2014年08月

2014年08月30日

私の執事は意地悪ダーリン【19】


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 これより女性向け18禁、執事とお嬢様のベタ小説が始まります。
 苦手な方はバックしてくださいね。

あー、南国でのんびりしたい(ーー)
いちゃこらもしたい。
妄想で我慢だ。な作者が書く
19話がこれより始まります。

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 高来は自分の腕の中で規則正しい寝息を立てる莉李を暗闇の中じっと見つめていた。

 一緒に入ろうとしたバスルームは案の定追い出され、ひとり別のシャワールームを使い、莉李の身支度が整うのを待った。それからホテルのレストランに向かい自分はシャンパン、莉李にはジンジャーエールを頼むとどこか拗ねた顔の莉李に「早く高来に釣り合うような大人になりたいな」と呟かれ、かと思えば美味しい料理にあっという間に機嫌を直し、そして沈みゆく夕日に感銘の声を上げた莉李に高来は愛おしさを感じずにはいられなかった。
 疲れたのか部屋に帰ってからソファで子供のように舟を漕ぐ莉李をベッドに運び、腕枕で添い寝をすればこうして直ぐに眠りに落ちてしまった。
 勿論高来も今日はゆっくり寝させてあげるつもりだった。
 柔そうな莉李の頬に指を伸ばし甲で触れる。そして小さな声で呟いた。

「すみません。時が経てばちゃんと話ますから…」

 訊きたそうにしていた莉李の表情を思い出し、高来は莉李の額にキスを落とすと、そっと身体を離しベッドから抜け出した。

 家族の事、莉李の家に来た理由、執事である事。
 莉李に話すにはまだ彼女は幼すぎる。

 いつか訊ねられる日が来るとは思っていたが、いざその日を前にすると気の利いた誤魔化しができなかったことに自嘲じみた笑が溢れた。

「幼いのは私の方ですね」

 リビングのソファに座ると手にしていた鞄からノートパソコンを取り出し電源を入れる。
 屋敷に帰っても莉李にまだその話をするつもりはない。できることなら何も話さず莉李の傍にずっと居られれば…。

「愚か、ですね」

 小さくため息をついた高来はその口をキュッと引き結ぶとマウスを手に、暗闇に光る画面を見つめていた。


――「んっ……」

 目を開けた莉李は天井をぼんやり眺めていた。だけどその天井は木で出来てる。横を見るとレースの布まである。
 ここでやっと莉李は高来と旅行に来ていたことを思い出した。
 だけど高来の姿はない。

「高来?」

 ぐっすり眠れたせいか身体はスッキリと目覚めが良い。
 莉李は大きく伸びをすると天蓋付きベッドから降りた。
 大きな窓はカーテンが開けられていて、まだ早朝なのか辺りは静かでコバルトブルーの海に反射する陽の光も気持ち良い。

「今日は海に行こう!」

 莉李は高来を探しドアを開ける。そこはもう一つのシャワールームで高来は居なかった。次はリビングに出たがやはり高来は居ない。もう一つのベッドルームを覗いたが綺麗に整えられたシングルベッドが二つあるだけだった。

「どこに行っちゃったのかしら」

 せっかく早起きしたのに。莉李は洗面所で身支度を整えるとリビングに戻りソファに座ろうと下ろしかけた腰を止めた。

「高来!」

 リビングの窓から見えるプールで泳ぐ高来を見つけたのだ。

「ズルイ! 私も泳ぎたかったのに!」

 莉李は勢い良く外に飛び出した。

「たかっ……」

 名を呼ぶ声が途中で止まる。
 朝日を浴びた水面と右、左と腕を上げた時に飛ぶしぶきがキラキラと輝き、滑らかにクロールで泳ぐ高来が凄く上手くて目が離せない。

 高来は反対側まで泳ぎきると水面から顔を出し、濡れた顔の水を拭うように両手で覆い、そのまま髪がかきあげられた。
 その仕草も高来の肩や背中の筋肉も水に濡れて色っぽい。
 そして伏せた視線がゆっくりと上がり莉李を捉えた時、鼓動がドクンと跳ねた。

「お嬢様」

 気付いた高来は再び泳いで莉李の傍までやって来た。

「もうそろそろ起こしに行こうと思っていたのですが」

 随分お早いお目覚めですねと口角を上げた高来の顎のラインを伝う水にも目を奪われる。

「お嬢様?」
「え?」

 莉李は慌てて視線を逸らした。高来は怪訝な顔で眉をひそめたが、やがてニヤリと笑った。

「もしかして私に見惚れてました?」
「ま、まさか! そんな訳ないでしょっ」

 図星だっただけに顔が熱くなるのが分かる。
 そんな莉李を覗き込む様に高来はプールサイドに両手をついて、そこに顎をのせた。

「それは残念です」

 さほど残念そうではない口調で高来は優しく笑ったのでまた頬が熱くなる。高来のひとつひとつの仕草が心をざわつかせた。
 莉李は熱くなった顔を誤魔化すように高来の前にしゃがむと、拗ねた顔を見せた。

「ズルイよ高来。私もプールに入りたかったのに」

 ズルイ、を繰り返し、高来の濡れた髪に手を伸ばして短い髪を指で摘み口を尖らせる。

「では今日一日、プールで過ごしますか?」

 高来はされるがまま莉李を見上げた。

「うーん。プールも入りたいけど、海も行きたいし、買い物もしたいなぁ」

 ここに居られるのはあと四日。時間はまだあるし、今日は朝起きた時に決めた海に行こう。

「今日は海に行きたい!」

 莉李は高来の髪の毛から瞳へと視線を移した。

「分かりました。ではまず朝食を食べに行きましょう」
「うん!」

 莉李ははしゃいでいた。高来と二人きりになるのは勿論、どこかへ一緒に出掛けたこともなかったのだ。

(うふふ。なんだかデートみたい。って、みたいじゃなくてデートだよね)

 高来の髪の毛から手を離し、立ち上がろうとすると目の前で水音がし、唇に冷たいものが触れた。

「んっ」

 目を見開いた莉李は、階段を使わずその場からあがった高来にキスをされたんだとようやく気付く。

「お嬢様ばかりが私に触れて、私が触れられないのは「ズルイ」ですからね」

 唇を離した高来はニヤリと笑って莉李に背中を向け歩き出すと、イスに掛けてあったタオルを頭から被り、わしゃわしゃと髪を拭いていたが、不意打ちにキスをされた莉李は暫くその場から動けなく、顔だけが赤く染まっていた。


――それから1時間後、莉李は海に居た。と言っても、砂浜でもなければ海の中でもない。海の上に居るのだ。

「高来、どこへ行くの?」

 朝食は昨日の夜に食べに行ったホテルのレストランで済ませると、高来は帰り際、白く四角い発泡スチロールの箱を二つ受け取っていた。そして大きなバッグを手にしていた高来はそれを入れると今度は莉李の手をとりタクシーに乗った。二十分かけて着いたのは海だった。そこまでは良かったが、そこからクルーザーに乗せられたのだ。
 そして今、ライフジャケットを着させられた莉李は困惑して高来に質問するも、高来は「内緒です」と笑い、クルーザーを操縦する日に焼けたサングラスの似合う筋肉質の大柄の男性と流暢な英語で会話をしている。
 最近英会話を習い始めた莉李には発音の良すぎる早口英語は何を話しているのかさっぱり解らなかった。

(どこに行くのかしら…)

 高来も自分もTシャツを着ているが、中にはちゃんと水着も着ている。

(海には入るってことだよね)

 スピードを出しているクルーザーは時折波飛沫がかかるが、びしょ濡れまではいかないし、かえって気持ち良いくらいだ。だけどその為に水着を着たとは思えない。

「お嬢様、そろそろ着きますよ」

 徐々にスピードを落としたクルーザーは大きな岩の山を通り、その真ん中に門のように開いた穴を抜け、止まった。

「っ!」

 立ち上がった莉李はその美しい景色に目を見開いて息を呑んだ。

 岩に囲まれた海は白い砂浜もあり、透き通った水はエメラルドグリーンに輝いている。

「さ、これを履いて少し待っていてください」

 声も出せず固まっている莉李のライフジャケットを脱がし、高来は莉李の足にマリンシューズを履かせるとクルーザーから海に飛び降りた。そして持ってきていた大きなバッグを投げてもらい、腰ぐらいの深さの海を歩き、砂浜にそれを運んで置くとまた戻って来た。

「お嬢様」

 高来は両手を広げ、莉李が飛ぶのを待っている。

「え?」
「大丈夫。私がちゃんと受け止めますから」

 この状況がよく飲み込めない莉李は困惑した。

(ここで遊ぶってこと?)

 背後ではさっきまで操縦していた大柄な男性が笑いながら背中を叩き、急かせる。多分、大丈夫とかなんとか言っているのだろう。親指立ててるし。

 莉李は意を決して高来目掛けて飛んだ。

「っ!」

 暖かい衝撃に包まれ高来の胸に包まれる。

「大丈夫だったでしょう?」

 瞑っていた目をゆっくり開ければ微笑んだ高来の顔が間近にあった。

「では行きましょうか」

 高来は再びクルーザーから投げられた物を受け取ると、そのひとつを莉李に渡し、男性に英語で何かを言って手を上げた。すると男性は笑って親指を立てクルーザーごと何処かへ行ってしまった。
 でも、クルーザーが動いて莉李の側を通った時、鉄の梯子がついていた事に気付く。

「高来、梯子があったじゃない」

 高来はむくれる莉李の腰を引き寄せニヤリと笑う。

「ですが梯子を使うより、こうした方が楽しいでしょう?」

 チュッと額にキスを落とされ、莉李はもう怒ることができなくなった。

「もう…」
「さ、お嬢様。水着になったらこれをつけてください」

 莉李の手からさっき渡された物を掴んだ高来は、それを莉李の顔の前に持っていく。

「シュノーケリング?」

 クルーザーから投げられた物はシュノーケリングの道具だった。なんとなく映画やテレビで見たことはあるが、やったことはない。
 高来は莉李の手を引き、砂浜まで行く間に説明する。
 眼鏡みたいなものはマスク。パイプみたいなのはスノーケルといって、口に咥え、それで呼吸するということ。
 砂浜に着くと、莉李はシャツを脱ぎながら高来に尋ねた。

「ねぇ高来。これって初めから予定してたの?」

 クルーザーにシュノーケリング。そしてこの綺麗な場所。他に人も居なく、まるで無人島に二人だけ、という贅沢な気分だった。
 それらをすぐ手配しておさえることなんて可能なんだろうか。

「一応、予約は事前にしてました」

 服を脱いで水着になった高来は大きなバッグから薄手の布を取り出し、砂浜に敷いている。

「じゃあ私が、今日は買い物に行こうと言ってたらどうしたの?」
「先伸ばしにするだけですよ」

 簡単に準備を整え、莉李を振り返るとなんてことないように淡々と告げた。

(それって凄く大変なことなんじゃないのかしら)

 予約をキャンセルし、また別日に予約する。この旅行中、もしかしたら海に行きたいって言わないかもしれないのに。

「言ってくれれば良かったのに…」

 高来と行くならどんな場所でも楽しいにきまってる。たとえ買い物に行きたかったとしても、高来が海でシュノーケリングをしようと言えば、素直に頷いていた。
 莉李の気持ちを汲んでか、高来は優しく目を細め莉李の頭に手を置いてくしゃりと髪を撫でた。

「私は執事ですよ? こういう手配はお嬢様のお世話をするより簡単です」

 意地悪な笑みを向けられているのに、その目は優しくて。

「酷い」

 言葉とは反対に莉李は笑って高来を見上げた。

「さぁ、時間が勿体無いです。ここには三時間しかいられないのでそれまで楽しみましょう」
「三時間なの?」
「はい。潮が満ちてくると、あそこから船が入れなくなるんですよ」

 高来はさっきクルーザーが通った門のような形をした岩を指した。

「ここも前に来たことがあるの?」
「いいえ。こういう場所があるのは知ってましたが今日が初めてです。ですから…」

 高来と視線が重なる。

「お嬢様と来てみたいと思ってました」
「高来…」

 莉李の心は嬉しさで満たされ、自然に顔が綻んだ。

「こんな素敵な場所に連れてきてくれてありがとう」

 莉李の言葉に高来は微笑むと、莉李の手を引いてエメラルドグリーンの海へと導いた。

「高来。私、あんまり泳ぐの得意じゃないよ」
「シュノーケリングは浮かんでいれば良いので、泳げなくても楽しめますよ」

 胸までの高さまで来た時、高来はマスクとスノーケルを莉李につけてあげると、莉李の手を今度は優しく引いて泳ぐように促した。そして岩場の方に近づくと、莉李は興奮気味に高来の手をギュッと握った。

(綺麗!)

 海の中を泳ぐ黄色や青の小さな魚達がキラキラと群れをなしている。

(高来! 凄く綺麗だよ!)

 同じように隣で泳ぐ高来を見ると、高来はどこから出したのかピンク色の棒状を手にして、その半分を莉李に渡した。

(何かしら、これ)

 それはソーセージのようなもので、高来はまた小さく割るとそれを握りつぶした。
 するとみるみるうちに魚が集まりそれを食べにくるではないか。
 莉李も真似して小さく握りつぶすと、ツンツンと自分の指までもつつかれる。

(可愛い!)

 莉李は夢中で魚と戯れた。こんな綺麗な世界があるのを初めて知った。凄く楽しかった。

 高来は魚ではなく自分の手を離し、はしゃぐ莉李を優しい目で見ていた。


【続く】





sorahane7 at 18:39|PermalinkComments(0) 【♀】私の執事は意地悪ダーリン 

2014年08月01日

私の執事は意地悪ダーリン【18】



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これより女性向け18禁、執事とお嬢様のベタ小説が始まります。
苦手な方はバックしてくださいね。

ムフフが続くと言っておきながら
この結果(ーー;)
ムフフまで辿り着けなかったぁ↓
な18話が始まります☆

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 莉李は暖かな温もりに幸せを感じていた。
 高来の肌に寄り添い、自分の髪を撫でる大きな手に安堵にも似た安らぎを覚え、瞼が重くなってくる。

「お嬢様。眠くなられたのですか?」

 頭上に温かみを感じ、チュッとキスの音が聞こえた。

「ううん…大丈夫」

 腕枕をしてくれてる高来の胸に顔を埋め首を左右に振る莉李に、高来は小さく笑う。

「このまま寝かせてあげたいのですが、今寝てしまうと夜、眠れなくなってしまうので」

 我慢してください、と今度は莉李の額にキスが落ちた。

「今…何時?」

 高来は顔を上げ、サイドテーブルに置いてある時計を見る。

「十九時十分です」
「もう七時なの?」

 七時といえば夜だが、確かに寝るには早過ぎる時間だ。莉李は重い瞼を開け、大きな窓に視線を向けた。
 外は夜だというのにまだ四時くらいの明るさだった。

「まだこんなに明るいのに…」
「ここの夏は日が長いですからね。暗くなるのは九時くらいですよ」
「……。」

 高来の言葉に引っ掛かりを感じ、莉李は眉を寄せて高来を見上げた。

「どうかしましたか?」
「……高来はここに来たことがあるの?」

 この国を知っている口ぶり。よく考えればこの部屋だって迷いなく寝室に連れてこられた。
 誰といつここに来たのだろう。
 花が散りばめられたこのベッドを高来は誰かと使ったんじゃないのか。

 莉李の顔が強ばり、ギュッと唇が噛み締められた。

 高来に彼女が居てもおかしくないけど…。

 頭ではそう思っていても、心がギュッと締め付けられモヤモヤと嫌な感情が沸き上がってくる。

 そんな莉李に高来は口角を上げた。

「気になりますか?」
「……別に。そうじゃないけど」

 嘘つき。本当は気になって堪らないくせに。

 拗ねた口調で目を伏せた莉李の身体がぐらりと揺れ、背中がシーツに沈んだ。

「た、高来?」

 肘をついて莉李を囲う様に見下ろした高来の顔があまりにも近くにあって、鋭く切れ長の黒い瞳にじっと見つめられると余計に身動きできなくなる。

「本当に?」

 笑いを含んだ口調にからかわれているんだって分かっていても、ドキドキと心臓が煩く音を立てる。

「このお口は随分素直じゃありませんね」

 はらりと高来の前髪が目に掛かり、細く長い指が莉李の唇をなぞった。

(もうダメ。心臓が口から飛び出しそうだよ)

 高来の色気が莉李の全身を火照らせる。

 視線を逸らして真っ赤に染まった莉李に高来は目を細めた。
 それはまるで手にした獲物で遊ぶ獣のようだった。

「先程はこのお口であんなに素直に啼いていたのに」

 高来の唇が熱くなった耳に触れ、囁く。

「高来っ」

 熱い身体がますます熱を持ち、莉李は泣きそうな顔で高来を睨んだ。
 さっきの行為の事を言われるのは恥ずかしすぎる。

「嫌ならちゃんと素直にお答えください。…気になりますか?」

 意地悪な笑に莉李はついに眉毛を下げた。

「…気になるけど……」
「けど?」
「……聞きたくない」

 顔を逸らした莉李に首を傾げる。

「どうして?」
「だって……」

 ゴニョゴニョと弱々しい声が高来の耳を心地良くくすぐった。

「彼女と来たって言われたら……嫌だもん」

 高来の目が優しく細められ、顎に掛けた指で正面に向かされる。

「素直に言えたご褒美です」

 触れるだけの軽いキス。だけど暖かく優しいキスがチュッと音を立てて離れた。

「ここは幼い頃、家族と来たことがあるんですよ」
「家族と?」
「ええ。夏休みの一ヶ月間、滞在しました。このホテルは客室が少なく五棟しかないので、プライベートビーチも貸切の様に使えてのんびりできるんですよ」

 莉李はホッと胸をなでおろし、顔を綻ばせた。

(彼女とじゃなくて良かった…)

「ここってホテルだったのね。…家族でこのベッドに寝たの?」

 莉李の質問に高来は喉を鳴らして笑った。

「まさか。この部屋以外にもベッドルームはあとひとつありますよ。このキングサイズのベッドがひとつ。家族で来た時は父と母が。
もうひとつの部屋にはシングルベッドが二つ。こちらは私と弟が使いました。
もっともその時はこのビラではなく別のビラでしたが作りは同じですね」

 シャワールームも二つありますよと話を続ける高来だったが、莉李の興味はこのビラよりも高来の家族だった。

「高来は四人家族で弟さんが居るのね」
「……ええ。そうです」

(高来はお兄さんかぁ)

 しっかりしているのも納得する。

「弟さんは何歳なの? ご家族は今どちらに? 私、高来のご家族に会ってみたいわ!」

 高来の事が知れた嬉しさで莉李は興奮気味に目を輝かせ、想像した。
 高来のご両親はどんな方なのだろう。高来の弟さんは高来に似ているのかしら。

(あら…? でも…)

 莉李はふと思う。
 このホテルは贅沢に作られている。多分、宿泊費も高いはずだ。それを一ヶ月間もとなると…。
 もしかして高来もお坊ちゃんなのかもしれない。だとしたら…。

(どうして執事なんかしているのかしら? そもそもどうしてパパが連れて来たのかしら?)

「ねぇ、高来? 高来は…」

 たくさんの疑問があった。今更だが莉李は高来のことを何一つ知らなかったのだ。
 だけど高来は莉李の言葉を最後まで聞かず、身体を起こした。

「さぁ、お嬢様。そろそろお腹が空いてきたでしょう?
ここのホテルはビーチに沈む夕日を見ながら食事がとれるレストランがあるんですよ。今日はそこで食事をしましょう」

 ガウンを羽織り立ち上がった高来は、同じく身体を起こした莉李にガウンを掛けた。

「高来?」

 どことなく不自然に会話を終わらせられた気がして莉李は首を傾げる。

「せっかく二人きりの時間なんです。もっと楽しい話をしませんか?」
「楽しい話?」

 高来の事を知るのは莉李にとって楽しい話以外のなにものでもないのに。

「ええ。家族の話などは、お屋敷に帰ってからでもいくらでもできるじゃないですか。私としてはこうして二人きりでいる時はお嬢様に愛を囁いて欲しいものです」
「高来っ」

 再び顔を染めて高来を睨む莉李にクスクスと笑った高来は莉李の膝裏に腕を滑り込ませ抱き上げた。

「えっ! 高来っ」
「まずはバスルームへご案内致します」

 横抱きにかかえられ、莉李はとっさに首に抱き着いた。

「た、高来! 自分で歩けるよ」
「ご自分で歩けたとしても降ろしません」
「意地悪しないで降ろしてよ!」

 脚をばたつかせる莉李をもう一度抱え直し、高来はその頬にキスを落とした。

「意地悪ではありません。私がこうしたいんです。ほら、大人しくつかまってください」

 優しく細められた瞳に見つめられれば、莉李の身体は力を無くす。

(やっぱりズルイなぁ…)

 嬉しさがさっきのモヤモヤさえもかき消す。

(まぁ、いっか。ご家族の事は高来の言うように帰ってからでも訊けるよね)

 そうだ。今、この旅行中は高来を独り占めできるのだ。

 莉李は甘える様に高来の胸に顔を傾け、心地良い揺れに身を任せていた。

 だから莉李は知らなかった。莉李を抱えている高来の表情がどこか固く強ばったものになっていたことを。


【続く】





sorahane7 at 18:30|PermalinkComments(2) 【♀】私の執事は意地悪ダーリン