M B K 48

もし貧乏人が経済学を学んだら

2014年02月

税金の議論で見落としがちなこと

 税金って何で必要なんでしょうか?

 まず第一に思いつくのが、社会資本が必要になるためです。例えば、道路を個人が自分に必要なだけ各々つくるのは非効率的です。多くの人が利用するものは、政府や自治体が用意して、その費用を全員で分担したほうが効率的になるわけです。こういうものには、学校や病院などの公共サービスも含まれます。そこで、

(1)税金が必要な理由 その1。社会資本・公共サービスの必要性。

 まず人々は全員「同質」であると想定します。つまり、所得格差や技術や嗜好に差がないと想定します。経済学はよくこういう仮定(「代表的個人」)をおいて分析します。モデルが単純になるからです。そうすると、社会資本・公共サービスの財源を得るための税金の税率は、全員同じでなくてはなりません。全員同じ資質と所得の人なのに税率が違ったら差別です。

 そこでこの場合に、所得税と消費税を比較するとどうなるでしょうか? 
 消費税のほうが望ましいということになります(マンキューのブログのこの記事がわかりやすく説明しています)。所得税では、所得を得たときと、その所得のうち貯蓄したり投資したりして利益を得たときにもう一度、と2回課税されることになります。そのために貯蓄や投資を抑制するインセンティブを与えてしまうのです。

 しかし、社会の構成員が全員同じなんていうことはありません。そこで、個人はそれぞれ異なっているという条件を導入します。特に重要なのは所得格差です。
 ところが、そうなると、税金の役割として上記のものとは全く別の重要な役割が浮かび上がってくるのです。

(2)税金が必要な理由 その2。所得移転。

 この場合、税金の役割は所得移転そのものです。税金を何に使うかは全く重要ではありません。単に所得を移転するだけでいいのです。なぜなら、個人に所得格差がある状態では、所得が高い人から所得の低い人に所得移転をするだけで、社会全体の効用の平均――社会全体の厚生(効用、満足度、幸せ)を高めることができるからです。これは次の図から示すことができます。
13083002











 図の U(c)は消費(所得)から得られる効用を表しています。高額所得者からΔCだけ所得を取り、低所得者に移転すると、両者を合わせた平均の効用は高くなります。効用の平均はそれぞれの線分の中点です。線分ABから線分CDに移れば効用の平均は高くなるわけです。(上の図は高所得者と低所得者の2人、あるいは同人数の2つのグループしかいないと想定したものです。格差があるかたちで所得が分布している――例えば正規分布の――場合でも同じ結果になります。)

 こうなる理由は、高額所得者の限界の(余剰の)所得が、低所得者にくらべて有効に使われないからです。
 高額所得者は所得が多いので、すでに必要なものは買ってしまっているし、やりたいこともやっています。だから限界の所得が増えても、彼らの効用をさらに高めることにはそれほどつながりません。
 いっぽう、低所得者は所得が少ないために、必要なこと、やりたいことができないでいる。もう少し所得が多ければ、生活環境の改善や子供の教育に、あるいは自分の趣味のために、自分の教養を高めるために使えるのに、あるいは、自分の時間をもっともてるのに、と思っていたりします。だから、限界での所得が増えれば、それがより有効に、より効用を高めるかたちで使われるのです。

 もちろん、社会資本や公共サービスは必要なので、そのための費用を徴収するときに、高額所得者から低所得者に所得移転が行われるように税率を設定することになります。これが累進税率を採用する根拠です(累進税率が採用されているのは単なる「見た目の公平性」のためではないのです。社会厚生を増加させるからなのです)。

 この場合に消費税と所得税を比較すると、今度は消費税には、ものすごく大きな欠陥があることになります。なぜなら、消費税では累進税率を採用することができないからです。(注1)

(実は、消費税でも所得移転が可能です。同じ税率で税金をとっておいて、低所得者により多く配分するようにすればいいのです。しかし、その場合、取っておいて配分する、という非効率性が生まれます。また、そのような配分政策は日本では難しいです。日本では中位以上の階層にも多く配分しています。例えば、非正規社員と正規社員の健康保険と年金では、所得が少ない非正規社員のほうが負担が多いのに、もらえる額は少なくなっています。)

 この所得移転の効果はものすごくはっきりしています。だから、税金を議論するときにはこれを無視することはできないはずです。しかし、経済学のモデルでは、しばしば個人個人の間に差がない――したがって所得格差もない――と想定する場合(代表的個人モデル)が多いのです。そのような仮定をしてしまうと、この(2)の所得移転の効果は非常に重要であるにもかかわらず、まったく考慮されなくなってしまいます。

 
 しかし、(2)の所得移転には大きな問題があります。これは高額所得者により高い税率を課すことを意味します。所得に高い税率をかけ、所得の大部分を奪ってしまうと、働いても少しの所得しか得られないことになるので、労働に対するやる気を失わせます。つまり、高い税率は労働供給を減らすことになるのです。

(3)考慮しなければいけない条件 その3。労働供給の弾力性。

 たしかに、高い税率が課されれば、働くのが馬鹿馬鹿しくなって労働供給を減らす、ということが起こりそうです。
 例えば、年収が2000万円の人がいて、税金で500万円取られていたとします。課税後の所得は1500万円です。そして税金が上がって600万円になったとします。課税後の所得は1400万円に減少します。もし税金が高くなったので労働供給を減らす、というのなら、さらに所得は減ることになりますが、この状態で自発的に労働供給を減らして年収がさらに少なくなるように、例えば1300万円になるようにするでしょうか?

 実は、これがあまり起こらないと示されているのです。(注2)

 (男性の)フルタイムの、したがって所得が比較的多い人の労働供給の賃金に対する弾力性は低いのです(高くても0.5ぐらい)。いっぽう、労働供給の弾力性が高くなる場合は、典型的には、労働市場に参入したり退出したりしているパートタイムの(特に女性の)労働者です。これは、日本の例としては、扶養控除を得ることができる範囲に年収を抑えようとして労働時間を減らす主婦を考えてみるといいです。
 もう1点留意しておく必要があるのは、労働供給の弾力性といっても、税率に対するものと、賃金に対するものとでは異なるということです。税率に対する弾力性のほうが低くなります。なぜなら、賃金は変動します。そのため一時的に賃金が減ったときは労働供給を減らして、賃金が増えたときに労働供給を増やすことで所得の合計は変わらないようにすることができます(労働の異時点間代替と呼ばれますが、これもそれほど起こりません)。
 しかし、税率は変更されると、その後たいていの場合変わりません。そのために異時点間の代替は起こらないのです。
 また、賃金が下がった場合は、他の職場、あるいは他の産業に移るということが考えられます。しかし、税率が上がった場合は、どの職場、どの産業に移っても課税後の所得は減るわけですから、そのような労働移動も起こりません。
 したがって、労働供給の税率に対する弾力性は、賃金に対する弾力性よりも低いと考えられます。

 労働供給の税率に対する弾力性は一般的に低いということは、税率を上げても労働供給はそれほど減少しないということです(もちろん、労働供給への影響がまったくない、というわけではありません)。だから、累進課税は高額所得者に高い税率を課すので景気にマイナスの影響を与える、という場合、重要なのは「マイナスの影響を与えること」ではありません。「どの程度の」マイナスなのか、ということです。

 しかし、多くの経済学モデルは、労働と余暇の代替が起こることを最初から仮定してしまっています。リアルビジネスサイクルモデルが現実と合わない原因のひとつはこのためです。
 税率が上がり所得が減るとばかばかしくなって労働供給を減らす、という仮定は、現実的には、それほど強いものではないのです。しかし、モデルに労働と余暇の代替が「起こる」と最初から組み込まれてしまっていれば、それは非常に強い仮定――重視しなければいけない要因――となってしまいます。そして、そのように仮定してしまうと、(とくに高額所得者の)税率が労働供給に与えるマイナスの影響を過大に見積もることになります。

 以上をまとめると、税金の議論を見るときに考慮すべきポイントは、次の3つです。

(1) 代表的個人モデルではない。個人の差、とくに個人の所得格差が想定されている。あるいは、代表的個人モデルから導出された結果を普遍的な法則としてしまっていない。
(2) 上の条件と同じことですが、所得格差が想定され、所得移転によって厚生が改善されることを考慮に入れている。あるいは、所得移転による厚生改善がモデルに組み込まれている。
(3) 労働供給の弾力性に現実的な値を当てている。単純に労働と余暇の代替が「必ず起こる」と想定されているモデルではない。

 このうちのどれか一つでも欠けているなら、まちがったインプリケーションが得られている可能性がある、と見ていいでしょう。
 専門家の議論なんだから、こういう条件はクリアしていると思います? 実はそうじゃないみたいなんですよね。


**********

注1) 年収200万円の人と年収2000万円の人の法定所得税率はそれぞれ5%と33%です(この税率は「所得」に課税されるものなので、それぞれの年収から所得に変換する必要があります)。
 しかし、健康保険料や年金などの社会保障費を含めて考えると、日本の所得税の累進税率はそれほどきつくありません。国民年金・国民健康保険(厚生年金ではありません)に加入している年収200万円の人と年収2000万の人を比べると、「年収」に対する税率(「年収」に対する、所得税+社会保障費の割合)は、年収200万の人が22%前後、年収2000万の人が27%前後になると思います(「所得」からの控除は年金と健康保険と基礎控除だけで計算しています。したがって、他の控除、例えば扶養控除を加えれば、その数字は下がります)。
 こうなるのは、国民年金保険料は所得にかかわらず一定額、国民健康保険の税率は所得にかかわらず一定、また市県民税(住民税)の税率も所得にかからわず一定(10%)だからです。

注2)
黒田祥子・山本勲、「人々は賃金の変化に応じて労働供給をどの程度変えるのか?」(2007)
Mankiw, Gregory, Rotemberg, Julio, and Summers, Lawrence, "Intertemporal Substitution in Macroeconomics." (1985)
Altonji,Joseph G. "Intertemporal Substitution in Labor Supply: Evidence from Micro Data." (1986)
Ham, John C. and Reilly, Kevin T. "Testing Intertemporal Substitution. Implicit Contracts and Hours Restrictions Models of the Labor Market Using Micro Data." (2002)

数学の問題?

14022401



 図1







 図1のように、直線Aと直線Bが、点Eで交わっているとします。
 そこで、直線Aが下にシフトしたとします。A’の位置にシフトしたとします。直線Bも、B’の位置にシフトしたとします。最初の交点E(経済学のモデルだったら均衡です)と、新たな交点E’とでは、どちらが右にあるかを知りたい。
 何と何を比べればよい?



答え
14022402







   図2


 シフトした量(長さ)を比べればわかります。図2でいえば、XYの長さと、ZWの長さです。
 XYがZWよりも長ければ、E’はEよりも左になります。
  他のパターンでも同じです。B’からBへ上にシフトするとか、直線の傾きが違う場合(たとえばどちらもプラスの場合など)でも、同じ方法でわかります。

 どうしてこれでわかるのかだって? 中学生に聞けば答えてくれると思います。



ローマー、『上級マクロ経済学』:演習問題 2.9

2.9 ラムゼイ=キャス=クープマンズ・モデルにおける資本課税 
 均斉成長経路上にあるラムゼイ=キャス=クープマンズ・モデルの経済について考えてみよう。ある時点(時点0 と呼ぶことにする)において、政府が政策を転換し、投資による所得に一定率τで課税すると仮定せよ。よって、家計にとっての実質利子率は r(t) = (1-τ)f’(k(t)) となる。政府は、この税金によって得られる収入を一括所得移転により均等に家計に還元するものとする。さらに、この税制変更は予期されていなかったと仮定せよ。
(a) この課税は、c=0 曲線および k=0 曲線にそれぞれどのように影響するか。
(b) この経済は、税制変更に対し、時点0 においてどういう変化を示すか。時点0 以降はどう変化するか。
(c) 新しい均斉成長路において、c と k は、以前の均斉成長路における値と比べてどう変化しているか。
(d) (本問はBarro, Mankiw, and Sala-i-Martin [1995] にもとづいている。)
 このような経済が多数存在するものと仮定せよ。各国において、労働者の嗜好は同じであるが、投資所得に対する税率は異なるものとする。また、各国とも均斉成長路上にあるものと仮定する。
(i) 均斉成長路における貯蓄率 (y* -c)/* y はτの減少関数であることを示せ。
(ii) τが低く、k が高い高貯蓄国の国民は、低貯蓄国に投資する誘因を持つか。
(e) (c)の答えから考えて、投資に補助金を与え(すなわちτ<0 とする)、この補助金の財源を定額税によりまかなう政策は、経済厚生を増加させるといえるか。
(f) 政府が課税による税収を国民に還元しないで、自ら財、サービスの購入に利用した場合、(a)と(c)の答えはどのように変わるか。

**********
(a)
 政策が変更される前の消費の動学は
140222 (1)
   (1)

 で表されます。
 政策が変更された後は、資本所得に課税され、 実質利子率が r(t) = (1-τ)f’(k(t)) となるので、
140222 (2)
   (2)


 となります。均斉成長路では c=0 となるので、(2)式から( (2)式の右辺の分子が 0 になる)、
140222 (3)
   (3)
 という関係が得られます。新たな均斉成長路での効率労働単位当たりの資本ストック(それを k*new とすると)は(3)式を満たすものです。変形すれば、
140222 (4)
   (4)

 となります。
 いっぽう、政策変更前の均斉成長路での効率労働単位当たりの資本ストックは( (1)式の右辺の分子が 0 になるものなので)
140222 (5)
   (5)

 の関係を満たすものです。
 (4)式と(5)式の右辺を比較すると、τは 0<τ<1 なので、
140222 (6)


 という関係が成り立ちます。したがって、
140222 (7)

 

 となります。これは、生産関数 f(・) は限界生産性逓減の関数( f’(・)>0,f”(・)<0 )なので、k*new は k* より小さくなる、ということを意味します。
140222 (8)
 

 したがって、c=0 の軌跡は左にシフトします(下の図を参照)

 いっぽう、効率労働当たりの資本ストックの動学は
140222 (9)
   (6)
 で表されます。均斉成長路では k=0 となるので、
140222 (10)   (7)

140222 (11)
   (8)
 という関係が得られます。k=0 の曲線は(7)式、(8)式を満たすものです。
 資本所得に課税されて減少する所得は、再び一括所得移転で帰ってくるので、家計の所得は変化しません。言い換えれば、τは(6)式、(7)式、(8)式には入ってきません。したがって、k=0 曲線はこの政策変更によって変化しません。

14022301







   図1




 (b)
 
k (資本ストック)は不連続に、瞬時的に変化することができません(これは c=0曲線のことではありません。)。いっぽう、家計の消費 c は、変化(ショック)が生じた時点で、不連続に、瞬時的に変化(ジャンプ)できます。
 0 時点で政策変更が発表されると(これは予期されていないものです)、資本所得に課税されることになり、貯蓄(投資)に対するリターンが少なくなるので、家計は貯蓄を減らし、消費を増やします。したがって、c は 0時点で上方にジャンプします。その後は鞍点経路(サドルパス)に従って、新たな均衡に移動します。(上の図を参照)

(c)
 上の図からわかるように、均斉成長路上の効率労働単位当たりの資本ストック k と消費 c は、ともに低下します。
 新たに導入された資本課税は「ゆがみ」を与えていることになります。最初の均衡で達成できていた、家計にとっての生涯効用最大化が、この税金のために達成できなくなったということです。

  このケースが与える現実的なインプリケーションは、法人税のような資本課税はなくしたほうがいい、というものになります。ただし、このインプリケーションが成り立つ条件は、最初の均衡が最適である、ということ(そこでの資本ストックが過剰蓄積でないということ)です。過剰蓄積になっている場合は、資本課税をしたほうが最適になります。

(d)(i)
 (3)式から、均斉成長路ではτが増加すると、f’(k*) が大きくなり、k* が小さくなる、ということがわかります。したがって k はτの減少関数です。
140222 (12)
   (8)

  貯蓄率を s とすると、f(k(t))-c(t) = sf(k(t)) なので(本来、ラムゼイモデルでは s は時間とともに変化するので s(t) としたほうがいいですが、ここで関心があるのは均斉成長路上での変化なので(つまり時間変化が止まっている)、問題ありません)、(5)式は
140222 (13)

 と表すことができます。均斉成長路では k=0 なので、
140222 (14)
 

 となります。s の式に直せば、
140222 (15)



 です。τで微分すれば、
140222 (16)



140222 (17)


 f’(k*)k*/f(k*) は、(効率労働1単位当たり)産出量の資本ストックに対する弾力性なので、これを αとおけば、
140222 (18)


 α<1 (通常1/3ぐらい)なので、また(8)式から、これは 0 より小さくなります。したがって、τが増加すれば、貯蓄率は下がります。

(d)(ii) τが低く、kが高い高貯蓄国の国民は、低貯蓄国に投資する誘因を持つか。

答え: 持たない。

 すべての国は「同質」です。したがって、同じρやθの値をもちます。そうすると、(3)式
140222 (3)
  (3)
 の右辺はすべての国で同じになる、ということです。 (3)式の右辺、ρ+θg が同じであるため、τが低く、k が高い高貯蓄国の (1-τ)f’(k) と、他の低貯蓄国の (1-τ)f’(k) も同じ値になります。低貯蓄国では、貯蓄が低いために k が低くなっており、f’(k) は大きくなっています(これは低貯蓄国では課税前のリターンは大きいということです)。しかし、その分τも大きくなっているわけです。

(e) 投資に補助金を与え(すなわちτ<0 とする)、この補助金の財源を定額税によりまかなう政策は、経済厚生を増加させるといえるか。

答え: 厚生を増加させない。

 新しい均斉成長路への移動は、前と反対になります。下の図のようになります。
14022302





   図2





今度は、投資のリターンが増えるので、家計は 0時点で貯蓄(投資)を増やし、消費を減らします。c は下方にジャンプします。その後、鞍点経路(サドルパス)にしたがって、新たな均衡(均斉成長路)へ移動していきます。
 新たな均斉成長路では、以前より、効率労働当たりの消費も資本ストックも増加しているのに、どうして厚生が悪化しているのか?

 まず、家計は最初の均衡(均斉成長路)において、生涯効用を最大化するようにすでに調整しています。

 新たな均斉成長路では消費水準は高くなりますが、そこに至るまでに、いったん経済は下にシフトするので、家計は低水準の消費と、したがって低水準の効用の期間を長い時間経験することになります。

 そのために、将来、消費水準が高くなったとしても、それに伴う生涯効用の増加分は、新たな均衡に至るまでの間の生涯効用の減少分を上回らないのです(将来の効用は割引現在価値で評価されます)。したがって、この政策は最適ではありません。

(e) 省略。
 今度は、図1の k=0 曲線も下にシフトします。

クルーグマン、「オバマケアと逆ノッチ」

http://krugman.blogs.nytimes.com/2014/02/05/obamacare-and-the-reverse-notch/
クルーグマンの2月5日のブログの翻訳です。
**********

オバマケアと逆ノッチ
Obamacare and the Reverse Notch

 昨夜は6時から9時まで授業があったので、ブログのネタになる大きな出来事に反応できなかった。つまり、CBOの新しい報告書だ。それによると、CBOは、他の変更点に加え、オバマケアの労働供給に対する影響の試算を引き上げたようだ。オバマケアは200万の仕事に相当する分だけ労働供給を減らすだろう ("affordable care will reduce labor supply by the equivalent of 2 million jobs")、と試算したのである。

 この試算自体は有効だ。しかし、CBOは、かつてもこの手のことで炎上したことがあったし、データの伝え方にもう少し注意を払ったほうがよかったのではないだろうか。すでに多くのメディアが、「オバマケアは200万の雇用を犠牲にする( "Obamacare costs 2 million jobs")」というヘッドラインに飛びついた。そして、この情報は、右派に言わせれば、すでに自分たちには「わかっていたこと」になっている。もちろん右派はわかっていない。まず第一に、僕らが問題にしているのは、退出する労働力ではなくて、減少する労働時間だ。第二に、グレッグ・サージェントとジョナサン・コーンが指摘しているように、僕らが問題にしているのは、供給側での自発的な反応だ。人々が自発的により少ない時間働くようになるだろう、ということであって、雇用の破壊なんてものではない。

 でも、これはインセンティブを歪めるのではないか? そうかもしれない。しかし、おそらくそうではないだろう。これについては改めて長めの記事を書くつもりだ。ここで言っておきたい基本的なポイントは、これまでの保険制度は、雇用主負担の健康保険プレミアムという形の税控除によって、すでにインセンティブを著しく歪めている、ということだ。これはありがたい手当である。しかし、一般的にフルタイムの労働者しか受けることができない。

 その結果、福祉国家制度の生活手当によってしばしば生じる悪名高い「ノッチ」(notch)に似たものが生じている。しかし、逆の形である。通常のノッチは、例えば、貧困ラインの150%以下の所得の人に住宅手当を与える、というような場合に生じる。つまり、そうなると住宅手当をもらえる基準よりわずかに低くなるように自分の所得を抑えようという強いインセンティブが生まれるのである。これまでの保険制度の場合は逆で、ある一定の時間以上働いた場合のみ受けることができるシステムだ。だからこの制度はある人々に、この制度がなければ短い労働時間を選択したのに、それがあるためにより長い時間働くインセンティブを与えてしまっているのである。

 これは単に理論的な仮定の話じゃないのかだって? 僕は多くの人々がこういう状況にいるとわかっている。また、ある人々が「ジョブロック」(job lock  訳注1)に捕えられていることもわかっている。つまり、転職しようとした場合、次に健康保険補助を得ることができるかどうかわからないので、現在の仕事に捕えられている、と感じている人々がいるのである。

 逆ノッチとジョブロックがあるために、仕事を減らす(仕事の喪失ではない!)というCBOの試算は、実際、厚生の改善を表しているのではないだろうか。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。確かに、通常のトレードオフも多くの労働者に生じるだろう(訳注2)。しかし、明らかに悪いことだ、と決めつけることはできないだろう。健康保険改革は、歪みがない経済に対する新たな介入ではない。ひとつの歪みがある制度を、別の歪みがある制度で置き換えるにすぎないのだ。

 ひとつだけ明白なことは、いずれにせよこの健康保険制度改革は、助けを必要としている人々にとっては大きなプラスになる、ということだ。


訳注1) job lock =「健康保険があるので転職できないこと」(ランダムハウス英和辞典)
訳注2) 「通常のトレードオフ」=健康保険補助をもらえるので労働供給を減らす、という反応。

ローマー、『上級マクロ経済学』:補足(1)

上級マクロ経済学
上級マクロ経済学 [単行本]

**********
第1章
1.5 量的なインプリケーション
収束の速度 
(29ページ)

 効率労働当たりの資本ストックの動学は、
140207 (1)
   (1)
 です。これは時間 t に関する微分方程式ですが、これを効率労働単位当たりの資本ストック k の式と考えます。つまり、
140207 (2)
   (2)
 です。テイラー展開で定常状態での k の値 kの近傍で近似します(1次の項まで)。
140207 (3)

   (3)
 定常状態では、つまり k=kのとき、(1)式は 0 になります。つまり k(k) = 0 です。したがって、(3)式の右辺の第1項はゼロです。
140207 (4)

   (4)
140207 (5)
 
 とおけば、(4)式は次のように表すことができます。

140207 (6)
   (5)

**********
 一般的に1次の微分方程式の解は次のように求めます(以下は中田真佐男氏の『動学マクロ経済学に必要な数学』をもとにして書いています)。
140207 (7)
   (6)
 x を右辺へ移項します。
140207 (8)

 両辺に eat をかけます。
140207 (9)
   (7)

 このようにするのは、次の関係を使いたいからです。
140207 (10)


140207 (11)
   (8)
 (7)式の両辺を積分します。

140207 (12)
   (9)

 (8)式を使い、(9)式の左辺を計算すると、(9)式は次のようになります。
140207 (13)
     (b は任意の定数)

 次に右辺を計算すれば、
140207 (14)


140207 (15)


 両辺を eat で割り、γx - b を A とおけば、
140207 (16)
   (10)

 となります。
 定常状態での y の値を yとすると、定常状態では y は変化せず一定の値になるので、y =0 になります。したがって(6)式から( (6)式に y =0 を代入すれば)、
140207 (17)

140207 (18)


 が得られます。これを(10)式に代入すれれば、
140207 (19)
   (11)
 となります。t =0 のときの y の値を y(0) とすると、(11)式から、
140207 (20)

 この関係から(11)式の A を書き換えれば、(11)式は、
140207 (22)
   (12)

 となります。

  つまり、(6)式の微分方程式
140207 (7)

 の解は、
140207 (22)


 になるということです。

**********
 これを(5)式に当てはめれば、(5)式の効率労働労働当たりの資本ストックの微分方程式の解が、
140207 (23)
   (13)
 になるとわかります。この式は、効率労働単位当たりの資本ストック k は、毎単位時間、定常状態での均衡値 kまでの残りの距離(つまり、k(0)-k)の e-λt の割合だけ、kに近づいていくことを表しています。
140207 (24)
 と置いているので、λを計算します。

140207 (24)


140207 (25)


140207 (26)
   (14)
  k=kのとき、(1)式は 0 になります。つまり k(k) = 0 です。したがって、
140207 (27)

 この式から s を求めると、
140207 (28)


 となります。これを(14)式に代入すれば、
140207 (29)

   (15)

 となります。[ ・ ] の中の f’(k)k/f(k) は産出量の、効率労働単位当たりの資本ストック k に対する弾力性です。これをα とおけば、(15)式は、
140207 (30)

 となります。n+g+δが6%程度と考えると( n =1~2%、g =1~2%、δ=3~4% / 年 と考えると)(31ページ)、
140207 (31)

 です。これは、k が、均衡値kまでの距離の4%を毎年進んでいくことを表しています。
 例えば、均衡値までの距離の半分を進む時間は、
140207 (32)

 を解けば求まります。
140207 (33)

 つまり、17年です。

 グラフで示すと下のようになります。初期値 k(0)=1、 定常値(均衡値)k=2 です。横軸の時間の単位は10年です。

solow03
プロフィール

沢ひかる

貧乏人。

経済学「部」とは無縁です。

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