明日よりGallery Seekにて個展を開催される塩月 悠(シオツキ ユウ)先生にお話を伺いました!

 塩月悠2018


―塩月先生が絵を描き始めたきっかけを教えてください。

 

子どもの頃から絵を描くことが好きだったため、特別なきっかけはありません。図工の時間や、美術館などで絵や彫刻を見ることが好きな子どもでした。今でも変わっていませんが、子どもの頃から絵の内容よりも、どのような技法や手順で描いたり作ったりしているのかを考えることに興味がありました。そもそも鑑賞という行為には、心での「追制作」という側面がありますよね。


また、物語を読んだりすることよりも、自分で話を考えたり、自由に解釈することが好きだったので、小学校の時は休み時間にマンガを描いていました。あと、説明書通りに、精巧に作るプラモデルよりも、自分なりに簡単に改造、アレンジできるものが好きでしたし、LEGOのいろんなパーツを自分なりに組み合わせて、ジオラマや乗り物を作って物語を想像する方が楽しかったです。こうした考え方や作り方は、現在の制作観に通ずるというか、子どもの頃から変わっていないようです。

 

―小さな頃から創造することがお好きだったのですね!

塩月先生の作品は、大きく分けて3つのシリーズがありますよね。各シリーズの技法や制作のきっかけなどを教えてください。

 

制作の際に、下絵や習作はほとんど行いません。描きながら、作りながら良い案配を探っていきます。

 

●『crystal thought』、『dynamics』シリーズ15dynamics
F8 ミクストメディア 「dynamics

 

このシリーズは、まずアクリル絵具の盛り上げ材に砂等を混ぜ、ひびが入るように成分を調整したメディウムをパネルに地塗りし、ひびが入っている支持体を製作します。顔の描写は油絵具を使用、それ以外は主にアクリル絵具のメディウムを使用し、鉱物や金属、ガラス、機械類等をコラージュしていきます。コラージュする物質は、描写された人物の思考(thought)や、体内での動き(dynamics)等を見立てとして表現する役割を担っています。

ひび割れ1

ひび割れ2
(コラージュ、モデリング、ひび割れのマチエールを施してから人物の描写に入る)

 

●『decolorization』シリーズ
塩月悠F4 decolorization

F4 紙に色鉛筆、鉛筆アクリル絵具、墨、染料 「decolorization

 

こちらは、パネル張りした紙を染料(主に藍や枇杷、柘榴等の自然染料)で刷毛染めし、有色の支持体を製作しています。顔の描写は色鉛筆、鉛筆を使用、それ以外はアクリル絵具、墨、岩絵の具等を使用します。人物の胸元などのレースの痕跡や背景のしみ、たらしの一部は脱色剤を含ませたレースを押し当てる、直接支持体にたらすなどして脱色しているのですが、『crystal thought』、『dynamics』シリーズのコラージュに対し、紙を染めた色料を取り除くため、マイナスのコラージュと考えています。

染紙1

染紙2

 decolorizationシリーズの刷毛染めした紙(パネル張り)右:イカ墨 左:インド藍)

 

●『drip』、『wipe』シリーズ
10wipe

M15 油彩画 「wipe

 

キャンバスを使用し、油絵具の特性である遅乾性をいかし、drip(たらす)、wipe(拭い取る)等の行為を施しながら、人物の描写を行っています。他のシリーズと比べ、即興性、瞬間を重視し、絵画の在り方、知覚について追及することをねらいとして制作しています。

キャンバス

dripwipeシリーズのキャンバス。実際に経年変化したものを使用することもあるとか。)

 

―制作にあたり影響を受けた作家や作品はありますか?

 

子どもの頃はサルバドール・ダリやルネ・マグリットなどのシュルレアリスムの絵が好きでした。前述の通り、どのような技法や手順で描いたり作ったりしているのかを考えることに興味があったので、好きな画家の絵を真似て描いてみたりしていましたね。現実にはあり得ない現象や夢のような世界が巧みに描かれていることに憧れがあり、高校の頃はマグリット風の絵を描いていました。特に、マグリットの描く「空」が好きだったのを覚えています。それと、クレーについてはもっと勉強したいなと思っています。


あとは、有元利夫や野村昭嘉です。彼らの制作観や時間に関する考え方にはとても影響を受けています。『crystal thought』、『dynamics』シリーズのひび割れなどのマチエールは、野村昭嘉の後期の作品にみられる表現がもとになっています。

野村作品

 野村昭嘉 不詳 1990年 27.0×50.0cm


ひび1


ひび2

野村作品にみられるひびマチエールの再現

 

―マチエールの表現はとくにお客様からご好評いただいております。使用されている画材にはどのようなものがありますか?

 

特にこだわりはありませんが、表現にあった道具、画材を選ぶように心がけています。

油絵具はマツダスーパーをよく使っています。

新しい製品にも興味がありますし、岩絵の具や墨なども使います。

コラージュするものとして、いろいろストックしています。
絵具

右上から時計回りに、ターナーアクリルガッシュ・マツダスーパー油絵具・マツダアクリル絵具・ニッカーアクリルガッシュ

岩絵の具 アクリル

右から、リキッテックススプレー・ホルベインアクリリックカラー[イリデッセンス]・岩絵の具

墨
墨・硯                       


染料
染料いろいろ


鉱物

鉱物等                

部品
古道具店等で購入した部品

 

―塩月先生はよく人物像をモチーフに制作されていますが、絵画を通して表現したい事は何でしょうか。

 

人物はあくまでも「記号」であり、人物像を通してものの存在感や表現の在り方を考えてきました。人間の内面や表情を描くことが目的ではないので、モチーフである人物は無表情に描くことで、何を考えているのか判然としない雰囲気を心がけています。最近の作品(『drip』、『wipe』シリーズ)は後ろ姿や、不鮮明な表情で描き、人物というより絵具のしみ、垂れといった現象そのものに焦点を当てることによって、鑑賞者自身が人物の表情や内面を想像する、という試みでもあります。

自分の作品は、ある一つのメッセージやテーマを表現するのではなく、鑑賞者が自由に解釈・想像できるような「装置」のようなものでありたいと思っています。また、私にとっては作品制作そのものや完成までの過程が大事なので、常に実験的でありたいとも思っていますね。

現在の興味は、見えるものと見えないものの間や、行為がイメージに変わる瞬間とその反対の瞬間を行き来するようなダイナミックな表現、それを可能にしている人間のイマジネーションです。これは絵画の魅力の実感であり、私自身にとっての絵画の可能性、描くことの意味を探求することでもあります。

 

 

―なるほど。確かに先生の作品をみていると様々な想像が掻き立てられます。今後新たに取り組みたいモチーフはありますか?

 

自分なりの風景画、静物画が描きたいと思っていますが、まだ考えがまとまっていません。もしかしたら、絵画ではない可能性もあるので。

 

―今後どのような作品がみられるのか今からとても楽しみです!

塩月先生にとって、絵を描くとはどういう行為でしょうか?

 

私にとって絵を描くことは特別なことではなく、言語と同じくらい大切な表現です。言葉のように素早く伝達する手段ではありませんし、コミュニケーションの手段としても言葉には及びません。しかし、時に絵画は言葉以上の情報を見せることができるし、感動させる可能性を秘めています。「欠如にして過剰、寡黙にして雄弁、言葉以下でかつ言葉以上、この両義性にこそ絵画の最大の特徴と魅力がある」(※)という、岡田温司氏の言葉に強く共感します。

※岡田温司「絵画の根源をめぐって」『芸術と脳―絵画と文学、時間と空間の脳科学―』、大阪大学出版会、2013年、178頁。

 

―絵画制作以外の取り組みとしては、2011年に『動物のいる話』(書肆草茫々2011.1.1刊行)の挿絵を担当されていますよね。普段の絵画制作とは異なった点などを教えてください。

 

挿絵を描くことは以前からやってみたいと思っていましたので、お話をいただいた時は素直に嬉しかったです。ただ、普段の作品とは違い印刷されるということ、文章(物語)にあわせて絵を考えていくことになったので、難しさもありました。また、自分ではよくできたと思っていても、編集の方の要望に合わなければ描き直しというシビアな部分もありましたね。挿絵の数も多かったですが、とにかくたくさん描きましたし、いろいろな表現にチャレンジしてみました。出来上がってみると、一人の画家が担当したとは思えないような挿絵になってしまいましたが。

 

そのほかにも、『動物のいる話』を介して知り合った、詩人・高野吾朗氏の『Responsibilities of the Obsessed 』(2013年)の表紙にdynamicsシリーズの作品を、

https://www.amazon.co.jp/Responsibilities-Obsessed-English-Goro-Takano-ebook/dp/B00BI7R7SW/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1504065752&sr=8-1&keywords=goro+takano

2017年に出版された、エドウィージ・ダンティカ()佐川 愛子 (翻訳)の『ほどける』の装丁にwipeシリーズの作品を使っていただきました。

http://www.sakuhinsha.com/oversea/26276.html

 

本の装丁に作品を使っていただくことは憧れでもありましたのでうれしかったです。

 

―作家として心がけていることはありますか?

 

常に実験的でありたいと思っています。制作という臨床を通して様々なことを考察していきたいと思っています。

 

―これからの夢や目標を教えてください。

 

あまり絵画・平面といった枠にとらわれない表現にチャレンジしたいと思っています。映像にも、オブジェにも興味がありますし、展示方法によって、同じ作品でも全然違う印象になることもたくさん経験しました。様々なメディアをミックスして、自分の見たいビジュアル・空間を作ることが目標でしょうか。

 

―最後に、個展をご覧くださる皆様に一言お願いいたします。

 

ヒビ、しみ、錆、傷といった、絵を仕上げるうえでノイズになり得るものを敢えて取り入れることで、鑑賞者に描かれている以外のモノ、コトにも意識を導いていくことができればと思っています。つまり、ノイズと描かれているもの(見えているもの)の響き合いや違和感によって、鑑賞者の内に新たなイメージ(見えないもの)が浮かび上がること。この、見えるものと見えないものの間に自分の表現を置きたいと考えています。わたしはそれを『些細な神話』と呼ぶことにしました。

私の作品や展示を通して少しでもこのことを感じ、楽しんでいただけたらと思います。

 

―塩月先生、ありがとうございました!

個展は明日よりGallery Seekにて開催いたします。皆様ぜひご高覧くださいませ。

 

「塩月悠 個展」

914日(木)~ 924日(日)

作家来場日:915()16()各日1317

会場:Gallery Seek

出品作家:塩月悠

 

二紀会で活躍する、塩月悠の個展を開催致します。ただ平面の作品を描くだけではなく、コラージュやヒビ割れも駆使し、立体感と時間という概念を加えた作品群を展示致します。新作10余点を是非ご高覧下さいませ。