2005年09月09日

民主化と資源の関係(目的と手段の話)

8月12日、グルジアのサアカシュビリ大統領と、同国を訪問していたヴィクトル・ユーシェンコ(Viktor Yushchenko)ウクライナ大統領は「地域の民主化と自由の保護宣言」に調印し、「民主主義的選択共同体」を結成すると発表した。
「共同体」はバルト海から黒海、カスピ海の沿岸諸国の参加を想定し、地域における民主主義の拡大、人権擁護、紛争解決の協議の場とする。
関係国政府筋によると、旧ソ連のモルドバ、アゼルバイジャンのほか、欧州連合(EU)に加盟するバルト三国とポーランドなども参加の意向を示しているという。

NHK・BS1「今日の世界」のウクライナ特集は、こうしたウクライナの動きを伝えたうえで、これに対するロシア政府の反発の現れとして、これまで割安で供給してきた天然ガスを、今後はウクライナに対して現行の約3倍に相当する国際価格で売ると通知したと伝えていました。

「ヨーロッパに接近しようとするウクライナが、ロシアに資源外交で揺さぶられている」といった構図での解説ですが、別の見方もできるように思いました。

例えば、民主化政策ではなく、経済政策の有り様が資源の配分に結びついていると考えた方が簡単かもしれません。

8月27日、ロシア連邦タタルスタン共和国の首都カザンで開催されたロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連4カ国の首脳会議で、基本合意された「統一経済圏」のように、当初消極的な姿勢を示していたと伝えられていたウクライナが最終的には合意した際にも、この価格改定の話は出ていたようです。

「共同体」のほうは、今秋にウクライナで開かれる首脳会議に「オブザーバーとしてEU、ロシア、米国が招待される」との報道もあるように、ロシアとしても気になるところには違いありませんが、どちらかと言えばパフォーマンスの色彩が強いように思いました。


例えば、ウクライナの動きには関係ないと考えることもできます。
次のように、ロシアの「ウクライナ離れ」といった出来事も伝えられていますが、この場合はロシア寄りとされるベラルーシも同じ状況です。

Gas Pipeline in Ukraine9月8日、ロシアの政府系天然ガス企業ガスプロム(Gazprom)と、ドイツのエネルギー大手エーオン(EONG)、化学大手BASF傘下のウィンターシャルの3社は、ベルリンで、ロシアからドイツに直接、天然ガスを供給する「バルト海パイプライン」を建設する契約文書に調印した。プーチン大統領とシュレーダー首相も調印に立ち会った。
「バルト海パイプライン」は、ロシアのサンクトペテルブルク北方のビボルク(Wyborg)からドイツ北東部のグライフスバルト(Greifswald)まで、バルト海の海底約1,200kmを結び、総工費は57億ドル。

この海底パイプラインによって迂回されてしまうことになるポーランドやベラルーシなどが懸念を表明したと伝えられていましたが、これにはエネルギー安全保障上の理由だけでなく、陸上パイプラインの使用料収入がなくなるという現実的な問題もあります。

2002年7月9日当時、ウクライナ、ロシア、ドイツは、欧州向け天然ガスの安定的供給を目的とした「ウクライナ・ガスパイプラインシステム管理・開発国際コンソーシアム」の創設のための調査に関する協定に署名し、同年10月には、ガス分野でのウクライナ・ロシア政府間協定が署名され、コンソーシアム設立に関するウクライナのナフトガス(Nafthaz)社とロシアのガスプロム社の合意が成立していました。

2003年4月23日にも、ウクライナ政府とロシア政府は、キエフでドイツ代表もまじえてウクライナのガスパイプラインを改善する国際企業体についての協議したとの報道がありましたが、ウクライナのガスパイプラインはヨーロッパへのガス供給の90%が通過し、全長3万5200kmと伝えられていました。

しかし、それにも関わらず、結局のところロシアは、ウクライナを迂回するパイプラインの建設を決断したことになります。
これなどは、ウクライナの西側への接近が原因の制裁だと言えるでしょうか?
天然ガスの価格改定も、新規設備投資にかかる費用を料金に転嫁しようとしていると考えることも可能でしょう。


ウクライナについては、「領域内の充実した石油・天然ガスのパイプライン網は、中央アジア産の石油・天然ガスの対欧州輸送ルートとしての役割を担い、欧州エネルギー安全保障に深く関わっており、それを梃子にして、外交目標である欧州への統合の実現を目指している」との見方もありますが、これは次の例をどのように考えるかで意見が分かれると思います。

Oil Pipeline in Ukraine黒海沿岸の都市オデッサ(Odessa)からウクライナ西部の都市ブロディ(Brody)を結ぶ全長674kmのオデッサ・ブロディ石油パイプライン(the Odessa-Brody oil pipeline)は、ウクライナの国有企業ウクルトナフタ(Ukrtransnafta)社が建設し、総工費は2億ドルで2001年8月に完成した。
このパイプラインの完成によって、将来的にはポーランドへの延長、ドル−ジュバ・石油パイプライン(Druzhba oil pipeline)を経由してハンガリー、チェコ、クロアチアへ石油を供給するなど、カスピ海産原油を対欧州向けに輸送する可能性は大きく拡大した。

ところが、顧客として想定していたカスピ海原油の供給が十分でなかったためにパイプラインが遊休化したことで、ロシア側はドルージュバ・パイプラインに接続して、ロシア産原油をブロディからオデッサに向けて逆送し、オデッサで船積みして輸出する提案を行ってきた。

これに対して、2004年2月、ウクライナのヴィクトル・ヤヌコヴィッチ(Viktor Yanukovych)内閣は逆送しないことを閣議決定したが、7月5日の閣議ではこれを覆してパイプラインの逆送を承認し、今後3年間の使用でロシア側と合意して、9月からロシア産原油の輸送が開始された。
これに対して、ユーシチェンコ「我々のウクライナ」代表は、今回の政府決定は筋の通らない決定であり、現閣僚は「アゼルバイジャン、カザフスタンの石油供給先も、中欧・西欧諸国のパートナーも見つけることが出来なかった」と非難した。

他方、順送での利用を念頭においたブロディからポーランドへのパイプラインの延長については、ワルシャワ北西100kmのプウォツク(Plock)までの延長、さらにはバルト海に面したグダンスク(Gdansk)までの延長について、2003年8月にはウクライナのウクルトナフタ社とポーランドの国営企業PERN社との合弁企業が設立され、11月には、欧州委員会、ポーランド、ウクライナの三者で、プウォツクまでの延長協定に署名していたが、逆送によってほぼ白紙になった。

ところが、2004年のウクライナの大統領選挙における「オレンジ革命」によって、従来から順送を強く主張してきたユーシェンコ政権が誕生した。

2005年3月5日、ユリヤ・ティモシェンコ(Yulia Timoshenko)首相は、ポーランドのマレック・ベルカ(Marek Belka)首相に対して、パイプラインの逆送を停止して、プウォツクまで延長すると表明。
4月22日、欧州委員会、ポーランド、ウクライナの代表者会議が、ワルシャワで開催され、一時白紙になっていたブロディまでのパイプラインの延長が決定した。延長距離は540km、総工費は4億〜4億5,000万ユーロと見積もられている。


と、こういうふうに書くと、ウクライナのロシア離れ・西側接近と見えますが、ウクライナに逆送を提案して最初の決定を覆してオデッサからロシア産原油を輸出していたのは、2003年9月にロシアのTNK(チュメニ・オイル)社とイギリスのBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)社とで設立された合弁企業(TNK-BP)社です。
西側の企業であるBPは、保有していた輸出手段の一つを失うことになって大きな痛手を被ったことになります。


冷戦時代さながらに、あたかも「東西間で自由と民主主義の戦い」が行われているが如く宣伝され、その道具として「資源」があるように報道されがちですが、私には、国際資本による企業間戦争、資源争奪戦に小国が翻弄されているように見えるのですけど、どうでしょう?

【関連記事として】「オレンジ革命」報道の憂鬱 恋するジャーナリストは要らない(2005/07/27)

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この記事へのコメント

1. Posted by お気楽   2005年09月19日 08:44
TBありがとうございました。
イデオロギーを理由とする国家間紛争というものはもうありません。
今や原因のほとんどは「資源の争奪戦、権益の確保」、「宗教」、「民族問題」だけです。CISの問題もそうです。
パイプライン逆送のお話、勉強になりました。

2. Posted by studio3000jp   2005年09月25日 22:53
初めまして、お早う御座います。
先日は、トラックバック、並びに、ご来場等頂きまして、真に有難う御座いました。
返信の方等が遅れてしまいまして、大変申し訳有りませんでした。
其れにしましても、トラックバックの方等が何故か出来ませんでしたので、
トラックバックの方等を頂きました記事の方等のURLの方等を貼らせて頂きます。
http://blogs.yahoo.co.jp/studio3000jp/11104231.html#11600068
私はヨーロッパの方等の政治情勢の方等は良く分かりかねますが、
ドイツでは、中々次期首相の方等が決まりかねて居る様等ですね。
早く、その進むべき方向等が定まる様等だと良いですよね。
これからも、何卒宜しくお願い申し上げます。

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