2006年06月20日

選挙結果を無効にする方法

2006年6月15-18日に、ヨルダン川西岸地区とガザ地区で、パレスチナ政策分析センター(Palestinian Center for Policy and Survey Research)によって行われた最新の世論調査の結果が、このほど公表された。

無作為に選択された127地区で対面調査を行った成人1,270人の調査によると、イスラエルの刑務所に拘束されているハマスやファタハなどパレスチナ各派のメンバーが合意し5月10日に発表した18項目の提案「パレスチナの統一を保持するために」(俗に言う「囚人文書」)を国民投票に付すことについては、賛成53%、反対43%で、仮に、今日投票が行われた場合の囚人文書に対する賛否は、賛成47%、反対44%、未定9%だった。

「マハムード・アッバス(Mahmoud Abbas)議長は国民投票を要求する権利を持っている」ことについては、「同意する」が56%、「同意しない」が38%で、「ハマスがボイコットを呼びかけた場合」は、「国民投票に参加する」が50%、「ボイコットする」が44%。
「国民投票が囚人文書を承認した場合」は、「ハマス政権は囚人文書を拒否すると思う」が67%、「受け入れると思う」が23%で、逆に「国民投票が囚人文書を承認しなかった場合」は、「アッバス議長とファタハは、ハマスの計画を受け入れ、ハマスの計画に基づく挙国一致内閣を組織しないと思う」が60%だった。

既に、アッバス議長は、7月26日に国民投票を行うと表明しているが、この調査を見る限り、囚人文書の承認は微妙で、現に国民投票を拒否しているハマスがボイコットを呼びかけた場合には、その正当性すら失いかねない情勢のようだ。

しかし、国民投票で賛否を問うという「政策の内容」については、賛成多数なのである。

この調査では、18項目の提案を7項目に集約し、各項目について賛否を訪ねている。

1) パレスチナ人民の目標は、すべて国際的に合法的な枠組みに基づき、東エルサレムを首都として、1967年の全ての占領地域を含む独立したパレスチナ国家を設立し、帰還権を保証し、すべての囚人を解放することにある。 賛成85%、反対14%

2) 新たなPLO全国評議会は、ハマスとイスラム聖戦を含むすべての党派が比例代表制を基に参加し、2006年末までに設立されるべきである。 賛成85%、反対13%

3) 挙国一致内閣は、全国調停文書及び統合計画を基礎とし、ファタハ及びハマスを主とする全ての党派が参加して設立されるべきである。 賛成85%、反対13%

4) パレスチナ人民は、いかなる意味においても占領に抵抗する権利を有するが、抵抗は、1967年以降に占領された地域に集中し、交渉及び大衆的な抵抗が継続されるべきである。
 賛成73%、反対24%

5) 国民合意計画は国際的かつアラブの合法的な枠組みに基づいて作られるべきである。
 賛成70%、反対26%

6) PLOは、いかなる場所に居住する者であれパレスチナ人民の唯一正当な代表である。
 賛成69%、反対28%

7) イスラエルとの交渉は、PLO及びパレスチナ自治政府代表の責任であり、合意に達した協定は、PLO全国評議会での投票あるいは国民投票に提出されるべきである。
 賛成62%、反対34%

項目1は、欧米や日本のマスコミが「ハマスに事実上のイスラエル承認・共存を迫る住民投票」といったふうに宣伝している事項だが、この項目に限れば賛成85%であって、実は今回の国民投票騒動の争点がここにないことがわかる。
現実を素直に見れば、ハマス側が交渉を呼びかけ妥協の用意があることを示しているのに対して、一貫して交渉を拒否しているのはイスラエルであり、この一点に限れば、国民投票を行って全体の総意を示すことに実質的な意味はなく、交渉を再開する上で象徴的な意味があるかどうかすら現状では疑わしい、と見るのが妥当なところだろう。

項目4は、項目1に関連するが、「1967年以降に占領された地域に集中」「大衆的な抵抗」という表現は、AP通信が伝える各々1センテンスからなる18項目の文書にはなかった表現である。
先の記事で、朝日新聞の報道について「ファタハによる『政治的に正しい解釈』を受けてのことでしょう」と書いたのだが、「抵抗闘争はこれらの地域の中に限定し、イスラエル領内での自爆テロなどを放棄する」という朝日新聞の表現とも微妙に異なるので、この項目も朝日新聞と同様、オリジナルにはないが「政治的に正しく、かつ多数の賛成が得られやすい」ように工夫された政治文書の一種だろう。

項目4の表現では、武装闘争の放棄を求めているイスラエルが交渉を再開するきっかけにはならないだろうが、党派を統一するための方針と考えれば意味がある。
項目3及び項目5はオリジナルの18項目にもあり、項目6は18項目にない表現だが、組織統一を進める以上、当然の帰結だろう。

まったく新しい提案だと思われるのが、項目2及び項目7である。
新たな統一PLOの構成と運営に関する細目のようだが、興味深いのは、項目7を一読すればわかるように、選挙でハマスが多数派を占める議会が、少なくとも外交に関しては権限を失うということである

項目2の統一PLOの構想は目新しいものではないが、選挙直後の提案は、なにやら大政翼賛会的であり、「一党独裁的な代表制を採用するなら、議会選挙などする必要はなかった」というのは正論だろう。
逆に言えば、同じ党派内で、分派を積極的に認めて比例代表制を採用するくらいなら、党員の投票資格で揉めるような愚を犯さずに、素直に議会制民主主義を採用しても良いような感じだ。

要するに、これは政策的な争点を問うものではなく、ファタハが仕掛けたハマスに対する権力闘争のようです。
この調査でも、7項目の提案には高率の賛成が示されているにもかかわらず、実際の国民投票になると賛否が別れるのは、「先の選挙で優位を得たハマスの政治的な立場がどのように変化するのか」が、調査対象者(有権者)の一番の関心事だからでしょう。

本当のことを言えば、挙国一致内閣にしたところで、組閣前に連立を呼びかけたハマスに対してファタハが断った経緯があるのですから、いまさら言い出すのも奇妙なことですが、これこそが一番、事の本質を表していると思います。

Fatah supporters storm Palestinian Parliament「ファタハという、かつて権力を握っていた一派は権力を手放そうとしていません。今週、ファタハはハマス主導の議会が審議中に議会に乱入しました。ある議員は、『恥を知れ、礼節を知れ』と叫んでいます」というのは、アメリカABCのリポートでしたが、14日の議会乱入事件については、AFPも「給料未払いに抗議するパレスチナ政府職員」としつつ「抗議者の多くは、ファタハの支持者であるように見えた」と伝えていました。

ファタハが選挙結果を受け入れて潔く権力を手放そうとしないのは、その背景として「国際社会」が選挙結果を受け入れないことが大きく影響していると言えるでしょうね。。。


【関連記事として】「単純化しすぎて問題の所在が見えなくなる」という2例目 (2006/06/07)

soliton_xyz at 22:11│Comments(1)TrackBack(0)イラクと中東 

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この記事へのコメント

1. Posted by 「ブログ☆図書館」   2006年06月21日 10:55
コメント欄で申し訳ありません・・・。

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