M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

2013年03月

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(19)

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8章 投資
将来の収益に関する不確実性
 (461ページ)

 ローマーによれば、次の(8.33)式
13032742

  (8.33)

 をΔt で微分し、Δt → 0 にすると、次の(8.34)式になるそうです。
13032753
  (8.34)

 最初、計算そのものが「どうやって?」でしたが、計算の方法はわかりました(だから以下その部分を書きます)。しかし、この計算の意味がよくわかりません・・・ 
 不確実性を評価するためだと思いますが?

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 (8.33)式を考える前に、資本1単位の価値を表すq(t)の式を時間 t で微分してみます(この計算をすると、(8.33)式をどうやって変換したら(8.34)式になるかがわかります)。
13032731

  (1)

 (ローマーの本書では、445ページ、(8.24)式)

 これは、連続時間モデルで企業の最適化問題を解いて導出された(その部分の補足はこちら)、企業の利潤関数の条件に対応しています。
13032721
  (8.22)
 この(8.22)式が導出される過程で、次の条件が出てきます。
13032716


 この式の両辺を時間tで積分すれば、(1)式になりそうな感じなのですが・・・ 積分区間がわからない(どの時点で価値を評価するかによって決まると思いますが)。

 そこで、逆に(1)式を時間 t で微分して、(8.22)式になるか、確かめてみます。

 (1)式を時間 t で微分する前に、積分の中の ert  を外に出します。t は被積分変数ではありませんので(被積分変数は τ )、外に出しておいたほうが計算しやすいからです。
13032732

  (2)

 この(2)式を t で微分するわけですが、そのとき、ある関数 f(t) を a から x まで積分した関数を x で微分すると、f(x) になる(aは、a≦xとなる定数)、という関係を使います。
13032733
 
 

13032734



 積分区間が入れ替わった場合には、
13032735



 となります。従って、(2)式の積分の部分を t で微分すると、τ に t を代入した関数になります。そこで、(2)式を時間 t で微分すると、
13032736



13032737



13032738



 ここで、左の項の積分の前の ert  を再び積分の中に戻します。
13032739



 左の積分の項は、(2)式から q(t) です。従って、
13032740
(3)
 となります。
 つまり、(1)式を時間tで微分すると、(3)式になるわけです。

 もう一度(1)式を引用すると、
13032731

  (1)

 この(1)式が表しているのは、資本1単位当たりの限界収入生産物 π(K)(資本1単位の生産性) の流列(合計)を、現時点 t を基準とした(t を現在とする)割引現在価値で表したもの(右辺)が、時点 t での、資本1単位当たりの市場価値 q になっている、ということです。
 一方、(3)式

dq(t)/dt = rq(t)- π(K(t))

 が表しているのは、その資本1単位当たりの市場価値である q の(時間 t に関する)変化率は、資本のレンタル料(投資家へのリターン)から限界収入生産物 (π(K)) を引いたものになる、ということです。瞬時的な q の変化は、この式で示されるような最適化を行っている、ということです。

 そこで、(1)式の時間 t を Δt だけ後ろにずらして評価しましょう、というのがここでローマーがやろうとしていることです。
 
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 (8.33)式をΔtで微分する場合も、上記と同じ方法になります。もう1度(8.33)式を引用しておけば、
13032742



 Δtで微分したとき、左辺は次のようになります。q(t) を t で微分した場合と同じです(dq(t)/dt に、t = t+Δt を代入する)。
13032743


 そこで、右辺を Δt で微分するわけですが、上の計算と同じように、まず erΔt  を積分の外に出します。
13032744



13032745



13032746



13032747



 2番目の項の積分を Δt で微分すると、τ に t+Δt を代入したものになります。また、最初の項の erΔt  を再び積分の中に戻します。
13032748



13032749


 最初の項の積分は、q(t+Δt) なので、
13032750


 従って、(8.33)式を Δt で微分すると次の関係になります。
13032751


 ローマーが指示するとおり、Δt → 0 とします。
13032752


 時点 t においてわかっている変数は、期待値をはずせます。左辺の dq(t)/dt は、時間変化なので、時点 t ではまだわからない、ということでしょう。 
13032753
 (4)

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 しかし、最初に書いたように、この手続きの意味がよくわかりません。時点(t)を Δt だけ後ろにずらせば、不確実性の領域に入ってきます(未来のことはわからないので)。
 
 (1)式が示していることは、q は、限界収入生産物(資本単位当たりの生産性)の流列(合計)を割引現在価値で表したものに等しい、ということでした。その q を時間 t で微分することで、瞬時的な q の変化が、(3)式で表されるような「最適化」に対応している、ということがわかりました。

 そこで、時点 t を Δt だけ後ろにずらして同じ作業をします。(でも、なぜ t+Δt ではなくて、Δt で微分するのか、という疑問が残ります・・・ )

 その結果導出された(4)式は、不確実性がない場合の(8.22)式や(3)式と変わらないものになります(dq/dt に期待値がついていることを除いて)。
 それなので、ここから得られるインプリケーションは、「不確実性は投資に直接的な影響を及ぼさないように思われる」(461ページ)、ということになるようです。

 ただし、この後の議論では、不確実性が及ぼす影響は無視できない(大きい)、という方向に進みます。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(18)

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第8章 投資
8.4 モデルの解析
 (447ページ)

 ここでは、産業の資本総量(K) と、資本の価値(q) に関して、位相図を使って分析しています(以下の補足は、位相図を描くための導入の部分についてです)。

 まず、企業の最適化問題から、2つの条件が導かれました(導出は前回の部分)。
13032718
       (1)   (ローマーの(8.21)式)
 13032721  
  (2)    (ローマーの(8.22)式)

 この関係から、K(産業全体の資本ストック) と q(資本の価値) の空間に、dq/dt=0 の軌跡と、dK/dt=0 の軌跡を描き、その位相図において、dq/dt (qの変化) と dK/dt (Kの変化) を検討したいわけです。

(1)
 まず、dq/dt=0 の軌跡は(2)式からわかります。(2)式の dq/dt を移項すれば、

dq/dt = rq(t)-π(K(t))   (3)

 となります。dq/dt=0 ならば、rq(t)=π(K(t)) という関係になります。従って、

q(t)= π(K(t))/ r (4)

 となります。企業の利潤関数 π(K(t)) は、産業全体の資本ストックに対して、減少関数になります。需要が一定だとして、ある企業の資本ストックに対して、産業全体の資本ストックが増加すれば、その企業の資本ストックが産業全体に占める割合は減ります。一定の需要を奪い合うことになるので、π(K(t))は、産業全体の資本ストックに対して、減少関数になるわけです(この部分の説明は、439ページ)。
 従って、(4)式は、(K,q) の空間で右下がりの関数になります。つまり、dq/dt=0 の軌跡は、(K,q)の空間で右下がりになる、ということです。

 dq/dt の動学は、次のようになります。(3)式から、K が増加すると、π(K(t)) が減少し、dq/dt は増加します。従って、dq/dt=0 の軌跡より右側(Kが大きくなる)領域では、qは増加します。逆に、dq/dt=0 の軌跡より左側では、q は減少します。位相図は、一番最後↓にあります。

(2)
 いっぽう、dK/dt (Kの変化)は、(1)式と(2)式には現れていません。しかし、最適化するときの条件として、次の関係(予算制約)がありました。
13032702
  (5)

 投資が、資本の時間変化(増減)になる、ということです。
 そこで、この関係と(1)式を使って、dK/dt と q の関係を導きます。
13032718
  (1)

 (1)式から、C’(I)の逆関数を想定し(そうすれば、C’(I) を変数として、I を表すことができます)、そうすると I と q の関係がわかりますから、次に、(5)式から、dK/dt と q の関係が導かれます(言葉で書くとわかりにくい・・・)。

 ところで、(1)式の左辺の 1 は、資本の価格を表しています(ここでは 1 に固定されています)、C(I) は、資本の調整費用です。これは、投資に対して増加関数です(投資が増えれば資本ストックも増え、資本の調整費用が増加するから)。また、C”(I)>0なので(でないと、投資を増やすほど、投資に対する相対的な費用の増加が鈍化することになるので、どんどん投資したほうがよくなる)、C’(I) も I に対して、増加関数です(この説明は、440ページ)。
 そこで、まず、I と C’(I) の関係を図で表してみます。C’(I) は I の増加関数なので、
13032901








 
 (1)式から、q は C’(I) に 1 を足したものですから、上の図でC’(I) を上に 1 シフトさせたものになります。
13032902








 
 ここで求めたいのは I ですから、C’(I) の逆関数を考えます(縦軸を横軸と考え、縦軸の変数から I を表すようにする)。図でかけば、
13032903









 図(3)

  C’(・) の逆関数を、 C’-1(・) とすると、上の図の C’(I) と I の関係は、I = C’-1(C’(I)) となります。(1)式から、 C’(I)は、q から 1 を引いたものですから(上の図でもそうなっています)、

I = C’-1(q-1) 

 となります。従って、(5)式を組み合わせれば、

dk/dt = C’-1(q-1)

 この産業には企業がNあるとすると、全体の資本ストックはN倍すればいいので、

dK/dt = NC’-1(q-1) (6)

 となります。そして、C’(0)=0 です。投資がゼロならば、資本の変化はないので、調整費用もかかりません。また、(1)式から、C’(0)=0 のとき、q は 1 になります。従って、q=1のときに、(6)式は、0になります。
 つまり、dK/dt =0 の軌跡は、(K,q) の空間で、q=1 の水平な直線になる、ということです。

 また図3から、I は q の増加関数になっていますから(q=資本1単位の価値 が増えれば、投資が増える、というのは直感的に考えてもわかります)、q>1 のときに、dK/dt >0 (dK/dt =NI なので)、q<1のときに、dK/dt <0 になります。言い換えれば、dK/dt =0 の軌跡より上の領域では、K は増加し、dK/dt =0 の軌跡より下の領域では、Kは減少します。位相図は、下の図のようになります。

13032904



 

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(17)

 企業の最適化問題の連続時間モデル。 
 こちらも参考になるかもしれません(← ブランシャール/フィッシャーの補足ですが、ラムゼイモデルの連続時間モデルで、ハミルトニアンを使っています)。

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第8章 投資
企業の最適化問題 (444ページ)

 ハミルトニアンを使わずに計算したほうが、離散時間モデルと対応するので、まずハミルトニアンを使わずに計算します。
 (440ページから)
 企業の利潤は、π(K(t))・k(t)-I(t)-C(I(t)) です。ここで、π(・)は、この企業の利潤関数(この式の表記から、資本1単位当たりの生産性、つまり、限界収入生産物とも言えます)。K(t)は、この産業全体の資本ストック、k(t)は、この企業の資本ストック(ローマーの本書では、kではなくてギリシャ文字ですが、以下アルファベットの小文字のkで表します)、I は投資、C は、企業にとっての資本ストックの調整費用です。
 企業は、この利潤の流列の割引現在価値を最大化します。次の式を最大化します。
13032701

 (1)

 投資と資本ストックの時間変化の関係は、次のようになります。
13032702


 投資が、資本の時間変化(増減)になる、ということです。この関係が、(1)式を最大化するときの、予算制約になります。

 (ここから444ページ)
 そこで、ラグランジュ方程式を設定すると、
13032703



13032704



13032705



13032706

   (2)

 離散時間モデルでは、ラグランジュ乗数として、λ(t)ではなくて、q(t)を使っていますが、ここではλ(t)で計算します(後で変えれば同じになります)。
 1階の条件を求めるためには、I と k で微分します。k で微分するときには、注意が必要です。

(1) I で微分
 (2)式を I で微分して、1階の条件を求めると、
13032707


13032708
  (3)

(2) k で微分
 ラグランジュ方程式をkで微分するときには、λ(t)dk(t)/dt をkで微分しないといけません。これは、次のように計算します(この計算の方法に関しては、中田真佐男氏の『動学マクロ経済学に必要な数学』を参考にしました)。まず、λ(t)k(t) を t で微分します。
13032709


 この式から、λ(t)dk(t)/dt は、次のように表せます。 
13032710
 (4)

 この(4)式を、(2)式の最後の積分の項に代入して計算します。
13032711



13032712

  (5)

 横断性条件から、t→∞ のときのλ(t)k(t)は、0になります。(5)式を使って、(2)式のラグランジュ方程式を書き換えると、 
13032713



13032714


 k で微分し、1階の条件を求めます。
13032715


13032716
 (6)

(3)
 離散時間モデルのときと同様に、λ(t) ではなくて、q(t) に変更します。λ(t) は、k の「外生的な増加が時点0で評価した企業利潤の総価値に与える限界的効果」を示しています。q(t)は、「時点 t での企業にとっての追加資本1単位の価値を時点 t でのドル単位で表したもの」になります。(←この説明は、441ページ)
 q(t) と λ(t) との関係は、次のようになります。
13032717
 (7)

 これを(3)式に代入すれば、
13032718
  (ローマーの(8.21)式)

 次に、(7)式のλ(t)を(6)式に代入すれば、
13032719


13032720
  (8)

13032721
 (ローマーの(8.22)式)

 この2つの条件((8.21)式と(8.22)式)の意味は、離散時間モデルと同じです。

 (8.21)式が示しているのは、「1単位の資本を取得するのに必要な経費」(=q(t)) が、「その購入価格(ここでは1に固定されている)に限界調整費用を加えたものに等しい」(441ページ)ということです。
 これは、企業が次のように最適化することを意味します。
 企業は、資本の市場価格(右辺 q)がその取引費用(左辺 1+C’(I))を上回っている場合には資本ストックを増加させ(投資を増やす)、逆に市場価格が取引費用より低い場合には、資本ストックを削減する、ということです(445ページ)。

 一方、(8.22)式の右辺は、「資本1単位の機会費用」、つまり、1単位の資本を保有すると時間当たり、rq(t)の放棄が求められる一方、q(t)/dt のキャピタルゲインが得られる、ということを示しています。従って、企業は、限界収入生産物(左辺)が、その資本1単位の機会費用と等しくなるまで、資本を増加させる、ということが示されます(442ページ)。

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 ハミルトニアン関数の設定から導出する方法。ハミルトニアンについては、チャンの『現代経済学の基礎』(下)に詳しい説明があります(以下もチャンから引用)。

 一般的に最大化問題は、次のように書けます。
 *任意の時間 t において、制御変数 u(t) が決定される。
 *制御変数 u は、運動方程式(動学方程式)を通じて、状態変数 y に影響を与える。
 *状態変数 y は、目的関数に影響を与える。目的関数を最大化する条件を見つける。

 この最大化問題を定式化すると、

 制約条件(状態変数の動学方程式)
13032201


 y(0)=y0 y(T)=yT
13032202



を最大化する。」 ということになります。

 ハミルトニアン関数は、次のように設定されます。
13032203

 ここで、λ(t)は、共役状態変数と呼ばれています。

 ハミルトニアンを上記のように設定すると、最大化条件は次のようになります。
13032206
  (9)

13032204
  (10)

13032205
  (11)

λ(T)=0 (横断性条件)  

 ただし、(1)の条件が可能になるためには、「ハミルトニアンがuで微分可能で、内点解を得ることができる」という条件があります。

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(4)現在価値ハミルトニアン
 そこで、ローマーの本書に戻って、最初に444ページの「当該期価値ハミルトニアン」((8.20)式)ではなくて、445ページ下の注に記載されている「現在価値ハミルトニアン」で計算します(上のチャンの条件がそのまま使えるので)。
 まず、ハミルトニアンは、ローマーが示しているとおり、次のようになります。
13032722


 上記の、一般的な最大化問題のそれぞれの変数と関数を、次のように変えればいいわけです。制御変数uは、I(t)(投資)です。状態変数 y は、k(t)(資本ストック)です。共役状態変数 λ(t)は、λ(t)です。
 最大化条件は、次のようになります。
 上記の(9)式に対応するもの。
13032723

 (12)

 上記の(11)式に対応するもの。
13032724
 
 (13)

 (12)式の条件から、
13032725


13032708

 が導かれますが、これは上の(3)式と同じです。
 次に、(13)式の条件から、
13032726


 これは、上の(6)式と同じです。λ(t)にq(t)を代入すれば、ラグランジュ方程式を用いた場合と同じ式が導出されます。

(5)当該期価値ハミルトニアン
 当該期価値ハミルトニアンは、ローマーの(8.20)式ではなくて、次の式の設定にしたほうがいいと思います(最後にe-rt がついている)。
13032727


 先ほどの現在価値ハミルトニアンの場合と同じように、最大化条件を求めます。
 (9)式に対応するもの。
13032728

  (14)

 (11)式に対応するもの。
13032729
  (15)


 (14)式の条件から、
13032730


 -1-C’(I)を移項すれば、ローマーの(8.21)式になります。
 (15)式の条件は、(13)式と同じです。

(15)式を計算すると、
13032719


13032720


 となり(これは前の(8)式)、両辺に、e-rt が出てきて、そのe-rt が消去されるので、ローマーの(8.20)式には、e-rt がついていないといけないと思うのですが・・・ ???

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(16)

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7章 消費
流動性制約
 (420ページ)

 流動性制約= 「流動性」(つまり現金や簡単に引き出せる貯金です)が足りないために、恒常所得仮説に基づいた消費ができなくなる、ということについての分析です。
 恒常所得仮説に従えば、人は、生涯所得を年数で割った平均的な同じ量の消費を、毎年行うことになります。しかし、流動性制約が生じている(お金が足りなくなっている)と、その平均の消費水準以下に消費を抑制することになります(借り入れには限度があるので)。
 ここでは、流動性制約があると当該期の消費が抑制されるだけでなく、将来、流動性制約に陥る可能性がある(不確実性がある)と、今期時点では流動性制約が有効ではなくても、今期の消費が抑制される、ということが示されます。

 ローマーは3期モデルで分析しています。各期の所得が Y、消費が C、各期の終わりでの資産が Aです。最初にAの資産を持っていると想定しています。効用関数は、U=C-aC/2 です。各期の消費、所得、資産の関係は、
1期: C+A= A+Y1   (1)
2期: C+A= A+Y2    (2)
3期; C= A+Y= A+Y+Y-C2    (3)
 ちなみに、恒常所得仮説に従った場合、各期の消費は、(A+Y+Y+Y)/3 となります(初期資産と各期の所得の合計を、期間数 3 で割ったもの)。
 

  そこで、最後の2期間の効用関数を計算すると(第2期における消費の決定を見たいので)、
13032311


 (1)式から、C= A+Y+Y-Cなので、代入すると、
13032312


13032313


 第2期での消費の最適化の条件を求めたいので、第2期の限界効用を計算します(上記の式をでC微分する)。
13032314


13032315
  (4)

 限界効用が負になっているなら、それ以上消費を増やすことは、効用を下げるので、期間2の消費は、限界効用が0になる水準になります。その条件を計算すると、
=(A+Y+E[Y])/2
 従って、流動性制約がなければ、第2期の消費は、C=(A+Y+E[Y])/2 となります。
 しかし、流動性制約が有効になると、第2期の消費は、期間2の時点での所得と資産(A+Y)を超えることができなくなります。その場合の第2期の消費は、次のように表記できます。
13032316

 (5)

 流動性制約が存在する、ということは、本来なら(A+Y+E[Y])/2を選択するのに、A+Yを選択しなくてはならない状態ですから、そのときの条件は、(5)式から、
+Y<(A+Y+E[Y])/2 
です。整理すれば、
13032318
  (6)
となります。

**********
 次にローマーに従って、第1期を考えます。個人の資産が文字通りゼロでなければ、個人は、オイラー方程式に従って効用最大化します。実質利子率rと時間割引率ρが等しければ(つまり、r=ρならば)、t期とt+1期の消費の関係は次のようになります。
13032303
 (7) 

 ここでは、効用関数がU(C)=C-aC/2 なので、U’(C)=1-aC これを(7)式に代入すれば、期間1と期間2の消費の関係は、

=E[C] (8)

 となります。 
 しかし第2期に流動性制約が有効になる可能性があると、第1期の消費は抑制されます。ローマーによれば、「式(7.45)によれば(上の(5)式)、流動性制約が第2期に有効になる確率がゼロでないのであれば、第1期時点でのCの期待値は、(A+Y+E[Y])/2の期待値より厳密に小さくなる。」
 「小さくなる」かどうか(簡単にわかるんでしょうか?)わからないので、計算してみます。

 第2期で流動性制約が有効になる確率がゼロではない、ということは、(5)式から、第2期の消費として、A+Yを選択する確率がゼロではないということです。第2期の消費が(5)式のどちらかになるとして、その期待値を求めます。第2期の消費が(A+Y+E[Y])/2になる確率をp、A+Yになる確率を1-pとして、第2期の消費の期待値を計算すると(期待値の計算では、ローマーも書いているように、E[E[Y]]=E[Y]という関係を使っています)。
13032319

13032320



 これが(A+Y+E[Y])/2より小さいことを確かめるために、、(A+Y+E[Y])/2を引きます。
13032321



13032320



13032323



13032324



13032325
  (9)

 第二期に流動性制約が有効になる条件は、(6)式から、A+Y<E[Y] ですから。(9)式は負になります。従って、第1期から見た第2期の消費の期待値は、(A+Y+E[Y])/2 より小さくなるわけです。もう一度書けば、
13032327
  (10)

 となります。
 ここで、第1期は流動性制約が有効でなく、オイラー方程式に従って、消費を最適化している、という仮定でしたので、第1期には、(8)式、C=E[C] が成り立っています。そこで、この(8)式を(10)式に代入すれば、
また、(3)式から、A= A+Y-Cという関係を使って、(10)式を書き換えれば、
13032328



 ローマーの指示に従って、両辺にC/2 を加え、3/2で割れば、
13032329
 
   (11)

 この(11)式の右辺、は、第1期から第3期までの資産と所得を3で割ったものなので、恒常所得仮説に従った場合の消費になります。従って、第1期には、まだ流動性制約が有効でなくても、第2期に流動性制約が有効になる可能性がある(不確実性)があると、第1期の消費が抑制される、ということが示されるわけです。
 「したがって、流動性制約が当期時点では有効でなくとも、それが将来有効になるかもしれないという可能性があることにより消費は低下する。」
 

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(15)

7章 消費
予備的貯蓄
 (420ページ)

 「将来所得に関する不確実性があると、消費が削られ、貯蓄が押し上げられる」(=予備的貯蓄)ということに関する分析です。
 
 不確実性の問題を考えるときに、分散や標準偏差についてイメージで理解しておくと、わかりやすくなるかもしれません。分散(標準偏差)は、データが平均から離れて分布しているほど(下の図のb)大きくなり、逆に、平均付近に密集していると(下の図のa)小さくなります。
   (a)                       (b)
1303213513032136








  また、分散(標準偏差)が小さい場合、データが平均付近に集まる確率が大きくなるので、不確実性は小さくなり、逆に分散(標準偏差)が大きい場合、平均からはずれる確率が大きくなるので、不確実性は大きくなります。

**********
 一般的に、効用最大化の条件から、t 期(現在)と t+1 期(将来)との消費の関係は、次のようになります(オイラー方程式)
13032302


 ここで、r は実質利子率、ρ は時間割引率です。r=ρ (均衡定常状態)なら、この関係は、次のような簡単な形になります(ローマーの本書でも、r=ρ=1としています)。
13032303
 (1)

 ローマーは、U=C-aC/2 という2次関数の効用関数と、効用関数の3階の導関数が正になる場合(例えば、相対的危険回避度一定)の両方で議論していますが、ここでは一般的な相対的危険回避度一定(CRRA)の関数だけで考えます(2次間数の場合、以下の議論は成り立ちません。限界効用が線形になるので)。例えば、次のような効用関数。
13032304


 この場合、限界効用は、u’(C)=C-θ となり、下の図2のような、Cに対して減少関数になります。また、この場合、3階微分(3階導関数)は正です( u”’(C)=θ-θ-2 なので)。
 3階微分が正ということは、限界効用 u’(C)は、C に対して減少するけど(u”(C)=-θC-θ-1 となり、u”(C)が負なので)、減少する割合はだんだん少なくなる(u”’(C)が正なので)、ということです。

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 図2



 ここで、不確実性が存在すると。
 t+1期の消費に関して不確実性が生じて、t+1期の消費 Ct+1 が、CからCの間になると予想されたとします。としたいのですが、計算が複雑になるので、ローマーにならって、CかCのどちらかをとることにして、Cになる確率を 1/2、Cになる確率を 1/2 とします。
 その場合、Ct+1 の期待値は、Cと Cの間の中間になり(図ではずれていますが・・・)、限界効用 u’(Ct+1の期待値 (期待限界効用 E[u’(Ct+1)]) は、赤い直線上の中間の値になります(E[u’(Ct+1)=(1/2)u’(C) +(1/2)u’(C) となるので)。
 いっぽう、不確実性がない場合の限界効用は u’(Ct+1)となり、u’(C) の曲線上になります。
 つまり、不確実性が存在すると、限界効用は、不確実性がない場合に比べて、高くなる(上の図の赤い直線と u’(C)の曲線との差になる)のです(注1)。(前に書いたように、2次関数では、両者は一致します。限界効用が線形になり、赤い直線と一致するので。)

 では、不確実性が存在すると、現在と将来での消費の配分はどう変わるのか?
 t+1期の消費に関して不確実性が生じると、E[u’(Ct+1)] が高くなるわけですから、(1)式の右辺のE[u’(Ct+1)]) が高くなります。将来の限界効用が高くなるので、現在の消費を限界的に減らして、将来に回したほうが効用は上昇することになります。
 具体的に言えば、現在の消費をΔCだけ減らしたとすると、今期の効用の減少分は、u’(C)ΔC です。その減らしたΔC分の消費を将来に回すと、将来の効用は、E[u’(Ct+1)])ΔCだけ増えます。不確実性のためにE[u’(Ct+1)]が高くなっていれば、ΔCの移動によって増えた将来の効用 (E[u’(Ct+1)])ΔC) のほうが、ΔCの減少によって減少した今期の効用 (u’(C)ΔC) よりも高くなるわけです。そのために、消費が将来に回されます。
 直感的に考えれば、将来の消費が減少しそうだから、将来に消費を回して、効用減少分を回復しよう(図2からわかるように、消費水準Cが低いところのほうが、限界効用が大きくなっているので、消費をそちらに回せばより効用を高くできる)、ということです。
 いっぽう、(1)式から、E[u’(Ct+1)](右辺)が高くなれば、u’(C)(左辺)も高くなります。ここで想定している相対的危険度回避度一定の関数の場合、限界効用が高くなると、消費水準は減少するので、今期の消費 Cが減少することになります。

 つまり、t+1 期に不確実性が生じると、t+1 期の(期待)限界効用が高くなり、そのために今期の消費が将来に回されることになるのですが、その今期の消費は、今期の限界効用が、高くなった t+1 期の限界効用と等しくなるまで、削減される、ということです。
 ローマーが書いているように、「将来所得に関する不確実性が組み合わさると、当該期の消費が削られ、貯蓄が押し上げられる」ことになるわけです。

 さらに、不確実性が増大すると、上の図2で考えれば、Cから Cの間が広がることになります。そうなると、不確実性がない場合の限界効用(限界効用の曲線上)と、不確実性がある場合の期待限界効用(赤い直線上)との差が、さらに広がります。つまり、不確実性が増大すると、期待限界効用はさらに高くなるわけです。従って、不確実性が増大すると、削減される消費は、さらに大きくなります。

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 ローマーは、不確実性が消費にもたらす変化について量的に分析する例も挙げています。エクイティ・プレミアムの分析の式を利用します。
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 ここで、ri  は、ある資産 i の収益率で、gは、消費の成長率です。「無リスク資産を考え、単純化のため r=ρ と仮定すると」、この式は次のようになります。
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 E[g]の式に変えれば、
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 つまり、期待消費成長 E[g] は、相対的危険度回避係数 θ  と消費成長の分散 Var(g) に依存することになります。相対的危険度回避係数を4(現実に考えられる上限)とし、「1年先の消費に関する家計の不確実性の標準偏差が0.1(Dynan (1993) やCarroll (1992) が示しているデータと整合的な数値) 」であれば、E[gは、(1/2)×(4+1)×(0.1)=2.5% となります。これは、現在の消費が2.5%削減され、貯蓄率が2.5%高くなる、ということです。
 相対的危険度回避係数θ がもう少し小さくて、3の場合、E[g]は2%、2ならばE[g]は1.5%です。
 
 ところで、590ページで、ルーカスのモデル(といっても効用関数は同じ)に従って、同じ計算をしているのですが、そこでは消費の変動は0.06%と全く違う数値が出ています。これは、標準偏差(分散)の値(590ページでは1.5%=0.015となっている) が全く違うためです。(1/2)×(5+1)×(0.015)=0.06% (相対的危険回避度係数は5としています)。「短期変動に起因する消費の標準偏差の大ざっぱな推計値は、せいぜい1.5%程度であり・・・」(590ページ) 


注1)t+1 の確率分布が、CからCの間で一様(同じ確率でその間の値をとる)でも、同じ結論になります。Ct+1 が、CとCの中間値(平均)を平均とする正規分布でも、そうなります(期待値の計算で積分区間を-∞から∞にしてよいなら・・・ 
  
プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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