2006年06月21日

キャンペーン

サウス・ウェールズのニューポート(Newport)にあるロイヤル・グウェント(Royal Gwent)病院の小児科医イベット・クロート(Yvette Cloete)医師(30)は、2000年8月30日、彼女が転居しなければならなかった理由を初めて公にした。
同月28日、クロート医師が借りていた家の正面玄関のガラス窓を横切るように黄色のペンキが塗りつけられ、「paedo」と落書きされていたのである。彼女は警察に直ちに電話をかけるとともに、できるだけ早くきれいにしようとして、その言葉から消し始めた。

私は今、友達と一緒に住んでいます。二度と前の家には戻らないでしょう。どこかもっと上流階級が住むような所を探そうと思っています。
私には、それが単に私の職名を他の何かと混同したように見えます。実際のところ、私は無知の犠牲になったように思っています。


と、クロート医師は語る。

誰がやったのかは不明だが、グウェント警察も、彼女と同様、この野蛮な破壊行為に関する唯一の説明は「極端な無知」だと信じている。
つまり、小児科医(paediatrician)と小児性愛者(paedophile)の違いのわからない誰かが行ったことだと考えられているのだ。

折しも、同年7月、サラ・レイン(Sarah Payne)ちゃん(8)が性犯罪の前歴者に殺害された事件を契機として、タブロイド紙「ニュース・オブ・ザワールド」(The News of the World)が、有罪判決を受けた性犯罪者の写真を公表し、200人を指名して、11万人を「追い出す」キャンペーンを展開していた。

同年9月2日早朝には、ノリッジ(Norwich)の集合住宅の一戸が放火され、寝ていた父親と全員3歳未満の子どもたち3人は煙の匂いがして起きたために無事だったが、「悲劇が起きるところだった」とノリッジ警察の捜査官は言う。

この家族とは無関係だが、この部屋には以前、児童虐待の罪で終身刑を受けて服役中の性犯罪者が住んでいたことがあり、「ニュース・オブ・ザワールド」紙によれば同紙の「追い出す」キャンペーンには含まれていないとされるものの、警察は「この性犯罪者が住んでいると考えた何者かの犯行だろう」と考えている。

以上、6年前のBBCの報道でした。
ちなみに、米語の綴りのほうは小児科医(pediatrician)、小児性愛者(pedophile)となります。

「ニュース・オブ・ザワールド」紙は、当時から現在に至るまで、性犯罪者の情報公開を定めたアメリカのミーガン法の英国版、「サラ法」の制定を求めるキャンぺーンを展開していましたが、2002年、当時のジャック・ストロー(Jack Straw)内相は、自警団スタイルの示威行動や攻撃が無実の人々を含む個人に対して加えられた数々の例を踏まえて、「情報を公開すれば、見当違いの行為が増えるのは明らかであり、性犯罪者も地下に潜伏して危険が増加する」として、そうした法律の制定を拒否していました。

ところが、ジョン・リード(John Reid)現内相は、このほど新たな法律の検討を開始していると発表して、同じ議論が再燃したようです。

6月18日のリード内相の発表は、「学校近くの保護観察期間更正施設(probation hostel)に60人の小児性愛者が収容されている」とのニュースを「ニュース・オブ・ザワールド」紙が伝えた後、「イングランドにある学校近くの11の施設から70人を移動し、今後は学校近くに居住させない」と発表した同じ日に、「調査のために閣僚を米国に派遣した」という形で行われた。

これに対して、警察幹部職員協会(Association of Chief Police Officers)児童保護スポークスマンのテリー・グレンジ(Terry Grange)ダベッド・ポーイス(Dyfed-Powys)警察本部長は、「ニュース・オブ・ザワールド」紙に「恐喝」されていた内務省は「屈服した」と述べて、懸念を表明した。
グレンジ氏によれば、内務省は「ゆっくりと、しかし確実に」新聞の要求に「同意した」が、「そうすることは悪いことだ」という。

また、グレンジ氏は、アメリカでは今年だけで「性犯罪者登録ウェブサイトにアクセスしてから、その家に出かけていって殺す」という手口で5人が殺害されたと言う。
さらに、数週おきに「メディアからの圧力によって引き起こされた政策変更があった」ような場合に、警察官が首尾一貫して働くのは「不可能だった」と述べた。


このところ、内務省に関しては、不法滞在者の強制送還が徹底されず、また記録も不明になっているとか、終身刑を受けた53人の受刑者が13年未満で保釈されているとかいった批判が相次いでいました。
性犯罪者の件も、これもその流れにあるようで、BBCは「内務省は先例がない監視を受けている」と伝えていました。


メディアの側からすると、管理システムの不備は指摘しやすいし、「凶悪犯を実例に挙げて既に刑務所を出ている」と言えば、センセーショナルに扱うのに便利ですが、冷静に分析すると、不法滞在者の件で誰か不利益を被った人がいるわけでもなく、刑期についても、最近の法律によって保釈は申請10回に1回認められるだけになるなど、かえって長期化する傾向にあるほか、刑務所人口もイングランド・ウェールズでは1993年の44,452人から2006年は77,642人と急増し収容能力の限界に達しているなど、厳罰化が進んでいるというのが真相のようです。

他方、性犯罪者の情報公開を巡る議論ですが、6年前と状況に変化が生じていたわけでもないようです。
しかし、「テロとの戦い」をスローガンとして警備・公安対策が強化されてきた流れと比べると、これまでのような一般刑法犯の扱いはいかにもルーズに見えるので、これが昔の議論を再燃させる大きな推進力になっているかもしれません。

そうであれば、要するに、政権側もメディアと一緒になって吊り上げてきた「恐怖の相場」が高くなりすぎて始末に困るようになったと言えそうですが。
実際、「子どもの性的虐待の多くは近親者か顔見知りによるものだ」という指摘もあるくらいですから、性犯罪者の前歴があった人の情報を一般市民が入手したところで、それで何かが変わって安全になるとも思えないのですが、「そんなこと言って、もし何かあったらどうする」的な大合唱と集団ヒステリーに対抗していくのは大変なのでしょうね。

そうした意味で、警察官の職能団体が政府に対抗して、きちんと意見を言うところは良いと思いましたが。。。


【関連記事として】殺人リスト? (2006/06/08)

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