2008年03月03日

極限状態でのエロスを問う「ラスト、コーション」〜ヒロイン、タン・ウェイは最後に艶っぽくなる

 そのラブシーンの激しさだけが喧伝されている感のある「ラスト、コーション」(アン・リー監督)をようやく見ることができた。Last caution(最後の警告) とてっきり思っていたが、Lust,caution(肉欲、警告)なんだ、とオープニングで認識をあらたにした。まさに原題の「色、戒」だな。この映画、昨年のヴェネチア映画祭で金獅子賞を受けているんですね。見た後、そうだったのか、と思った次第(最近映画に不熱心なことがばれる)。それはどうでもいいのだが、前作の「ブロークバックマウンテン」にも「やられた」が、アン・リーという途方もない鬼才にまず恐れおののく。小品としての楽しさ、洒脱さにあふれていた「ウェディング・バンケット」、「恋人たちの食卓」のころには想像もできなかった、遠い遠い世界に飛翔してしまった人。18世紀イギリスを舞台にした「いつか晴れた日に」(エマ・トンプソン脚本、主演、95年)あたりから、アン・リーの「冒険」が始まったと思う。アジア人というある種の制約から解き放たれ、次には南北戦争を題材にした「楽園をください」、そして「グリーン・デステニー」、「ブロークバックマウンテン」と続く。テーマの選び方、切り口が多彩すぎる。今回もあえて、抗日の戦いを極限の性愛とともに描くという冒険をして、見事に成功している。その限界の見えない豊かな才能曼荼羅に、まったく関係ない分野で生きる私でさえ嫉妬を抱く。

読んで頂き、ありがとうございました。人気ランキングに参加しています。この緑バナーをポチっとクリックして、応援してくださると、うれしいです。(1日1クリックまで有効)ranking



 1940年代の上海、香港を舞台に、抗日の都市ゲリラ戦に加わり、日本の傀儡政権幹部イー(トニー・レオン)に取り入ろうとするヒロインがワン(タン・ウェイ)。1万人の中から選ばれた新星というが、彼女をどの程度魅力的と感じるかで、映画の印象はガラリと変わるだろう。私には、当初、小倉優子の出来損ない程度にしか思えなかった(徐々に印象はよくなったが)。平べったい顔なのだ。

 タン・ウェイのヌードは意外に美しい。乳首がピンと立っているのに驚く。着やせする体質というのだろうか。そこそこに凹凸もあって、見応えがある。ピッタリした絹のチャイナドレスも蠱惑的だ。相手役のトニー・レオンが抜群にいい。虚無感を漂わせるワルを存在感たっぷりに演じている。渋い。渋すぎる。撮影時44歳には見えない。でも筋肉質の体を見ると、まあそのくらいの年齢なんだろうと合点がいく。そう、彼のハンフリー・ボガートも真っ青という演技と肉体があって、この作品は成り立っている。

 ワンは「敵」であるイーと体を重ねる度、ひかれていく。明日がない時代、極限状態の下での性愛は激しく濃厚にならざるを得ない。サディステックにもなる(高価なチャイナドレスを破り、手をバンドで締め上げる。ここは強烈)。それは抗いがたい人間の本性のようなものだろうか、と考えさせられる。究極のエロスなんだろうか。余計なことだが、蛇のように不思議に体をくねらせる体位も登場する。中国何千年かの奥深い性技を垣間見た思いだった。

 最後には、6カラットのダイアモンドを贈られる宝石店で、狙撃されそうになるイーをあえて逃がすワン。「逃げて」のひとこと。仲間への裏切りなのだが、その言葉はスパイではなく人間としての言葉だった。愛とかいうものでもなく、自然に発した言葉と受け取った。人間的接触を重ねた故の言葉。それを聞いたイー=トニー・レオンの逃げ足の早いこと。車に横っ飛びに滑り込むところなんかは笑えるほどだ。

 最後に抗日スパイ・ワンの正体が早くからバレていたことが判明、どっちにしても処刑される運命にあったのだと分かる。深い悲しみに覆われるシーンだ。ワンがそもそも抗日運動に身を投じたのも、思いを寄せたクァン(ワン・リーホン)の存在があった。ラスト近くでようやくクァンがワンと唇を合わせる。その時のワンのせりふ。「3年前だったらよかったのに」という趣旨だったと思う。クァンがスパイとして、送り込んだからこそ、ワンは運命的な出会いをしてしまう。できることなら時計の針を戻したい。女心が切実に迫ってくる。もはや遅すぎるのだ。すべてが。

 戦争はまだまだ続く。イーもまた早晩この世から去ったに違いない(その場面を回想風に入れたら一層、厚みが増したのではないか)。そう思うと、暗い時代の呪縛の中で、懸命に命の炎を燃やした2人(ワンとイー)の宿命が切なく熱く感じられる。人間の本能に任せた小さな営みがいとおしく、いじらしく思われる。中国では、ラブシーンを7分もカットして上映を許可したというが、そこまでしたら、この映画はほとんど意味がなくなってしまうというものだ。ラブシーンあってこその作品なのである。

 魅力的なシーンとして印象に残ったのは、日本式の料亭で、芸妓の声がしたり、三味線の音が聞こえる中、「もっといい歌を聴かせてあげるわ」と言いながら、イーの前で歌を歌ってみせるワン。この時のタン・ウェイは可愛い上、なかなか妖艶だと思った。タン・ウェイという女優、女性は段々、艶っぽさが出てくるので、そこを捉えれば、アン・リーが参ったように、可能性のある女優かもしれない。でも、第二のチャン・ツィイーとまで言うのは無理があるのではないか。

 英国統治の色彩が色濃く残る上海。クラッシック&モダーン。それは建物にも言えるし、服装にも言える。車もそう。上流階級夫人の麻雀のシーンが多いが、「チイ」、「ポン」と言われると親しみがわく。食ってばかりなので、かなりルーズなルールなのだろう。チイなどした3枚の牌を三角形に並べるのも興味深かった。そういうトリビアも結構楽しめる。2時間半はそれにしても、ちと長すぎるが。

son630son at 16:16│Comments(3)TrackBack(6)映画 | ジャーナリズム

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. ラスト、コーション  [ Diarydiary! ]   2008年03月03日 20:40
《ラスト、コーション》 2007年 アメリカ/中国/台湾/香港映画 ?? 原題 ??
2. 視線のエロス??????「ラスト、コーション」  [ 毎日が映画記念日 ]   2008年03月03日 22:08
楽しみにしていた映画、公開を待ちかねて観てきました。 去年のベネチア映画祭で金獅子賞を受賞した、 アン・リー監督のこの作品です。
3. 『ラスト、コーション』  [ Sweet*Days** ]   2008年03月04日 09:05
監督・:アン・リー CAST:トニー・レオン、タン・ウェイ 他 第64回ヴェネツィア映画祭 金獅子賞、金オゼッラ賞受賞 1940年前後、...
4. ラスト・コーション・・・息を呑んで観ました  [ あーうぃ だにぇっと ]   2008年03月04日 22:12
監督:アン・リー キャスト イー☆トニー・レオン ワン・チアチー☆タン・ウェイ クァン☆ワン・リーホン ジョアン・チェン 他 【ストーリー】 1940年前後、日本軍占領下の上海。ワン(タン・ウェイ)は女スパイとしてイー(トニー・レオン)のもとへ送られ...
5. ラスト、コーション  色|戒  [ 花のように ]   2008年03月05日 09:07
アン・リー監督、トニー・レオン主演の 『ラスト、コーション』の先行上映会へ出かけた。
6. ラスト、コーション  [ UkiUkiれいんぼーデイ ]   2008年03月05日 16:02
JUGEMテーマ:映画 2008年2月2日 公開 ダイヤモンドは永遠のしるしです! これ、いろんな意味ですごいね(つぶやきシローで) あっぱれだね(つぶやきシローで) 過激な性描写があるとは聞いてましたが。 アメリカでは"NC−17"だそう...

この記事へのコメント

1. Posted by 北 静男   2008年03月04日 00:18
こんばんわ
TBありがとうございます。
文章を読ませていただきましたよ。拙ブログとは比較にはならないほどこの作品に切り込んでおられますな。

私はこの作品には圧倒されて何も書けずじまいでした。自分の紡ぎだすあらゆる言葉が作品の前では矮小でありすぎるためであろうかと思います。
しかし凄い映画もあったものです。DVDでもう一度挑んでみたい作品ですね
2. Posted by 梅ポケ   2008年03月06日 19:17
まだまだ寒いよ!
寒がり氏がズボン下を脱ぐなんてありえない!
家に来るときは無理に若作りしなくていいからね。
3. Posted by moriyuh   2008年03月23日 16:15
TBありがとうございました。
私もお返しさせていただきました。

>イーの前で歌を歌ってみせるワン。この時のタン・ウェイは可愛い上、なかなか妖艶だと思った。タン・ウェイという女優、女性は段々、艶っぽさが出てくるので、そこを捉えれば、アン・リーが参ったように、可能性のある女優かもしれない。

そうですね。私はスッピンの方が妙に艶っぽく見えました。
この方、このあとの作品が難しいですね。

あまりにも衝撃的なデビュー。

ナタリーポートマンのようないい役者になって欲しいなぁ…と思っています。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔