2014-2015 Tottori

March 05, 2014

風を知るための幾つかの習作ープロローグー and THE WAY I HEAR, Tottori 2014

room_100006_sml
image: 旧横田医院の一室

現在、鳥取市に滞在しながら「風を知るための幾つかの習作ーパフォーマンスなどー」の制作を行っています。「THE WAY I HEAR」というサウンドスケープをあつかったシリーズの新作を、と思ってたのですが、どちらかというと2012年頃から地味にやってきた「風のスタディ」という風や大気に関連した作品になりそうです。

鳥取では3月8日14時よりトーク
https://www.facebook.com/events/236066536517644/

3月22、23日(両日とも15時開演)にパフォーマンス
おそらくこちらに詳細がアップされると思います
https://www.facebook.com/pages/Hospitale-Project/292567924186154

パフォーマンスもテキスト(語り)が主体になる作品ですが、こちらのブログではその一部、または別の内容を、1月の下見から、幾つかの場面だけになるとは思いますが書き起こしてみたいと思います。
。。。。。。。。。。。。。。。。。

<プロローグ>

T-1

2014.1.4. くもり・雨
大阪駅11時24分発のスーパーはくとに乗って鳥取へと向かう。
途中、明石辺りでは灰色の海が間近に見え、大原駅辺りからは雨が振り出した。
枯れた山を両側に眺めつつ、いくつかの川を越えて、トンネルを抜けていく。所々、雪が積もっている。

予定よりも少し遅れて鳥取駅に到着。プラットフォームから階段を降りつつ、迎えを探そうと改札付近に目をやると、小柄な女の子が私の名前を書いたメモを頭の上にのせているのが見えて、すぐにそれとわかる。

鳥取市内も小雨まじり

大学三年生だというOさんに連れられて、いったん地下に下り、短めのアーケードを抜け、今回の滞在先であることめや旅館に着いた。駅からわずか5分くらいであろうか。

宿は想像していたよりも小綺麗な構えで、もと旅館(その前は遊廓)の風情をそのままに備えている。

ガラガラ、と引き戸をひらき、「おじゃまします」と一言

宿のご主人の岩原さんが木造二階建ての建物内を案内してくださった。「旅館」と言っても、すでに旅館業としては廃業し、現在はコワーキングスペースとしてWi-Fi、コピー機などを用意し、一階の居間部分を安い使用料で開放したり、二階部分は別のアートプロジェクト関連のアーティストのためのレジデンスとなっている。(そしてまさしく私がその「別のアートプロジェクト関連アーティスト」なのだ。)

表から見えるよりも奥行きがあって、部屋数も多い印象を受けた。

「この建物自体は築何年くらいなんですか?」と尋ねると、岩原さんは昭和18年の鳥取大地震、そして昭和27年の鳥取大火の事を話してくれた。そして今私達がいるこの宿はその大火のあとに建てられたのだと。土地の記憶はこうした大きなエポックによって区切られていて会話の端々にのぼるのかな、などと考えた。ともかくこの建物は築60年ということになる。

今回、鳥取にやってきたのはHospitale Projectというアートプロジェクトからのお誘いを頂いたからで、鳥取大学の地域学部の学生達とも連携し、3月に滞在制作と作品発表の予定。このプロジェクトは旧横田医院という元病院施設をベースにして活動を展開されている。

私もことめやを後にして早速旧横田医院へ下見へと向かった。町の病院にしては規模が大きい、事前に聞いてはいたが、鳥取の近代建築物として異彩を放つこの円形の病院は廃墟と呼ぶにはしっかりとした風体であるが、病院としての機能を放棄した感が覆っていて、時間が止まった様な印象は否めない。外よりも冷んやりとした病院内を歩いて回る。

..................
病院内に作られた小さなサロンにてリスニング

窓の外から雨音
壁にかけられた時計の秒針
少し離れたところから、横断歩道かなにかの電子音
すぐ窓の外で、鳥のギャーギャーと鳴く音
雨に濡れた通りを車が走りぬける
猫が耳障りな鳴き方をしている

.............

約1週間の下見だったが、町を見下ろせる山に登り、図書館で資料をあさり、そこからインタビューをしたり、小学校を訪ねて貴重な資料を借りたり。。。手伝ってくれる人たちにも助けられ、いくつか「風の種」をみつけた。私は協力してくれるスタッフに追加リサーチやそのレポートをお願いして、ひとまず鳥取を離れ、3月にその「風の種」をさらに掘り下げる事にした。

soundartist77 at 18:25|この記事のURLComments(0)

March 08, 2014

「風を知るための/テイクオフ」and I did Paragliding !

46

「風を知るための/テイクオフ」

テキスト:mamoru
画像:三宅航太郎、映像:河本珠奈、リスニング:大下加奈恵、コーディネート: 谷口沙希

パラグライダーインストラクター:市川 正さん(JHF公認インストラクター)
協力:砂丘本舗/鳥取砂丘パラグライダースクール(http://para.sakyu.info/
。。。。。。。。。。

T-10

2014年3月4日、晴れてはいるが、曇が多く時折日が隠れる、気温は10℃を下回りじっとしていると寒い

砂丘にたたずみ海に向かって耳をすませば、
少し遠くから、幾重にも力強い波の音
時折、とんびが上空でピュロロロローと鳴く
耳元で風がする音がして、砂の上では何かがころがっている
そしてゴォォ、シュー、ドゥオーンとひときわ大きな波が打ち寄せる
周囲から砂丘散策を楽しむ話し声や、服がこすれる音がちらほら聞こえ
上空をヘリが南西の方向へぬけていく

つい30分ほど前に砂丘に到着した時はまだ陸地があったまっておらず、山から海へと弱い南風が吹いていたが、インストラクターの市川先生が「10時前後にはきっと、風のおしあいがはじまって、北向きに変わると思いますよ」と言った通り、10時きっかりに吹き流しはほぼ真北からの風を受けてそれまでとは逆の方向へとはためきだした。風速1−2m/秒程度の穏やかな北よりの風。私たちはその風をとらえるためにテイクオフのポイントを変えた。


「もう少し右に動きましょうか」

私の目の前には、砂につきたてられたプラスチック棒にとりつけられた吹き流しがたっていて、海から私の背後へとはためている。これが海風だ。

「それじゃあ、そのまま前に進みましょう」

背中に背負ったパラグライダーにずしんと抵抗が加わる

「手を挙げてー」

キャノピー(パラグライダーの翼)からのびている何本もの細くて固いラインがピンと張って、風は私の体を上へと吊り上げはじめる。

「はい、はなしてくださいー。そう帯はなしてー」

ラインを束ねた先にあるベルト状の帯と呼ばれる部分を手放すと、手に握られているのは舵取りのためのハンドルだけだ。下が砂地ということもあって、一歩前に進むのにも相当に力が必要になるが、前傾姿勢になるとブレーキ作用が働き余計に進まない。ここからが風からの抵抗を最大に感じる場面。

「前に走って!」

そう言われて走ろうとするも殆ど前に進んでいる気がしない、上半身をあげ、目を海の方へやり、必死で前へ前へ、ともがく。

<ほんとに前にすすんでる?>

「そう、まだ走って、まだまだ!」

<でも、もう足浮いてますよ!>

そう思いつつも、教えられた通り走っているかのように足を動かし続け、砂丘の頂上から斜面が下りにさしかかる、と同時にテイクオフ。間際まで、帯のあたりを手に持ちひっぱりながら並走してくれた先生の息はもう聞こえない。

足が宙に浮く、まだ重心は乱れていて、地表に戻されそうな力を感じて不安になった、のも束の間、体は完全に浮かび上がる。

「はい、肩ーー!」

ハンドルを握った両手を肩の位置へやる。バランスがとれてくる。
つい先ほどまで全身に感じていた抵抗は「0」に近づいている。

風にのったのか?

「はい、右ーー!」

おそらくほんの数秒のことなのだろうが、目には見えない大気の動きにあわせてすべる、ただすべる。少し異質な空間の流れ方を知る。驚いたことに私はほとんど「無音」に近い感覚を覚えた。

「両手ーーー!」

地表が迫ってきて<あともう少し飛んでいたい!>という私の想いは、私の背中へと伝わってきたパラグライダーの重みによってかき消され、束の間味わいかけた異質な感覚は散り散りになる。風にあおられたキャノピーが私の前方にスクリーンのように広がってから砂の上に落ち、少し引っ張られる。

風はそのあとも刻一刻と変化を続け、午後になって太陽が雲に隠れ陸が熱を失いはじめてからは海風が負けて、風速6−8m/秒の少し強めの南風にかわった。

私は砂丘をあとにし、その風をたどるためにある山へと向かった。

soundartist77 at 17:30|この記事のURLComments(0)

March 13, 2014

「風を知るための/データ」and the Tottori Meteorological Observatory!

Meteorological Observatory
image taken at the Tottori Meteorological Observatory


テキスト: mamoru
インタビュー:北脇安正さん(鳥取気象台 調査官)
コーディネート: 谷口沙希

。。。。。。。。

T16

1952年4月をリスニング

現在は鳥取市内にもある観測ポイントだが、当時は湖山池付近にしかなかった。今では車で20分ほどの距離だが、湖山池というのは海際にあり(今では海とつながっているいわゆる汽水)気象条件は市内とずいぶん異なる事もある。当然風向きの変化も異なる場合がある。

調査官の方のお話によれば、当時は全国規模の天気図を一枚作成するのに半日かかったそうだ。

「当時はまだモールス信号ですかねぇ、外国からのそういうデータが集まってきて・・・それで手でねこういう等圧線なんか書き入れていったんでしょう・・・」

私にが天気図に大して抱いていたイメージは「現在」を知る手だてであり、また「予測」をたてるためのものだが、つまりその当時は純然たる記録でしかあり得なかったのだ。だから明日の天気がどうなるか、よもや明日どんな風が吹くのかは(今もってそれはとても困難な事だそうだが)知り得るものではなかったのだそうだ。

「予測は・・・できなかったでしょうね」

資料を撮影し、その後当時を知る人のお話を聞きに急いで移動。

リスニング継続・・・

取材協力、資料提供:鳥取地方気象台

soundartist77 at 22:36|この記事のURLComments(0)

March 14, 2014

「風を知るための/竹ざおとロープ」and the wind brings the fish!

Tougou_morning
image taken at 10:52, 2013.Mar.13

テキスト :mamoru
コーディネート、撮影:三宅航太郎、リスニング:藤木美里

取材協力:東郷池の白魚を捕る人達
。。。。。

T18

2014.03.12 快晴、気温も高め。鳥取滞在中で一番いい天気かもしれない。
朝早くから好天ということもあり、予想していた午前10時よりも前に、風が海風に変わった。

急いでポイントへ向かう。三宅君が言っていた通り、竹ざおに荷造りロープをくくりつけけたのDIY風見が脇に立てられた小さな浜には、すでに何人か魚捕りの人達が居た。

東郷池では2月終わりから5月まで白魚が捕れる。
産卵期を迎えた白魚が風が強いと浜際にたくさん流されてくるのだそうだ。

首からさげた、ペットボトルを切っただけの魚かごに、網ですくった何匹かの白魚をつまみあげながら

「ポイントはわからん、網をただいれるだけ」

と、胴長を履き、腰まで海水につかって網を右へ左へと動かしながら、魚捕りのお父さんが楽しそうに、でも真剣に言った。

彼らはこの季節、風を何気なく待っていて、海風が吹いてくると家から出かける。

風は強ければ強いほど良い。
多い時には、網でひとすくいするだけでごっそりと大漁だそうだ。

「そんな時は何キロも捕れる」
「あれがあるさかい、やめられん」

一人の魚捕りの方が何も言わずに数匹の白魚を私の目の前に網であげてくださった。
つまんで透明の小さな5cmほどの白魚を眺めていると、横にいた別の魚捕りの方が

「生でも食べれる」

と、いうことで一匹頂いた。ザクっという良い歯ごたえ。(ちょっと生臭い)

しばらく話しを聞かせてもらってからその場をあとにした。
池沿いに車を走らせていくとおなじ様な竹ざおの風見が何本か目につく。
風見を誰が立てたのか聞き忘れたことを思い出し、先ほどのポイントに慌てて戻った。

「誰っちゅうことはない」

北北西からの風が強さを増す
目の前の波の音はひときわ大きくなり
すぐ後ろを通る車の音、
時折、魚捕りの人達同士がかわす短い会話だけが聞こえている

その場を離れ、その日の取材を終えて再び同じポイントを午後に通過した時には風は拮抗しつつも、すでに南よりの風にかわりつつあった。魚捕り達の姿はもうない。

Tougou_afternoon
image taken at 14:32, 2014.Mar.13

soundartist77 at 09:26|この記事のURLComments(0)

March 20, 2014

風を知るための幾つかのパフォーマンスとそのスコア and the lecture performance + a show of its score!

P1100487
image: 北西の風、風速11m/秒を知るためのパフォーマンス / wind study - NW, 11m/s

mamoru|風を知るための/幾つかのパフォーマンスとそのスコア
Lecture Performance|幾つかのパフォーマンス 2014/03/22 & 23 15:00 start
Exhibition|幾つかのスコア 2014/03/27-4/13 13:00-18:00 入場無料・会期中無休

会場:旧横田医院(鳥取市栄町403)
このたび、ホスピテイルではサウンド・アーティスト、mamoruによるレクチャー・パフォーマンスを実施します。4週間にわたる鳥取滞在中、mamoruはこの土地の風を知ろうと、リサーチグループを作り資料にあたり、風を知る人達に会い、インタビューを重ね、自らもそれらの風を体験するためのフィールドワークを行いました。本作はその「風のスタディ」に基づいて制作され、パフォーマンスではそれらの成果がレクチャーされ、演じられ、集まった人達もまた「風を知る」でしょう。 パフォーマンス後に残された舞台装置と、新たに置かれるインストラクションおよびテキスト・スコアによる「風を知るための」手がかりとなる展覧会も開催します。

プロフィール|mamoru
1977年大阪生まれ。近年は身近な物や行為から生まれる微かな音をとりあげる「日常のための練習曲」や、過去−現在−未来/架空の音風景を実際のリスニングやリサーチによって書きおこす「THE WAY I HEAR」などのシリーズ作を発表。普段あまり気にとめない音を「聴くこと」から知りうる世界を提示することを試みる。主な展覧会に「MEDIA/ART KITCHEN」(アヤラ美術館、マニラ、2013)、「十和田奥入瀬芸術祭」(十和田湖、2013)など。www.afewnotes.com

主催・お問い合わせ:ホスピテイル・プロジェクト実行委員会(鳥取大学野田研究室内) 〒680-8551 鳥取市湖山南4-101
tel & fax:0857-31-5128/090-9546-9894(担当:赤井)email: hospitale.project@gmail.com http://hospitale-project.jimdo.com/
後援:鳥取市中心市街地活性化協議会
協力:砂丘本舗/鳥取砂丘パラグライダースクール、湖山池ドリームジュニアの皆さん、鳥取地方気象台、弘前大学大学院理工学研究科・気象学研究室
企画:鳥取大学地域学部(野田研究室、榎木研究室、小泉研究室、藤井研究室、浅井研究室)、赤井あずみ(キュレーター)
鳥取大学地域再生プロジェクト

soundartist77 at 12:01|この記事のURLComments(0)

March 29, 2014

風を知る人達 and I thank you for all of you!!

th_IMG_5057
photo: Ryoko Tanaka, 2014.03.23 旧横田医院屋上、西風、約3m/s

鳥取にて耳を澄まし、風を知る人達に出会い、彼らから預かった言葉とそこから考えた事、想像した事を自分なりにパフォーマンスと展示に編集することができた。協力してくれたみんなのおかげでやれたこと、時間が限られていてやれなかったこと、それらを憶いながら、ずいぶんと暖かくなったな、と思いながら鳥取を発つ。

展示は4月13日までやっていますのでお近くの方、鳥取を訪れる予定がおありの方、ご覧頂ければ幸いです。

エンドロール・クレジット

<風を知る人達>

・パラグライダー
インストラクター:市川 正さん(JHF公認インストラクター)
協力:砂丘本舗/鳥取砂丘パラグライダースクール(http://para.sakyu.info/

・ヨット
インストラクター:新家憲一郎さん(全日本トッパー級優勝、湖山池ヨット活動代表)、長尾達彦さん(Laser鳥取湖山池フリートサブキャプテン、鳥取大学体育会ヨット部第50代主将)
インタビュー:新家和憲さん(レジェンドセイラー、スナイプ級全日本グランドマスターズクラス優勝、スナイプ級マスターズ世界選手権優勝など)
文章取材:岡崎志保さん(鳥取大学体育会ヨット部 新 4 回生 )

・鳥取大火に関してのインタビューに応じて下さった皆さん

・気象データ
解析:石田祐宣さん(弘前大学大学院理工学研究科・気象学研究室)

資料提供:鳥取県立図書館、鳥取県立公文書館、鳥取地方気象台

<風を知るための/team mamoru_tottori>

・キュレーター:赤井あずみ
・リサーチ、取材コーディネート、記録など:
大下加奈恵、谷口沙希、河本珠奈、藤木美里、
佐々木航平、井上舞、伊垣実智、樽本光代、上山梓、小林巧三、隅田麻梨香、大西利永子、中田心、他

・撮影:田中良子、三宅航太郎

soundartist77 at 23:25|この記事のURLComments(0)

May 31, 2016

風を知るータンデム飛行1&Documenting my WIND STUDY!

Tottori_Top

photo: mamoru

いまになって昨年の夏の事を記録するというのもやや妙なのだが、オランダでの大学院研究生活が残り3ヶ月となったこともあって、たまりにたまったこの2年間のまとめマインドに入ったのだと思う。

ともかく、鳥取で2015年8月に鳥取藝住祭の関連企画として、Hospitaleプロジェクトの赤井さんを呼びかけ人として、アーティストの山本高之さんと共同ディレクションした「SCHOOL IN PROGRESS」という企画を行った。その際に、私が長年地味に進めている「風を知る」というリサーチプロジェクトに絡めさせてもらうことにした。以下は、前にHospitaleで鳥取に呼んで貰った時から協力していただいているパラグライダー・インストラクターの市川正さんとの飛行記録を主にFBへの投稿を元にかきおこす。

「風を知るータンデム1」

2015年8月3日
朝から特急に乗り鳥取へ。

ー向かってます。空へ!(it's true. You'll see later!)

ーまだ向かってます!空へ!On the way!

ーまじですよ。serious business

などとFBに投稿しつつ、久々の鳥取、久々のパラグライダー。駅まで迎えに来てくれた風友三宅くんとともに国内でも有数のフライトスポットである霊石山へ向かう。

山頂に着くと良い風が。上昇気流をとらえたとんびが目の前をいともたやすく駆け上がってゆく。ただ遠くには嫌な雲が見え、吹き流しが時折強くはためいて、風が強まる気配がする。インストラクターの市川さんと電話で連絡を取ると、ともかくやってみましょう、とのこと。風がめまぐるしく変化する日暮れ前の時間帯、ちょうどフライトの準備が整った頃には風が無くなった。市川さんは積乱雲がこれ以上発達するか、日が暮れるともうアウトだと言う。かなり粘ってはみたがやや気持ちは折れそうになる。

ーどうします?明日もありますし今日はあきらめますか?

ー出来ればいろんな気象条件を経験したいので、なんとか飛びたいです。

迷惑だろうな、とは思ったがこのために来たんだから、と正直な気持ちを誠心誠意伝えた。しばらくすると市川さんはスタッフの方に「よし飛ぼうか」と声をかけた。

ーまず僕らでが飛んでみますね。マモルさんは滑走路の脇あたりで風を見て、こちらにタイミングくださいますか?

ータイミングくださいって、僕の判断で良いんですか?

スタッフの方の反応が心なしか「本当に飛ぶの?」という風に見えたせいもあって。滅多に緊張することはないが、さすがに自分のタイミングで誰かが飛ぶ(落ちるかもしれない)となるとプレッシャーがかかる。

風がわずかに強まる、または強まりそうだというタイミングを告げるには、眼下の崖沿いに生える草や下木の葉のわずかな揺れを観察するよりない。風が山肌を上がってくるのを見なくてはいけない。その風が自分に届いてからでは遅いからだ。

ーいきますねー!

と言う声がして、振り返ると、市川さんはパラグライダーのキャノピーを背負って、走りだした。

ーダメダメダメ!

足場用の単管とベニア板で延長された滑走路を急ブレーキで止まる。仕切り直し。
再度風を待つ。今度は風の強弱を見ながら市川さん達の方にも注意を向ける。

ーいきます!

今度は止まる気配がない。私はその邪魔になるまいと滑走路脇で崖を覗き込んでいた位置からさらに必要以上に飛びのけた。間髪入れずに全力で駆け抜けた市川さん達は・・・飛んだ、というよりも落ちたように私には見えた。樹々に触れるか触れないかというポイントすれすれでパラグライダーは浮かび上がる。そして、右にゆっくりと旋回していき私の視界からは消えてゆく。着陸ポイントは飛び出し方向とは真逆の河原なのだ。猛ダッシュで山頂逆側に向かう。現れてくるはずの方向から市川さん達はなかなか現れない・・・まさか落下したなんて事はないだろうがどうしても想像してしまって、ゆっくりと視界に市川さん達が見えた瞬間は何かを大発見したかのような興奮すら覚えた。三宅君が市川さん達を河原まで車でピックアップしに行ってる間に私は果たしてどうやって飛ぶのかと想像を繰り返す。思った以上に時間が経過している。おそらく時間からしてもそうチャンスはないだろうが、果たしてこの滑走路を走り抜けた先に私は空に浮かぶことができるのだろうか。

市川さん達が戻ってくると、いよいよ風はなくなっていった。

無風。そして無言。

ー逆側の斜面に行きましょう。

滑走スペースも広く、見晴らしも良くテイクオフが容易な斜面に着く。吹き流しは完全にうなだれて風が無いことだけを伝えている。

ー風無いですね。

ーもうダメでしょうか?

ーいや、逆にね風が全く無い場合こっち側の斜面だとひとつだけ飛ぶ方法があるんですけどわかりますか?

ー・・・

ー向こうと決定的に違う点があるんですが。

ー滑走路が斜面になってる?

ーそう、この斜面を迷いなく全力で崖まで走り切ると・・・

ー風を・・・生む。

ーやってみますか?

正直、これがコントなら落ちるのは見え見えだな、と思ってしまって思わず笑ってしまった。

ーやります!

後には引けない。着々と飛ぶ・落ちる準備をする。

ー走って、と言ったら走ってください。ダメだと思ったら私が「止まれ!」って言いますから、言わない限りは迷わずに走りきってくださいね。

ハーネスの各部を確認し、気持ちを整える。

ー走って!

前傾姿勢で斜面に足を取られないようにダッシュする、キャノピーが空気抵抗を受けて立ち上がったのか少しスピードが緩む、が崖はすでに数メートル先にせまっている。1回は練習がてら止まるのかと思っていたがその気配は無い、と察し邪念を振り払っう。どうにでもなれ、と斜面が崖っぷちに変わるその瞬間まで思い切り力をこめて走り切る。

ーまだまだ!

重力で体全体が下方に引きつけられ、ハーネスが食い込む。次の瞬間、私と市川さんの体は宙に浮かんだ。
上昇気流がほぼ無いため飛び出した高さよりも上に行くことはできないが、すでに十分な空気抵抗を得た私たちは、無風の静けさの中、斜面からゆっくりと離れていくと、眼下には樹々と田畑、川、人家、街並みをも遠くに見ることができる。遮るものが何もないため、上空では鳥の声がより澄み渡って聞こえる。
前年に砂丘で経験したパラグライーダー飛行と比べるとかなり長い時間のフライトだ。その感触に浸りつつ、無風でも、走って風を作り、飛べるという事実、その体験の面白さがこみ上げてくる。考えともつかぬ、興奮だけでもない、喜び。

ー風があるともっと自由に飛べますよ。明日は楽しみにしててください。

soundartist77 at 20:21|この記事のURLComments(0)

風を知るータンデム飛行2&Documenting my WIND STUDY!

11802559_10153436438670479_5586654660333597171_o
photo: Miyake Kotaro

<2015年8月4日の事>

風を知るータンデム2

昨日に引き続き霊石山からのフライト。風はある。むしろ強すぎるくらいで、今日は風が乱れている。前回は全力で駆け下りた崖もほんの2メートルほど歩いたかどうかという程度で、キャノピーが風を受け、崖側に落ちるどころか、むしろ斜面から引き剥がされる感じでいとも簡単に浮かび上がった。

眼下の樹々も田んぼも風で揺れている。斜面を駆け上がる気流を観察し、サーマルの位置を市川さんは正確に捉えるとそちらに寄せてゆく。サーマル(上昇気流)のコアに入った時の上昇圧は、まるで強い海流に下からつき押されるような感触。ハーネスに深くはまる位置に動くと、空中で座っている様な感覚になる。そのハーネスの底面から伝わってくるエネルギー、耳元を轟音で吹き抜ける風から大気はかたまりで流動していることを知る。

サーマルにも大きなものと小さなものがあり感触は違う。眼下の樹々の葉の揺れ具合ー広葉樹の葉などは裏返って白くなる、稲が揺れて上空からは黒い影かモアレのように見えるーなどからあらかたの予測を立て、サーマルをつかむ。

高度は上がり、気がつくとテイクオフした頂上を見下ろす形になり、手を振るスタッフの姿が見えた。彼女の顔が笑顔なのがわかるくらいには近いが、地表からの高度はすでに350m。近くにはハンググライダーが二機、そしてトンビが一羽。音もなく、滑るようにして滞空し、近づいてきては遠ざかる。

パラグライダーを何度か大きくスウィングさせ、高度をさげ、想像以上にソフトタッチで川沿いの草地に降り立つ。飛び立つ前に遠くに見えていたこの場所に降り立ち、あそこから飛んだのか、と山を振り返る。「飛ぶ」という言葉には思っていた以上に振れ幅が大きいと感じた。そのことを話し、どうやって大気の流れと一体になるのかと質問すると、風を知る人は一言「一体?ではないですねぇ。ただ遠くにいきたい、と思って状況に対応してるだけですよ」と言った。

本日の滞空時間約20分。

お礼を言ってインストラクターの方と別れ、私はスタッフの三宅君と2人と帰り路に着く。ひとしきり空中で得た感覚を興奮気味に語り終えると、彼が「パラグライダーの起源の話し聞きました?」と尋ねてきた。彼が言うにはアルピニストの一部で、山を降りる際にパラシュートで降りるというやり方があって、そこからいろいろと改良されて、今のパラグライダーの形になってきたそうだ。まだ30年程度の歴史だとか。そういえば命知らずのフリークライマーが断崖絶壁をロープなしで素手で登り、登頂後に、背中に背負った小さなパラシュートで降りる映像を見た事があるが、あんな感じだろうか。
「だから楽したい、っていうのが起源にあるんですよ、って笑いながら仰ってました。」と彼は言い添えた。

体力的な問題もあるかもしれないが、登って来た山道と全く違うルートで帰りたい、完全に違う体験をしたい、ということもあるんじゃないかと思う。確かに歩いて降りるよりは圧倒的に楽だし、楽しいのは間違いないと思うけれど。
私の場合は空の上にいるだけで妙に笑いがこみあげてくるような、内側から活き活きと湧いて来る喜びを感じた。目に自然と良い力がきて、毛穴がひらき・・・普段私の体を地面にしっかりと結びつけている重力から、束の間だが、自由になったように感じ、何か勝ち誇った様な気分になった。そしてそれを心から楽しいと感じ笑いが止まらなかった。
遠くへいきたい、空を飛びたい、そういう意思と気象条件というコントロールの対象外にあるパラメーター、その2つが接する時に、サーマルのあの圧力が私の体を押し上げるのだ。あの感触と、あの風の音をきっとこの先何度も思いだすだろう。

soundartist77 at 22:15|この記事のURLComments(0)