2014年08月16日
シリーズ:中世のミサ曲(8)「イテミサエスト」
皆様、こんにちは。副顧問のたろうです。
あれ、気が付いたら一月くらい経ってる・・・?
だいぶ遅れてしまいましたが更新します。
本日は第8回、「イテミサエスト」をご紹介します。
前回ちらっとお話ししたように、アニュスデイのあとに歌われる曲です。
アニュスデイがミサ曲の終曲である場合も多いので、初めて聞く方もいらっしゃるかも知れません。
歌詞は次の通りです。
Ite missa est.
Deo gratias.
短いですね。
この歌詞は、ミサを終了するときの司祭と会衆のことばに由来します。
即ち、
司祭「行きなさい。ミサは終わりです」
会衆「神に感謝」
ということです。
毎回のミサで同じような言葉を唱えてミサを終えるので、
通常文として扱われ、従ってミサ曲に含まれていたのでした。
さて、今回私たちが演奏するイテミサエストは、大変面白い曲です。
出典はクレドと同じくトゥルネーのミサ曲で、3声の曲です。
何が面白いのかというと、
この曲には 【歌詞が3種類ある】 のです。
しかも 【3つのパートがそれぞれ違う歌詞を同時に歌う】 のです。
さらに 【3つある歌詞のうち二つはラテン語、ひとつはフランス語】 なのです。
もひとつ付け加えると 【フランス語の歌詞は世俗的なラブソング】 だったりします。
んもう、何が何やら・・・という感じですが、本当にこんな音楽が存在するんです。
このような種類の曲のことを 「モテット」 と言います。
「モテット」は中世の代表的な音楽のひとつです。
現在の音楽用語としては、ミサ曲以外の宗教的な内容の
ポリフォニー音楽全般を指してモテットという言い方をしますが、
中世の「モテット」はこれの元になった言葉と言えます。
(紛らわしいので、中世の方を「モテトゥス」と呼び分けることもあります)
「モテット」形式の音楽では、
第一声部がグレゴリオ聖歌等の定旋律を、
第二声部が宗教的なラテン語の歌詞で対旋律を、
第三声部が世俗的な歌詞(多くの場合フランス語)を、
それぞれ同時に歌います。
歌詞が違うことはもちろんですが、
3つの声部がそれぞれ別の拍子で作られていることが多く、声部間にリズムのずれが生まれ、
それでいて合うところはぴったり合うという、何とも言えない魅力を持った曲となります。
◆「あの、ちょっと質問というか、腑に落ちないことがあるのですが」
あ、どうもこんにちは。お久しぶりですね。何でしょうか。
◆「3つのパートがそれぞれ別の歌詞を歌うんですよね。それも違う拍子で」
そうですね。すでに述べた通りです。
◆「歌っている歌詞の意味を聞きとれなくなってしまいませんかね」
◆「私も長く合唱をやっていますが、
歌詞の内容が聴衆に伝わるように歌え、と常に先生に言われていました。
合唱の本場・元祖であるヨーロッパで何故そのような音楽が発展したのか、
なんとなく納得しかねる部分があるのですが・・・」
ふむ。確かに、各パートがバラバラに、直接関係の無い歌詞を違う言語で歌うのですから、
内容の聞き取りは困難ではありますね。
全くの推測の域を出ないのですが、いくつかの可能性は考えられます。
例えば、そもそも広く人に聴かせるための音楽では無かった可能性があります。
ラテン語の定旋律の部分は各パートの中で最もシンプルに作られているので、
もしかしたらミサの中で一般会衆も一緒に歌っていたのかも知れません。
そうであれば、この音楽を純粋に聴いている人はほとんどいないことになりますので、
ある意味、内容は聞きとれなくても良かった、と考えられます。
また、「聞こえない方が好都合だった」のではないか、という話を本で読んだことがあります。
これは、モテット形式の音楽の中に、
社会・政治批判とも取れる歌詞が使われている曲があることからの推測です。
痛烈な批判や悪口を、権力者の目の前で声を合わせて高らかに歌う。
自分達は意味をよーく分かって歌っているが、聴いている側は分からず、
そのハーモニーやメロディにただ聴きほれる。
このような、中世の芸術家たちの高度な「お遊び」が、
この形式を発展させたという可能性も無くはないと思います。
◆「なるほど・・・。そう考えると面白いかもしれないですね」
昔の音楽家が何を考えて作曲・演奏活動をしていたか、想像は尽きないですね。
ロマンですね。
◆「このシリーズ、今回で最後の曲まで来ましたが、これでおしまいですか?」
それがですね、も少しだけ続きます。
今回の演奏会では、このイテミサエストについてちょっとした実験を試みたいと思っておりまして。
そのことについて簡単にご説明したいと思っています。
◆「あ、まだ続くんですね。次はちゃんと更新してくださいね」
う・・・がんばりまーす・・・。
◆「それでは来週もお楽しみに♪」
おまけ:
先日、オランダのリコーダー奏者フランス・ブリュッヘンが亡くなりました。
歴史的演奏の第一人者として古楽界をリードしてきた大音楽家に敬意を表し、
ご冥福をお祈りしたいと思います。
ブリュッヘンの演奏はすごいですよ。
我々が中学校で習ったのと同じアルトリコーダーでこんな演奏ができるものなのかと、
衝撃を受けたのをよく覚えています。
皆さんも機会があったらCDを買って聞いてみてください。
テレマンの「リコーダーのためのファンタジー」とか最っ高ですよ。
あれ、気が付いたら一月くらい経ってる・・・?
だいぶ遅れてしまいましたが更新します。
本日は第8回、「イテミサエスト」をご紹介します。
前回ちらっとお話ししたように、アニュスデイのあとに歌われる曲です。
アニュスデイがミサ曲の終曲である場合も多いので、初めて聞く方もいらっしゃるかも知れません。
歌詞は次の通りです。
Ite missa est.
Deo gratias.
短いですね。
この歌詞は、ミサを終了するときの司祭と会衆のことばに由来します。
即ち、
司祭「行きなさい。ミサは終わりです」
会衆「神に感謝」
ということです。
毎回のミサで同じような言葉を唱えてミサを終えるので、
通常文として扱われ、従ってミサ曲に含まれていたのでした。
さて、今回私たちが演奏するイテミサエストは、大変面白い曲です。
出典はクレドと同じくトゥルネーのミサ曲で、3声の曲です。
何が面白いのかというと、
この曲には 【歌詞が3種類ある】 のです。
しかも 【3つのパートがそれぞれ違う歌詞を同時に歌う】 のです。
さらに 【3つある歌詞のうち二つはラテン語、ひとつはフランス語】 なのです。
もひとつ付け加えると 【フランス語の歌詞は世俗的なラブソング】 だったりします。
んもう、何が何やら・・・という感じですが、本当にこんな音楽が存在するんです。
このような種類の曲のことを 「モテット」 と言います。
「モテット」は中世の代表的な音楽のひとつです。
現在の音楽用語としては、ミサ曲以外の宗教的な内容の
ポリフォニー音楽全般を指してモテットという言い方をしますが、
中世の「モテット」はこれの元になった言葉と言えます。
(紛らわしいので、中世の方を「モテトゥス」と呼び分けることもあります)
「モテット」形式の音楽では、
第一声部がグレゴリオ聖歌等の定旋律を、
第二声部が宗教的なラテン語の歌詞で対旋律を、
第三声部が世俗的な歌詞(多くの場合フランス語)を、
それぞれ同時に歌います。
歌詞が違うことはもちろんですが、
3つの声部がそれぞれ別の拍子で作られていることが多く、声部間にリズムのずれが生まれ、
それでいて合うところはぴったり合うという、何とも言えない魅力を持った曲となります。
◆「あの、ちょっと質問というか、腑に落ちないことがあるのですが」
あ、どうもこんにちは。お久しぶりですね。何でしょうか。
◆「3つのパートがそれぞれ別の歌詞を歌うんですよね。それも違う拍子で」
そうですね。すでに述べた通りです。
◆「歌っている歌詞の意味を聞きとれなくなってしまいませんかね」
◆「私も長く合唱をやっていますが、
歌詞の内容が聴衆に伝わるように歌え、と常に先生に言われていました。
合唱の本場・元祖であるヨーロッパで何故そのような音楽が発展したのか、
なんとなく納得しかねる部分があるのですが・・・」
ふむ。確かに、各パートがバラバラに、直接関係の無い歌詞を違う言語で歌うのですから、
内容の聞き取りは困難ではありますね。
全くの推測の域を出ないのですが、いくつかの可能性は考えられます。
例えば、そもそも広く人に聴かせるための音楽では無かった可能性があります。
ラテン語の定旋律の部分は各パートの中で最もシンプルに作られているので、
もしかしたらミサの中で一般会衆も一緒に歌っていたのかも知れません。
そうであれば、この音楽を純粋に聴いている人はほとんどいないことになりますので、
ある意味、内容は聞きとれなくても良かった、と考えられます。
また、「聞こえない方が好都合だった」のではないか、という話を本で読んだことがあります。
これは、モテット形式の音楽の中に、
社会・政治批判とも取れる歌詞が使われている曲があることからの推測です。
痛烈な批判や悪口を、権力者の目の前で声を合わせて高らかに歌う。
自分達は意味をよーく分かって歌っているが、聴いている側は分からず、
そのハーモニーやメロディにただ聴きほれる。
このような、中世の芸術家たちの高度な「お遊び」が、
この形式を発展させたという可能性も無くはないと思います。
◆「なるほど・・・。そう考えると面白いかもしれないですね」
昔の音楽家が何を考えて作曲・演奏活動をしていたか、想像は尽きないですね。
ロマンですね。
◆「このシリーズ、今回で最後の曲まで来ましたが、これでおしまいですか?」
それがですね、も少しだけ続きます。
今回の演奏会では、このイテミサエストについてちょっとした実験を試みたいと思っておりまして。
そのことについて簡単にご説明したいと思っています。
◆「あ、まだ続くんですね。次はちゃんと更新してくださいね」
う・・・がんばりまーす・・・。
◆「それでは来週もお楽しみに♪」
おまけ:
先日、オランダのリコーダー奏者フランス・ブリュッヘンが亡くなりました。
歴史的演奏の第一人者として古楽界をリードしてきた大音楽家に敬意を表し、
ご冥福をお祈りしたいと思います。
ブリュッヘンの演奏はすごいですよ。
我々が中学校で習ったのと同じアルトリコーダーでこんな演奏ができるものなのかと、
衝撃を受けたのをよく覚えています。
皆さんも機会があったらCDを買って聞いてみてください。
テレマンの「リコーダーのためのファンタジー」とか最っ高ですよ。