2005年09月19日

第五回 ベルヌ名作全集1 『悪魔の発明』(偕成社) 

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ジュール・ベルヌについては説明はいらないでしょう・・・『海底二万里』ですな。

この本の箱絵・口絵・挿絵を担当したのは司修。経歴としては、1936年6月25日、群馬県前橋に生まれる。画家。1959年に自由美術展、日本アンデパンダン展、読売アンデパンダン展等に出品。1960年に第一回めの個展を開く。1963年自由美術協会会員となるが、翌年脱会し主体美術協会の創立に参加する。タブローによる創作の他に、装丁、絵本、エッセイなどの分野でも多才な活動を繰り広げる。本の装丁としては、大江健三郎、水上勉、三浦哲郎など多くの作家の著作や、また変わったところでは創元SF文庫のカバーなども担当されている方であります。
またこの本のアート・ディレクターとして沢田重隆という名前が記されているのですが、ざっとウェブで検索してみたところ(失礼!)やはり子供向けの本など多数の装丁をご担当されている方のようです(今後調査します・・・)。

で、この本は昭和43年に発行されたもので、出版元が偕成社であることからお分かりのように、子供向けに書き直されたものになります。
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それにしてもまあ、この箱絵からして極彩色のコラージュ、そして箱から取り出すともっとすごい。おそらく海外版の本から取ってきたと思われる図案のコラージュのあまりのサイケさに目がクラクラしてしまいます。





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それにとどまらず、あまりに妖しい雰囲気を持った口絵、そして重々しい文中の挿絵といい、全ての点において、とても”子供向きの本”とは思えません・・・






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今回ご紹介できてませんが、本文冒頭には「科学界権威者のことば」や「ベルヌの作品を読んで」にはフォン=ブラウンや糸川英夫の推薦文を挿入するなど、もはや気合い入りまくりです。






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もし自分が子供を持つ立場であったら、この本を心安く勧められるかどうか、はなはだ心もとないところです。






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でも子供って、案外鈍感なところもありますから、案外何も考えずに読んでしまうかも知れませんね。
参考:こどもの本 WHO'S WHO http://www.ehon.info/whoswho/
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2005年09月15日

第四回 島田 一男『鉄道公安官』(早川書房)

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島田一男は1907年、京都市生まれ。1946年、雑誌「宝石」の短編懸賞に『殺人演出』が入選。その翌年から人気作家となり、以後おびただしい数の作品を発表。日本全国どの古本屋でも、彼の小説を必ず一冊は置いているというノ(半分本気)。

さて、この本の装丁を担当した真鍋博は1933年愛媛県生まれ、多摩美術大学油絵科卒。1964年にはニューヨーク世界博日本館の壁画を制作、そして1975年には沖縄国際海洋博テーマ委員を務めるなど幅広い活動をする傍ら、『超発明』(講談社)や『ぼくの家庭革命』(文藝春秋)など著書も多数発表。

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なのでありますが、私のような、30代半ば位の層にとって真鍋博といえば、やはり新潮文庫の星新一作品群における表紙、そしてイラストであると、ほぼ断言できるのではないでしょうか。まず一冊買ってしまえば、次から次へと買い続けてしまう魔力を持った星新一のショートショート作品。そして必ず載っていたのは、ただのイラストとは捨てきる事の出来ない、妙にコミック的で、しかも子供心にも非常にクールな質感を印象付ける彼の挿絵であったわけで。おかげで、私にとって真鍋博とは、横尾忠則と並び、本をぱっと見るだけで「この人の装丁だ!」とすぐに分かってしまう偉大な人物となってしまったのであります。tetsudo4さて今回ご紹介する『鉄道公安官』は昭和35年に出版されたもので、私の手元にあるもの(初版)が、あまり状態がよくないのがちと残念ではあります。とはいえ、グレーがかった青と白を基調とした中に、汽車、トンネル、標識類があいかわらず細い線で描かれ、そしてダイヤグラムから抜き出したようなグラフ線や時間の表示をところどころに埋め込んだこの本の装丁も、その全体のクールな印象から一目で真鍋博だと分かるものとなっています。
ただし、本扉にある放射線は、なんとなく横尾忠則タッチでニヤリとしてしまいますね。tetsudo5

参考資料:真鍋博『有人島』(講談社)、『日本ミステリー事典』(新潮選書)

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第三回 菊村 到『ろまん化粧』(文藝春秋新社)

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菊村到は大正14年生まれ。昭和32年、『硫黄島』で芥川賞受賞。以後大衆小説、推理小説そして官能サスペンスなど幅広い作品を発表。兄は『小説吉田学校』でも有名な政治評論家戸川猪佐武。で、今回紹介したいのは昭和33年に出版の『ろまん化粧』でありますが、この前年の『硫黄島』が戦記物であるのに対し、この小説は美容界で働く若い女の恋愛事を描いた、まあ良くも悪くも「たわいのない」読み物なので、この作家がいかに初めから色んなジャンルに手を出していたのかということがよくわかります。roman2


が、実はそんなことはどうでもいいのです。まずこの函写真を見ていただければ、おそらくどなたでも「あやしい」と感じられるのではないでしょうか。『ロマン化粧』ではなく、わざわざひらがなで『ろまん化粧』にしていることも「妖しい」効果倍増でありますが、なんといってもこの赤地に写真の女性の顔。残念ながら装丁のデザイン者は不明ですが、写真は広告、ヌードなどの分野で、戦後から長く活躍する著名な写真家杵島隆によるものであります。

「この表情の無さは、なんとなく柳美里に通じるものがあるね・・・」とは個人的に思っただけのことですが、なぜたわいのない内容の小説に全く沿わないこんな写真を使ったのか、理解に苦しむところです。roman3

また函から取り出した書籍本体の表紙には、金色の大きな文字で書かれたタイトルと著者名がどーんと出ております。あまりにも豪華な印象を与える金色文字が、小説の読後感からするとこれからも違和感を与えられずにはいられません。roman4

思うに、内容と装丁との間にこれだけの不調和感を読者に感じさせる本もかなり珍しいのではないかと。ある意味非常に邪道な「殿堂」の選び方ですが、それでもこの怪しさの魅力には捨てがたいものがあり、あえて紹介させていただいた次第でございます。


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第二回 佐野洋『銅婚式』(東都書房)

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佐野洋は昭和3年東京生れ、東京大学文学部心理学科卒。昭和33年「宝石」「週刊朝日」共同募集に『銅婚式』が二等入選。以降、今日まで数多くの推理小説を発表。
で、今回取り上げたいのはそのデビュー作が表題となった単行本なのですが、問題はこの発行元となる東都書房であります。この出版社は、この『銅婚式』以外にも様々なトンガッた装丁の本を生み出しているのですが、私の勉強不足であまり多くの事が分かっていません。現在までに分かっていることは、
(1)講談社の子会社として昭和三一年に創立。
(2)同年出版した原田康子の『挽歌』が一大ベストセラーとなる。
(3)『日本推理小説大系』や『TOTOミステリー』など、推理小説出版史上重要と思われる出版物を刊行。
(4)推理小説や純文学だけでなく、後年はノンフィクションやタレント本なども刊行。
・・・くらいのことであります。sano2






では、この『銅婚式』の装丁についてでありますが、昭和三四年に出版の割にはあまりにも渋いと思われる色使い、そしてわざわざカットして再構成した「アバンギャルド風」とでも呼びたい表紙写真といい、何と昭和モダン的雰囲気を漂わせていることでしょう。




sano3そして表紙をめくると、赤と白で斜にカットされたタイトルページ。実はこのページ、単なる色分けではなく、赤い紙の折り返しなのです。今の単行本ではちょっと考えられない凝りようです。
タイトルページをめくると著者略歴と「微妙な」サイズの著者写真が3カット並べられています。ここでも、「なぜ佐野洋が澄ましているだけの写真を、こんな半端なサイズで、しかも3つも並べなくてはいけないのか?」と疑問が湧いて来ますが、こういうブックカバーを眺めるだけでいろいろ楽しめるというのは、今日の出版物の中では、なかなか発見出来ないことであります。sano4
先に述べましたように、この東都書房ではこの他もいろいろな変わったブックカバーを生み出しているので、今後またご紹介していきたいと思います。sano5
装丁:Fスタジオ
参考資料:別冊新評「裸の文壇史」'73 Spring


soteidendo at 16:28|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)

第一回 安藤昇『激動ー血ぬられた半生』(双葉社)

ando1安藤昇は、大正15年生まれ、戦後渋谷でやくざ「安藤組」組長として鳴らすも、昭和33年横井英樹襲撃事件で入獄。出獄後、昭和40年自らの半生記を元にした松竹映画『血と掟』で映画俳優デビュー。その後、東映、日活などでも様々なやくざ映画に出演。また映画のプロデュースや歌手業でも活躍。

今回ご紹介するのは、上の半生記として書かれた『激動』であります。
今、手元にあるのは昭和46年の改訂七版で、この本の初版は昭和43年なので、初版時とは装丁が変わっている可能性があります。(今後も引き続き調査します・・・)
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この本、カバーは白地にいきなり白黒写真で安藤昇の顔半分のアップ。「この本の売りは、安藤昇のこの顔!」というコンセプトがダイレクトに伝わるものとなっています。そして顔の横には安藤自身の激しい筆跡によるタイトル、その上に、ひかえめに小さく赤い活字で「血ぬられた半生」というサブタイトルがあり、最下部には「安藤 昇」と著者名が来るという、誠にシンプルな構成なのです。
とはいえ結果的に、見る人の視線を「顔写真」→「タイトル」→「サブタイトル」と自然な流れでグッと掴むことが出来るデザインとなっており、シンプルなブックデザインとしては一種の究極形と言えるのではないでしょうか。

それだけではありません。裏表紙には別パターンの安藤の顔写真が(これも顔半分)。そしてカバー全体を広げると二種類の顔写真がフルで見られるようになっています。

まさに「シンプル、かつ大胆」。このインパクトを超えるようなカバーには、まだお目にかかった事がありません。ando3

soteidendo at 15:18|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)