2014年07月19日
シリーズ:中世のミサ曲(7)「アニュスデイ」
皆様、おはようございます。副顧問のたろうです。
慌てず、騒がず、粛々と、本日もシリーズものの更新をしたいと思います。
本日は「アニュスデイ」についてご紹介します。
アニュスデイは日本語では「平和の賛歌」と呼ばれます。
ミサの中ではサンクトゥスの後に、
司祭がパン(聖体)を食べ、ぶどう酒(御血)を飲む場面で歌われます。
ラテン語の Agnus Dei を和訳すると 神の子羊 となりますが、
最後の部分で「私たちに平和をお与えください」と唱えるので、平和の賛歌と呼ばれます。
歌詞全文を載せておきます。
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona nobis pacem.
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らに平安を与えたまえ
クレドの回でご紹介したように、どちらかとういうと歌詞の短い部類に入り、
従ってメリスマ的な作曲をされることがあります。
また、1文ごとに明確な区切りがあり、各文の音節数も同じなので、
比較的かっちりした構造の音楽になることが多いです。
ミサ曲の最後の曲となることが多く、平和を願う内容の祈りなので、
ゆっくりとした、穏やかな曲調であることも多いです。
さて、私たちが12月に演奏するアニュスデイは、イングランドの音楽です。
グローリアと同じ The Old Hall Manuscript という写本から、1400年中頃の曲を選びました。
作曲者は Chirbury という人で、イングランドのウインザーの教会で働いてた、
ということ以外、あまりよく分かっていないようです。
曲全体は、3つの部分から構成され、最初と最後の部分は同じ譜面を繰り返して演奏します。
即ち、A⇒B⇒A という形で、各ブロックに歌詞を1文ずつあてています。
現代風に言うと、オペラに出てくるダ・カーポ・アリアみたいな形式ですね。
Aの部分は、ひとつの長い音を3分割するリズムで作られており、
現代の拍子で言うと、8分の6拍子や8分の9拍子に近い感じで聞こえます。
対してBの部分は、ひとつの長い音を2分割するリズムです。
現代風に言うと、2分の2拍子に近いですね。
この「3分割」というのは、キリスト教の「三位一体」の考え方から、
完全なリズムであると考えられていて、古い時代の西洋音楽では非常に重要です。
この曲も、最終的に3分割リズムに戻って曲が終わる点は、
それを意識していると思われます。象徴的ですね。
この曲にはもうひとつ特徴的な部分があります。
それは半音の使い方に見られます。
1番高いパートの出だしの Agnus Dei の部分が、半音階による上行形で始まります。
シ(♭)→シ(ナチュラル)→ドー
という感じです。
中間部の2拍子になる部分にも、フラットがたくさん使われていて、
独特な転調感のようなものが感じられます。
この時代の半音には、作曲者が意図的に付けたものか、
演奏者が勝手に付けて歌っていたものが定着したものか、定かでないものが多いです。
仮にこれらの半音の使い方が作曲者の意図によるものとすれば、
約100年後の時代の音楽を先取りしたようなことになるので、大変興味深いですねー。
◆「あのー、すみません。質問があります」
どうも、また来ましたね。質問とはなんでしょう。
◆「アニュスデイが『ミサ曲の最後の曲となることが多い』というのが気になります」
ふむ。気になるとはどういうことですかね。
◆「私の知っているミサ曲は、全部アニュスデイが最後なんです。
そうでない曲があるということですか?」
そうですね。アニュスデイが最後でないミサ曲もあります。
実は古いミサ曲には結構そういうのが多いですよ。
例えば、「イテミサエスト」という曲がアニュスデイの後に置かれることがあります。
これは「行きなさい。ミサは終わりです」というような(厳密にはちょっと違います)意味で、
ミサの最後に司祭が会衆に対して言う言葉です。
毎回同じように言う言葉なので、通常文に含まれています。
◆「へー、知らなかったです。アニュスデイの後にも曲があるんですね」
実は、12月の我々の演奏会では「イテミサエスト」も演奏します。
詳しくは次回ご紹介しますが、バイリンガル・モテットと呼ばれる大変面白い曲です。
◆「おお。これは、次回も見なきゃですね」
次もまた土曜日に更新したいと思います。
また見てネ。
おまけー1:
ちなみに、あなたが知っているミサ曲って例えばどんな曲ですか?
◆「デュオーパの荘厳ミサ曲とか、デズデリの戦時ミサ曲です!」
・・・モロ男声合唱や・・・笑
おまけー2:
アニュスデイの冒頭の第1パートですが、
シ(♭)→シ(ナチュラル)→ド→レ→ミー
と続きます。
我々のOBに宍戸さんという偉い方がいらっしゃるのですが、
この方の娘さんのお名前が「レミ」さんというとか、いわないとか・・・。
慌てず、騒がず、粛々と、本日もシリーズものの更新をしたいと思います。
本日は「アニュスデイ」についてご紹介します。
アニュスデイは日本語では「平和の賛歌」と呼ばれます。
ミサの中ではサンクトゥスの後に、
司祭がパン(聖体)を食べ、ぶどう酒(御血)を飲む場面で歌われます。
ラテン語の Agnus Dei を和訳すると 神の子羊 となりますが、
最後の部分で「私たちに平和をお与えください」と唱えるので、平和の賛歌と呼ばれます。
歌詞全文を載せておきます。
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
dona nobis pacem.
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らを憐れみたまえ
神の子羊 世の罪を除きたもう主よ
我らに平安を与えたまえ
クレドの回でご紹介したように、どちらかとういうと歌詞の短い部類に入り、
従ってメリスマ的な作曲をされることがあります。
また、1文ごとに明確な区切りがあり、各文の音節数も同じなので、
比較的かっちりした構造の音楽になることが多いです。
ミサ曲の最後の曲となることが多く、平和を願う内容の祈りなので、
ゆっくりとした、穏やかな曲調であることも多いです。
さて、私たちが12月に演奏するアニュスデイは、イングランドの音楽です。
グローリアと同じ The Old Hall Manuscript という写本から、1400年中頃の曲を選びました。
作曲者は Chirbury という人で、イングランドのウインザーの教会で働いてた、
ということ以外、あまりよく分かっていないようです。
曲全体は、3つの部分から構成され、最初と最後の部分は同じ譜面を繰り返して演奏します。
即ち、A⇒B⇒A という形で、各ブロックに歌詞を1文ずつあてています。
現代風に言うと、オペラに出てくるダ・カーポ・アリアみたいな形式ですね。
Aの部分は、ひとつの長い音を3分割するリズムで作られており、
現代の拍子で言うと、8分の6拍子や8分の9拍子に近い感じで聞こえます。
対してBの部分は、ひとつの長い音を2分割するリズムです。
現代風に言うと、2分の2拍子に近いですね。
この「3分割」というのは、キリスト教の「三位一体」の考え方から、
完全なリズムであると考えられていて、古い時代の西洋音楽では非常に重要です。
この曲も、最終的に3分割リズムに戻って曲が終わる点は、
それを意識していると思われます。象徴的ですね。
この曲にはもうひとつ特徴的な部分があります。
それは半音の使い方に見られます。
1番高いパートの出だしの Agnus Dei の部分が、半音階による上行形で始まります。
シ(♭)→シ(ナチュラル)→ドー
という感じです。
中間部の2拍子になる部分にも、フラットがたくさん使われていて、
独特な転調感のようなものが感じられます。
この時代の半音には、作曲者が意図的に付けたものか、
演奏者が勝手に付けて歌っていたものが定着したものか、定かでないものが多いです。
仮にこれらの半音の使い方が作曲者の意図によるものとすれば、
約100年後の時代の音楽を先取りしたようなことになるので、大変興味深いですねー。
◆「あのー、すみません。質問があります」
どうも、また来ましたね。質問とはなんでしょう。
◆「アニュスデイが『ミサ曲の最後の曲となることが多い』というのが気になります」
ふむ。気になるとはどういうことですかね。
◆「私の知っているミサ曲は、全部アニュスデイが最後なんです。
そうでない曲があるということですか?」
そうですね。アニュスデイが最後でないミサ曲もあります。
実は古いミサ曲には結構そういうのが多いですよ。
例えば、「イテミサエスト」という曲がアニュスデイの後に置かれることがあります。
これは「行きなさい。ミサは終わりです」というような(厳密にはちょっと違います)意味で、
ミサの最後に司祭が会衆に対して言う言葉です。
毎回同じように言う言葉なので、通常文に含まれています。
◆「へー、知らなかったです。アニュスデイの後にも曲があるんですね」
実は、12月の我々の演奏会では「イテミサエスト」も演奏します。
詳しくは次回ご紹介しますが、バイリンガル・モテットと呼ばれる大変面白い曲です。
◆「おお。これは、次回も見なきゃですね」
次もまた土曜日に更新したいと思います。
また見てネ。
おまけー1:
ちなみに、あなたが知っているミサ曲って例えばどんな曲ですか?
◆「デュオーパの荘厳ミサ曲とか、デズデリの戦時ミサ曲です!」
・・・モロ男声合唱や・・・笑
おまけー2:
アニュスデイの冒頭の第1パートですが、
シ(♭)→シ(ナチュラル)→ド→レ→ミー
と続きます。
我々のOBに宍戸さんという偉い方がいらっしゃるのですが、
この方の娘さんのお名前が「レミ」さんというとか、いわないとか・・・。