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もし貧乏人が経済学を学んだら

2013年10月

L.サマーズ、「相対的賃金、効率賃金、ケインズ的失業」(1)

Lawrence H. Summers, "Relative wages, Efficiency wages, and Keynesian
 Unemployment" (1988)
http://www.nber.org/papers/w2590.pdf

1988年の古い論文ですが、効率賃金モデルの代表的な論文です。

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相対的賃金、効率賃金、ケインズ的失業
Relative wages, Efficiency wages, and Keynesian Unemployment


 ケインズは『一般理論』の中で非自発的失業について説明する際、次のような考えを提示した。「ある個人あるいはある個人の集団が、他の人々との相対で貨幣賃金を下げるのに同意すれば、実質賃金の相対的な低下を被ることになるだろう。だから彼らがそれに抵抗するのは、十分理解できる。いっぽう、貨幣の購買力の変化による実質賃金の低下にことごとく抵抗するのは不可能だろう。貨幣の購買力の低下はすべての労働者に等しく影響するからだ。」(p. 14) 現代経済学の理論は、失業に直面しても賃金が下がらないことに関していろいろな説明を提示しているが、ケインズが強調した相対的な賃金は、現在の多くの議論には反映されていない。この小論は、労働者の生産性が主に相対的賃金に依存するという相対賃金仮説が、実際の失業と失業の変動について理解するための最も有効なモデルを提供する、ということを示すものである。その理論は、現在多くの注目を集めている効率賃金仮説と密接な関連をもっている。

 セクション I は、この論文の動機を示し、均衡における失業を説明する単純な相対賃金モデルを提示する。また、企業が相対賃金に関心を持っている場合に起こりうる不安定な均衡について焦点を当てる。セクション Ⅱ では、この相対賃金モデルと、失業を説明する際にインサイダー(労働組合)の交渉力に焦点を当てるモデルとの密接な関連について明らかにする。セクション Ⅲ は、相対賃金が労働者の生産性に影響を与えることが認められるならば、効率賃金モデルは景気循環的な失業の変動を説明するものに拡張できるということを示す。セクション Ⅳ は結論を述べる。

Ⅰ 相対賃金、均衡における失業
 単純化のために、労働者と仕事が均一である労働市場を考えてみよう。このような仮定は使いやすさに加えて、非自発的失業の概念に関するあいまいさを取り除く利点がある。労働市場が完全に完全競争的で、情報に関する問題がなければ、労働需要と労働供給は均衡する。均衡においてはすべての企業が市場賃金を払い、労働者はその賃金に同意すれば、すぐに仕事を得ることができる。

 しかし、この非常に単純な完全競争モデルは、実際の労働市場の説明として明らかに不適切である。企業は完全に弾力的な労働供給を想定していない。賃金の少しの変動では、企業にとって利用可能な労働供給の大きな変動にはつながらない。実際、企業は賃金を設定する際に、利用可能な労働供給以外の変数に注目する。労働市場における、他の企業との相対で適切な賃金を設定するために、企業がかなりの費用を払って必要な情報を得ようとする、ということがこれまでの研究によって示されている。シカゴだけで、事務職の賃金に関する調査が1年間に100以上行われている。いっぽう、それに対して企業は、どれだけの事務職の労働者が失業しているかを知るためにはほとんど費用を払わない。もっとも注目すべきことは、失業率が高い状況でも企業は賃金をカットせず、さらには賃金を上げることさえある、ということである。

 企業が人手不足ではないときでさえ賃金を上げる、という現象を説明する理由として経済学者が想定するのは、失業が増えているからといって賃金を下げると利潤を下げるかもしれない、というものである。賃金を下げると労働者の努力に影響を与えるため、生産性に影響が出てくるならば、あるいは、賃金を下げることで企業にとって労働者を再雇用し、教育し、引き止める費用が増加するならば、賃金を下げることは企業の利潤の低下をもたらすかもしれない。これは多くの効率賃金理論の中心的な主題である(Stiglitz(1986), Katz(1986))。効率賃金理論は、企業が払う賃金と、労働者の生産性とのさまざまな関係のメカニズムを説明しようとするものである。これはあまり強調されていないが、ほとんどの効率賃金の議論は、生産性は絶対的な賃金に依存するのではなく、企業の内部と外部の相対的な魅力に依存すると示している。そして企業の外部における機会は、他の企業が払う賃金と失業率の両方に依存している。例として、労働移動や、他社の引き抜きや、労働者が考える公正の概念などを考えてみよ。

 相対賃金を増加させることで生産性を上げる可能性を考慮した単純な関数は、次のものになる。

130926 (1)
   (1)
 ここでθは、代表的労働者が注ぐ努力水準である。x は、以下の部分で詳しく定義する労働者にとっての機会を表わしている。αは、高い賃金を払うことがどれだけ生産性を向上させるかを表わすものである。もしα= 0 ならば、効率賃金は考慮されていないことになる。逆にαが増加するにつれて、効率賃金が重要なものになる。

 代表企業の問題は、投入効率労働当たりの費用、つまり w/θを最小にする賃金のレベルを選択することである。その解は(1)式を微分することで求められる(訳注1)。
130926 (5)
   (2)

 この式は、効率賃金が考慮されていないのなら(訳注 α= 0 ならば)、企業は機会費用(訳注 機会費用 = x )だけを払うということを示している。しかし、一般的にはプレミアム(上乗せ分)を払うということを示している。そのプレミアムの大きさはαの大きさによる。

 市場ににおける均衡を分析するには、x がどのように決まるか、というメカニズムを考える必要がある。企業の外部の機会は他の企業が払う賃金と失業率の両方に依存している、という考えを組み込んだ便利な関数は、次のものである。

130926 (6)
   (3)
 ここで u は失業率で、w は他の企業が払う平均賃金である。b は、労働者にとっての外部の機会の重要性を表わしている。完全なモデル(訳注 労働者の効用などを組み込んだ)で計算すれば、b は、余暇の効用や失業手当と正の相関をもち、失業期間とは負の相関をもつとわかるだろう。

 (3)式を(2)式に代入し、すべての企業は同質なので、w= w という条件を課せば、非常にシンプルな市場を均衡させる失業率の式を得る(訳注2)。

130926(12)
   (4)
 

 (4)式は、均衡失業率は、生産性向上に与える賃金の影響の大きさを表すαの値が大きくなれば大きくなり、b で表わされる失業の魅力が大きくなれば大きくなる、ということを示している。α= 0 となる特別な場合のときのみ、均衡失業率が 0 になることに注意せよ。また、この式は、均衡失業率が労働需要にまったく依存しない、という興味深い特異な特徴をもっている。このモデルでは、労働需要曲線は賃金のレベルを決定するだけなのである。これはこのモデルの興味深い特徴である。前世紀(19世紀)の間に、実質賃金が平均失業率に大きな影響を与えずに数倍になったことに注目すべきである。

 (4)式に適切なパラメーターを代入すれば、実際に観察されているレベルの失業率を生じさせるには、ほんのわずかな効率賃金の影響だけでよいことがわかる。b = 0 であっても、生産性の相対賃金に対する弾力性αがわずかに0.06であれば、6%の失業率になる。さらに大きな b の値になれば、現実に観察されている失業率を生じさせるためには、さらに小さな相対賃金の影響だけで十分になる。さらに、このモデルが示す失業の特徴は、現実の世界で観察される次の2つの重要な点と整合的である。

 第一に、ここで生じている失業は非自発的失業であり、社会的に費用がかかるものである、ということである。複雑なモデルでは、非自発的失業の概念を組み込むのはしばしば難しくなる。しかしこのモデルでは、その意味は十分明らかである。すべての仕事と労働者は同質と想定されている。だからすべての労働者が市場賃金で労働を供給しようとする。しかし仕事を得ることができるのはそのうちのある部分なのである(訳注 効率賃金で賃金が市場賃金より高くなるので、ある部分の労働者は失業してしまう)。さらに、労働者だけでなく企業も同質と想定しているので、このモデルの失業は、ある労働者をより価値を生み出す生産性が高い部門に再配置することから発生しているわけではない(訳注 つまり摩擦的失業ではない)。その意味で、このモデルは、長期の失業を経験している少数の人々に失業が集中することを示す事実と整合的である。

 第二に、このモデルは、人口統計グループによる失業率の違いに関しても示唆に富む。余暇を高く評価する人々や労働異動率が高い人々は相対賃金に感応的で、高い失業率を持つだろう。典型的な例としては十代の若者を考えればいいだろう。他の例としては、仕事から仕事へと頻繁に移動する建設労働者である。
 この一般的相対賃金モデルにおいて均衡失業率がどのように決定されるかは、図1に描かれている(訳注3)。

13092615








   図1


 このモデルでは均衡失業率は、代表的企業の最適化による賃金が、他の企業が払う賃金と等しくなるところで決まるという特別な特性をもっている(訳注 図1の2つの直線の交点)。失業率が均衡失業率よりも低いときには、代表的企業は他の企業の賃金よりも高い賃金を払おうとする。失業率が均衡失業率よりも高いときには、代表的企業は他の企業よりも低い賃金を払おうとする。代表的企業が完全雇用に直面し、平均賃金よりも高い賃金を払おうとしているならば、その市場の均衡失業率はプラスになるだろう、ということに注目すべきである。

 図1を見ると、2つの直線が狭い角度で交差しているならば、どちらかの直線がわずかにシフトしても均衡失業率に大きな影響を与える、ということがわかる。前のパラメーターと同じ例で、WW直線が上にシフトし、失業率が6%から7.5%へと増加するには、「失業手当」を表わす b の値が0.5から0.6へと比較的小さな値だけ増加するだけで十分である。失業率が小さなショックに対しても感応的になることは、この相対賃金モデルの基本的な結果である。それぞれの企業の最適賃金は企業全体の平均賃金の増加関数なので、ある企業が成長し賃金を上げると、社会全体へのその影響は増大されることになるのである。

 同調しようという関心のために不安定性につながるという法則は、かなり一般的なものである。その法則は、どうしてフラフープやルービックキューブに対する需要が、他の人が使っているかどうかがそのものの価値には影響を与えない他の標準的な商品より不安的になるのかを説明してくれる。次の2つのセクションでは、その同調の影響によって、構造的失業や循環的失業が非常に大きく変化することを説明できる、ということを論じる。


続きは → こちら

訳注1)
 求めたいのは、w /θ(=効率労働当たりの費用)を最少にするwです。
 w /θのθに(1)式を代入すれば、w /θは次の式で表されます。
130926 (2)
   (5)


 この式の最小値を与える w を求めたいので、w で微分し0とおけば、
130926 (3)



130926 (4)

   (6)

 (6)式を満たす w を求めれば、
130926 (5)
   (2)

 となります。

訳注2)
 (2)式に(3)式の x を代入すれば、
130926 (7)
   (7)

 となります。w= w とし、uを求めれば、(4)式になります。
130926(12)
   (4)

訳注3)
 図1の右下がりの wの直線は、上記の(7)式です。
130926 (7)
   (7)

ジャレド・バーンスタイン、「どうして労働分配率は下がっているのか」

http://economix.blogs.nytimes.com/2013/09/09/why-labors-share-of-income-is-falling/
JARED BERNSTEIN, "Why Labor’s Share of Income Is Falling"

Economix (NY Times) の9月9日のブログの記事の翻訳です。

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どうして労働分配率は下がっているのか  Why Labor’s Share of Income Is Falling

 私は、ファーストフード業界の賃上げを求めるストライキに関する記事で、ストライキをする労働者と、今期もまた記録的な利潤を得た銀行業界とを対比した。実際格差を気にしている多くの人が気づいているように、雇用者報酬がここ50年間できわめて低い水準にとどまっているのに、企業の利潤は記録的な高さになっている、あるいは記録的な高さに近づいているのである。

 この傾向は注意して見る必要がある。下の図は国民所得のうちの雇用者報酬の割合(分配率)を、賃金(企業が負担する労働者の年金、健康保険、社会保障を除いたものだ)とともに示したものだ。賃金の分配率は、雇用者報酬の分配率よりも速く低下している。それは主に多くの労働者が彼らの報酬を賃金とは別の手当ての形でより多く受け取るようになってきたからである。しかし、最近では、企業は健康や年金手当ても削減している(人口のうち企業負担の健康保険に加入している人は、過去10年間で、73%から63%に低下した)。

09economix-labor-income-blog480













 労働者が受け取るすべての所得ということで、ここでは雇用者報酬に焦点を当てることにしよう。実際、この傾向に関しては、多くの有益な分析がなされている。例えば、月曜日のワシントンポストのロバート・サミュエルソンのコラムがそうだし、サミュエルソンはまた、ティモシー・テイラーのとても有益な記事にもリンクを貼っている。基本的な事実は以下のとおりである。
 サミュエルソン氏によると、過去10年間で、7500億ドルが労働所得から資本所得へと移っている。

 テイラー氏が指摘しているように、これは世界的な現象で、世界の多くの国で起こっている。これはこの問題を分析する際に重要な点である。というのも、労働分配率の低下は、政治体制が異なっても、貿易政策が異なっても(つまり、労働分配率は貿易黒字の国でも貿易赤字の国でも下がっている)、労働組合の組織率が高い国でも低い国でも、資本集約が進んでいる国でもそうでない国でも起こっているのである。

 賃金から企業の利潤へのシフトは、もちろんより大きな格差につながると言われるが、実際には両者の相関はかなり弱いものである。そのような格差の増加の大部分は、労働者の内部で起こってきたからである。つまり、高額所得者の給料が低額所得者の給料から上昇し離れたということである。

 この問題に関しては、ローレンス・ミシェルによる論文が注目すべき2つの事実を示している。その2つのうち2番目の事実が、少なくともアメリカにとっては重要である。まず第一に彼は、賃金成長と生産性成長とのギャップ――所得のシフトと密接な関連をもっているもうひとつの格差の兆候――を分析し、労働者の間での格差――賃金格差――は、過去数十年間のそのギャップの半分を説明するにすぎない、と発見した。

 しかし私がここでより詳しく見たいのは、彼の2番目の発見である。労働市場が完全雇用レベルに近づいた直近の時である1990年代後半に、国民所得のうちの労働所得の割合は実際増加し、一時的に生産性と賃金とのギャップを3分の1縮めたのである。

 テイラー氏とサミュエルソン氏は、よく言われる答えを提示している。グローバリゼーション、技術変化、金融化(金融部門の成長)、労働者の交渉力の低下である。しかし、1990年代後半に関するミシェルの発見を考慮すると、労働者の交渉力の問題をより詳しく見るべきだ、と私は考えた。

 そこで、私は国民所得のうちの雇用報酬の分配率に関するシンプルな統計的モデルをつくってみた。基本的にいくつかの変数を相関させて、変数Xが少し変化したときに変数Yがどれだけ変化するかを見るものである(詳細については最後の注を参照してもらいたい)。

 結果を示す前に、労働組合の影響が弱いアメリカの労働市場において、完全雇用が労働者が使うことができる交渉の道具となる、ということが重要である。このモデルでは、完全雇用は失業率ギャップ(次の図の中では”ugap”と表記されている)を使って表すことにした。その失業率ギャップは、単純に実際の失業率から国家予算局が推定した完全雇用に対応した失業率を引いたものである。もし失業率が8%で、完全雇用の失業率が5%ならば、失業率ギャップは3%である。

 下の図は、停滞した労働市場を想定し、失業率ギャップに正のショックを与えたときに何が起こるかを検証したものである。見てのとおり、その操作を行うと、労働分配率は大きく低下する(標準誤差――図の点線のライン――は、その低下が統計的に有意であると示している)この図の四半期ごとの低下を累積すれば、2.5四半期で労働分配率が1.7%低下するとわかる。大不況後の失業率ギャップを累積すれば、その大きさから、アメリカにおける労働分配率の低下の原因は高い失業率である、と説明できるであろう。


09economix-ungap-blog480



















 しかし、グローバリゼーションの影響はどうなのだろうか。グローバリゼーションをモデルに組み込んだところ、労働者の交渉力を一定とすると、グローバリゼーションの影響はそれほど大きくならないとわかった。これは、次の2つの理由から驚くには当たらない。第一に、グローバリゼーションは輸入材と競合する部門の労働者の交渉力を低下させる(その部門の労働者が別の部門に移り、今度はそこの労働者の交渉力を低下させる)。第二に、テイラー氏が強調しているように、労働分配率はドイツや中国のような貿易黒字の国でも低下しているのである。したがって、単純に貿易赤字だけではこの問題はうまく説明できないのである。

 これは単純な相関関係だけを見たモデルである。より広範なマクロ経済の変数を組み込もうとすると、原因を明らかにすることは、私の上記の分析のように簡単にはならない。それに対して私は、オッカムの剃刀にならってより単純化した。ミシェルによる1990年代後半についての発見と、この原因と結果のつながりは常識的に考えても納得できるので、より複雑な分析を使っても同じ結果になるだろうと私は確信している。

 言い換えれば、労働分配率を上げることは奇跡的でも、私たちの能力を超えているわけでもない、ということである(それは現在の政治では無理かもしれないが、それなら目標がはっきりするのでかえって有益である)。必要なことは停滞し続ける労働市場を停滞から脱出させることなのだ。これは、政策決定者が完全雇用の実現に向けた政策を考えなければならない、ということを意味する。その政策がどのようなものになるかは、新たなコラムで書くことにしよう。

 データに関する注:2番目の図は、VAR(ベクトル自動回帰)モデルで労働市場の停滞を表す変数――上記の ungap である――に1単位の正のショックを与えた場合のインパルス反応関数を示している。本文中に示したように、その変数は、実際の失業率から、議会予算局が推定したインフレを加速させない失業率を引いたものである。そのVARモデルは、実質値の雇用者報酬(対数値に変換している)と格付けAAAの社債の利子率を操作変数として含んでいる。本文中で言及したグローバリゼーションのテストの場合には、GDP比の輸入を、別のテストでは、輸入と輸出の合計のGDP比を変数として入れた。これらの変数のインパルス反応関数は、労働分配率に対する大きな影響を示さなかった。

マンキュー、「消費税 VS 所得税」

Consumption vs Income Taxation
http://gregmankiw.blogspot.jp/2006/06/consumption-vs-income-taxation.html
マンキューの2006年6月27日のブログの翻訳です。
 今日本の人が読むと反応が分かれる記事でしょうね。
 でも、今の日本の状況では増税するなら所得税増税のほうが望ましい、となるんじゃないでしょうか?(消費税は消費しなければ課税されないため、貯蓄に対するインセンティブを高める。)。
 また、マンキューの比較では税率をどちらも一定にしていますが、本当に消費税と所得税を比較するなら、「一定税率の」消費税と「累進税率の」所得税で比較しないといけません。

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消費税 VS 所得税    Consumption vs Income Taxation

 前の記事で消費税のほうが所得税よりも望ましいと書いた。すると去年 ec 10 を受講していた学生が次のようなインセンティブに関する重要な質問をコメントしてくれた。

 どうして消費税はインセンティブに影響を与えず、いっぽう所得税はインセンティブに影響を与えるのかがわかりません... 人々は、貯金は気にしないはずです。人々が気にするのはお金を使うことです。 

所得税の場合: 1時間の労働 → 課税前16ドル → 課税後8ドル → 8ドルでチョコレートケーキとビデオゲームとレッドソックスのチケット

消費税の場合: 1時間の労働 → 課税前16ドル → 8ドルでチョコレートケーキとビデオゲームとレッドソックスのチケット + 消費税8ドル 

 労働の量と支出の量はどちらも同じになります。どのような実質的な違いがあるのでしょうか?

 この議論に関しては彼は正しい。今日消費するために今日働くという決定だけに注目するなら、消費税と所得税はどちらも同じ影響を与える。どちらも労働する努力を同じだけ削ぐのである。

 しかし、別の限界での調整を考えてみよう: 貯蓄して将来消費するために、今日働く、という場合を考えてみよう。税率は上の例と同じ50%としよう。利子率は7%としよう。その場合、今日1ドル貯金すると、10年後には2ドルになる。

所得税の場合: 1時間の労働 → 課税前16ドル → 課税後8ドル → 貯金して10年後に16ドル → 利息のうち所得税で4ドル引かれる → 12ドルでチョコレートケーキとビデオゲームとレッドソックスのチケット

消費税の場合: 1時間の労働 → 課税前16ドル → 貯金して10年後に32ドル → 16ドルでチョコレートケーキとビデオゲームとレッドソックスのチケット + 消費税16ドル 

 したがって、消費税の場合、将来消費するために、今日働いて貯蓄するインセンティブをより高めることになる。 
 これをもう少し経済学っぽくして、少し数学を入れてみよう。W を実質賃金、r を利子率、t を税率としよう。貯蓄して T 年後に消費するために、今日働くと想定しよう。所得税の場合、今日1時間働いて10年後に得ることができる消費の量は、

13100801

  [ (1-t)W*[1+(1-t)r]^T ]

 となる。消費税の場合、10年後に得ることができる消費の量は、

13100802

  [  (1-t)W*[1+r]^T  ]

 となる。ここで両方の場合の、(訳注 貯蓄して T 年後に消費できる量の)課税後の相対的価格と、課税前の相対的価格を比べてみよう(訳注 相対的価格 relative prices、実質値ということ。実質賃金と実質利子率で計算している)。課税前の相対的な価格は、

13100803

  [  W*[1+r]^T  ]

 である。消費税は一定の差額(ウェッジ wedge )を割り引く、ということがわかるだろう: つまり、課税後の相対的価格は、いつでも課税前の価格に 1-t をかけたものになり、T とは関係なくなるのである。いっぽう、所得税の場合、その差額は年が経過するほど大きくなる。T が大きくなればなるほど、課税前の相対価格と課税後の相対価格との差は大きくなる。つまり、消費税が現在の消費と将来の消費に対して同じ率で課税するのに対して、所得税は、実質的には、現在の消費よりも将来の消費により大きな率で課税することになるのである。

 結論:消費税も所得税も労働に対するインセンティブを低下させる。しかし、所得税は貯蓄に対するインセンティブも低下させる。

Josh Bivens,「不確実性ではなくて、緊縮財政が財政政策の対決の怖い場面だ」

http://www.epi.org/blog/austerity-uncertainty-scary-part-fiscal/

EPI(Economic Policy Institute) のブログの記事(9月24日)の翻訳です。

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Josh Bivens,「不確実性ではなくて、緊縮財政が財政政策の対決の怖い場面だ」
Austerity, Not Uncertainty, Is the Scary Part of Fiscal Showdowns

 ここ数年、毎年上演されている財政政策のドラマ――昨年は『財政の崖』で、一昨年は法律上の債務の上限だった。今年は再び債務の上限プラス連保政府に引き続き財源を与える議会決議である――が「経済にとって悪いものだ」ということは、今や当たり前のこととして受け入れられている。

 財政政策をめぐるこのような対立が大不況からの回復を遅らせている、という考えはもちろん正しい。しかし、非常に多くの人が、どうしてこのような毎年行われる財政政策のドラマが経済の回復を遅らせるのか、ということに関しては、間違った解釈をしている。それは、そのような対立が「不確実性」(uncertainty)をもたらすからではない。むしろ、それは、そのような対立が財政赤字を極力抑え込もうとする圧力になり、需要がまだ大きな制約を受けている経済から購買力を吸い取ってしまうからである。

 このような主張は奇妙に思われるかもしれない。「不確実性」の浸食的な影響は、今や連邦政府内の専門家の間では公式見解になっているし、財政赤字を削減することはいつでもどこでも望ましいことだ、というのは経済評論で最も重宝される決まり文句になっている。

 しかし、「不確実性」によってもたらされるダメージに関して言えば、まず、その不確実性を正確に計測できると主張することはできない。さらに(こちらがより重要なのだが)、不確実性が、遅い成長の結果現れてきた兆候ではなくて、遅い成長のそれだけで独立した原因である、と主張することはできない。1年ほど前、私はそのような議論にも見るべきものがあるのかもしれないと考えようとした。しかし、出てきた結論は、「債務上限をめぐっての対立自体が(経済的な意思決定に不確実性をもたらすために)経済にダメージを与えるだろうか? ひょっとするとそうかも。」というものにすぎなかった。

 「不確実性」の議論を受け入れる際の大きな問題のひとつは、住宅バブルの崩壊によって大きな資産の損失を被ったことを考えれば、大不況からの回復期において、家計の支出と企業の設備投資やソフトウエアへの投資は実際かなり好調だった、ということである。個人の貯蓄率も不況前の低い水準に近づいているし、企業の設備投資は実際歴史的な平均水準を超えている。

 家計の貯蓄(訳注 支出 spending のタイプミスか?)と企業の設備投資が好調ならば、近年、成長の足を大きく引っぱっているものは、何なのだろうか。この疑問が私たちに2番目の点に注目させた――つまり、近年の極端な財政赤字削減によるダメージである。下の図は、景気後退期と回復期の間の(連邦政府、州政府、地方政府を含めた)インフレ修正した公共支出の成長を示したものである。大不況の間は復興法(the Recovery Act)が、州政府と地方政府の支出の大量出血状態にもかかわらず(訳注 財源が枯渇したということ?)、公共支出を力強く後押ししていたのだが、2011年の初め以来、公共支出は歴史的な平均水準からどんどん低下しているのである。実際、もし今回の不況と回復期において、公共支出が1980年代、1990年代、2000年代の景気後退期と回復期と同じ軌跡をたどっていたなら、公共支出は現在、実際の値よりも約14-15%も高くなっていただろう。そして、アメリカ経済において、500万以上の雇用(そのほとんどは民間部門の雇用になるだろう)の創出につながっていただろう。
fisc-blog
















 だから私たちは次の結論を主張するのである: 回復に確実にダメージを与えているのは緊縮財政であり、不確実性ではない。それなのに毎年財政政策のドラマが繰り広げられ、緊縮財政の薬を投与する。2009年から2012年の間の大幅な財政赤字の削減と、その間の遅い回復のペースは、偶然の一致ではないのだ。証拠に基づいて判断する政策決定者なら、これを教訓にすべきなのだ。あなたがたは、この財政政策のドラマが引き起こすと思っているダメージよりも、それを終わらせる代償としてさらに緊縮財政を受け入れてしまうことをもっと心配すべきなのだ。

マンキュー、「フランスから問題です」

A Question from France
http://gregmankiw.blogspot.jp/2007/07/question-from-france.html

マンキューの2007年7月17日のブログの翻訳です。
どうしてこんな古いものを引っ張りだしてきたかというと、最近日本で消費税増税が決定されたからでは 断じてなく、単純に短いからです。元の記事には追加の記事がありますが省略しています。

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フランスから問題です A Question from France

 ウォールストリート・ジャーナルが最近のフランスでの政策議論について報じている。

 政府の最新の提案は、政府運営の健康保険と年金に対する企業負担分――従業員数を基準にして決められている――を減らすというものである。歳入の減少を補うため、政府は付加価値税 (value-added tax) を増税する予定である。

 これは議論のためのいい問題だ: もし政府が給与税 (payroll tax) を減税し、消費税 (consumption tax) を増税したならば、この税の変更は経済にどのような影響を与えるだろうか?

 とりあえず僕の答えは次のようなものだ。

1.労働と余暇の決定
 この税の変更は、余暇と消費との配分に対して税がもたらす歪みを変化させない。消費税も給与税も同様に、限界での消費と余暇との代替を歪める。税金は違う場所で徴収されることになる(仕事ではなくてお店で)。しかし、どちらの場合も労働に対するインセンティブを同じくらい低下させる。

2.貯蓄の決定
 どちらの税も、現在の消費と将来の消費との配分に歪みを与えない。したがって、その税の変更は、貯蓄に対するインセンティブに影響を与えない。

3.税負担の配分の影響
 この変更によって税負担の配分による影響が出てくるかもしれない。とりわけ、若年世代と老年世代との間での配分である。老年世代はすでにより多く所得税を払っている。そして今後再び貯蓄から消費するときにより多く税金を払わなければいけなくなる。若年層は、税の負担を老年世代に移転することになるので、利益を得ると思われる。もし若年層が老年層よりも高い貯蓄性向をもっているなら、この負担の移転の影響によって総貯蓄は増加するだろう。

4.短期的なマクロ的不均衡
 課税前の商品の価格が国際的な価格で決まるなら、フランスにおける課税後の商品の価格は新しい消費税のために上がることになる。名目賃金も同様に上がるだろう。したがって、課税後の実質賃金は大きく変わらないだろう。しかし、高い価格と高い名目賃金への移行は同時に起こらない可能性がある。そうなると、短期的なマクロ経済的な影響が出てくる(1986年のPoterba, Rotemberg, and Summers の
論文が示しているように)。とりわけ、名目賃金が高いレベルに調整されるのが遅れるなら、実質賃金はその間、均衡レベルよりも低くなる。そうなれば、しばらくの間、雇用が増加することになるだろう。

プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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