M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

2013年08月

1分でわかる(?)クルーグマンの「復活だぁっ!」モデル

 (時間があるかたはこちらをどうぞ。)

 クルーグマンの「復活だぁっ!」("It's Baaack!) 論文の解説みたいな記事を前に書いていましたが、長々とごちゃごちゃ書いているので(そのうち整理しようと思っています。実は、1回目(1)を修正しています。ラグランジュ方程式を修正しました)。
 ここで、できるだけ簡潔に要約しておきます。
 クルーグマンが8月2日のブログの記事(「モデルとメカニズム」、拙訳はこちら)でヒントを与えてくれましたし。

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13080922



 添え字は 1 が現在を表わしていて、2 は将来を表わしています。流動性の罠におちいっていると想定して、名目利子率は動かないと想定します。またクルーグマンの論文では効用関数は危険回避度一定の効用関数でしたが、ここではより単純化して対数型の効用関数とします(インプリケーションは変わりません)。

 クルーグマンは上記の「モデルとメカニズム」で次のように書いています。

「たしかに流動性の罠の状態でも、デフレが短期的だと予測されれば、デフレによって将来のインフレ期待が高められるので、デフレでも経済は拡張的になりうる。」

 「デフレが短期的であると予測される」ということは、現在の物価水準 Pは一時的に低下し、相対的に将来の物価水準Pは上昇するということです。したがって、P1 が低下し、Pは上昇するので、P/ Pは低下します。
 そうなると上記の方程式が成り立つたつように、左辺の現在の消費 Cが増加します。クルーグマンが言うように、デフレが短期的だと予測されれば、拡張的になるわけです。
  Pは、将来の期間において確定する変数ではなくて、現在から見た将来の物価水準の期待値です(上のクルーグマンの文章では「将来のインフレ期待」に対応する)。

 しかし、クルーグマンが問題にしているのはこういうケースではありません。デフレが長期にわたって続くことです。そうなると、人々は将来も物価水準は低下していくと期待します。したがって、現在の物価水準 Pが低下しているとしても、それに比べて将来の物価水準 Pはさらに低下すると期待されます。つまり、P/ Pが増加することになります。
 その影響により、上記の方程式が成り立つように、このケースの場合は、左辺の Cは低下します。つまり、現在の消費(支出)は削減されることになるのです。

(*均衡実質利子率の議論が抜けているので正確な説明になっていませんが、エッセンスはこういう内容になると思います)。

3分でわかる(?)クルーグマンの「復活だぁっ!」("It's Baaack!) モデル: 誰かさんのせいで1分のおまけ付き

(時間がないかたはこちらをどうぞ。)
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   (1)


 クルーグマンの論文 ("It's Baaack!)  で中心になっている方程式(一般にオイラー方程式と呼ばれています)は、単純化して表わせば上記のようになります(クルーグマンの論文では効用関数は危険回避度一定の効用関数でしたが、ここではより単純化して対数型の効用関数としています。また、以下の議論では割引因子Dの影響は考慮していません)。
 添え字は 1 が現在を表わしていて、2 は将来を表わしています。

  この関係から、将来の消費 Cが現在の消費 Cに比べて増加するなら、実質利子率(右辺の r )は大きくなり、将来の消費 Cが現在の消費 Cに比べて減少するなら、実質利子率 r は低下する、ということがわかります(将来の消費は、現在まだ確定していないので人々が抱く期待値になります。つまり、人々が将来の消費は増加すると「期待したなら」、実質利子率が上がるのです)。つまり、実質利子率は、現在の消費水準と人々が期待する将来の消費水準との比で決まってくる、ということです。

 この実質利子率は、均衡実質利子率あるいは自然実質利子率と呼ばれます。これは、現在の消費と、人々が期待する将来の消費との関係から決まってくる架空の実質利子率です(架空と言うのは、経済指標として明示的に示すことができないものだからです)。

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 いっぽう現実の世界では、債券市場の関係から(つまり債権と貨幣との関係から)名目利子率 i が決まります。そして、現在の物価水準 Pと、人々が期待する将来の物価水準 Pとの関係から実質利子率が決まります。この関係はフィッシャー方程式と呼ばれています。
13080924

   (2)

 (1)式の均衡実質利子率と(2)式の実質利子率は、通常、だいたい一致します。
 しかし、名目利子率 i には 0 より低くならないという限界があります。そのため、実質利子率 r が低下していくと、あるところから(例えばマイナスになると)、1+r と(1+i)P/ Pが一致しなくなる状況が生じることになります。

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 (1)式の均衡実質利子率と、(2)式の実質利子率を対応させると以下のようになります。

 ①      ②               ③
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 そこで、バブル崩壊のような需要に対するショックを考えてみます。あるいは人口減少が予想されたと想定してみます。そして人々が将来の経済は縮小すると期待した、と想定します。
 まず期待される将来の消費 Cが低下し、①の C/Cが低下します。次にその影響で、②の均衡実質利子率が低下します。それに対応して、③の実質利子率と名目利子率が低下します。
 しかし、i = 0 となってしまうと、③の実質利子率は動かなくなってしまいます。
 ただしP/Pの関係が変化すれば、つまりP/Pが低下するなら③の実質利子率は下がることになります。だから経済は③の実質利子率を下げようと、現在の物価P を下げます(デフレになります)。しかし、現在の物価が低下していると、将来の物価 Pも同様に低下すると期待されます。そうなると P/Pの大きさは変化しません(この部分は、こちらの記事のほうがわかりやすいと思います)。したがって③の実質利子率も変化しません。

 そうなると②の均衡実質利子率と③の実質利子率との間にギャップができてしまうのです(均衡実質利子率<実質利子率 となる)。クルーグマンが問題にしているのはこれです。
 そして、③の実質利子率が高くなっていれば、現在の消費を押し下げる働きをします(実質利子率が高いということは、消費をより多く現在から将来に回すことを意味するからです。(1)式の関係)。本来(1)式の関係から将来の消費が減少すると期待されているのに、現在の消費を減らして将来の消費に回しているのです。そのために慢性的な需要不足の状態が続くのです。

 問題は、②の均衡実質利子率と ③の実質利子率のギャップにあります。②<③ の関係になっているので、③の実質利子率を下げないといけないのです。
 そのためには、人々が将来の物価水準 Pが上がると期待することが重要であり、それを達成するための金融政策が重要になる、というのがクルーグマンの結論です。
 Pが上がり③の実質利子率が下がれば、現在の消費 Cを増加させるように働きます。

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 おまけ
 日銀の黒田総裁は、8月24日のカンザスシティ連邦準備銀行主催シンポジウムで、現在日銀が行っている金融政策は、実質金利を下げるだけでなく、自然利子率(=均衡実質利子率)を上げる効果ももっていると述べています。
言うまでもありませんが、金融政策の効果は、実質金利と自然利子率の差によって決まります。したがって、金融緩和効果を生じさせるためには、自然利子率を所与として実質金利を引き下げるという方法と、実質金利を所与として自然利子率を引き上げるという方法の2つが考えられます。

日本銀行の量的・質的金融緩和は、実質金利の引き下げと自然利子率の上昇という2つの側面から、効果を発揮しつつあるものと考えられます。
(中略)
そもそも自然利子率とは、企業が実物投資を行うことで得られる予想リターンに相当します。日本銀行の量的・質的金融緩和は、人々の間に定着した「デフレマインド」を打ち破り、日本経済が本来持っているダイナミズムを取り戻そうとするものです。その政策的帰結として、日本の潜在成長力が回復すれば、投資機会が増え、自然利子率の上昇という形になって現れてくると考えられます。

 ここで実質金利を下げる効果と言われているものは、上記の(2)式で言えば、将来の物価水準 Pを上げることで ③ 実質金利を下げることです(これが現在日銀が行っている金融緩和が目指していること、と通常想定されているもの)。
 いっぽう、「自然利子率を上げる」というのは、①の将来の消費水準 Cの期待を高めることにより、②の自然利子率(均衡実質利子率)を上げることを指しています。
(ただし、黒田総裁が指摘しているように、こちらが先に来ることはないでしょう。つまり、将来の物価水準が上がると期待されることで、現在の需要がまず増え、次に将来の消費(支出)が増加すると期待される、という順番になると思います)。



ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(23)

8月27日更新: 最後に少し付け加えました。

 前回の補足(20)で、ローマー、『上級マクロ経済学』の中の シャピロ=スティグリッツ モデルの説明(9章4節)を取り上げましたが、シャピロ=スティグリッツの論文自体の説明のほうがすっきりしています。
Carl Shapiro and Joseph E. Stiglitz,
"Equilibrium Unemployment as a Worker Descipline Device" (1984)

 以下、対応している部分(上記論文436ページ)の翻訳。

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 労働者は、自分の効用の流列の割引現在価値 (discounted utility stream) を最大化する努力水準を選択する。つまり、怠業する(さぼる)場合の効用と、怠業しない(努力する)場合との効用を比較して、そうするのである。これについて今から考えよう。Vを雇用され怠業する労働者の期待生涯効用とし、Vを雇用され怠業しない労働者の期待生涯効用としよう。そして、Vを失業者の期待生涯効用としよう。怠業する労働者のファンダメンタルな資産価値は次の式で与えられる。
13082601
   (1)

  怠業しない労働者の場合は、
13082602
   (2)

  となる。それぞれの式は、利子率 × 資産価値 (左辺)が、フローの利益(配当金)と期待できるキャピタルゲイン(あるいはキャピタル)ロスの和(右辺)になる、ということを表わすものになっている(原注1)。(1)式と(2)式から、Vと Vを求めれば、
13082603

   (3)

13082604
    (4) 
 
  となる。もし、V≧V となるならば、そして V≧V となる場合だけ、労働者は怠業しないことを選ぶだろう。私たちはこれを「非怠業条件」(no-shrinking condition: NSC) と呼ぶことにする。その条件は、(3)式と(4)式から、
13082605
   (5)


 と表わすことができる。

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原注1) 導出は以下の通りである。Vを所与とし、[0,t ]の短い期間に注目すれば、次の式を得る。
13082606

 このようになるのは、[0,t ] の期間の間に失業する確率が bt であり、
13082613

 だからである。Vについて解けば、
13082607


  となる。t → 0 として極限をとれば、(1)式を得る。(2)式も同様に導出できる。


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訳注) この原注では雇用されている場合と失業の場合だけで考えている(怠業している状態と努力している状態を区別していない)ので、本文中の式と違うものになっています。それぞれ分けて考えれば本文中の式と同じになります。
(1) そこで まず怠業しない場合、Vを考えてみます。
 [0,t ] の短い期間に注目すれば、
13082608


 の関係を得ます。これは 0 時点での怠業しない状態の価値(左辺)と、0 時点からわずかにはなれた t 時点でのその価値(右辺)が等しいという関係を表わしています。
 右辺について見ると、その状態の価値をある種の資産と考えれば、フローの効用(配当金)が w-e で、0時点から t 時点まで時間が t 経過しているので、その間の利益は (w-e)t となります(右辺の第1項)。そして、資産自体の価値があるので、それを足します。 t 時点での資産の価値は、時間 t の間に失業する確率が bt あり、いっぽう仕事が続いている確率は 1-bt なので、その期待値になります(右辺の第2項)。
 Vの式に直せば、
13082609


 となります。上記の原注に示されているように、t → 0 として極限をとります。
13082610


 このままでは計算できないので、ロピタルの定理を使います(ロピタルの定理については、前回の補足)。分子と分母をそれぞれ微分すれば、
13082611


 となるので、これの極限( t → 0 )を取れば(4)式になります。
13082612



(2)
 次にVを求めると。t 時点で失業している場合と仕事が続いている場合があり、失業している場合、通常の意味で失業した場合(その確率は bt )と、怠業が発覚して失業した場合(その確率は qt )の2通りがあります({ }の中の第1項)。いっぽう、仕事が続いてる確率は 1-bt-qt になります({ }の中の第2項)。したがって、Vは次の式で表わされます。
13082626


 Vの式になおせば、
13082627


 となります。t → 0 として極限をとります。
13082628



 上の場合と同様にロピタルの定理を使えば、
13082629



13082631



 となり、本文中の(3)式になります。

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 ところで、ローマーの式と見たところ少し違います。シャピロ=スティグリッツのVは、ローマーでは次のように表わされています。
13081903



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 つまり、シャピロ=スティグリッツでは (w-e)t となっているところが、ローマーでは、{1-e-(b+ρ)Δt }(w-e)/(b+ρ) となっているのです( r はρ、t はΔt に対応しています)。
 実はこれは同じです。
 t が小さければ、1-e-at ≒ at という近似が成り立ちます。つまり、
13082632


13082633

 となるわけです。
 フローの利益が w-e ならば、直感的に考えると、時間 t の間にその利益は(w-e)t となると考えられます。実際には割引率、利子率によるその値の増減を考えなければいけないのですが、時間 t が短く、利子率、割引率(上の例で言えば r,ρ,b)も小さければ、利子率、割引率による変化は無視できる、ということです。



 

クルーグマン、「嘘の不安を請け負う人々」

http://www.nytimes.com/2013/08/09/opinion/krugman-phony-fear-factor.html
"Phony Fear Factor"
クルーグマンの8月8日のコラムの翻訳です。

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嘘の不安を請け負う人々  "Phony Fear Factor"  (訳注1)

 僕らは、まちがった経済理論の破綻がさかんな黄金時代に生きている。まちがった学説はハエのようにわいてくる。それは、貨幣拡張はハイパーインフレーションにつながると主張していたが、否定された。赤字財政政策(訳注 財政支出を拡大すること)は不況でも利子率を上昇させると主張していたが、それも否定された。政府債務がG.D.P.の90%を超えると経済成長が崩壊すると主張していたが、それも否定された。

 最近、もうひとつ新しい学説がお亡くなりになられた。「経済政策の不確実さ (uncertainty)」――もちろんそれはホワイトハウスにいるあの男がつくりだしているのだ――は、景気回復を遅らせると主張されていたが、それも否定された。

 そういう学説を引っぱり出してきて、ここで論破するのには、1分もあれば十分だ。しかし、その前に、現在の状況に関して有益な説明を与えてくれるとても古い文章を読んでもらいたいと思う。

 ポーランド人のミハウ・カレツキ (Mchal Kalecki) は、70年前に「完全雇用の政治的考察」と題する文章を発表した。当時はケインズ的な考えが浸透しつつあった時代で、経済学者の多くは、完全雇用は政府が支出することで達成できると考えるようになっていた。しかし、カレツキは、それにもかかわらず、そのような政府支出は、たとえ不況期であっても、産業界と富裕層からの猛烈な反対に会うだろうと予測していた。なぜか?

 カレツキは、その答えは脅迫の手段として「信頼」が幅をきかすからだ、と考えた。政府が直接、雇用を拡大できないなら、政府は代わりに民間に支出してもらわなければならなくなる。そうなると、高い税率や金融規制のような特権的な人々を失望させる政策は、(訳注 その民間の)信頼と、次いでは投資を損なうので、雇用を減らすものとして否定することができるだろう。ところが、政府が雇用をつくりだすことができるとなると、信頼は重要でなくなる。そして、それまで利益を得ていた産業界は拒否権を失うことになる。

 カレツキは、産業界のリーダーはこの点をよく理解していると論じている。だから、産業界は、政府による雇用拡大政策がまさに彼らの政治的影響を損なうことにつながるために、それに反対するのだ、と論じている。「したがって、政府による市場への介入を可能にする財政赤字は、危険なものとして認識されなければならないのだ。」

 僕が最初にこの文章を読んだとき、これは少し行き過ぎだと思った。なんといっても、カレツキは筋金入りのマルクス主義者だ(とはいえ、彼の文章にはそれほどマルクス的なところはない)。しかし、もしあなたが最近の出来事を見てもラディカルにならないとしたら、最近の状況をよく見ていないからではないだろうか。2008年以降の政治的議論は、まさにカレツキが予想した方向に進んでいる。

 まず最初に「転換点」がやってくる。突然、大量失業ではなくて、財政赤字が最重要課題だ、という意見に切り変わる。それから偉い人々の愚痴が始まる。産業界のリーダーが次々と出てきて、オバマ大統領は産業界に対して意地悪なことを言っているとか、保険が適用されない人々を助けるなんていう非道なことをしようとしている、と発言する。最後に、政府支出の削減は実際経済を拡張するとか、政府債務が増加すると大変なことが起こるとかという主張の場合に見られたように、容疑者たちは、自分の主張を支えるマスコット(福の神)となる研究論文を見つけてくる。今回の場合は、スタンフォードやシカゴの経済学者の論文で、引用者によれば、それは「経済政策の不確実さ」が増せば景気回復を遅らせることを示しているのだそうだ。

 しかし、僕が最初に言ったように、現在は経済学的学説の破綻がさかんな黄金時代だ。緊縮財政が景気を拡大させるという学説は、実際の緊縮財政の影響の証拠が現れるにつれて崩壊した。IMFの理事たちでさえ、緊縮財政の有害さを当初はまったく認識できていなかった、と非を認めている。債務破綻の学説もある経済学者が独自にデータを一度検証しただけで、まちがいだとわかってしまった。そして、政策の不確実性の理論も同じ道をたどっている。

 実際、この過程は2段階を経て進行した。まずその学説が有名になる。するとすぐに、その不確実性の指標がまったく信頼できないものだとはっきりするのだ。例えば、部分的にはその発端は、メディアが「経済政策の不確実性」を語りだしたからだ。つまり、そのフレーズが共和党のキャンペーン的フレーズとして語られたから、不確実性の指標が自動的に上昇することになったのである。しかし、その後、2008年以降では見たことがないレベルにまで低下した。ところが、(訳注 彼らの主張に反して)景気回復は進まない。そのために、不確実性が本当の問題ではないとわかってしまうのだ。

 もちろん僕らは、どうして回復が遅いのかという理由をはっきり理解しているし、それは信頼とはまったく関係ないこともはっきり理解している。現在あらわれている状況は、そういうものではなくて、これまでにも見られた借り入れの増大に支えられた資産バブルが崩壊した後に起こる典型的な後遺症だ。2009年以降のアメリカ経済の遅い回復は、多かれ少なかれ、古いものでは1893年のパニックにまでさかのぼる歴史上の類似的状況と同じ道をたどっているにすぎない。それなのに、今回は、政府支出削減でその回復の脚を引っぱろうとする。そして、その政府支出削減の主張を支えているのは、完全にまちがった債務破綻パニックなのだ。

 政策に対する教訓は、はっきりしている。政府支出削減について議論するのはもう止めるべきなのだ。そうではなくて、雇用をつくりだす支出増加について議論を始めるべきなのだ。もちろん、政治が正しいことをするのは、本当に難しいことだろう。しかし、経済に関する限り、僕らが恐れなければならない唯一のことは、不安を扇動することだけだ。

 訂正: 僕の月曜日のコラムで、共和党のフードスタンプ削減法案に関してまちがった記述をした。それは実際には、削減幅を予定の2倍にするというものだった。たしかに大幅な削減だが、僕が書いたような、支給額自体を半分にする、というものではなかった。

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訳注1) たぶんこちらの意味ではないかと(facotor=代理業者、仲買人、問屋、債権金融業)。おそらく「要因」という意味もかけていると思いますが。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(22)

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9章 失業
9.4 シャピロ=スティグリッツ モデル
E,U および S の価値
(508ページ)

 ここで E,U,S は、それぞれ雇用されている状態、失業している状態、怠業している(さぼっている)状態を表わしています。そして、それぞれ状態の価値が、V,V,V です。ここでは、労働者の「性格」は変わらないと想定されています( さぼる労働者は、摘発され失業して次に雇用されたとときも、さぼり続ける。E と S との間で入れ替わることはないということです)。
 「Vは状態 i ( i = E,U,S)にある労働者の現時点から将来までの割引生涯効用の期待値である」(508ページ)。
 そして、その導出は動的計画法によります。0時点(現時点)から少し離れた Δt 時点での価値 V(Δt ) を求め、次に Δt を 0 に近づけることによって(極限をとることで)、0 時点での価値 V(0) を求めます。

(1)Vの計算
 Δt 時点で雇用されている状態の価値 V(Δt )は、次の式になります((9.24)式)。
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13081904
   (9.24)

 「(9.24)の第1項は、期間(0,Δt )の間の効用を表わしている。時点 t (0 < t < Δt )において労働者がまだ雇用され続けている確率は -bt である。もし労働者が雇用されていれば、フローとしての効用は
 w-eである。これを時点0までさかのぼって割り引くと、生涯効用に対する寄与の期待値は
 -(b+ρ)t (w-e となる。」
 期間 Δt は非常に短く、その間に失業した場合は再就職できないと想定されています。このモデルでは失業している状態の瞬時的な効用は 0 なので(506ページの(9.21)式)、Δt の期間の間でいったん失業してしまえば、その場合は考慮する必要がなくなります。また、Δt の時間の間で再雇用されることはないので、雇用されて、失業して、再び雇用される、というケースを考える必要もありません。
 「(9.24)式の第2項は、Δt 以後の効用を反映した」、Δt 時点でのそれぞれの状態の価値を表わしています。それぞれの状態のΔt 時点での価値は V(Δt )で表わされます。
 ただし Δt 時点では、0 時点から Δt 時点までの間で労働者が失業する確率があります。労働者は
 -bΔt  の確率で雇用されていて、(1-e-bΔt の確率で失業しています。したがって、Δt 時点における価値の期待値は、-bΔt (Δt )+(1-e-bΔt )V(Δt ) となります。
 そして、Δt 時点では、0時点から Δt たっているので、Δt 時点での価値を0時点における割引現在価値に直す必要があります。そのために、上記の値に -ρΔt をかけます (ρ=割引率)。したがって、(9.24)式の第2項になります。

 ここで b は仕事が終了する(失業する)瞬時的な確率です。この場合、時間が t だけ経過した後に雇用されている確率(失業していない確率)が -bt  となるのは、連続時間モデルだからです。
 時間が t だけ経過した後に雇用されている確率は、離散時間では、(1- b)  となります(両者の対応については、チャンの『経済数学の基礎』などを参照するといいと思います)。この両者は等しくなりません。等しくなる場合は、次の近似が成り立つときです。
-bt (1- b)t     -b ≒ ln(1-b)
 この近似の精度は、b が大きくなるほど悪くなります。
 連続時間では、時間が t だけ経過した後に雇用されている確率(失業していない確率)が -bt  なので、時間が t だけ経過した後に失業している確率は、1--bt です。

 同様によく出てくる確率(割引率、増加率)を連続時間と離散時間で対比させると、以下のようになります。
r t  ≒ (1+ r)t 
-r t ≒ (1+ r)-t    

 そこで(9.24)式を計算していくと、
13081905


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13081908


 V(Δt )の式になおせば、
13081909 

   



 となります。Δt → 0 とし、極限を求めるのですが、
13081910


13081911


   (1)
 右辺の2番目の項は分子と分母がともに0になるので計算できません。そこで、ローマーが指摘しているようにロピタルの公式を使います。

ロピタルの公式
 f(x),g(x) が x = a のとき、ともに 0 で、f(x),g(x) が x = a で微分可能ならば、
13081912



 が成り立つ。
 f(x),g(x)が x = b のとき、ともに ∞ で、f(x),g(x)が x = b で微分可能ならば、
13081913



 が成り立つ。
 (1)式の第2項の分数の部分の極限は、次のようになります。
13081914



 ロピタルの公式を使えば(分子と分母をそれぞれΔtで微分する)、
13081915



13081916


 となります。したがって、(1)式は、
13081917


 となります(ローマーの本書の9.27式)

(2) Vの計算
 ローマーの本書では、V,V の導出は直感的な方法で導出されています(509ページ)。ここでは上記と同じ方法で導出します。
 まず、(9.24)式と同様にV(Δt )を設定するのですが、(9.24)式の第1項の積分に当たる部分はここではありません。なぜなら、0時点で失業していれば、Δt の期間は失業しており、その間の瞬時的な効用は 0 だからです。
 次に、Δt の期間の間に労働者が仕事を見つける場合があります。ここでは、仕事を見つける瞬時的な確率がa なので、時間が t 経過する間に仕事を見つけられない(失業したままの)確率-at  となり、時間が t 経過する間に仕事を見つける確率が 1--at  となります。したがって、V(Δt ) は次のように設定できます。
13081918


 この式をV(Δt )の式に直します。
13081919



 Δt → 0 とし、極限を求めます。
13081920



 このままでは分数の部分が計算できないので、ロピタルの公式を使います。
13081921



13081922


 したがって、
13081923


 となります。

(3) Vの計算
13081924



13081925


13081926
   (2)

 V(Δt ) は、上記の(2)式になります。
 (9.24)式と同様に、最初の積分の項が時点0から時点 Δt までの効用です。
 怠業している場合の瞬時的な効用は w です。ここでは労働の不効用は、労働に注ぎ込む努力 e のみと想定されています。怠業していればその努力を払っていないので、効用は w のみになります((1)の労働者の場合は w - e )。
 ただし、仕事が終了し失業する瞬時的な確率が b 、怠業が摘発される(そして解雇される)確率が q なので、時間が t 経過した後に雇用されている確率は -bt   、怠業が摘発されていない確率は -qt  になります。したがって、時点 0 から時点 Δt までの効用の期待値は、その2つの確率をかけ、かつ割引率をかけた、(2)式の最初の項になります。
 (2)式の第2項が、Δt 以後の効用を反映した Δt 時点におけるそれぞれの状態の価値を表わしています。
 [・・・] の中の最初の項は、雇用され怠業している状態の価値です。その期待値は、Δt の期間の間に失業しない確率-bΔt と、怠業を摘発されない確率 -qΔt  をかけたものになります。
 2番目の項は失業している状態の価値で、その期待値は、Δt の期間の間に仕事が終了し失業する確率 1--bΔt をかけたものになります。
 3番目の項も失業している状態の価値ですが、こちらは怠業が摘発されて失業している状態です。その状態の価値の期待値は、Δt の期間の間に怠業が摘発される確率 1--qΔt をかけたものになります。

 そこで(2)式を計算していくと、
13081938 

13081927


13081928


13081929


13081930


 V(Δt) の式に直せば、
13081931



 Δt → 0 とし、極限を求めます。第2項の分数の部分だけを計算すると、
13081932



 ロピタルの公式を使えば、
13081933



13081934


 となります。したがって、
13081935


 となります。

**********
512ページ
「労働供給は e で労働者数(L)に達するまで水平であり、その後は垂直になる。」

 上にも書きましたが、労働の不効用は、労働者が労働の際に払う努力 e と想定されていて、ここでは努力水準 e は、eで一定と想定されているからです。

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 第2に、もし離職・再雇用による人の入れ替わりがなければ ( b=0 )、失業労働者が雇用されることはない。結果として、非怠業賃金は雇用水準とは独立に定まる。(9.37)から、この場合の非怠業賃金は e+ ρe/q である。直感的にいうと、努力との相対での怠けることの便益は単位時間当たり e である。一方、その費用は、永久に失業状態になる確率が時間当たり q あることになり、その場合、仕事からの割引余剰を (w-e)/ρ だけ失うことになる。費用と便益を等しいと置けば、w = e+ ρe/q が得られる。
 (後半に書いてある「直感的」な導出について)
 怠業が発覚して解雇された場合、失う瞬時的な余剰は w-e です(もともと eを払っていないので、その機会費用は w-e です)。ここでは再雇用がないと想定されているので、いったん解雇されるとその余剰を永久に失います。その割引現在価値は、割引率が ρ なので、
13081936



13081937


 となります。怠業が摘発される確率がq なので、上記の失う余剰(=費用)の期待値は q をかけたもの、
q(w - e)/ρ です。
 怠業することの便益 e と、上記の怠業が摘発されて失う余剰(=費用)q(w - e)/ρ が等しいとおけば、
= q(w - e)/ρ 
 これを解けば、w = e+ρe/q が得られます。


プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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