最後にブログを書いたのが、4月22日の防災基本計画についてでした。あれから2ヶ月、放射線量の更新だけは続けましたが、ことは政治問題になってしまい、馬鹿馬鹿しいのと政治には関わらない方針で追加の記事は書かないでいました。しかし、最近、福島県内の放射線量の許容値について、防ぐことが出来るのに、社会的なコスト増を理由として多少の癌の増加は致し方ない、あるいは深く考えていないのが原因なのか、と思われる対応が目に付きます。また、この許容値が文科省から出ており、原子力安全委員会からも出ていたり、と、公衆衛生の問題なのにどこに責任が有るのか、分りません。

放射線を被曝すると、身体内で沢山のフリーラジカル(活性酸素はこの一種)を発生し、これがDNAを損傷します。損傷の大半は修復されますが、損傷を受けたタイミングが悪いと、修復されません。この損傷が遺伝子を担う部分で、ダメージが深刻であれば細胞は自死し、軽ければ奇形や癌の芽となります。この癌の芽を作らないようにするには、放射線を浴びないようにするしかありません。

我が国には一般公衆に対する放射線被曝に対する法的規制は無く、有るのは放射線作業者向けだけです。これが各省庁が勝手に許容値を出せる原因です。それでも今は、ICRP(国際棒斜線防護委員会)がガイドラインを決めているので、現在はこれに准ずることが妥当でしょう。ガイドラインでは、一般公衆は、作業者の20分の1の1年あたり1mSvの線量です。ただし妊娠中の女子を除き、過去5年間での平均被曝量が年あたり1mSvを超えていなければ、その年において全身が受ける線量が1mSvを超えることも許され得る。としています。
ただし、これには前提条件が有ります。作業者の被曝限度20mSv/年は管理環境条件下であり、被曝はレントゲン作業等での管理された被曝を仮定しており、放射線は”きれいな”軟エックス線の被曝です。また、作業者は放射線被曝のに敏感な骨髄や消化管等の被曝を避ける教育を受けており、必要であれば腹部と股間を防護する衣服やエプロンを着用します。さらに、作業者は作業を終了すれば休養して細胞の損傷を修復できます。
この結果、放射線医などは実際には20mSvを遥かに超える年間被曝をしています。一方、一般公衆は被曝部位による危険性を知らず、非管理環境であるため線源を体内に取り込んで内部被曝の危険もあります。作業者と言えども、も非管理環境下であれば一般公衆と同じ扱いとなって、1mSv/年です。

ちなみちに、エックス線と今回の原子炉事故で出ているガンマ線は同じ電磁波です。違うのはガンマ線が原子核からでるのと、エックス線は原子の電子状態の変化から出る、と言う発生方法の違いです。今回のガンマ線は非常に強力で、1MeV以上、レントゲン写真に使う軟エックス線は400eV程度で20分の1程度です。とは言え、大型のライオンと小型の豹のどちらが怖いか比較するようなもので、どちらも人間には危険です。

さて、
ICRPのガイドラインは胎児や小児についてふれていません。作業者の場合は妊娠中と妊娠可能な女性は、被曝量を10分の1の2mSv/年に規制していますが、小児には触れていません。これはICRPガイドラインの大きな見落としといえるでしょう。胎児や小児は放射線に対する感受性が高く、努めて被曝を避けるべきです。理由は細胞分裂が胎児や小児では活発だからです。
成人の場合、細胞分裂間の日数が短い、造血細胞や精巣、卵巣、消化管の幹細胞、などは放射線の影響を受けやすく、細胞分裂間隔が長い骨、筋肉、神経細胞は放射線の影響を受けにくい、と言うベルゴニー・トリボンドーの法則があります。従って、繰り返しますが、エックス線作業の時、看護師さんやエックス線技士などの作業者は腹部から下をエプロンなどの防護衣料で守るわけです。胎児や小児は成人に比べて細胞分裂の日数が20分の1~5分の1で成人の幹細胞なみに短く、この法則が全身に適用できると考えられます。

今、私達はこの不完全なICRPのガイドラインに従わざるを得ません。自然放射能が2.4mSv/年という事実が有るので、余り過敏にならず、1mSvを守ることが落としどころでしょう。とは言え、もう少し放射線被曝と癌についてお話をします。6月1日にCNNや新聞等で報道された携帯電話の電磁波による脳腫瘍の件も、癌の芽を作ることです。放射線と電磁波いずれも体内でフリーラジカル(活性酸素)作り出して、DNAを損傷して癌の芽を作ります。癌の芽は数十年かけて癌となって発症します。胎児や小児は細胞分裂が活発で癌の芽を作りやすい、プラス、寿命が50年以上あり癌が発症するのに十分な長さがあります。一方、60歳過ぎでは全身の細胞は不活性で癌の芽が出来難く、出来ても発症する前に老化が原因で寿命が来てしまう。と、言うわけで成人に比べて胎児や小児は著しく放射線の影響を受けます。

現在、文部科学省は学校や幼稚園の校庭の放射線量を3.8μSv/時間としています。これは年間にすれば24×365倍した33mSv/年となり、作業者の20mSv/年も大きく越えています。6月21日のニュースで放射線医学者が一般公衆の被曝量のガイドラインについて20mSv/年でも大丈夫と言っていました。2つ誤りが有ります。1つは放射線医がレントゲン撮影等で被曝するのは、短時間に大量な被曝をするが、今回のような定常的に受けるのではない、こと。もう一つは1906年のベルゴニー・トリボンドーの法則が胎児や小児に適用されるべきこと、です。ICRPは1年間の蓄積被曝量を問題としますが、私は胎児と小児に限っては短時間被曝量もこの値を超えないようにすることを提案します。1mSvを24時間×365日で割った0.11μSv/時間、を常に守ることです。
なお、内部被曝については、ヨウ素131がすでに消えて核種はセシウム137であり、セシウムは癌化の可能性の低い筋肉に蓄積するので、無いに越したことはありませんが、外部被曝と同じですが、やはり危険です。体の中に線源を取り込むと、次の日に外部から被曝しなくても同じように被曝をして、これが長い間続きます。外部線源からはガンマ線被曝で、次の日には残りません。つまりセシウム137の内部被曝を1受けると、100日で100の蓄積になります。ガンマ線であれば、最初の1だけです。この様に、内部被曝は危険です。

原発事故前の日本の放射線量は0.04~0.07μSvでした。東京では0.04でしたが、現在は0.06μSv/時間。それでなくても胎児や小児を取り巻く環境には殺虫剤や防腐剤や各種電磁波などの癌の原因が満ちており、この上に放射線で癌の原因を増やしたくないです。今回の表題の予防原則とは、「そこに危険の可能性が有れば、安全策を取る」と言うことです。欧米の政府は学者の意見が分かれば、予防原則に従って公衆衛生を決めています。日本政府は残念ながら「危険が証明されなければ現状維持」という、現状維持の御用学者の意見に従う立場です。水俣病や薬害エイズなどは、この例です。
最初に戻って、多少の癌の増加は致し方ない、と考えているのか、それとも気付かずに3.8μSv/時間を認めているのか分りません。もっと悪くて全電力喪失の条件を不必要、として禁じたように、核物質が環境に漏洩した場合を想定した研究が行われないように、東電と官が一体になって邪魔をしていたのか・・。数十年後に福島県を中心として癌の若者が出てくるまで、放っておかれるのでしょうか。

もう一つ、下衆のかんぐりですが、放射線医の先生方は、犠牲的精神で患者さんと共にエックス線を日に何度も被曝しています。このご功績を認めて若い先生方にはストイックにならずに、ぜひともこの様な自殺行為はやめていただきたいものです。
一般公衆には自己判断できる知識をお広めになっていただきたいです。