WIND STUDY

May 31, 2016

風を知るータンデム飛行1&Documenting my WIND STUDY!

Tottori_Top

photo: mamoru

いまになって昨年の夏の事を記録するというのもやや妙なのだが、オランダでの大学院研究生活が残り3ヶ月となったこともあって、たまりにたまったこの2年間のまとめマインドに入ったのだと思う。

ともかく、鳥取で2015年8月に鳥取藝住祭の関連企画として、Hospitaleプロジェクトの赤井さんを呼びかけ人として、アーティストの山本高之さんと共同ディレクションした「SCHOOL IN PROGRESS」という企画を行った。その際に、私が長年地味に進めている「風を知る」というリサーチプロジェクトに絡めさせてもらうことにした。以下は、前にHospitaleで鳥取に呼んで貰った時から協力していただいているパラグライダー・インストラクターの市川正さんとの飛行記録を主にFBへの投稿を元にかきおこす。

「風を知るータンデム1」

2015年8月3日
朝から特急に乗り鳥取へ。

ー向かってます。空へ!(it's true. You'll see later!)

ーまだ向かってます!空へ!On the way!

ーまじですよ。serious business

などとFBに投稿しつつ、久々の鳥取、久々のパラグライダー。駅まで迎えに来てくれた風友三宅くんとともに国内でも有数のフライトスポットである霊石山へ向かう。

山頂に着くと良い風が。上昇気流をとらえたとんびが目の前をいともたやすく駆け上がってゆく。ただ遠くには嫌な雲が見え、吹き流しが時折強くはためいて、風が強まる気配がする。インストラクターの市川さんと電話で連絡を取ると、ともかくやってみましょう、とのこと。風がめまぐるしく変化する日暮れ前の時間帯、ちょうどフライトの準備が整った頃には風が無くなった。市川さんは積乱雲がこれ以上発達するか、日が暮れるともうアウトだと言う。かなり粘ってはみたがやや気持ちは折れそうになる。

ーどうします?明日もありますし今日はあきらめますか?

ー出来ればいろんな気象条件を経験したいので、なんとか飛びたいです。

迷惑だろうな、とは思ったがこのために来たんだから、と正直な気持ちを誠心誠意伝えた。しばらくすると市川さんはスタッフの方に「よし飛ぼうか」と声をかけた。

ーまず僕らでが飛んでみますね。マモルさんは滑走路の脇あたりで風を見て、こちらにタイミングくださいますか?

ータイミングくださいって、僕の判断で良いんですか?

スタッフの方の反応が心なしか「本当に飛ぶの?」という風に見えたせいもあって。滅多に緊張することはないが、さすがに自分のタイミングで誰かが飛ぶ(落ちるかもしれない)となるとプレッシャーがかかる。

風がわずかに強まる、または強まりそうだというタイミングを告げるには、眼下の崖沿いに生える草や下木の葉のわずかな揺れを観察するよりない。風が山肌を上がってくるのを見なくてはいけない。その風が自分に届いてからでは遅いからだ。

ーいきますねー!

と言う声がして、振り返ると、市川さんはパラグライダーのキャノピーを背負って、走りだした。

ーダメダメダメ!

足場用の単管とベニア板で延長された滑走路を急ブレーキで止まる。仕切り直し。
再度風を待つ。今度は風の強弱を見ながら市川さん達の方にも注意を向ける。

ーいきます!

今度は止まる気配がない。私はその邪魔になるまいと滑走路脇で崖を覗き込んでいた位置からさらに必要以上に飛びのけた。間髪入れずに全力で駆け抜けた市川さん達は・・・飛んだ、というよりも落ちたように私には見えた。樹々に触れるか触れないかというポイントすれすれでパラグライダーは浮かび上がる。そして、右にゆっくりと旋回していき私の視界からは消えてゆく。着陸ポイントは飛び出し方向とは真逆の河原なのだ。猛ダッシュで山頂逆側に向かう。現れてくるはずの方向から市川さん達はなかなか現れない・・・まさか落下したなんて事はないだろうがどうしても想像してしまって、ゆっくりと視界に市川さん達が見えた瞬間は何かを大発見したかのような興奮すら覚えた。三宅君が市川さん達を河原まで車でピックアップしに行ってる間に私は果たしてどうやって飛ぶのかと想像を繰り返す。思った以上に時間が経過している。おそらく時間からしてもそうチャンスはないだろうが、果たしてこの滑走路を走り抜けた先に私は空に浮かぶことができるのだろうか。

市川さん達が戻ってくると、いよいよ風はなくなっていった。

無風。そして無言。

ー逆側の斜面に行きましょう。

滑走スペースも広く、見晴らしも良くテイクオフが容易な斜面に着く。吹き流しは完全にうなだれて風が無いことだけを伝えている。

ー風無いですね。

ーもうダメでしょうか?

ーいや、逆にね風が全く無い場合こっち側の斜面だとひとつだけ飛ぶ方法があるんですけどわかりますか?

ー・・・

ー向こうと決定的に違う点があるんですが。

ー滑走路が斜面になってる?

ーそう、この斜面を迷いなく全力で崖まで走り切ると・・・

ー風を・・・生む。

ーやってみますか?

正直、これがコントなら落ちるのは見え見えだな、と思ってしまって思わず笑ってしまった。

ーやります!

後には引けない。着々と飛ぶ・落ちる準備をする。

ー走って、と言ったら走ってください。ダメだと思ったら私が「止まれ!」って言いますから、言わない限りは迷わずに走りきってくださいね。

ハーネスの各部を確認し、気持ちを整える。

ー走って!

前傾姿勢で斜面に足を取られないようにダッシュする、キャノピーが空気抵抗を受けて立ち上がったのか少しスピードが緩む、が崖はすでに数メートル先にせまっている。1回は練習がてら止まるのかと思っていたがその気配は無い、と察し邪念を振り払っう。どうにでもなれ、と斜面が崖っぷちに変わるその瞬間まで思い切り力をこめて走り切る。

ーまだまだ!

重力で体全体が下方に引きつけられ、ハーネスが食い込む。次の瞬間、私と市川さんの体は宙に浮かんだ。
上昇気流がほぼ無いため飛び出した高さよりも上に行くことはできないが、すでに十分な空気抵抗を得た私たちは、無風の静けさの中、斜面からゆっくりと離れていくと、眼下には樹々と田畑、川、人家、街並みをも遠くに見ることができる。遮るものが何もないため、上空では鳥の声がより澄み渡って聞こえる。
前年に砂丘で経験したパラグライーダー飛行と比べるとかなり長い時間のフライトだ。その感触に浸りつつ、無風でも、走って風を作り、飛べるという事実、その体験の面白さがこみ上げてくる。考えともつかぬ、興奮だけでもない、喜び。

ー風があるともっと自由に飛べますよ。明日は楽しみにしててください。

soundartist77 at 20:21|この記事のURLComments(0)

風を知るータンデム飛行2&Documenting my WIND STUDY!

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photo: Miyake Kotaro

<2015年8月4日の事>

風を知るータンデム2

昨日に引き続き霊石山からのフライト。風はある。むしろ強すぎるくらいで、今日は風が乱れている。前回は全力で駆け下りた崖もほんの2メートルほど歩いたかどうかという程度で、キャノピーが風を受け、崖側に落ちるどころか、むしろ斜面から引き剥がされる感じでいとも簡単に浮かび上がった。

眼下の樹々も田んぼも風で揺れている。斜面を駆け上がる気流を観察し、サーマルの位置を市川さんは正確に捉えるとそちらに寄せてゆく。サーマル(上昇気流)のコアに入った時の上昇圧は、まるで強い海流に下からつき押されるような感触。ハーネスに深くはまる位置に動くと、空中で座っている様な感覚になる。そのハーネスの底面から伝わってくるエネルギー、耳元を轟音で吹き抜ける風から大気はかたまりで流動していることを知る。

サーマルにも大きなものと小さなものがあり感触は違う。眼下の樹々の葉の揺れ具合ー広葉樹の葉などは裏返って白くなる、稲が揺れて上空からは黒い影かモアレのように見えるーなどからあらかたの予測を立て、サーマルをつかむ。

高度は上がり、気がつくとテイクオフした頂上を見下ろす形になり、手を振るスタッフの姿が見えた。彼女の顔が笑顔なのがわかるくらいには近いが、地表からの高度はすでに350m。近くにはハンググライダーが二機、そしてトンビが一羽。音もなく、滑るようにして滞空し、近づいてきては遠ざかる。

パラグライダーを何度か大きくスウィングさせ、高度をさげ、想像以上にソフトタッチで川沿いの草地に降り立つ。飛び立つ前に遠くに見えていたこの場所に降り立ち、あそこから飛んだのか、と山を振り返る。「飛ぶ」という言葉には思っていた以上に振れ幅が大きいと感じた。そのことを話し、どうやって大気の流れと一体になるのかと質問すると、風を知る人は一言「一体?ではないですねぇ。ただ遠くにいきたい、と思って状況に対応してるだけですよ」と言った。

本日の滞空時間約20分。

お礼を言ってインストラクターの方と別れ、私はスタッフの三宅君と2人と帰り路に着く。ひとしきり空中で得た感覚を興奮気味に語り終えると、彼が「パラグライダーの起源の話し聞きました?」と尋ねてきた。彼が言うにはアルピニストの一部で、山を降りる際にパラシュートで降りるというやり方があって、そこからいろいろと改良されて、今のパラグライダーの形になってきたそうだ。まだ30年程度の歴史だとか。そういえば命知らずのフリークライマーが断崖絶壁をロープなしで素手で登り、登頂後に、背中に背負った小さなパラシュートで降りる映像を見た事があるが、あんな感じだろうか。
「だから楽したい、っていうのが起源にあるんですよ、って笑いながら仰ってました。」と彼は言い添えた。

体力的な問題もあるかもしれないが、登って来た山道と全く違うルートで帰りたい、完全に違う体験をしたい、ということもあるんじゃないかと思う。確かに歩いて降りるよりは圧倒的に楽だし、楽しいのは間違いないと思うけれど。
私の場合は空の上にいるだけで妙に笑いがこみあげてくるような、内側から活き活きと湧いて来る喜びを感じた。目に自然と良い力がきて、毛穴がひらき・・・普段私の体を地面にしっかりと結びつけている重力から、束の間だが、自由になったように感じ、何か勝ち誇った様な気分になった。そしてそれを心から楽しいと感じ笑いが止まらなかった。
遠くへいきたい、空を飛びたい、そういう意思と気象条件というコントロールの対象外にあるパラメーター、その2つが接する時に、サーマルのあの圧力が私の体を押し上げるのだ。あの感触と、あの風の音をきっとこの先何度も思いだすだろう。

soundartist77 at 22:15|この記事のURLComments(0)