、バサーエフ氏をオサマ・ビン・ラディン氏の同類として扱うのは間違いだと主張します。

二人の動機は全く違います。
バサーエフ氏は、イスラム原理主義がベースになった思想を持っています。「目には目を、歯には歯を」という考え方です。
一方、ビンラディン氏の狙いは、西側社会、西側の価値観を破壊することにあります。
ビン・ラディン氏は「悪魔の世界」の撲滅を目指していますが、バサーエフ氏はロシアを破壊するだけで十分なんです。


う〜ん、この認識が問題ですね。
ABCのスタッフが書いた原稿を読んだのでなければ、バビツキー氏は相当にアメリカナイズされた人のようです。
「悪の枢軸」とか「罪のない市民を殺戮する彼らの心には、悪魔が潜んでいる」とかの表現を多用するブッシュ大統領には、キリスト教原理主義の影響が顕著だと思いますが、その裏返しで、アメリカのキリスト教右派は、イスラム過激派にも自分たちと同様の世界観が存在すると思ってるふしがあります。

このインタビューで見られるバサーエフ氏の信仰は、ユダヤ・キリスト教徒にも馴染みやすい「目には目を、歯には歯を」とか、死んだときの神の審判とか、普通だと思いますが、ビン・ラディン氏の考えだと説明されている「悪魔の世界を撲滅する世界観」は、まさにブッシュ大統領と好一対。まさに、互いに相容れない敵同士というわけです。

それから、バサーエフ氏の主張はともかく、事実関係は検証する必要がありそうです。
本当は、きちんとした構成で事件を考証して、言いっ放しにさせない工夫が要ると思うのですが、素材を入手すると直ぐに放送しちゃうのですよね。
特に航空機爆破については、アメリカの9.11同時多発テロでも、乗客の抵抗が墜落原因だとか国防総省へ激突したとかには疑惑があるようなので、大事な証言だとは思うのですが。


さて、この放送に対して、アメリカの視聴者の反応は?というと、ABCのウェブサイトには日本の放送局と違って掲示板がありました。

テッド・コッペルが、何百もの子どもの大量殺人者に「言論の自由」原理を使用したので、病気になりそうだ。
ウジ虫テロリストにそんなに長く公開の場を与えたこの日を、ABCは後悔するだろう。

ABCのモスクワ支局が閉鎖され、リポーターが追放され、ロシア市民によってABCニュースがボイコットされることを希望する。

ABCは今、文明の敵と付き合っている。
私は、彼らが喜んでオサマ・ビン・ラディンをインタビューするか、子どもを殺している最中に連続殺人犯を尋ねるだろうということに疑問を抱かない。

不道徳で無意味なジャーナリズムにふけるテッド・コッペルの「権利」は、犠牲者を防ぐためにテロリストを捕らえることより、彼には重要なのだ。テッド、そのかつらの下には脳があるのか?その趣味の悪いタイの後ろにはハートがあるのか?

例外的なほど低能のジャーナリストは、すべての技術をもって、ロシア政府に小便をひっかけ、視聴者の多くを疎外し、彼の利己的な必需品のために、公正と潔白を犠牲にした。
「言論の自由」に名を借りた無責任な新聞雑誌の慣習を、TVでも正当化し、彼らが試みたことは、非常に法外な偽善だ。

あなたの不注意で無情な行動の正当化を試みることで、私たちの知能を侮辱しないでください。集団殺人に道を開くことで、死んだ無実の人々を軽視しないでください。
今度、子供でいっぱいの学校が人質になった時、犠牲者の血であなたの手は染まるでしょう。

何人の女性および子供がロシア軍によって死んだか。この人の物語を聞いて、私は嬉しかった。私は彼と意見が一致するが、それは彼が行ったことを許すことを意味しない。
誰かを立腹させないように恐れて報告されるニュースは、私が聞きたいニュースではない。私は、事情に通じ、それで決定を下すことができるように、すべて知りたい。

何かが好きでない場合は、TVのスイッチを切ればいい。

オサマ・ビン・ラディンは、アメリカのジャーナリストから二度以上インタビューを受けているが、あまり支持を集めていない。バサーエフも同じで、テロ行為を合理化しようとしても、テロリストとして露出される。インタビューを受けた者の「悪」で、メッセンジャーを非難することはやめよう。

インタビューは放送するべきではなかった。それは、残忍な殺害者が、自分のしたことを弁解できる公開の場を与えていた。
この怒りは、ジャーナリストが、無罪の人々の生命の前に、軽率に自分の利益を置いたからです。

バサーエフと会見していた気取り屋は、テロリストのための広報係としてロシアにおいて有名です。
愛国心はどこに行ったのか?ナイトラインは、私たちのすべての命を横に置いて、世界中で反米感情を堅固なものにした。

愛国心は悪党の最後の避難場所です(サミュエル・ジョンソンの言葉)
私は、ブッシュ政権の無実のイラク人に対する残虐行為によって、今より反米感情が堅固になるような余地はもはや残されてないんじゃないかと疑問に思ってる。



掲示板が、思ったほど荒れていないのは、局のほうで手を入れているせいでしょうが、テロリストの敵がロシアということで黙認している(そして、おそらくは、登場人物がビン・ラディン氏となれば、最も激しい拒否反応を示すであろう)人々が、相当数いるはずだと思います。
冒頭のテッド・コッペル氏の言葉も、「アメリカの敵」を相手にしたときに、その真価が問われる、ということかもしれません。。。


【関連記事として】「人びとを怒らせない報道」を求められた人の言葉(2005/05/17)モザイク男に放送する価値はあるのか?(2005/05/26)

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この記事へのコメント

1. Posted by 旅限無   2005年08月06日 17:01
TBありがとうございました。「世界」と「日本」を分けて歴史教育をしている日本がグローバル時代に投げ込まれれば、欧米に吸い寄せられ、その時には欧と米との間には高い壁が存在することに驚き、「日本」に逃げ込めば、何処から何処までのが日本なのかが分からない。日本は古い国なのか新しい国なのか、そのつなぎ目を丁寧に扱わなかったツケが残っているのだと思います。イスラムという広大な地域で展開された芳醇で残虐な歴史など、キリスト教世界の歴史以上に他人事なのですから、ロシアとチェチェンとの対立関係など、何が何だかさっぱり分からないのが日本人でしょう。それを無視して当然のような報道をするからますます分からなくなるのだと思いますよ。

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